2013年10月31日配信の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」です。
http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol291.mp3
鈴木敏夫(以下鈴木):なんで皆で藤巻さん待たなきゃいけないの?
大竹俊夫(以下大竹):結構待つよな?彼が来るまでな?
女性:二人で一時間くらい藤巻のトイレを待ってたことあって。
大竹:そうそう。
鈴木:でもこういう人がいるとホッとしますけどね。
大竹:ですね。
鈴木:なんていうのか人間って負の部分と正の部分ってあるけれど、全部負の部分の人必要なのよ。いや本当に。
大竹:あの人といると段々と暖簾に湯通しみたいな感じで、結構柔らかく見えるんだよね。彼。
鈴木:藤巻直哉さん。
藤巻直哉(以下藤巻):俺の話(笑)
鈴木:山本周五郎の小説で映画にもなった作品で、役所広司が同心で悪い奴を捕まえる人なんですけど、江戸にある町があって、世の中のものを全部清廉潔白には出来ないと。どうしても人間には負の部分が必要というので、世の中の悪いやつを1箇所に集めちゃおうと(笑)そうすれば、他が全部綺麗になるじゃないかと。そこの取締役で役所広司がやる話で。
大竹:何か読んだことあるな。
鈴木:タイトル今出てこないんですけど、その悪いのを全部集めたみたいなのが藤巻さんでしょ?
藤巻:(笑)そこ?!(笑)
大竹:なるほどね。
藤巻:ひどいじゃん、それ!
ーナレーションー
今週と来週は、スタジオジブリの高畑勲監督最新作「かぐや姫の物語」とのコラボCMを制作したアイフルホームの大竹俊夫会長と鈴木さん、藤巻直哉さんとのスタジオジブリ本社で語られたモノづくり、家造りについてのお話です。
鈴木:ジブリもおかげさまで作るものが、基本的には前向きなものというのか、そういうものをずっとやってきたんですけど、スタッフには1人だけそういう人を混ぜておくんですよ。
大竹:いいですね。
鈴木:スタッフ全部は出来ないもん!ね?
藤巻:俺が?
鈴木:スタッフだよ?
藤巻:ひどい。今日はそういう話じゃないんですよ。
鈴木:なんで?そういう話じゃないの?
藤巻:違う違う違う。そういう話じゃないですよ。モノづくりについて、、
全員:(笑)
鈴木:藤巻さんがいうと嘘っぽく聞こえるよ!(笑)
藤巻:言えって渡されたんですよ。
鈴木:なんで!(笑)
藤巻:家造りのアイフルホームと、、
鈴木:そのモノづくりなんかもね、その要素ってどっか入れておかないといけないのよ。
藤巻:俺の話に変えないで!せっかく、、
鈴木:今日は大竹さんに来ていただいて、ジブリを見ていただいたのかなと思うんですけど、まだ全部はあれかもしれないけれど。これ見ていただけないのが残念なんだけれど、この建物って実は宮崎駿が自ら設計してるんです。
大竹:おー。そうなんですか?
鈴木:見ていただけないっていうのは何かというと、女子トイレなんですよ。宮さんが最初に言い出したのは「女のトイレは倍だ」って言ったんですよ。広さが。
大竹:へー。
藤巻:男の倍あるんですか?
鈴木:うん。広さ倍なんですよ。
藤巻:知らなかった。見てないから。
鈴木:何でかというと、皆仕事やんなきゃいけないじゃないですか。そこでちょっと息が抜けるのはトイレだと。特に女性はそのトイレが大事。だとしたら、スペースを倍にしようと。これ俺感心したの。
大竹:それは凄いですね。
藤巻:よくそんな女の気持ちがわかるよね(笑)
鈴木:やっぱり作る人なのよ。これモノづくりの真髄でしょ?挙句の果てにこう言ったの。「中に机と椅子置こう」って言ったの。
大竹:正解。
鈴木:正解ですか!?
大竹:正解です。
鈴木:僕はね「それはやり過ぎじゃないですか?」って。
大竹:今のトイレっていうのは、人間にとって座り心地がいいんですよね。座ったままでメモ書いても全然おかしくないんです。
鈴木:はい。
大竹:座ってずっといても痺れない。座り心地が良い。だからそこで物事考えてもおかしくない。
藤巻:じゃあ机置いてもおかしくない?
大竹:おかしくない。食べ物はさすがにあれですけど。
藤巻:あれ考えてるんですか?長く座っても痺れないように。
大竹:当然ですよ。1番座りやすいのは、丸ですかね。女性とか諸々調べた上で、あの形状決めてますから。
藤巻:そうなんだ。
鈴木:だから最近トイレから出てこない人多いですよね。
大竹:出来ればウチのトイレを使ってもらってもいいんですよ?
藤巻:(笑)
大竹:今見てきましたけども(笑)どうしても見に行っちゃうんだよね。我々どうしても建物に目がいっちゃって。あれウチの建物?いや違うって。
鈴木:そうですよね。
大竹:見に行くのやめようとかね(笑)
鈴木:血肉化してるんですね。
大竹:本当にサラリーマン病ですね。
鈴木:いやいやいや。でも本来そういうもんだったですよね。
大竹:お祖父ちゃんが三鷹で棟梁の親分なんですよね。大棟梁なんです。
鈴木:へー。
大竹:で、親父が棟梁やってんですね。
鈴木:棟梁というのは、何の棟梁なんですか?
大竹:家作るための。だから親分ですよね。その下に小舞屋とか屋根屋とかついてて、それ全部仕切ってトータルでやってる。そういう棟梁もいたんですよね。そこから私も家も結構触ってて。
鈴木:建築なんですね、元々。
大竹:基本的には建築ですね。
◇◇◇
大竹:昔は大学時代も子供のときも現場に行って、藁とかをこねてるわけです。その中入ってゴチャゴチャやってました。
鈴木:僕もやってました。
大竹:あ、同じですね(笑)
鈴木:僕も色んなところ行って家見るの好きなんですよね。ここは何が使ってあるとか、何のためだろうとか、色々考えるんですよ。
大竹:今の住宅は真壁じゃなくて大壁になってる。真壁というのは柱が見えてるやつですよね。大壁というのは柱を挟んじゃうんですね。だから何にも柱が見えないようになっちゃう。面白くない住宅になってるんですよね。コストは安いんですけど。そうやって見ていくと、昔の家を見たら凄く良いですよね。お寺なんか行くんですよ。柱の使い方というのが凄く考えてますよね。
鈴木:柱も人から見えるものとしてちゃんと使うっていうやつですよね。
大竹:柱をどうやって建てるかっていう問題とかね。南向きか北向きかっていう問題とか。あるいは板の場合はどっちを向いているかっていう話。木の上か下かっていう問題で、門柱を建てる場合は下が上なんですね。逆さに埋めるわけです。
藤巻:あー木の上の方を下のする。
大竹:目が詰まってるんで腐りにくい。だから門柱を建てる場合には、上を下にして埋めるという状態にすれば、腐りにくくて良いというのは、大工の知恵ですよね。
鈴木:そういう知恵というのは、今も活きてるんですかね?
大竹:今はたぶん知らないんじゃないですかね。
鈴木:そうなんですか。昔の建物っていったら、お寺とかそういうのだけど。木って切って家を建ててもまだ伸びたりするんだよね。
藤巻:え?
大竹:息してるんですよ。
鈴木:そう。で、その息を考えて柱と柱をくっつけるとしっかりするとか。そういうこと考えてるんだよね、昔のやつって。
大竹:薬師寺で西塔があったのかな?東塔を建てたのかな?あれが西岡さんっていう人が建てたんですけど、本当に有名な方なんです。
鈴木:あれは凄い方ですよね。
大竹:この方がね東塔建てるときに5メートルか7メートルくらい高いの。何で高いのかというと、100年後には同じになってるからって。
藤巻:えー!そんなに違うんですか?
大竹:だって締まっていくんですから。
鈴木:いわゆる宮大工。
大竹:釘打ってないですから。
鈴木:僕も西岡さんは大ファンですね。あの人の弟子がいますよね?
大竹:います。ちょっと名前忘れましたけど。
鈴木:僕もど忘れしちゃった。
大竹:あの人は凄いですよね。
鈴木:かつて西岡さんっていう人に目をつけて初めて本を作ったのが、徳間書店だったんですよ。
大竹:あ、そうですか?
鈴木:そうなんですよ。
大竹:じゃあその本を、俺読んだのかな?
鈴木:かもしれないですね。それで僕は西岡さんの存在を知るんですよね。
大竹:本当に凄い方ですよ。
鈴木:いま宮大工って、憧れの人が多くて。でも長く続かない。
大竹:大きなお寺には必ず大工がついてるんでね。
藤巻:へー。
大竹:ずーっと見てるんですよね。
藤巻:建てたあとも?
大竹:建てたたあとも。メンテしてるんです。で、神社とか建てたら周りに木が埋まってるでしょ?その木を使うんです。
藤巻:境内に埋まってる?
大竹:直すために木が埋まってるんです。地産地消で育てたものを使う方が、長持ちするんです。だから鎮守の森っていうのは、直すための木なのよね。
藤巻:そのために作ってあるんだ。
大竹:防風林とかそういうのもありますけどね。
鈴木:ぼく毎週日曜日、神社・仏閣にお袋を連れて行ってるんですけど、この夏はインターネットに便利なものがあって、東京都内の涼しい神社っていうのがあって(笑)
大竹:あー。
鈴木:で、ついこの間は永福町のそばの大宮八幡宮。あそこの木がいいですよね。で、実際涼しいんですよね。
大竹:絶対涼しいんだよね。
藤巻:あ、そうですか。今ってほとんど住宅メーカーが家建てるじゃないですか?そういう棟梁的な存在ってまだ存在することは存在するんですか?
大竹:壊れてますね。もう。
鈴木:壊れちゃったんですね。システムが。
大竹:田舎の方に行くといりもえ?造りとか、柱を中心に造られてるので、これはまだ棟梁ですよね。
♢♢♢
鈴木:ぼくら万博で「サツキとメイの家」というのを名古屋の方に建てたんですけど、まあ大変でしたね。何が大変かっていったら、家の建て方って東京と関西と違うんですね。
大竹:寸法が違いますからね。
鈴木:寸法が東京の方が長いのよ。名古屋の方に行くと短くなって、じゃあそれどうする?とか、瓦も全部違うし。瓦も一個一個造っていったんだもん。あの家ってたったあれだけなのに、凄いお金かかっちゃった(笑)
藤巻:だって本出しましたよね?(笑)あれだけでね。
鈴木:ハタでみてると面白かったけどね。それこそ棟梁と色々話して相談したりね。要するに、関東式を中部で建てるっていうのが、いかに大変かよくわかったんですよ。ただ、その方たちだって残りが少ない。
大竹:もちろんです。
鈴木:その人たち集めるの大変だったんだもん。
藤巻:あれは関東式で建てたんですか?
鈴木:そう。中部に関東地区の建物を建てちゃおうって、所々にインチキがあるわけ。それじゃないと造れないもん。それでいうと、宮さんを立てると、この建物は凄かったんですよ。というのは、ジブリがここに来たのは1992年かな?建ててるときに税金屋さんが来てるんですね。
大竹:見てますから。
鈴木:で、全部写真撮ってらっしゃるんですね。建って皆でわーいよかった!ってやってたら、税務署の方がお見えになって。ニコニコされてるんですね。要するに固定資産税の問題だと。「すいませんけど、全部案内してもらえませんか?」って言われて、しょうがないから「何とか安くしてくださいよ」とか色々喋ってたんですけど。見てるうちにその税金屋さんが顔色が変わっていったんですよ。
藤巻:税金屋さん(笑)
鈴木:その税金屋さんが俺がいろいろ喋ってることを途中から聞かなくなるの。顔が真剣になって。何かなと思ったら、「どなたがこれ設計されたんですか?」って。
大竹:あー。
鈴木:「どうしてですか?」っていったら「実に考えてある。1番ビックリしたのは、これ見た目と違ってお金使ってませんね。」って。
藤巻:へー。
鈴木:その方がおっしゃるには、一つ一つの素材が実はお金かけてない。しかしこの建物には知恵があるって言っていただいて。実際造っていくことでいうと、3種類か5種類あるうち、あの人はそういう人なんですね。これは映画にもつながるんですけど、1番安いのを選ぶんですよ。
藤巻:(笑)
鈴木:これね、どこもかしこも安いやつなんですよね。で、最後の最後。宮さんが本当に悩んでたのが、一階のバーっていうみんながご飯を食べるところ。その床をどうするか。これは10種類くらいあったの。値段訊いていったらピンとキリでは10倍からの開きがあるんですよ。
藤巻:そんなに違うの?床材?
鈴木:宮さんが「少しだけ良くしようか」つて、10段階のうちの3番目にしたから、「宮さん。最後は1番良いのにしよう」と。で、実はこの中で1番かかってるのは1番下の床。だから92年だから20年くらい経ってもビクともしない。
藤巻:へー。
大竹:じゃあ似てるんだな。私工場を造ったんですけど、その時に1番大事にしたことは食堂なんですね。
鈴木:あ、そうなんですか!
大竹:現場で暑くて、入ってくると涼しい。ここを1番居心地の良い場所にしようと。
鈴木:なるほど!
大竹:疲れてるからね。
鈴木:それ1番合理的ですよ。
大竹:飯だけは良いものを出せと。工場のものは安くて構わないですって。
鈴木:今ここって3階にいるんですけど、そこを見ていただくと、屋上庭園をやっているんですね。
大竹:これそうなんですか?
鈴木:で、これって元々屋上庭園を造ろうっめ造ったんじゃないんですよ。お金がかかってないから、太陽の熱で夏は暑い、冬は寒い。で、宮さんが言い出したんですよ。「鈴木さん、ここを屋上庭園にしようか」って。それで温度がどれだけ変わるか。
大竹:5度くらい違うよね。
鈴木:そう!本当に5度違うんですよ!
藤巻:そうなんですか?
鈴木:そう。それで宮さんが言い出したのが「これでクーラー代が変わるな」と。
藤巻:(笑)すごい倹約家だな!
大竹:でも正解だと思いますよ。
鈴木:そういう人なのよ。あの人って。
大竹:それ20年前に考えつくってすごいですね。
鈴木:ひと夏過ごして、すぐわかったんですよ。暑すぎるって。それで土の量が難しかったんですよ。ひょっとすると潰しちゃうかもしれないからギリギリ土を入れて。ただそれによって5度変わったの。
大竹:絶対違うよね。それは間違いない。
藤巻:そうなんですか。
鈴木:藤巻さんね、ちゃんとした人は皆そうやって生きてるんだよ。
大竹:(笑)
藤巻:何も考えずに(笑)
大竹:そこに話が落ち着いちゃう(笑)
藤巻:俺の話はいいですから。
鈴木:だって映画作るときも、宮さん同じなんだもん。変な言い方だけど、宮さんってお金使わないんですよ。で、ここは!っていうときは使うけれど。
藤巻:じゃあ高畑さんとは違うんですね?
鈴木:高畑さんも基本的には無駄はしないよ。
藤巻:あ、そうですか?
鈴木:例えば、映画でこういうことあるんですよ。実写映画だと1本作るのに2時間の映画でも、3時間くらいにしちゃうんですよ。あとで編集で削ってるんです。実はアニメーション映画は手で描くでしょ?普通のアニメーション映画でいうと90分。それを120分くらい作っちゃったり。で、削ったりするのよ。ところが、宮崎・高畑は削るところがないんですよ。必要なものしか描かない。そこはもったいないからなんですよ。ちゃんと描いてもらったものは全部使おうと。
大竹:なるほど。
♢♢♢
大竹:家って本当面白いですよね。考えれば考えるほど出てくるんですね。もしかしたら宮崎さんがもういっぺん考えたら、あそこ直そうここ直そうって絶対出てきますよね。2回3回やらないと本当の家にならないというのは通説。
鈴木:で、こういうことありますよね。ここは第1スタジオで、ジブリは隣にもあるんですけど。ジブリはおかげさまで映画がヒットして余裕が出てきたじゃないですか。そうしたらお金をかけようかってなったら、発想が変ってくるんですよ。最初に建てたときほど、細くならないんです。
大竹:つまり余裕ですよ、
鈴木:だけど僕はやっぱりこのお金かかってないこの建物が好きなんですよね。
藤巻:あっちの方がかかってます?
鈴木:かかってる。
藤巻:あ、そうですか。
大竹:どうしても余裕があるとかかっちゃう。
藤巻:ここは本当に良いですよね。
大竹:これをベースにして、これを直そうと考えるのがいいんですよね。
鈴木:大竹さんにもちょっと見てもらいましたけど、れんが屋。
大竹:あの雰囲気もいいね。
鈴木:あれは最初部屋の内壁を全部レンガにするっていったら、設計の人が「ちょっと、これなんですか?」って言われて(笑)
藤巻:しかも、壁紙のレンガじゃないですもんね?
大竹:本物だもんね。
鈴木:あれは東京なのに東京じゃなくしたかったんですよね。そんなにお金かかってないのよ、あれ。
藤巻:あのレンガはないですよね?
鈴木:あれはイギリスで100年前、本当の家に使われていたレンガ。それが出てきたんですよ。出物で安かったわけ。あれをスライスして貼りつけてあるんです。
藤巻:重くならないように?
鈴木:そう。
大竹:それは正解だよな。
鈴木:あれは楽しかった。
大竹:昔のレンガって詰まってるんだよね。硬い。
藤巻:今と違うんですか?
大竹:今のレンガって柔らかいんで。
鈴木:でもお話伺ってると、やっぱり現代に近づいてくるに従って、全てが悪くなってる。
大竹:2018年くらいを狙った現代の庵を造ってるんですよ。コンセプトホームっていうやつで。
鈴木:へー。
大竹:現代風ですけども、それなりの家が出来上がっていく。省エネだったり防音であったり断熱だったり。
鈴木:でも今映画って、シネマコンプレックスっていって、建築基準法で10年で取り壊す建物が多いんですよ。この発想って建てるときに安いことと常に新しい。それが出来る。いまシネコンがそうなっちゃってるわけ。だけどそのことによって、行ってみてある落ち着きがないんですよね。だから僕なんかは本当は年月が経った古い建物が欲しいなっていう。で、これからそうなる気がしてるんですよね。