鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

ポッドキャスト版「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の文字起こしをやっています。https://twitter.com/hatake4633

日本を代表する社会学者の上野千鶴子さんとの対談・その2

2014年10月31日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol341.mp3

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

3週連続でお送りしているAERA8/11号のスペシャル企画。日本を代表する社会学者の上野千鶴子さんと鈴木さんの"団塊世代ど真ん中対談"。

 

今週は、2回目。アカデミズムや言論の世界で戦ってきた上野さんと、エンタータイの世界を牽引してきたと言える鈴木さん。今週は、どんなお話が飛び交うんでしょうか。

 

鈴木:会社を続けたいと思ったから、別に儲かる必要はなかったんですよ。トントンでさえありすれば。それだけを念頭に置いてやってきたんですけどね。これ以上やるとね、もう罪だなと思ったから、ちょっと今やめようかなと思ってるんですけどね(笑)

 

上野:あ、そういう意味なんですか?

 

鈴木:そうなんですよ。

 

上野:どんな罪を犯されました?ご自分的に言うと。

 

鈴木:やっぱヒットさせ過ぎですよね。

 

上野:ヒットさせると、何が起きます?

 

鈴木:やっぱりその影響を受けて、その作品のことを引きずる人が出てくる。それはどうかなって僕の中でどっかにあるんですよね。それは映画なんてたかが映画で、観て楽しかったで終わってくれれば良いんですよね。

 

ところが、いつまでもそれを引きずって、ある年齢を迎えてもそれを言うっていうのは、僕はおかしいと思ってるんですよ。

 

上野:まあまあメッセージ性があれば届くからね。

 

鈴木:メッセージ性良かったんですかね。これは宮崎とも一緒に話したのが、第1に面白いものをやろうと。それが第1位ですよ。でも、多少はね言いたいこともあるから、少しは入れようねって。最後が、お金も儲からないと次が出来ないしっていう。

 

上野:でも凄いですよね。時代が先に作ったっていうことは確実に言えるとは思うけど、作品が時代作ったと、こっちも言えるくらいの影響力を持ったって自負はお有りなわけですよね?

 

私なんかとてもじゃないけど、フェミニズムを世の中こんな風にしたって言われたらとんでもない。フェミニズムは時代の作品であって、我々が時代を書いたわけじゃないんだって。

 

鈴木:それはね、職業的な訓練ですよ。たぶん。どういうことかっていったら、僕も雑誌やってたでしょ?そうしたら、雑誌やってて何がしんどかったかって言ったら、僕がやってたのはアニメ雑誌なんですけど、ヒット作の後を追いかけてたら、しんどいわけですよ。

 

それである時決めたんですよ。ヒット作を追いかけるのをやめようと。編集部で提案してるんですよ。自分たちでこれが今人気があると決めて、それを皆んなに広めようと。その方が楽だから。

 

上野:でもそれに世の中が乗ってきちゃったわけでしょ?

 

鈴木:ある時乗ってもらえることがわかったですよね。だって世の中の仕組みがそうなってたから。

 

上野:いやいや、乗せ方がメガヒットですから。それはハンパなヒットじゃないですよ。雑誌なんかせいぜい数十万部でしょ?

 

鈴木:まあね(笑)色んな人の協力を得たからでしょうね。

 

上野:好奇心ムラムラとなって訊きたくなったんだけど、ジブリの全作品の中で後世に残るのってどれだと思います?

 

鈴木:これは難しい(笑)それはあるんですけどね、ちょっと公的には言えないですよね。

 

上野:言えない?ジブリの功と罪を誰かが論じるべきだって仰って、それはそう思われるのは当然でしょうが、私はその任にとても耐えないので。そういうことをやる人はね、ジブリ好きになった人じゃないと出来ないんですよ。

 

鈴木:そうですか(笑)

 

上野:うん。

 

鈴木:高みの見物でズバッとおっしゃって。

 

上野:いや、そういうものじゃないんですよ。やっぱり研究でもなんでも、自分がその中に浸かってね、愛憎を共にそこをくぐり抜けないと。

 

鈴木:でとそれって2つあるんじゃないですか。中へ入り込んでそれをやる人と外から見てやるっていう人。

 

上野:それは作品として出てきたものを見たらね、全然面白くないです。

 

鈴木:それはそう思いますけどね。僕はそれは具体的なキッカケとしては鎌田っていう人が『自動車絶望工場』。入り込んでやったじゃないですか。季節工として。それが大宅壮賞の選考の時に「取材方法が汚い」ということでそこから排除されましたよね。あれはハタから見て、何言ってんだって思いましたよね。

 

上野:フィールドに上がったとか、そういうことじゃないんですよ。そこに魅力された人じゃないと。

 

鈴木:良い悪いは言えない。

 

上野:言えないです。だから、ご指名は私は完全にミスキャストなので。

 

鈴木:(笑)と言いつつ、色んなことをおっしゃる!

 

---

 

上野:人をプロデュースするのが1番面白いでしょう。

 

鈴木:僕だってしたいと思ってるわけじゃないんですけど(笑)

 

上野:したいと思ってなくて、その立場に立たされちゃったんですか?いや私自分で言うとね、私はどっちかというと、黒幕とか参謀が自分に1番向いてると思うんでね。

 

鈴木:そうなんですね!

 

上野:私の人生最大の間違いはね、本当は置屋(おきや)の女将やって、「ウチは良い娘がいまっせー」と言おうと思ってたのに、自分が板に立たなければいけなかった。

 

鈴木:(笑)

 

上野:で、本当はいうと、僧院に入って世捨て人をやりたかったのに番狂わせは、世の中の役に立ってしまったっていうのが、、

 

鈴木:凄い役に立ってますよね。僕『おひとりさまの老後』っていうのをね読ませていただいて。ちょっとビックリしましたよ。

 

上野:だって我が身のことじゃないでしょ?

 

鈴木:もう立派な方だなと思って。

 

上野:どういう意味ですか?(笑)

 

鈴木:こんなメンドクサイことをね、色々おやりになるんだなと思って。

 

上野:ああ、メンドクサイです。はい(笑)

 

鈴木:でも、やっぱり凄いですよ。僕なんか手を合わせましたよ。ほんとに。自分にそういう勤勉さがないんで。

 

上野:しょうがないですよ。それは文字書きしか芸がないんで。絵も描けず、踊りも踊れないんで(笑)本当はね、私どもの業界にもうちょっと人材が沢山いれば、人を舞台に立たせて舞台の陰でほくそ笑んでいたかったのにね。ちょっとタレントが足りなかったもんでね。つい板の上に自分も立ってしまったというのは痛恨の思いですよ。

 

鈴木:もう関心しきりです。

 

上野:もう桁が3桁くらい違いますからね。売れ方がね。

 

鈴木:だって『おひとりさまの老後』っていうのは、皆んなそういうこと気になってましたからね。たぶん。

 

上野:でも男性は、思考停止でいらっしゃるから。妻が看取ってくれると思っておられるでしょ?(笑)

 

鈴木:1人にならなきゃいけないって思ってますね、最近。で、慌ててそういう本でも読もうかなっていうね。

 

上野:それは付け焼き刃というんで、慣れないことはおやりにならない方が良いと思います。

 

鈴木:(笑)慌てて鴨長明読んだりね。

 

上野:ああ、そうなんですか。

 

鈴木:あの人1人でしょ?

 

上野:ああ、はいはい。

 

鈴木:山折さんがチラッと書いてたんで。やっぱこれかなって思ったりね。

 

上野:ああ、そうですか。時々、山頭火とか放哉ブームが起きたりね。

 

鈴木:そうそう。良寛とか。芭蕉だってそうだろうとか。安定して生きていくには、それしかないのかなと思って。付け焼き刃ではダメですか?

 

上野:こんな楽しい人生送ってこられたんだからね。

 

鈴木:その報いが来ると思ってるんですよ。

 

上野:ボーイズクラブでちゃんとね。お年を召してるけれど、いいじゃないですか。

 

女性:(笑)

 

上野:何かそんな可笑しいですか?

 

女性:いやいや!たしかにボーイズクラブだなと。

 

上野:羨ましいですよね?

 

女性:もうなんか男子校的な。ガッツリ団結!みたいな感じ。

 

鈴木:なんか今日は、先生に色んなことを教えていただいてる。

 

上野:あんまり終末観で終わるのもあれなんで、こんな世の中にしちゃった責任が我々にはあると。その上でね、これからあと1/3くらい下り坂が待ってるんですが、どうしたものでしょうっていう話をしなくちゃいけないんでね。こういうところで私は編集者根性が出るんです。

 

鈴木:僕はね、色んなところでそういうこと言い始めちゃったんですけれど、ご指摘のように楽天的なんですよ。

 

上野:はい。

 

鈴木:日本なんて無くなったっていい、と何処かで思ってるんですよ。

 

上野:ご自身はどうなさる?

 

鈴木:自分の問題ですか?

 

上野:うん。日本無くなっていいと私も思ってますよ。

 

鈴木:それでアジアが1つになっちゃえば良いと思ってるんですよ。

 

上野:ああ、そういう意味か。それはかなり誇大妄想だね。

 

鈴木:僕はそんな時間がかからないと思ってるんですよ。ヨーロッパがそうだったように。最初は東北アジアだけかなと思ってたら、どうも南の方まで入ってきて。

 

上野:いやーー。

 

鈴木:色んな問題が起こるだろうけど、その方向へ行くしかない。だって物を作る時だって、例えば、こういうことがあるんですよ。トトロのぬいぐるみってあるじゃないですか。1番最初、四国で作ってたんですよ。それがある時韓国で作るようになると。そして中国になって、今はベトナムなんですよね。そういうことですよ。

 

上野:でも、鈴木さん楽天性の桁が私よりも2桁くらい大きいね。アジアはEUにはなりません。絶対ならない。どんなに必要があって歴史的な必然性があってもそうはならない。なぜかって、日本は戦後主義間違ったから。ならないです。このツケは重すぎます。

 

鈴木:僕は30年と思ってるんですけど。

 

上野:うーーん、30年経ったら世界地図の勢力図は変わってます。中国もだいぶ落っこちてるでしょう。あれだけ子供は減らすと。

 

鈴木:絶対そうですよね。

 

上野:だから、そうなると最早辺境になってしまうかもしれないんで。

 

鈴木:そうですよね。それで良いんじゃないんですかね。

 

上野:30年っていうと、私たちが90、、

 

鈴木:ギリギリ間に合うかな、なんですよ。

 

上野:見てみたいですね。

 

鈴木:そう。見てみたいんですよ、僕。でね、このマンションにいて、なんでそんなこと思いついたかっていうとね、実はこの中に外国の人色々暮らしてるんですよ。それでエレベーターの中で色んな人と喋ってるじゃないですか?

 

上野:どこの国籍?

 

鈴木:もう色々。アメリカを始めフランス、東南アジア。中国はもちろんタイだとか。そういう人たちと喋ってるとね、なんとなくそんな気分になってきたんですよね。

 

上野:でも30年でしょ?首都直下型地震が70%くらいの確率でしょ?

 

鈴木:ありますよ。あってトコトンまでいけばね、当面、南アメリカみたいになるのかな、とかね。そんなことも思ってるんですよ。

 

上野:あり得ますね。

 

鈴木:絶対そうですよ。そうすると、今持ってるお金の価値もガラッと変わる。そうすると、皆んな苦労するんですよ。でも苦労するのは誰かで。それで救われる人もいる。なんてことを思ってるんですよね。

 

上野:かなり楽天的ですよね。

 

鈴木楽天的なんですよ!

 

上野:私よりもやっぱり1桁2桁楽天度が高いわ!

 

鈴木:それどこかで本当に思ってるんですよ。身近な人な見てて、そう思いますね。

 

上野:ああ、そうですか。

 

鈴木:特にね、その中のある人と色々喋ってて。タイの女の子だったんだけど、これは面白かったですね。相手のこと一切気遣わない。言うのは自分のことだけ。その子と喋ってたらね、昔の日本を思い出しましたよね。

 

上野:昔ってどのくらい昔?

 

鈴木:僕らが若い頃、子供の頃。要するに相手への配慮がなし。自分のことだけ。これは色んなところでそうなっていかざるを得ないなって気がしましたね。

 

上野:あ、それはおっしゃる通り。昔は良かったとか、昔はみんな支えあってたって嘘なんで。それはみんな自分の先しか見てなかったんで。

 

鈴木:絶対そうですよね。

 

上野:それはそうなんだけど。私は女は生き延びるだろうと思うんですよね。敗戦があってもね、原発事故があってもね。

 

鈴木:女の人が中心になれば良いんじゃないんですかね。

 

上野:と思うんだけど、でもね。男が無理心中をさせるんですよ。

 

鈴木:通い婚の時代に戻れば良いと思ってるんですよ。

 

上野:例えば、放射能は男女差別しないから。

 

鈴木:僕が親しかったフランス人。日本の女性と結婚して、この2人が原発事故の後、フランスへ行っちゃったんですよね。もう日本は怖いって。そういう時にリアリティを持って、その怖さを感じてますけどね。

 

上野:私には中学・高校に時々呼ばれるんです。講演に。結構ウケるんです、子供に。それでね、最近彼らに言うセリフはね、日本の未来を君達の方にかかってます、とか、日本の未来は君たちに支えてくれって口が裂けても言えない。こんなにも作っちゃった自分たちの口からは到底言えない。もう世界中どこでも良いから、どこでも良いからなんとかして生き延びていってくれ。

 

鈴木:それは正しい。凄い賛成です。

 

上野:と言うんです。こういうとね、国賊とか言う馬鹿な奴もいるんだけどね(笑)

 

鈴木:そんなこと言ったら、この間の高村さんの方がよっぽど非国民ですよね(笑)

 

上野:高村さん、何言った?

 

鈴木:だって、集団的自衛権、、

 

上野:確かに国賊ですよね。

 

鈴木:あれは国賊ですよね。

 

上野:おっしゃる通り。アメリカのために日本の若者の血を流す。でもいま私が言ったことに間髪入れずに「おっしゃる通り」って言って下さって。

 

鈴木:大賛成です。

 

上野:とても嬉しい。だから日本が無くなっても構わないっていう点では全く同感ですが、無くなるっていうのは広域化して、アジア共同体が出来るという妄想には到底ついていけません。沈没はするかもしれませんが。

 

鈴木:いかざるを得ないんじゃないかと思って。経済圏としてですよ?

 

上野:ああー。

 

鈴木:政治的には難しいですよ。それから心情的にも大乗と小乗の問題は非常に難しいだろうし。でも、1個になるしかない。

 

上野:でも政治的和解が出来ないとね。

 

鈴木:まぁそれは大きいでしょうね。それは自分の親父がね、死んじゃう時にね、残した言葉ってね、ちょっとびっくりしたんですよね。

 

戦争に行ってたんだけれど、戦争について語ることはなかった。それが突然ね、亡くなる1日前に「中国では本当に酷いことをした。その恨みが消えるわけはない」みたいなことを言って死んでいっちゃうんですよ。

 

上野:すごいですね。1日前ってね。

 

鈴木:ほんとビックリしましたね。それは僕にとっては大きかったですね。

 

上野:じゃあずーっと沈黙してたんだ。

 

鈴木:どっかで思ってたんですよ。語ろうとしなかったですよね。

 

上野:そういうのも原点の1つに残ってるんですね。

 

鈴木:残りましたね。

 

---

 

鈴木:ある時高畑さんとやってて作りたかった映画の1つが『国境』っていう原作を書いた人がいて。

 

これ何かというと、戦争中の話で架空の冒険譚なんですよ。当時、ソウルに第9艇団があって、そこのある学校に通ってる日本の男の子がいて。自分の友人が失踪。その友達を探すために満洲からモンゴルに行った話で。

 

で、簡単にいうと、自分が親友だと思ってた男の子が実はモンゴルの王子だったっていう話で。自分が満洲時代に好きになった女性、これは中国人だった。

 

つまり、姿かたちが似てるじゃないですか。そうすると、国境っていうのは何なのかっていう話なんですけど。これなんかも作りたくてしょうがなくて。中々難しかったんですけどね。

 

上野:もうそうなったらウケなくてもいいから、作りたいものを作ろう、という気分になりません?

 

鈴木:お金がかかり過ぎるんですよ。

 

上野:ああ、そうか。

 

鈴木かぐや姫なんかね、最初からどんなことがあってもマイナスになるってことが分かってたんですよね。でも、死に土産かな、と思ってね。高畑さんへの。

 

上野:でも、結果プラスだったんじゃない?

 

鈴木:いや。ものすごい赤字ですよ。大赤字ですよ。あれ日本映画の記録じゃないですかね。

 

上野:ああ、そうなんですか。

 

鈴木:こんなこと威張ってもしょうがないんですけどね(笑)

 

上野:出血覚悟だったんですか?

 

鈴木:あれは完全に出血覚悟ですよ。

 

上野:だってどんな作品だって、絶対にウケるように出来るっておっしゃったじゃないですか?

 

鈴木:それが出来るから逆も出来るんですよ。あれはやろうと思ったんですよ。何でかって言ったら、高畑さんがそれを望んだからですよね。その時はそうしようと思うんですよね。彼はそれが一種目的化するところがあるんで。赤字にするってことを。

 

上野:なんですか?それ(笑)

 

鈴木:面白い人なんですよ、やっぱり。それもいいかなっていうことで。僕は一方でそれをどっかで保証しようとして、マイナスにならないように他のところで努力したんですけどね。だけど、まあやってくれましたよね。かぐや姫は。

 

おそらく、後に僕は語り草になると思うんですよ。日本映画最大の赤字作品ですよ。一種痛快でしたけどね。

 

上野:あと1つ2つ、やる気はないですか?

 

鈴木:僕はもういいですね。僕はやっぱり宮さんという人と高畑という人、この2人と出会ってそれが面白かったんで。新しい若い人とやってみても、面白くないんですよ。

 

上野:共感出来ない?

 

鈴木:やっぱり違うじゃないですか。

 

上野:もうやるだけのことはやった感あります?

 

鈴木:やってない感ですよ。だって僕は人のためにやってきたんですよ。高畑とか宮崎とか。残りは自分のために少しはやってみたいですよね。

 

上野:でも楽しかったんでしょ?

 

鈴木:それはおっしゃる通りです(笑)だから自分1人で何かやってみて面白いかどうかっていう保証は何もないんですね。むしろつまらないかもしれない。だからどうしようかって考えてることは確かですよ。

 

上野:でも世の中にはコーチとか監督とか、自分がプレーヤーにならない人たちがいるんだから。それはそれで良いじゃないですか。

 

鈴木:でもあれだって大変だと思いますよ。自分の意に沿わぬことをみんながやるわけでしょ。それをジッと我慢して見てるわけでしょ。大変ですよ。メンドくさい。

 

上野:いやいや、男がなりたい職業のトップ3というのがあの映画の本に書きましたけど。まず1位が映画監督で、2位が野球の監督で、3位が指揮者なんですよ。

 

みんな言うことを聞かない人たちを胃を悪くしながらコントロールする仕事なんで、男はこういうことが好きなんだなってつくづく思ったんですが。だから男冥利に尽きる仕事に就けられたわけでしょ?

 

鈴木:でもやっぱり僕、限定付きですよ。高畑・宮崎という監督だけ通用するんですよ。他の監督の時は上手くいかないんだもん。

 

上野:それは惚れ込んだというのがあるのかな?

 

鈴木:惚れ込むっていうのか、一緒に生きていく、それしかないなって思ったんですよね。

 

上野:そうか。それは運命共同体ですね。

 

鈴木:そういうことですよ。

 

上野:そこまでの関係を作れるっていうのは、人生の中ではものすごく幸せなことじゃないですか。そんな沢山あることじゃないですよ。

 

鈴木:そういうことを考えてたわけではないですけど、結果としてはそうかなって思いますよね。

 

上野:自分のためっていうと、どういう具体的なものがあるんですか?

 

鈴木:わかんないですよね。結局自分が出来たのは、映画のプロデューサーだけなんでね。それ以外何か能力あるかっていったら、怪しいもんなんでね。とはいいつつ、少しくらいちっちゃくてもいいから考えなきゃな、と思ってますよね。ま、良いんですよ。自分の好きな本読んで、残り暮らすとかね。

 

上野:たぶん出来ないです(笑)

 

ーナレーションー

上野千鶴子さんと鈴木さんのスペシャル対談第2回、いかがだったでしょうか。

 

来週は、いよいよ最終回。ぜひお聴き下さい。

 

鈴木:僕ね、紀伊國屋のなんとかスタディ

 

女性:戦後日本スタディーズ。

 

鈴木:あれの高度経済成長と生活革命。あれは本当にまとめ方が良くて。もう頭入っちゃったですよね。

 

上野:ああ、嬉しいですね。言っておきましょう、編者に。

 

鈴木:上野さんが書かれたところが、やっぱり1番面白かったんですよ。

 

上野:ああ、そうですか。その最中生きてきましたからね、私たちは。

 

鈴木:あれを上野さんだと断らないで、あの中の色んな数字その他を色んなところで喋っちゃったですよね。

 

上野:どんどんお使い下さい。

 

鈴木:あれが1番強烈だったんですよ。

 

上野:ウケ方を知ってるっておっしゃったでしょ。その点では同時代を生きてきて、メディアと付き合ってきたから、こんな言い方はなんだけど、親父の転がし方知ってるわけですよ。

 

鈴木:(笑)疲れますよね。

 

上野:まあ邪気があると面白かったんですよね。でも段々邪気が抜けてきましたんで。最近無邪気になってきました。

 

鈴木:まあ、そうですよね。

 

上野:あとの1/3は、無邪気に生きたいんですけどね。

 

鈴木:上野さん、主体的な人だからな。

 

上野:どういう意味ですか?

 

鈴木:受け身じゃないですよね。

 

上野:主体的だと無邪気になれないんですか?それは鈴木さん間違ってると思いますよ。私はあなたのこの本読んで割と共感したのがね、流されて生きてきたっていう言い方されてたでしょ。主体性をこんな風に言う人がいたんです。「したい性」と呼ぶんです。

 

鈴木:「したい性」(笑)

 

上野:自分からしたいことがある性。あんまりないんです。割と乗せられてきて、乗せられたら降りない。

 

鈴木:そうです。

 

上野:私も大体似たようなものなんで。流されて生きてきた。似てるなって思いました。

 

でも流され方ってあるんですよ。巻き込んでくれた人たちがいたわけでしょ。台風の目のような方に。そこに出会うのも運だからね。

 

鈴木:そういうのって、小学校の時からずっとそうなんですもん。

 

上野:じゃあ良いじゃないですか。もう変えられないですよ。