はたけ のブログ

「高城未来ラジオ」と「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」のラジオ文字起こしをやっています。

鈴木敏夫のジブリ汗まみれ:様々な視点から見る「風立ちぬ」。

ラジオ音源です

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol293.mp3

 

2013年11月6日放送の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」にて、ブロードキャスターピーター・バラカンさんを招いて、質問形式で鈴木さんがバラカンさんからの質問に答えています。内容は映画「風立ちぬ」にまつわる様々なエピソードが話されていて、ここでしか聴けない話もあります。

 

・タイトル「風立ちぬ」の意味とは?

バラカン:「風立ちぬ」のタイトル、これがフランス人の詩人の言葉ですよね?

鈴木敏夫:そうですね。ポール・ヴァレリーという詩人ですね。それを堀辰雄って方が翻訳。これある人に教えてもらったんですけど、「風立ちぬ」の「ぬ」って古語で過去形なんですよね。ところが元のフランス語は「風が立っている」。現在形らしいんですよね。

バラカン:はい、そうですね。

鈴木敏夫:その後の言葉も「いざ生きめやも」。これって僕もそんなに知識がある方じゃないんですけど、実は「さあ生きようか、いや死のう」なんですよね。

バラカン:あ、そういうことですか。

鈴木敏夫:そうなんですよ。で、これもポール・ヴァレリーの詩と実は違うんですよ。堀辰雄って人は国文学を勉強した人なんですよ。その方がなぜ誤訳をしたのか。日本の国文学界で永遠の謎として、未だに結論が出てないらしんですよ。フランス語を知らなかったのかとか色々あるらしいんですけど、僕は小説を読む限りはこれは僕の意見ですけど、ワザとやったなって気がしてるんですけど(笑)

 

 ・他国の人は「風立ちぬ」はどう観るのか?

バラカン:結果的に反戦映画って見方は出来るんですけど、あからさまな反戦ではないんですよね。

鈴木敏夫:出来ないですね。そうですね。

バラカン:観た人はみんなそういう印象を受けないらしいですね。僕はそれ以外の印象はどうやって受けるのか個人的に思ったんですけど、アメリカの新聞に載ってた記事を見たら、他の国ではケチをつける人もいて、何でこんな戦闘機を作った人を題材にするのかって。これってわかります?

鈴木敏夫:当然予測はしていましたよね。太平洋戦争で主人公は零戦をつくった人、その人を主人公に映画を作ったら諸外国の方がどう思うんだろうって。まず第一点。アジアの人は拒絶反応は出てくるだろう。これは想像してましたね。

バラカン:そうですか。

鈴木敏夫:それは韓国はもちろん中国も台湾も香港も。そういう風に思ってました。それから東南アジアの方も。それとついでに言うとアメリカの方がどう観てくれるんだろうって。これも僕は後にアメリカと戦争になって零戦が活躍するわけじゃないですか?だから外国でこれを理解してもらうのは難しいだろう、そういう予測を立ててたんですよ。で、非常に慎重に事を運びました。どういうことかっていったら、僕はそういう状況にありながら、やっぱり韓国の方に観てもらいたい。で、いろいろ韓国の映画配給の方とご相談して、韓国のメディアの方をジブリに来ていただきまして、まず映画を観ていただく。その後記者会見を開いて。で、これはね思わぬ反応で興味深かったですね。皆さん映画観終わった後、泣いてらっしゃったんですよ。色んな質問が飛びました。それを一つにまとめますと「こんな良い映画なのに、なぜ主人公が零戦を作った人なのか」。それに対して一つ一つ宮崎駿は丁寧に答えたんだけれど、残念ながら皆さんの満足が出来る回答は、宮崎の言葉からは引き出せなかったみたいですね。結局そこのところを書かれるんですよね。いい映画だけれど、主人公はこういう人だって。そういう報道でした。

バラカン:そうかーー。

鈴木敏夫:中国の方も観ていただいたんですよ。すぐにおっしゃったことは「これは中国では公開できません」って。その方ハッキリした方で素晴らしい人だと思ったんですけど、要するに中国とはそういう国なんで、鈴木さんわかってくれと。どういうことかっていったら、もしこの国で公開するとしたら、何か問題起きたときに誰がそれを決めたのか。その人は酷い目に合う。

バラカン:日本と同じじゃないですか?

鈴木敏夫:はい(笑)

バラカン:事なかれ主義。

鈴木敏夫:それとその人がすごかったのは「だけど鈴木さん」っておっしゃったんですよ。「ビデオは大丈夫です」って。

バラカン:ビデオは観たいと?

鈴木敏夫:それは自由であると。映画はある考えのもとに公開する。そういうことにおいては思想的にも問題になることがあるけれど、ビデオはそこまでチェックが行き届いていないから、何やっても大丈夫ですよって。

 

 ・タバコを吸うシーンについて

バラカン:どんな映画でもいろんな捉え方があると思うんですけど、この映画はタバコを吸うシーンが非常に多いですね。最近珍しい。映画ではタバコを吸うことはタブーみたいになってきてるんですよ。どこかで読んだ評の中にも、禁煙団体がそれで文句をつけてるというのもあったんです。みんな自分の都合でものを言うんだなってすごく思ったんです。あそこまでタバコを吸うシーンを多くしたのは、何かわけがあったんですか?

鈴木敏夫:宮さんに「この映画タバコばっか吸ってますね?」って指摘した日があるんですよ。宮崎駿は全く自覚がなかったです。あの時代みんなこうだったに違いないって。

バラカン:確かにそうです。

鈴木敏夫:そうなんですよ。それを描写したらこうなる、結果的に。だから殊更タバコのシーンを多くしようとしたわけじゃないんですよね。だけど事前にアメリカでこの映画をやろうっていう話も進んでたんで、実はタバコを吸うシーンが多いって話をしていったときに、それはアメリカで公開するのは非常に難しくなるってご指摘されましたよね。しかし「トイ・ストーリー」その他を作ってきたジョン・ラセタースピルバーグのプロデューサーのフランク・マーシャルとか皆さん来てくれて、観ていただいて。二人っきりになったときにジョンが第一点おっしゃったのは、バラカンさんと同じなんですけど「素晴らしい反戦映画だ」って。それともう一つ。一つの技術が時代を変える。一つの技術によって国が亡ぶことがあり、深い映画であるって。自分はタバコは好きではない。しかし当時タバコを吸いながら仕事をしていたのは実はアメリカも同じだった。そのことによってどういう配給になるか、多少の影響は受けるけれど基本は関係ない、と。

バラカン:一つの技術によって一つの国が滅ぶっていうのは、最後に日本の破壊された風景が出てくる。それがすべてを物語っているっていう、最後の結び方が上手いなあと思いましたけどね。

 

憲法9条原発問題の社内の反応について

バラカンスタジオジブリで冊子を作ってますよね。

鈴木敏夫:「熱風」ですね?

バラカン:はい。それをこの前最新号を見せてもらったんですけど、憲法改正の特集になってました。部数があっという間になくなったらしいですね。

鈴木敏夫:凄かったですね。大反響でした。

バラカン:これだけの反響を呼んだのは、なぜだと思いますか?

鈴木敏夫:今の安倍政権の方針と関係あるんじゃないですかね。

バラカン:みんな何かこういう話を聞きたかったっていうことでしょうね。

鈴木敏夫:いろんな方からご意見をいただいて、自分たちが思っていることを言葉にしてくれたっていう言い方が多かったですね。ただ一方でそうじゃない人も多かった。これも勉強になりました。「二度と戦争はしない」「憲法9条は守る」っていうのは一般常識だと思ってたんですよね。ところが政府をはじめ実は多くの国民の中にも、そうじゃない人がいつの間にかすごく多くなってるじゃないですか。これはショックでしたね。実は同じような経験を原発のときにもしてるんですよ。というのは僕らは若いころ、原発っていうのは何かって随分議論もして、その中で「原発は危険である」っていうのは常識だったんですよ。ところがウン十年の間に安全神話なるものが生まれ、そうじゃなくなってた。これは驚きましたよね。実は憲法改正についても、同じようなことを感じたんですよね。憲法9条を守るっていうのは常識だと思ってたから。そうじゃない人が増えてるっていうのは相当ショックですよね。

バラカン:議論があるからこそ、それが危険なものであるってわかってくるものだと思うんですね。安全神話が生まれたのはもしかしたらあまり議論がなくなって、話さないから忘れちゃうんですよね。たぶん。

鈴木敏夫:3年前の夏、これは僕の監督不行き届きなんですけど、福島の原発の中にトトロのお店があったんですよ。それを知った時点で撤去しようとしたら大騒ぎになっちゃったんですよ。大騒ぎになった一点目。社内でしたよね。何でそんなことを会社としてするんですか?原発は安全ですよって。福島の方も僕のところに抗議に来ましたから。当時最終的に強引に撤去しちゃうわけですよ。そうしたら朝日新聞で記事が載るんですよ。その記事が客観報道なんですよね。要するに良いとも悪いとも書いてないんです。こういうことがあるっていう書き方で僕はこれも驚きましたよね。だって原発は完全なシステムじゃないですよね?それは僕らの常識だったはずなんですよ。どう扱っていくかっていう問題は、それを解決しない限り安全は訪れないはずだったんですよ。それがこんなことになっちゃってた。ショックっていうのか驚きですよね。だから実は3.11でああいうことになって、トトロのお店をやってたある業者の方がその後皆さん僕のところに来て、相当ビックリされてましたよね。彼らは撤去に対して大反対でしたから、僕のことを「そんなことを予見出来たんですか?」っていうから「そんなことするわけないじゃない!」ってイライラしてたんですけど。

バラカン憲法の方の話は9条は変えるべきだっていう反応はどのくらいあったんですか?

鈴木敏夫:かなりありましたね。自分たちの力で自分たちの国を守るのは当たり前。

バラカン:変わることを良しとしてる人たちは、いつかもしかしたら自分の子供が徴兵されるかもしれないということまで考えてないのかな。

鈴木敏夫:そこら辺の議論もいっぱいしたんですけど、それは当たり前だっていう人も結構いますね。自分の子供がそうなったときは戦うんだって。そう思ってる人も実際多くいます。それも今回知りました。だけどリアリティーがないですよね。日本って島国でしょ?これ別の観点ですけど、どうやって守るんですか?不可能ですよね。あるのは精神論でしょ?ニューヨークポストかワシントンポストか忘れましたけど、あの見出し忘れないですね。UNNESESARRY NATIONALISMって(笑)

バラカン:そういう風に書いてましたか。

鈴木敏夫:あの見出しは衝撃でしたね(笑)

バラカン:ついこの間ですか?

鈴木敏夫:そうですね(笑)

バラカン:ハッキリ言ってますね。

鈴木敏夫:何でそうなってるのかよくわかんないですよね、僕は。

(中略)

バラカン:とにかく議論はドンドンやってもらわないと危ないと思いますけどね。

鈴木敏夫:ついでだから言っちゃうと、「風立ちぬ」の戦闘機の残骸によって何を言いたいかわかった、とバラカンさんおっしゃいましたけど、一方で現実を知ったじゃないですか?もっと悲惨を伝えるべきだったのかなって。というのは零戦を作ってるのは、1935年くらいなんですよ。最後は45年なんです。全然違うんですよ状況が。これは宮崎駿が随分前に考えてたことなんですが、それ以上に世の中は変わってたわけだからっていうことは考えましたね。もっと伝えるべきだったのかなって。

バラカン:「プライベートライアン」の最初の20分を観たら、誰でも絶対戦争はやるべきじゃないって感じるはずですけどね。

鈴木敏夫:嫌になりますよね。