鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

ポッドキャスト版「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の文字起こしをやっています。https://twitter.com/hatake4633

「人を育てる極意とは、そしてプロデューサーとしてジャーナリスティックに客観的にあるべきこととは」ゲスト:渡辺真理さん

2015年7月27日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol376.mp3

 

鈴木宮崎駿が保育園の映画を作りたいって言い出したんですよ。それで僕、前々からそういう話聞いてたんで「いいんじゃないですか?」と。

 

で、その主役として宗介という男の子がいるけれど、ポニョという女の子が海からやってくる。で、保育園を舞台の話なんだと。そういうことを彼から言われてやっていたらですね、中々進捗状況がよろしくなくて、いつまで経っても出来ないんですよ。

 

で、とある日、彼深刻な話をするときは、僕の部屋に来てドアを閉めるんですけど、ほとんど閉めたことのないドアを閉めてね。「鈴木さん、保育園を作りたくなった」と(笑)

 

渡辺:保育園をですか?そのままをですか?

 

鈴木:はい。それで僕ね「だから保育園の映画作ってるんですよね?」っていったら「いや、本物だ」っていうんですよね。

 

渡辺:なるほど。

 

鈴木:本物ってどういうこと?って(笑)そうしたら、ジブリのスタジオがあって、その裏側に彼のアトリエがあってその隣に土地が今度空くと。そこに保育園を作ってみたい。

 

なんでかっていったら、特にアニメーションっていう仕事は女性が多く働いていて、結婚して子供が産まれると。その子たちのための保育園なんだと。それはそれで良かったんだけど、僕が心配になったのはですね、映画の方なんですよ(笑)

 

渡辺:(笑)

 

鈴木:絵コンテっていうのがあって、彼はシナリオがなくていきなり描いちゃう人で。今まさに保育園の話になろうとしてたんですよ。そうしたら、実際に保育園作ることになったから、「鈴木さん、もうこの映画保育園の話はなしだよ」って言い出してね(笑)それでどうするんすか!?っていう。

 

渡辺:どうなっていくんですか?それで。

 

鈴木:それでどうしようってことになってね(笑)色々相談されるっていう。そんなことがあったんですよね。

 

ーナレーションー

 

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

今週は、フリーアナウンサー渡辺真理さんをインタビュアーに迎え「人を育てる極意とは、そしてプロデューサーとしてジャーナリスティックに客観的にあるべきこととは」をテーマにお送りします。

 

(このインタビューの記事の一部は、中学・高校の教員向けに発行される「レインボーニュース」に掲載されています)

 

 

渡辺:私の浅い認識かもしれないんですが、例えば、宮崎監督や高畑監督と鈴木さんとの出会いっていうことも含めて、私から見ると、宮崎監督と高畑監督という天才二人を社会に繋ぎ止める、鈴木さんという社会と繋ぐ天才がいなかったら、おそらくジブリはないだろうし、私たち観てないのかもしれないなってずっと思ってきてるんですが。

 

プロデューサーっていうそんな一言で表わされるこんな大変なことって、どんな仕事と先生たちは考えればいいんですか?鈴木さんのお仕事を。

 

鈴木:いやでも、おっしゃった通りなんですよ。おっしゃった通りというのはどういうことかというと、自分が出版社にいたじゃないですか?そこでの経験が役に立ったんですよ。

 

何でかといったら、出版社ってね、雑誌を作る記者と編集者、この二つがあるんですよね。僕も取材をして記事を書くっていう仕事もやりましたけど、一方で、作家と組んで作品を作るという仕事もやってたんですよね。

 

特にあの二人と付き合うときっていうのは、後者。要するに作家と組んで、一緒に作品を作っていく。それが役に立つんですね。

 

そのときに僕が考えていたことは、一緒になって話聞きながら作品を生み出して、それを世の中に発表する。それが僕の仕事かな、と思ってたんですよね。だから特別大それた仕事だとか、そういう風には思わなかったんですよ。

 

宮崎駿があることを思いついて、それをみんなで考えて一本の作品を作るわけじゃないですか。高畑さんも同じですよね。僕の役割は、きっかけを作り出来たものを世の中に送り出す。それが仕事だと思ってたんですよね。

 

そういうことでいうと、最初に自分が携わった仕事が編集者だったんで、未だに同じことやってるっていうのか、そんな感じですよね。

 

---

 

鈴木:ただ当時、ビデオもなければ何もない。そうしたら池袋の文芸座っていうところが"ホルス"を夜中にやることを知って、それで僕何となく気になってたじゃないですか。それで観に行くんですよ。映画観てショックを受けるんです。

 

何でかといったら、僕らもそういう世代だったからよくわかるんだけど、漫画映画でありながら、そのテーマがなんとベトナム戦争なんですよね。子供の漫画でこんなもの作ってる二人なのか!と思って。

 

それでその後、宮崎駿が『カリオストロの城』を作り、高畑さんが『じゃりン子チエ』っていう映画作るんですけど、その現場に取材に行く。

 

渡辺:いまたぶん、先生方って生徒さんとのコミュニケーションだったり、先生同士のコミュニケーションだったり、親御さんとのコミュニケーションっていうのをとても距離も測りづらいし、難しいって感じてる方がとても多くいらっしゃると思うんですよ。鈴木さんは正直、宮崎駿さんも高畑さんも、いま伺っただけでもとっつきづらいというか。

 

鈴木:そうですよ。

 

渡辺:ですよね?で、最初からすごく好きだな、とか、一緒にいたいな、とか思えない感じじゃないですか?

 

鈴木:そう。思えないです。おっしゃる通り。流石ですね。

 

渡辺:いや(笑)そうするとですよ、だけど鈴木さんがそれでも宮崎さん高畑さんと繋がりを持とう、絆を築き始めようと思われたっていうのは何ですか?直感ですか?やっぱりなんか好きだった?

 

鈴木:違いますよ。

 

渡辺:何ですか?

 

鈴木:頭にきたからですよ。

 

渡辺:何で(笑)頭にきたから?(笑)

 

鈴木:だって無視するわけでしょ?挙げ句の果て酷いこと言うわけでしょ?「アンタの雑誌は、こういうものを餌に子供に害をもたらす雑誌だぞ」とか色々言われたからね、そうしたら許せないですよね。だから、相手がギャフンというまで一緒にいようと思ったですよね。ただそれだけですよ。

 

渡辺:それはギャフンと言わせられたんですか?どこかで。

 

鈴木:いやまぁ仲良くなったっていうのが、そういうことじゃないですか。

 

渡辺:そうか。受け入れられた。

 

鈴木:という気がするんですけどね。僕ね、これは本当偶然なんだけど、大学のとき家庭教師ってやったことあるんですよ。これもひょんなことがキッカケで。学生時代の時ってよくバイトするじゃないですか?

 

渡辺:はい。

 

鈴木:僕ね、ホテルオークラっていうところで、プールの監視員やってたんですよ。

 

渡辺:へぇーそうだったんですか。

 

鈴木:そうなんですよ。六月からだったんですけど、見てたらある中学生の男の子が、毎日のようにやってくるんですよね。その子がときには妹、そしてお兄さん、そしてお母さん。毎日のようにやってくるんですよ。で、来てるうちに仲良くなってきちゃってね。何となく喋るようになるんですよ。それでプールって、仕事が八月で終わるんですよ。

 

渡辺:そうですね。夏季だけですね。

 

鈴木:それで九月からどうしようかなーってと思ってて、またバイト探さなきゃって思ってたら、そいつヒデオっていうんですけど「ヒデオさ、お前家庭教師いるの?」って言ってみたんですよ。そうしたら「いない」って言うんですよ。「家庭教師どうだ?」って言ったら「うん、お袋に話してくる」って(笑)

 

渡辺:へぇーー。

 

鈴木:なんとなくわかってたんですよ。たぶん不良だなって。

 

渡辺:ヒデオくんが。

 

鈴木:うん。絶対不良だったんですよ、あれ。それで初めて彼のウチへ行ったら、良いウチの子なんですよね。

 

渡辺:裕福でしょう。オークラのプールにいらっしゃるのであれば。

 

鈴木:そうなんですよ。毎日来てるんですからね。当時会員権だけで五万円でね、毎日来ると五千円払わなきゃいけないって、よくそんなお金あるなって忘れもしないですけど。

 

それで家行ったら立派な家で、彼の部屋が当然あるでしょ?彼が座った横っちょに腰掛け持ってきて座ったんですね。それで一応、英語教えることになったんですよ。特にプランないわけですよ。どうやって教えるかの。

 

渡辺:(笑)

 

鈴木:どうしようかなっと思って、これ言葉でいうと中々難しいんだけど、右手を自分のこめかみのところへ挙げたんですね。で、挙げた瞬間、子供から右手が飛んで来たんですよ。ゲンコツが。

 

渡辺:はい。

 

鈴木:そうしたら、僕はこの右手で彼のゲンコツを受け止めちゃったんですよ。バチって。すごい力ですよ。僕キャッチボール得意だから、ヒョイって力抜いたりして。そうしたらニコっと笑って、そいつが。「できるな、先生」って(笑)

 

渡辺:え!鈴木さんは察知なさったんですか?

 

鈴木:違うんですよ。偶然なんです。本当の偶然。

 

渡辺:すごいなー。

 

鈴木:で、あとでお袋さんに聞いたんですよ。この間、家庭教師がいったい何人いたか(笑)大体一日か二日でみんなクビなんですよ。

 

渡辺:なるほど。

 

鈴木:ところが僕とやり始めて、一週間に二回だったか三回だったか忘れたんですけど通ってたらお母さんが、夜に「お茶でも飲んで行きませんか?」って二人っきりで。実はこういう息子なんだと。大変ですね、っていうことになってね(笑)

 

渡辺:やっぱり不良なんですね。

 

鈴木:やっぱり不良だったんですよ。それで家庭教師だから色々やらなきゃいけないんですけど、宿題出したんですよね。最初から。

 

渡辺:はい。

 

鈴木:で、次に会うじゃないですか?何もやってないわけですよ。で、次にまた宿題出すでしょ?またやってこないんですよ。家庭教師で僕が教えたのは何かっていうと、結局そのやってない宿題をその場でやるっていうのが、中身になったんですよ。

 

渡辺:一緒にやるってことですか?

 

鈴木:うん。それでこうだろ、ああだろって。ときにはアイツが「先生さ、この間教えてくれたじゃん。現在完了。学校で珍しく手を挙げて答えたんだよ」「おお。それで?」「これは現在完了ですっていったら、違うって言われたよ」って(笑)

 

渡辺:(笑)

 

鈴木:それで「おお、そうか」とか言ってね。それで毎回宿題出す。それなら答え合わせを次にやるっていうことをやってたら、初めてやったのが半年後でしたね。

 

渡辺:やったんですね!?

 

鈴木:やったんですよ。初めてやったら、その次の回から毎回やるようになるんですよ。

 

渡辺:へぇーー。

 

鈴木:面白いもんだなーと思って見てたんですよ僕。それで色々やっているうちに、いよいよ高校行かなきゃいけない。気がついたら英語の成績が飛躍的に(良くなった)。お母さんからもお礼を言われたりして。「鈴木さんにプレゼントしたいわ」ってラジオを貰ったりしたんですけど、それは置いといて。これ自慢話ですね、喋ってると。英語だけ90点をとるようになっちゃって。他は10点とか20点なんですよ。

 

渡辺:やらないんですね。

 

鈴木:それでお母さんから「他の科目も何とかならないでしょうか?」っていうから、「他の先生は?」ってきくと「首にしちゃっていないんですよ」と。

 

そうこうするうちに、中間が期末か忘れましたけど、あると。「お前、他の試験勉強何もしてないんだって?」ってきくと、「してないよ」って言うから、「しょうがない。とっておきの方法を教えてやる」って。「なんですか?」「試験は色々記憶しなきゃいけないだろう。お前はそれをやってないんだろう。記憶しないで、点数がよくなる方法がある」。

 

渡辺:ききたい。

 

鈴木:「カンニングペーパーだよ」って(笑)

 

渡辺:載せられない(笑)

 

鈴木:載せちゃいけないですか?これ(笑)カードを持ってきて、「固有名詞書いてあって、その説明書いてあるだろ?このカードに書いてみろ」って。書かせたんですよ。字がデカいんですよ。僕は怒るんです。「こんなデカい字で書いてたら、何枚もカード作らなきゃいけないだろ。このカードの中に10項目いれろ」って。いくらやっても出来ないんですよ。

 

しょうがないから僕が代わりに、こうやって作るんだってやって、カードの小さいやつ、3センチ×2センチくらいかな。それを2枚作ると。裏表で4面あるでしょ?それをセロテープで貼って、小っちゃい字で書くでしょ?それを二つに折れるようにするんです。それを眼鏡を外して、ここでやると見えるんですよ。目に近づけると。そのカンニングペーパーのダメ出しを何回もしたんですよ。すると何が起きたか?わかります?

 

渡辺:覚えちゃう?

 

鈴木:そう!覚えちゃったんですよ奴は。そうしたらその期末考査、全部成績良くなっちゃったんですよ!(笑)

 

渡辺:すごーい。それは意図なさったんですか?

 

鈴木:意図じゃありません!単にカンニングペーパーの作り方を教えたんです。僕としたら、そういうところ完璧主義者なんです。だから中途半端なカンニングペーパーはダメだ!って。何回も何回もやり直しさせたんですよ。本人も言ってましたけど、「こんなやらされたら、覚えちゃったよ!」って。

 

渡辺:(笑)

 

鈴木:でも意図したんじゃないんですよ。そしたらお母さんがすごい喜んでくれて。

 

渡辺:今の話って、その後の鈴木さんのジブリも意図しないですよね?

 

鈴木:僕意図しないんですよ、大体。

 

渡辺:例えば、テレビでも反省するのが、アリバイのように作っていくことってありますよね。結論はこうだ、だからこういうインタビューが欲しいんだ、折角インタビューに行ったのにその方が話したいことだったり、その会話の流れとかどんな風に飛んでいくかではなくて、「いや、ここだけ欲しいんですよね」って言って、切り貼りして結局出来るものにはめ込むだけ。

 

鈴木:わかりますよ。

 

渡辺:だけど、絶対的にジブリはそうじゃないじゃないですか?

 

鈴木:僕ね、そういうインタビュアーの方僕のところにいらっしゃるでしょ?「あなたの考えてること、こういうことでしょ?」って言っちゃうんですよね(笑)「申し訳ないけど、それには乗れない」って。

 

渡辺:先回りなさるんですね。

 

鈴木:でもおかげさまで、さっきの子の話ちょっとしちゃうと、何とそいつ英語出来るようになっちゃって。その後、ネイティブの英語だけ喋れるようになって。大人になってからも僕のところよく現れたんですけどね。「先生のおかげで、英語だけ喋れるようになって」ってね(笑)面白かったですけどね。

 

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渡辺:経済、お金っていうのはどんな風にお付き合いしていこうとか、どんな風にご覧になってますか?

 

鈴木:お金に関しては抽象的ですけれど二つ思ってるんですよ。「大事にしなきゃいけないけれど、奴隷になっちゃいけない」って。それずっと思ってますね。

 

大事にしなきゃいけないってときは、例えば、色んなところからお金出していただくじゃないですか?映画会社にもそういうところあるんですけど、出していただいたお金が全部フィルムに使われるわけじゃない。他のものにも色々使われたりするんですよ。

 

だけど、ジブリのセールスポイントはその一。「出していただいたお金は、全部フィルムになります」って。

 

これはお金を出す人にとっては、一番気になるところだと思うんですよ。当然お金っていうのは大事だし、普通の人は余分にお金を儲けて貯めたいんでしょうけど、だからといってお金の奴隷になっちゃうと、あまり良い結果は招かない、なんて僕は思ってるんですけどね。

 

それは何となく高校くらいから思ってたんですよね。

 

渡辺:そんなに早く思ってらしたんですか?

 

鈴木:思ってましたね。お金なんなんだろうって考えたことがあったからですね。

 

例えば、無駄なものをすぐコピーする。結構怒るんですよ、僕。なんか大事だからとっておくってことでしょ?これ。でも僕に言わせると、大事なことだったら頭にいれろ、なんですよ。それをコピーしてファイルに入れたら、二度と見ないわけでしょ?

 

渡辺:安心しちゃいます。

 

鈴木:そうすると、それってお金を大事にしないことだと思うんですよ。ほんとに。

 

それと同時に、色んな大事なことっていうのは、自分の頭というのか体の中に入れることによって、血となり肉となるわけでしょ?その大事なものをですよ、なんでコピーしてファイルの中に置いておかないといけないのか、なんて考えるんですよ。

 

だとしたら、人間っていうのはある種ケチでなることって大事なことなんじゃないかなって気がしてるんですよね。人間として。覚えればいいんですよ。

 

で、忘れちゃうことって大したことじゃないから。と思ってるんですけどね。

 

渡辺:忘れてしまうことって「Let It Go」なわけですよね?

 

鈴木:そうです。

 

渡辺:忘れればいいし、大切なことっていうのは記憶の中に本当は残るはずなんです。

 

鈴木:それも随分考えたんですよ、僕。記憶に残ることと残らないことの差って何だろうって随分考えましたね。

 

渡辺:それも高校生くらいですか?

 

鈴木:いや、それは大学生くらいに考えたんですね(笑)皆さんよく日記書いたりするじゃないですか?日記っていうのは書く必要があるんだろうかって随分考えたんですよね。

 

これは受け売りなんですけど、吉行淳之介っていう人がそうやって書いてたんですよ。あの人がある文章の中で、書いてることハッキリしてるんですよね。「どうでもいい記憶は忘れろ」ってものすごく大事なことだなって。大事なことはたぶん覚えてるよって。その時忘れてても、ある日蘇ったらするって。

 

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渡辺:ヒデオくんがパンチをしてくるときに、パッと受けられた。宮崎監督も高畑さんも吉行淳之介さんも、たぶん鈴木さんが関われる方って、そのキャッチ力というんでしょうか、そこからコミュニケーションをとっていく。

 

普通、宮崎さんがお出しになるリクエストだったり、必要なのかもしれないけれども、無駄な道なんてないと思うんですけれども、ものすごく迂回だったりとか、そういうことってどうしてもそんなに柔軟にドンと構えて受けられるんですか?

 

鈴木:大したことだと思ってないからですよね(笑)

 

渡辺:大したことだと思ってない?

 

鈴木:世の中に大したことって、生涯で三回くらいしかないんじゃないかなって思ってるんですよね。大事なことって三回くらいしかないんじゃないかなって。

 

例えば、頭にきて怒る、というのも生涯に三回くらいだろうなと思ってるんですよ。で、次のことをいうとね、年単位でいうと、多少怒ることが三回くらいあるだろうと。月単位でいうと、ちょっと怒ることが三回くらいあるだろう、と大体こう考えてるんですよ。そうすると、怒る前に「これ三つの中に入れていいかな?」って結構考えるんですよ。

 

渡辺:じゃあ感情的にリアクトなさることってそんなに、、

 

鈴木:僕ないらしいんですよ。ある若者に言われたことあるんですけど、ある若者に関しては何とかしようと思って。だらしがなかったから。随分怒ったんですけど、そうしたらそいつが大人になってから僕に「鈴木さんは一度も個人的感情で怒られたことがなかったんで、それは感謝してます」っていわれて、ちょっと嬉しかったですね。

 

だから、自分のことだと思ってないんですよ。

 

例えば、品のない話をちょっとしますね。『風立ちぬ』と"かぐや姫"って映画ってね、それぞれ50億円ずつかかったんですよ。これ皆さんピンとこないかもしれないけれど、映画としては大変なお金なんですよ。僕ね、やり始めたら意図的に忘れるんですね。

 

渡辺:意図的に忘れるんですか?

 

鈴木:うん。それで日常は全く忘れてますね。他人事だと思ってるんですよ。よく皆さんに訊かれるんですよ。「そんなお金使って心配にならないんですか?」っていうから、他人事だから関係ないですよね。一度も心配にならないんですよ。何でも他人事だと思ってますね。

 

渡辺:自分のことって何かありますか?

 

鈴木:自分のことだと思わない性格なんですよね。それが僕の欠陥なんでしょうけど。だから色んな局面ってあるじゃないですか?そういう時なんかも、客観的にいま俺はこういうところに立たされてるなって思うとワクワクするんですよ(笑)

 

渡辺:鈴木さんは本当にジャーナリスティックな方なんですね。ジャーナリストって言いますよね。よく皆既日食を見ている人たちの中で、一人だけ見ている人たちを見ている。

 

鈴木:ジャーナリスト大好きですね。

 

渡辺:こんな風な方は本当にお目にかかったことはなかなか、、

 

鈴木:え?そうなんですか?例えば、ドラマ見るときでも、山田太一っていう人は大好きだったんですよ。何でかといったら、あの人の視点っていつもジャーナリスティックでしょ?

 

渡辺:そうですね。

 

鈴木:客観的にものを見る人が好きですね。

 

渡辺:こんなことを他では言えないですけど、筑紫さんだって久米さんだってご一緒していても、ここまで徹底した客観ではないと思います(笑)

 

鈴木:それを指摘されたのは高畑さんですね。僕言われましたよね、それは。