はたけ のブログ

ラジオの文字起こしをしてます。現在は「高城未来ラジオ」と「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」をやっています。文字起こし専門のブログにしました。

鈴木敏夫のジブリ汗まみれ:米林宏昌監督の知られざる顔。

ラジオ音源です

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol138.mp3

 

2010年5月19日放送「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」にて、「借りぐらしのアリエッティ」の米林宏昌監督の取材を一人で取材しているNHK細田直樹さんと鈴木さんのアシスタントの伊平容子さんとのお話です。

 •自分の仕事の範囲を狭めていく、というやり方

鈴木敏夫:麻呂(米林監督の愛称)ってどういう奴なの?

細田直樹:それを僕は鈴木さんに、麻呂さんってどういう人なのか聞かなきゃいけない。まず。

伊平容子細田さんがカメラを回し始めました。赤いランプがついてます。

鈴木敏夫:何か持ったね。質問俺がしたんだよ!(笑)

細田直樹:まず鈴木さんから教えていただきたいなと思いまして。

鈴木敏夫:麻呂?どういう奴か?一貫してるのはね、自分の仕事の範囲を凄い少なくする。狭めといてそれを徹底的にやる。これ感心してますね。意外にいないんですよ。大概広げる。それどころか人の仕事に手を出したりする。それで自分のところがお留守っていうのが一般的だから。ところが自分の仕事の範囲はこれだけだと。しかもその範囲を出来るだけ狭めたい。本来監督っていったら、全部を支配するっていうのがいわゆる凡庸な監督なんですよ。ところがあいつはある限定した、しかも大事なシーンを自分でアニメーションにする、それを支配していくっていうのをやっていて、1本の映画の中で見せ場ってわかっていて、そこは徹底してやる、みたいな。それはちょっとビックリしましたね。何しろ処女作でしょ?普通ね全編力入れたがるものなんですよ。ところが最初から力を入れるとこはここだ!って決めて、そうじゃないところはある程度のことをやればっていうスタンス。普通中々なれないよね。俺もいろんな新人監督と付き合ってきたじゃん?そんなことやったのあいつ初めてだもん。みんな力入っちゃうんですよ。だからあいつの現実主義、どこで覚えたんだろうって思って。

細田直樹:宮崎さんに今までの若い監督さんのこともお伺いしたら、そうしたらみんなアニメーターの頃と違って監督になると壊れちゃうって表現されてましたね。

鈴木敏夫:してましたね。あいつ壊れないもん。ジブリで新人監督で表に出てる人は数人だけど、その影にいっぱいいるんですよ、実は。大概は監督になって1週間で十二指腸潰瘍になったりするんですよ。

細田直樹:1週間ですか?

鈴木敏夫:だいたい1週間。なりましたね、みんな。コンテ描いてる最中に。マロはならなかった。それどころかやんなきゃいけないことを決めてくっていう力、それも抽象的じゃないのよ。具体的なんですよ。

伊平容子:武重さん(美術監督)に庭の絵を描いてもらうって、麻呂さんに報告したら「いつまでにやってもらえますか?」って。

鈴木敏夫:あれは忘れない(笑)凄かった。武重くんっていうのは本来この作品の担当じゃなかったんですよ。ところが大先輩だから美術部の中では、横から見てて「じゃあ手伝おうか?」ってなって普通なら麻呂は「ありがとうございます」って言わなきゃいけないわけでしょ?それを「いつまでに出来るんですか?」って言ったわけでしょ?(笑)そうすると武ちゃんだってね、何だお前は?ってことでしょ?それをケロッとして言うんだよね。要するに引き受けたんだから、アンタそれやるの仕事でしょ?だったら一切関知しないからやってよ、なのよ。何であんなことできちゃうのかね。あいつ。

細田直樹:それがネイティブなのかテクニックなのか。

鈴木敏夫:テクニックではないと思う。ネイティブだと思う。それで本能的に持ってるのよ。長としての資質。へへへへへって言いながらやっていくわけじゃない(笑)あれは人徳なんだろうね。で、勘もいい。作っていくものの中でちょっとある領域、ある絵だったんですけど、これはどうかなーっていうのがあったんですよ。で、俺が言おうとした瞬間「これでいきますから」って。凄い勘がいいの。ビックリしました。それは封じるんですよね。僕がそれについて何か言うことを。自分だってわかってるってことをその中に含んでるんですよ。わかっててこれをやるんだから、余計なこと言わないでください、なのよ。これも感心しました。

 

•米林監督の人徳について

細田直樹:宮崎さんの存在も封じてるんですか?

鈴木敏夫:そこはわかんないなー。麻呂が働いてる姿は宮さんのところから見ることができるわけでしょ?おそらく宮さんが見てる麻呂は、一心不乱だよね。その姿しか見せてないでしょ?したら宮さんとしては、文句のつけようがないよね。

細田直樹:壊れたら、宮崎さんの力がないと映画が完成しないっていう理由ができますよね。でも若手監督が壊れないと、宮崎さんがとって代わる理由がないですよね?

鈴木敏夫:ない。だからね、宮さんのプレッシャーも感じてる暇があったら、俺は絵を描きます、だよね。普通だったら頭でいろいろ妄想するじゃない?ああいうこと起こるんじゃないか、こういうこと起こるんじゃないかって。それも一切ない。一心不乱、目の前のことに俺がやんなきゃいけないのはこれだ!って決めてあるわけ。それに対しては誰も寄せ付けないじゃん。その自分のやったものに関しては、誰も意見を許さない。後ろに近づいていくときも俺もたまに近づいてくんだけど、あいつ気づかないよね。俺が声かけると、ハッていつも驚くよね。あれは人の気配なんて感じてないってことでしょ?そのぐらい目の前のものに集中してるから。中々見てて気持ちいいよね。宮さんなんかすぐ気がつくよ(笑)

伊平容子:賀川(愛)さんは「ニノ国」が終わってすぐ入ったわけじゃないですか。山下(明彦)さんだって「ちゅうずもう」をやって。賀川さんに「休みなくずっと麻呂さんとやってくださってますよね?」って話をしたら「麻呂がやるんだったら、手伝うよ」って言って。賀川さんにしても山下さんにしても、麻呂とともに心中じゃないけども、作画監督のお二人がこの作品をいい作品にするために一生懸命になってるっていうのを宮崎さんもちゃんと見ていて、麻呂さんのいつの間にかついた統率力なのか、チームとちゃんとしてやってるのも宮崎は見てるんだなーと思って。

細田直樹:宮崎さんこの前「麻呂はお尻にオムツをつけて歩いている」って言っていて。

鈴木敏夫:なにそれ(笑)

細田直樹:で、僕はその心がわからなくて「お尻にオムツをつけてるってどういうことですか?」っていったら放送で使えるかわからないですけど「脱糞だよ!脱糞!」って叫んだまま作業に戻っちゃったんですよ。

鈴木敏夫:よくわかるね。それぐらい時間が勿体ないのよ。トイレなんか行ってる暇ないのよ。寄せつけないもの持ってるもん。あれは宮さんだって嬉しいよ。だからそれですよ、信頼度が増したっていうのは。マロの中に自分を見てるんでしょ?

細田直樹:この間インタビューにお伺いしたときも「マロは頑張ってる」っていって褒めてるって思ったら「でも私は麻呂の3倍やりました」あれ?って(笑)

鈴木敏夫:(笑)

(中略)

 

•宮崎流ではなく自分流で

伊平容子:麻呂さんに強い口調で言われたの思い出したんですけど、準備段階で「麻呂さん、イメージボード描いてください」って突ついてたんですけど、ある時に「僕は宮崎さんと違うんですよ!」って。麻呂さんが声を大きめに言ったのが凄い懐かしく、いい思い出なんですけど。

細田直樹:ってことは宮崎流は意識してなくて、自分流を、、

鈴木敏夫:そう!僕は宮崎駿じゃない。僕は僕流にやりますって。よく聞くと凄いこと言ってんのよ。みんな形だけ宮さんの真似するんですよ。監督になると。誰よりも早く来て誰よりも遅くやる。やるんですよ、みんな。でも中身はってことでしょ?俺なんか宮さんの作品の作り方ってわかってるから、宮さんのキャラクターっていうのは、走りながら考える。そういう子が好きだから。やっぱり麻呂がやることによってアリエッティっていう宮さんの作ったキャラクターは、麻呂流の考えてから動くっていうものにしてるもん。自分流を持ち込んだんですよ。それはあいつ頑固ですね。でもなぜかナウシカを彷彿とさせるんだよね。麻呂はどっかで宮さんのそういうものをやってんのかなーって勝手に思ったりしてるんですけどね。