Podcastの文字起こしのブログ

「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」と「Life Update」の文字起こしをやっています。

鈴木敏夫のジブリ汗まみれ:ナウシカは日本を変えたのか?

音源です

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol268.mp3

 

2013年5月8日放送の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」にて、ニコニコ生放送で企画された「ナウシカは日本を変えたのか?」の一部が放送されています。ゲストは作家の朝井リョウさん、ドワンゴ川上量生さんです。

 

・「風の谷のナウシカ」が持っている怖さの理由

鈴木敏夫宮崎駿っていう人の側にいてずっと思ってたのはね、このナウシカって物語、俯瞰して物語を説明してくれない。つまりナウシカという主人公があっち行ったりこっち行ったりして、そこでの情報を観てる人が共有することによってその世界がわかってくる。実は推理物だと思ってたんですよ。

朝井リョウ:はじめに説明せずにちょっとずつわかっていくっていう。

鈴木敏夫:そう。彼女が知ったことじゃないと僕らにはわからない。

朝井リョウ:難しいですよね?そうやって考えると。

鈴木敏夫:故にナウシカ出突っ張りでしょ?だからミステリーっていうのかサスペンスっていうのか、その手法だと思ったんですよね。

朝井リョウ:確かに観たときにいきなり腐海のシーンから始まって、何にも情報がないわけですよね、こちらは。その中でナウシカが色んなものに出会っていって、ナウシカがどういう言葉を交わせるだとか、そういうことすらもわからないまま始まっていたので、そういう意味でもゾワゾワしていたというか。

鈴木敏夫:あれ怖いのはもしかしたら当たり前。

朝井リョウ:一緒に知らない世界に行って迷子になってっていう感じは確かにありました。

鈴木敏夫:そういうことですよ。迷子になろうよ一緒にって感じなんですよね。でも何度も観てると結末がわかってるから、そこら辺のことを知りながら観るから怖さは減っていきますよね。

川上量生:そうなんですよね。何回も観るとそうですよね。1回目は本当に怖いですよね。

朝井リョウ:怖いですよね(笑)

鈴木敏夫:これ作るときにね、実はその作り方に対して側にいた人間として良いんだろうかって思っちゃったんですよ(笑)

朝井リョウ:あまりにも説明が足りないということで。

鈴木敏夫:そう。だからもう少し説明があった方が良いんじゃないっていうのが、実はナウシカを作ろうということを決めたその日の夜の打ち合わせだったんですよ。

朝井リョウ:へぇー。

鈴木敏夫:で、僕と宮崎駿高畑勲、みんなで喋って僕がそのことを指摘した途端ね、その時のことよく覚えてるんだけど宮さんが怒っちゃってね(笑)

朝井リョウ:えー。怒っちゃったんですか?

鈴木敏夫:で、高畑さんがそれをとりなしてくれてね。実は高畑さんって非常に論理的な人でもあるんだけど一方で物凄く具体的な人。実は映画の冒頭にタペストリーが出てくるじゃないですか?クレジットが出るところに。要するにナウシカの伝説をタペストリーによって説明しちゃう、あれ実は高畑さんのアイディアなんですよ。

川上量生:そうなんですか。

鈴木敏夫:で、高畑さんがそういうのをやったらどうかと。そうすると面白いことが起こったんですよ。僕は物凄く納得なんですよ。あー良いよねって。で、宮さんはねそこで面白いのが「タペストリー描いてみたい」って。それが映画の全体にどういう影響を及ぼすかというよりも、そういうのを描いてみたい。

朝井リョウ:ものすごい純粋な方ですね。ものを作ることに対して。

鈴木敏夫:俯瞰してものを見るんじゃなくて、あーこの人作家なんだなーっていうことを思った。

 

・「自然を大切にする」という考え方をつくった「ナウシカ」 

川上量生ナウシカは日本を変えたのかってことなんですけども、実際どれぐらい変えたんでしょう?例えば立花隆さんはこの本の中で宮崎駿が国民作家になったのは、「風の谷のナウシカ」を出してからだって言うんですけども、それって実際どのぐらいそうなんですか?

鈴木敏夫:この時に具体的に起きたわけじゃない。でも後にナウシカの後、トトロっていうのを作るでしょ?これが揃ったときに突然変わったですよね、たぶん。

川上量生:「風の谷のナウシカ」が放映された段階では、まだ狭かったってことですね?

鈴木敏夫:狭いですよね。例えばナウシカの映画館の上映、お客さんの数って92万人なんですよ。原作が売れるっていっても数十万部。だからそこまでの影響力はまだなかったけれど、その後の作品群によって変わっていくっていうのが僕の実感ですけどね。爆発したのはやっぱり「もののけ姫」。ただ国民作家っていう言い方は、僕も正しいなって思いますけどね。

川上量生:僕の母親なんかもやっぱり「風の谷のナウシカ」良かったって言ってるんですよ。ただナウシカをいつ観たのかっていうと、最初の時じゃないですよね、きっと。

鈴木敏夫:テレビなんですかね。

川上量生:たぶんテレビですよね。

鈴木敏夫:間違いかもしれないけど、視聴率は16.7。当時としては16.7ってそんな高い数字じゃないんですよね。

朝井リョウ:そうか、あの時は30とかドラマでもガンガン出てた時だから。

鈴木敏夫:そうなんですよ。しかもアニメーションだっていうことで放送時間帯が7時かなんかなんですよね。夜9時から出来ないんですよ。

朝井リョウ:あーそうなんだ。

鈴木敏夫:僕よく覚えてるのが、夜9時から始めたのはラピュタですよね。それとトトロ。これを夜9時からテレビで放映。そしたら大問題になっちゃってね。

朝井リョウ:あ、そうだったんですか?

鈴木敏夫:なんでか。当時そういう時代なんですけど、何故子供が観るものをそんな夜遅く放映するんだと。日本テレビは抗議の電話だらけですよ。

朝井リョウ:え!不思議ー。

鈴木敏夫:ジャンジャン電話が鳴って。

朝井リョウ:だって内容が子供に即してないとかだったらわかりますけど、そういうことじゃないんですよね?

鈴木敏夫:関係ないんですよ。

朝井リョウ:へぇーー。

鈴木敏夫:要するにまだ世の中に道徳があったんですよ。

朝井リョウ:まだ道徳があった時代(笑)

川上量生:そうですよね。あの当時「11PM」ですもんね?11時になったらイヤらしいテレビがやってると(笑)そういう時代ですよね。

朝井リョウ:そうかーそんな時だったんですね。知らなかった。

鈴木敏夫:日本を変えたのかって言われるとあれだけれど、自然を大事にしようってみんなが平気で大衆的にいうキッカケにはなったんじゃないですかね?

川上量生:公開の時にそういう流れがあったんですか?

鈴木敏夫:まだそこまではね。

川上量生:なかった?やっぱりそこはズレてるんですね。遅れてきてる。

鈴木敏夫:若干ズレてるけれど、中にそういう先へ行く人たちがいたのは確かですよね。だからナウシカもそうだったしトトロもそうだったんですけど、色んな手紙が来てたんですけど、自然を大切にしなきゃって。そういう手紙は増えましたよね。みんなが平気で人間と自然の問題を考えるなんてことを一般用語として言うようになったんですよ。これは物凄く覚えてますね。僕はみんな何かに踊らされてるんじゃないかなってちょっとそういう気にもなったんですよね。

朝井リョウ:物凄く冷静な目ですね。

鈴木敏夫:いやいや(笑)というはトトロでいえば、みんながなぜトトロを好きになったかといったら、それはおなか押したらへっこみそう。メイちゃんがピョンピョンしてるところ。本来そういうものが好きで、人間と自然そこまで思うのかなーって(笑)

朝井リョウ:やったーって感じじゃないんですね。自分がプロデュースした作品で影響があってうれしいとか。

鈴木敏夫:そういうこと僕すぐ考えちゃう(笑)

朝井リョウ:物凄く意地悪な目線ですね(笑)

鈴木敏夫:(笑)

 

・クロトワの存在意義とは?

朝井リョウ:日本を変えたって意味では、若くてイタイケな少女にここまでの責任を負わせて戦わせるって、新しいヒーロー像が出来たんじゃないのかなって。それに追随するように色んな作品が生まれることもあるのかなって思いますよね。

鈴木敏夫:この文春のジブリの教科書、宮崎駿が読んだらしいんですよ。

朝井リョウ:ええ!どういう風に感じ取るんですか?

鈴木敏夫:僕には何も言わないんですよね。

朝井リョウ:怖い(笑)

鈴木敏夫:何にも言わないんですよ。だけれど、出版部の女性に対して色々感想を述べて。読んだらしいんですよ。

朝井リョウ:色んな方が寄稿されてますけど、男子だから男子目線で見るじゃないですか?女性が寄せた文章は気づかなかったことに気づかせてくれて、すごく面白くて。満島ひかりさんと川上弘美さんの。

鈴木敏夫:あれはビックリしましたねー。

朝井リョウ:凄い面白かったです。2人とも原作の方に関して言及されていて、印象的だったのは、ナウシカって正義の味方というか大きなものを背負って世界を救ったっていう感じじゃないですか?それに川上弘美さんはプレッシャーを感じたと。自分はどうなんだっていう。ナウシカの場合は善の方向に自分の持ってる能力が振れているけど、悪の方向にも振れる可能性があるのが人間で私はそうかもしれないみたいな。それで落ち込んだっていう風に書いていて。確かに映画で観ると善の方向にナウシカ振れている気がするんですよ。でも原作を読むと、結構攻撃的というか悪の方向にも振れる瞬間があって、やっぱりナウシカも人間なんだなってことを原作を読むと実感出来て、面白いですよね。満島さんは原作の中でクロトワが面白いと書いていて、僕原作を読んでる時に彼が救いなんですよね。彼の一言って現実的で、ナウシカって僕たちが出来ないことをジャンジャンしていって、こんなヒーローがいたら自分なんて無力だなってところでクロトワが「そんなことしても意味ねぇよ」って、ボソッと現実的なことをポンポン投げていて、それが凄く面白いなと思うところはありますよね。

鈴木敏夫:彼の使う状況判断そして言葉見てくと、クロトワこそ宮崎駿ですよね。

朝井リョウ:あ、そうなんですか?!

鈴木敏夫:一番人間的でしょ?

朝井リョウ:一番人間的でクロトワが出てくると安心するんですよ。こういうこと言ってくれる人がこの世界にいて良かったって思える。

鈴木敏夫:作家ってそういうもんなんですかね?ナウシカとかクシャナとか色々いるけれど、ああやってクロトワに自分を仮託するっていうのか。

朝井リョウ:クロトワがいてくれて凄く安心しました。ナウシカが国の名前忘れちゃったんですけど、子供二人を見つけて救うシーンがあるじゃないですか?その二人助けたってこの先何十万人って死体を見るんだから意味ないんだよ、とか。そういうことを言ってくれる人がいないと、現実世界に生きる者としてはゾワゾワしてしまうというか。

鈴木敏夫宮崎駿(笑)日常的にはそればっかりですよ。

朝井リョウ:日常的にはそればっかりっていうと、最後にカレンバックさんとの対談が収録されたと思うんですけど、そこでも宮崎さんとにかく現実的なことをおっしゃっていて、凄い繋がりました。現実的に考える方なんですね。こういう話を描いていながら。 

鈴木敏夫:そうなんですよ。高畑勲宮崎駿も二人が使ってる言葉ですけど、「理想を失わない現実主義」。

朝井リョウ:難しいなー。

鈴木敏夫:要するに現実主義者っていうのは、とかくニヒリズムに陥りがち。しかし、そこに理想を達成するためには現実主義が必要だろうと。やっぱりそれですよね。

朝井リョウ:ロマンもあるし現実的な考え方もできるし。

 

・音楽的にも日本映画を変えた「ナウシカ

川上量生:これ久石さんって、ナウシカで初めて音楽を作ったんですか?

鈴木敏夫:そうですね。映画音楽たぶん初めてだと思います。それまでCMしかやってないから。

朝井リョウ:しかもナウシカの時がはじめにナウシカっぽい音楽をイメージした曲をかけながら作られていたっていう。コンピレーションアルバムみたいなのを初めに作ったみたいなお話を聞いたんですけど。

鈴木敏夫:イメージアルバムですね。

朝井リョウ:そうですよね。イメージアルバムがあって新しいものを久石さんに頼むって結構難しいことじゃないですか?

鈴木敏夫:でもそれは久石さんがやったんで。

朝井リョウ:あ、そうだったんですか?

鈴木敏夫:そうなんですよ。。日本映画って朝井さんが生まれる以前、一番貧弱なのは音楽。いわゆるオーケストレーションで映画をやるなんて誰もやらなかった。

朝井リョウ:そうだったんですね。知らなかった。

鈴木敏夫:で、ナウシカってオーケストレーションでしょ?何でそういうことが起きたのかというと、徳間書店の系列の会社に徳間ジャパンっていう音楽の会社があったんですよ。これが幸い。普通だと音楽費って削られて削られて本当に貧弱。という時にレコードを出したいっていう、それを聞いた高畑さんが思いついたんですよ。要するに久石さんを選んだ後にイメージアルバムっていうのをやりませんか?と。何かなーと思ったら、ナウシカの原作を読んで久石さんが自由に作る。それを作ったらそれを聴きながら良い悪いを話し合って、それで本番に臨む。これは贅沢ですよって高畑さんが言って、それで突然ナウシカはそういう作り方になって、それでオーケストレーションでやることになったんですよ。

朝井リョウ:そういう意味でも音楽的にも日本を変えたんですね。

鈴木敏夫:日本映画変えたと思いますね。

朝井リョウジブリといえば音楽が良いって、既に常識的な話ですけど。

鈴木敏夫:今となれば音楽費にお金をかけるって当たり前になってきたけど、当時では非常に珍しい。そういう偶然が重なったんですよね。

川上量生:イメージアルバムっていうのは、イメージボードっていうのがあるからそういう音楽でもあるはずだっていう、そういう発想ですか?

鈴木敏夫:そうですよね。仮に作ってみようと。それがレコード会社にとってはナウシカの名前でそれも売れるんだってメリットがあったわけです。そこに高畑さんが目をつけたんですね。

川上量生:イメージアルバムっていう概念自体っていうのは、日本だけなんですか?

鈴木敏夫:だと思いますけどね。若干当時そういうのか始まってたんですよね。勝手に「タッチ」のイメージアルバム作っちゃうとか。いろんな作品に対して、レコードを作るとそれが売れたりしてたんですよ。映画にはならない、アニメ化もされない、でも音楽だけあるって。

川上量生:それを逆転させてアルバムからやろうとしたってことですね。

鈴木敏夫:そういうことです。