2014年11月21日配信の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」です。
http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol342.mp3
上野:なんでアメリカっていうテーマだったんです?
鈴木:いやーこの歳になって振り返ってみたらね、アメリカに翻弄されてきたなって思い知らさらたんですよ。
上野:アメリカコンプレックスはありました?
鈴木:というのか、何しろ僕らの世代ってよく覚えてるんですけど、小学校4年のとき、クラスの高橋くんというのが授業と授業の間にね「鈴木、徴兵制が始まるらしい」とかね。4年生でそういう話をする時代。
上野:4年生。朝鮮戦争終わってますよ。
鈴木:そのぐらいですか?
上野:うん、終わってますよ。
鈴木:日本が徴兵制始まるって言われたの、ものすごい記憶に残ってるんですよ。で、少年マガジンが始まるじゃないですか。
上野:うん。
鈴木:少年マガジンの中にね、みんな独立と共に「こうすれば日本は本当は勝ってた」って話ばっかりでしょ(笑)
上野:男の子って妄想系なんだねー。
鈴木:これはね誰も言ってそうで言ってないのが、我が家にテレビがやってきたんだけど、捻ってみたらそこから流れてきたものは全部、、
鈴木:でしょ?
上野:『パパは何でも知っている』ですよ(笑)
鈴木:ビーバーちゃんとか。
上野:『奥さまは魔女』ですよ。
鈴木:そうすると、テレビでアメリカをよく言われるように、ドア開けたら居間があって、色んなものがあって憧れる。でも一方で、少年マガジンで憎っくきアメリカの話でしょ?
上野:その時、対戦相手アメリカだと思ってました?
鈴木:それは僕はわかってましたよ。だって具体的に書いてあるんだもん。
上野:だって勝てないって、あのテレビで出てくる物量。勝てないと思うでしょ?
鈴木:勝てないとは思わなかった。
上野:ええー!やっぱり男は妄想系だ!
鈴木:(笑)
上野:精神戦で勝てるとか?
鈴木:いやそうじゃないんですよ。なんだかっていったら、その根拠となることを少年マガジンが資料として提供してくれてたからですよ。
上野:だから情報統制するからでしょ?
鈴木:まあそれはその通りなんだけど。
ーナレーションー
AERA8/11号のスペシャル企画。上野千鶴子さんと鈴木さんの団塊世代ど真ん中対談。
改めて、上野さんのプロフィールをご紹介しますと、1978年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了後、シカゴ大学人類学部客員研究員など、世界各地の大学の客員教授を務め、現在は東京大学名誉教授、認定NPO法人「ウイメンズアクションネットワーク」理事長などの肩書をお持ちです。
1994年、『近代家族の成立と終焉』でサントリー学芸賞を受賞。『差違の政治学』『おひとりさまの老後』『〈おんな〉の思想 私たちは、あなたを忘れない』など、数々の著書を書かれている日本を代表する社会学者のお一人です。
上野:私が生まれて初めて外国に出たのが、30過ぎてて、80年代だったんですよ。その時にアメリカへ行くことを2年間選んだんだけど、別にアメリカコンプレックスからじゃなくて、今世界で1番動いてるところに行って、その場に身を置こうと思って。
鈴木:でも学生運動の時は、反米でしょ?
上野:反米、、まあ確かにそうですね。
鈴木:ねえ。僕らの大学だとね、米軍資金導入反対闘争ですからね。
上野:あー確かにそうですね。
鈴木:でも、それ以前のことで言うとね、日本でね「8.15シリーズ」っていう映画があって。何だったのかというと、戦争映画が毎年夏に封切られる。それでグニャグニャグニャグニャしていたっていうのをね、この歳になって思い知らされたんですよ。
上野:それでもあの当時のGIっていうのが、10代の男の子たちでしょ?
鈴木:兵隊がね。
上野:不安そうな顔をしているそこら辺のアンちゃんじゃないですか。
鈴木:そういうことって、いつそういうこと思ってたんですか?
上野:だってその時脱走兵の、、
鈴木:ありましたね。それ大学ですよね?
上野:大学の頃ですね。ベトナム戦争があった頃。
鈴木:堀田善衛さんが匿った時ですね。
上野:あ、そうですそうです。本当に10代の子供ですよ。
鈴木:あれはそうですね。
上野:だから、アメリカに対して強いとか大きいとかっていう気持ちはあんまり持たなくて。
鈴木:冷静だったんですね。
上野:ただし、私は生まれて初めて30過ぎてからアメリカの西海岸から東海岸まで飛行機で飛んだ時に、延々と行けども行けども土地が途切れないんですよ。
鈴木:6時間くらいですか?
上野:うん、そう。こんなとこと戦争して、一瞬でも勝つ気になった奴らは馬鹿者だと思いまして。
鈴木:でも1度もコンプレックスないですか?ちょうど昨日の夜中にそういうこと考えてたんで。『アナと雪の女王』っていうのがハンパじゃないヒットなんですよ。
上野:そうですね。
鈴木:このままいくとね、あの『タイタニック』を超えて、いまや千と千尋に迫る勢いなんですよ。何でこんなことが起きたんだろうって。僕は単純に考えたんですよ。原発及び集団的自衛権、そこら辺が原因となって、みんな日本が嫌いになっちゃった。
上野:ああ、なるほど。
鈴木:日本人の出てるものは見たくないし。
上野:ああ、そういうこと。
鈴木:そういうことでいうと、アメリカのディズニーというと巨大に見えるじゃないですか。そこが提供する非日常。そういうことかな、と思ったり。
上野:なるほど。じゃあ逃避?
鈴木:はい。
上野:ああ、そう。
鈴木:それ以外、考えられないんですよ。だってものすごい大ヒットなんですよ。
上野:でも私は現物観てないんで。中森明夫さんの文章を読む限りでは、ヒットの動員の大きな理由は女でしょ?
鈴木:はい。
上野:男が行く時も女が連れてくから。だから女が自分の家族と男を連れていって、女が支えてるわけだから。あれが姉妹の物語だったっていうのがウケたんじゃないかって。今度のマーニーがそうだって書いてありましたけど。
鈴木:それは偶然の一致なんですけどね。
上野:それも逃避っちゃあ逃避なんだけど、いまさら男になんの希望も持たないから。
鈴木:でもね、今度の『アナと雪の女王』は僕はアメリカのものだっていうのが大きいと思うな。日本にはもう何もないから。
上野:女とアメリカと、2つですね。
鈴木:そうです。僕なんかはまさにアメリカにやったら引き裂かれてきたっていう自覚は、歳をとってから生まれたんですよ。いつもそれに翻弄されてきた。
上野:でも何となくわかった。私ね、耶蘇教徒家庭で育ったんです。でも日記で、、
鈴木:書いてらっしゃいましたね。
上野:そうそう。プロテスタントなんで。
鈴木:お父様が?
上野:うん。キリスト教文化が生活の中にあって、そのことにちっちゃい時から嘘くささを感じてた子供なんです(笑)
鈴木:それがコンプレックスを生むのに大きな役に立った?
上野:かもしれないですね。
鈴木:件(くだり)がありましたよね。お母様が最後、、
上野:ああ、ありがとうございます。覚えててくださって。だからね、大層なものだと思えなかったんですよ。嘘くさいと思って(笑)
鈴木:子供の頃ですか?
上野:まあそうですね。親父が悪かったんです。親父が人格者じゃなかったんで。小心者の日本のワンマンの亭主なんで。
鈴木:でも、プロテスタントだったんですね。
上野:プロテスタントです。親父が憧れた世界と親父が実際に生きてる世界とが落差が大きいわけですよね。それを目の前で見てる嫌な子供だったんで。
鈴木:ませてたんですね。
上野:いやまあ性格悪かったんだと思いますけど。
鈴木:それは観察者になってたってことですよね。
上野:まあそうかもしれませんね。アメリカ人のあの純真さ。本当にあの人たちはね、「Honesty」と「Growth」というのをね、信じてる人たちなんですよ。痛ましいまでの純真さ。
鈴木:国が広いからですよ。そう思いますね。
上野:それは打たれましたね。後から。
鈴木:僕だってピクサーという会社と付き合って、これは『トイストーリー』とかね、そういう一連のディズニーが中心となるものを作ってる会社なんですけど。そこのスタジオと仲良くなって10何年付き合ってきた。
そしたら、そこで働いてる色んな人たちと知り合いになるじゃないですか。皆さん結婚してるんですけど、出会い。ビックリですよね。小学校の時に出会ってますよね。それで結婚。それでサンフランシスコの郊外から出たことがない人たちが、かなり集団でいるんですよ。一体、アメリカって何なんだろうって思ったんですよね。
上野:1つのカルチャー作ってますね。
鈴木:それでものすごい純粋ですよ。
上野:本当そうですね。
鈴木:日本じゃあり得ない。
上野:なんか裏と表があって当たり前って思ってるのに、建前通りの人たちなんで。その人たちは。
鈴木:そうです。裏はないですよ。
上野:ないですね。
鈴木:だって今だってそうですから。
上野:痛ましい程ですよね。
鈴木:そうです。そうじゃない一部の人が、その人たちを使って何かやっていくっていう構造ですよね。
上野:ですね。そこはよくわかる。実際、深く付き合うとそうですね。
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鈴木:僕が1番ここへの来たのショックは、この期に及んでもそうなんだなっていう。そこからその重さに耐えきれなくて辛いですよね。最近は。
上野:それはそうですね。アメリカに楯突くだけで政権の首が吹っ飛ぶっていう状況、今でも続いてるからね。
鈴木:その言葉として何が1番相応しいのかなと思って、昨日考えてたんですけど、やっぱり日本というのは対米従属国家。
上野:おっしゃる通りです。
鈴木:ということを思いつくと、重くて(笑)
上野:それから考えたら大統領選の度にね、日本が50番目の州になったらいい、自分たちの運命を決める大統領の選挙権くらいよこせっていうね。そういう話がありますよね。
鈴木:はい(笑)
上野:でもその状況からがんじがらめで逃げられないって、いまさら日米安保粉砕って言えなくなりましたからね。
鈴木:そうですよね。
上野:確かにその状況は変わってないどころか悪化してますね。
鈴木:そういうことでいうと、『アナと雪の女王』は飛躍もするんですけど、それの大ヒットっていうのはね、やっぱり重いですね。
上野:あの大ヒットは日本的な現象ですか?
鈴木:世界でもヒットしてるんだけど、日本が度外れてるんです。
上野:ああ、そう。
鈴木:そう。それで色んな意見あるんでしょうけれど、分析もあるんでしょうけれど、多く観ている人に訊いてみると、こういう言い方なんですよね。「観に行くと、元気になれるから」。
上野:男?女?
鈴木:女。
上野:女でしょ。女ですよ。アジア圏はどうですか?
鈴木:アジア圏もみんな大ヒットです。
上野:じゃあ日本特殊じゃないじゃない。
鈴木:でも数字でいうと、倍以上なんですよ。日本が。他の国と比較して。
上野:あと「ありのまま」が効いたんじゃない?
鈴木:僕もそう思います。あの翻訳は上手かったんですよ。あんなことどこにも書いてないんだもん。「ありのままの自分」。あれは浄土真宗ですよね。
上野:「これ以上君たちは何もしなくていいよ」っていうメッセージだから、これはみんな癒されますよ。
鈴木:あれがなかったら上手くいってないですね。僕も真っ先にそれを指摘したんですけどね。
上野:今1番欲しい言葉ですよ。もう疲れてるから、努力もしたくないって。
鈴木:僕はもっと細かいことも喋りたかったんすけど、そうやってアメリカに翻弄されてきた僕、というのを学術的に解説してもらいたいなって思ってたんですよ(笑)
上野:翻弄されてきましたよ、ずっと。今日に至るまでそうでしたからね。60年代70年代に言えた日米安保粉砕ってもう口にすら出来なくなりましたからね。
鈴木:自己否定がいけなかったんじゃないですかね。
上野:まあそれを言えば、当時の大学生にハンパなエリート意識があったことでしょう。
鈴木:自己否定でしょ?批判じゃないでしょ?
上野:だから否定すべき何者かが自分にあると思い込んだ、、
鈴木:否定したら何も残らないでしょ?
上野:ハンパなエリート意識ですよ。それは。あの時の大学生少数派でしたから。
鈴木:すごく覚えてるのはね、旺文社の蛍雪時代でしたっけ?
上野:なつかしい(笑)
鈴木:その時言われたんですよ。これからは大学生が4人に1人になるって。それで凄いよって。それは凄い覚えてるんですけどね。今こうやって振り返ると、そうだったんだなって思い知らされましたけど。
上野:エリートから大衆になる、ちょうどその狭間の時期です。
鈴木:そうですよね。ついでに恋愛まで大衆化しちゃって。みんなが恋愛するようになるじゃないですか。お書きになってること、本当面白かったな。見合いよりももっと凄いんだって。
上野:選び方が結局、同じ似たもの同士だからね。
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上野:私はね、他の人に言う時に日本にいま1番足りないのはプロデューサーで、プロデューサーっていうのはどんな無能なあなたにも出来るんですって言うんです。プロデューサーに必要な能力は、有能な人を使う能力で、あなたが有能である必要はないんですって言うんですよね。
鈴木:その通りですよ。
上野:その通りなんですが、その能力は大変得難い能力っていうか、必要だけど沢山はない能力なんですよ。それはね、あなたの今度の井上さんっていう方が「鈴木さんの真似なら、僕にも出来そうだ」っておっしゃるほど容易いことではなくって。
それはね、ご自身は絵も描けない、お歌も歌えないかもしれないけれども、それは誰にどういう才能があって、その人とどう組み合わせていけば化学反応が起きるかってことを見極める能力っていうのは、どこにでもある能力じゃなくて、かつ必要だが絶対的に足りない才能だと私は思ってるんですが。
鈴木:なるほど。だったら僕参考にになることを言えるとしたらね、多かったんですよ、この間。プロデューサーって言われる人ってね。
本当は自分もやってみたい。それは映画に限らず。編集者だって実はそうだと思うんですけど。自分はやってみたいんだけど、その機会がないから、とりあえずプロデューサーっていう人が、、
上野:そんな多いですか?
鈴木:多かったらしいんですよ。
上野:監督になりたい人は多いけど、プロデューサーになりたいって、、
鈴木:違うんですよ。監督になれないからプロデューサーにまわるって人が多かった。
上野:ああ、それって完全に勘違いですよね。
鈴木:そう。その人たちが一掃されるのにまだ時間がかかると思うんですよ。
上野:まだいるんですか?
鈴木:まだいますよ。
上野:そんなに沢山いるってほどいます?
鈴木:いっぱいいますよ。今の多くのプロデューサーは本当は自分が監督をやりたいんだけれど、仮の姿としてプロデュースにまわってる。プロデュースだったら誰でも出来るから、っていう人が多いんですよ。
上野:ああ、それは完全に勘違いだと思う。
鈴木:それが払拭されて、本当のプロデューサーが出てくるには自分のことを客観的に言っちゃうとですね、僕は監督なんかやりたいとは思ってないんですよ。それでいて、プロデュースをやるっていう人が出てこない限り、ダメなんじゃないんですかね。っていう気がしますけどね。
上野:プロデューサー学校ってやってる人がいるんですよね。私の知り合いに。教えることの出来る能力ですか?これは訊きたいなと思う。
鈴木:そういうことって考えたことないですけれどね。
上野:鈴木さん自身は、人の背を見てプロデューサー業っていうものを体で学んできたっていう書き方をされてますよね?
鈴木:そうですね。
上野:こういうものを人材育成って出来るものですか?
鈴木:実際のプロデューサーをともかくとして、人を教える能力ってことですよね?それが自分にあるかどうかってことですよね?
上野:いえいえ。ただ、教えることの出来る能力と出来ない能力があるので。
鈴木:もちろんそうですけどね。
上野:私なんかは教師としては、問いを解くことは教えられても、問いを立てる能力は教えられません。
鈴木:はぁーー。
上野:教えられる能力かっていう。どう思われる?
鈴木:それは難しいですね(笑)
上野:はい。
鈴木:出来ない!
上野:ああ、そう。という風に断言なさるところが良いと思います。
鈴木:はい!
上野:じゃあ、なぜ出来ないと思われる?
鈴木:だって、どうしてなんだろ。考えたことないからな。
上野:仮に誰かがね、鈴木さんところに来て、リタイアなさったら、これからあとは後身養成だと。プロデューサー学校とかプロデューサー講座をやって下さいって言われたらどうします?
鈴木:少しは考えてみますね。
上野:おっと。じゃあ伝えることの出来る能力だと思われる?
鈴木:いや、少しは考えてはみるけれど、その結果がどうなるかはわからない。考えた結果がね。それでもし、どこかに可能性があるなら考えてみたいですけどね。
上野:カリキュラムは作れます?
鈴木:それを実際に作ってみる努力はしてみてわかるんじゃないですか?だからね、外国はそれが上手くいってるんですよね。なんか知らないけれど。
上野:養成してるんですか?
鈴木:養成してますよ。プロデューサーにしろ監督にしろ。だから、プロデューサーにしろ監督にしろ覚えなきゃいけない基礎的なことってちゃんとあって、それを非常に合理的に勉強した上でみんなプロデューサーになるし、監督になりますよね。
で、西洋の場合はそれが非常に上手くいってますよね。作られる映画だって、最初からみんな上手ですよね。僕の下でやってる男の子は、アメリカでそういうカリキュラムをこなしたみたいですよ。
上野:悪いけど、使い物になるかどうかですよね。
鈴木:それはもちろんそうですよね。
上野:MBA取ったって、使えるかどうかわからないんだし。
鈴木:そう思います。
上野:私が仕掛け人だったら、鈴木さん巻き込もうとか思う。
鈴木:凄いですね。プロデューサーとしての能力があるんですね。
上野:ああ。
鈴木:今日お目にかかってお話してると、すごくわかりますよ。
上野:ああ、そうですか。他人のプロデュースはしてきました。面白いです。はい。規模は違うけどね。
鈴木:いやいやいや。
上野:でもさっき教えられないとおっしゃったでしょ?
鈴木:教えられないけれど、やっぱり若い人と喋ってると楽しいじゃないですか。その目的が出てくるから、なんかそういうことをね、考えられるだろうかということは考えますよね。
上野:人が育つのを見てるのはとっても楽しいです。本当に楽しいです。人生の中でこんな楽しいことはない。
鈴木:ドワンゴの川上さんっていう人がいて。何となくジブリにいるから、コクリコっていう映画の時にこういうことをやってみたんですよ。こういうことっていうのは、今僕らの映画ってシナリオがあって絵コンテというのは、それをフィルムにとって、映画と同じようにライカリールっていうのを作ることが出来るんですよ。そこへ途中から出来上がった絵を差し替えていく。
そうすると、時間が経てば経つほど、実際の絵に差し替わりが多くなるんですよね。何回も同じものを見るっていうのを彼と一緒にやってみたんですよ。で、都合彼は映画の完成に至るまでの間に、そのライカリールなるものをたぶん10回くらい見たと思うんですよ。
それで彼は1回ごとに彼にこの映画に関する感想を言ってもらったんですよ。それが1回見るごとにどんどん変わっていくんですよ。それは面白かったですよね。というか僕はそれがあるから見せたんすけどね。これを見てくと、映画がわかるからって。
上野:ずいぶん教育的じゃないですか。
鈴木:やったんですよ。で、彼は元々能力があるから、非常に理解力が高かったですよね。そうすると、単なる動かない絵が動くだけでずいぶん表現が変わる。それによって情報量が増えることによって何が起こるか、とかね。客観的にそういうものを見るときに、何が大事なのか、とかね。そういうことはやりましたね。
上野:それは出来てるじゃないですか。
鈴木:少しはやったっていう。それが汎用性があるかですよ。
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上野:プロデューサーはね、絶対的に足りなくて育って欲しいって私は思ってる。
鈴木:そうなんですよ。
上野:それは別に映画に限らず。
鈴木:あらゆる分野ですね。
上野:大局観を持って、俯瞰的に見て、人の才能をちゃんと見抜く見識がある人っていうのが。
鈴木:僕、編集者の時と実は同じことをやってるんですよね。
上野:だと思います。
鈴木:そうです。
上野:だからコンテンツ産業では本は無くなっても、編集者とプロデューサーは残るでしょって書いてあるんです。これ私見ものなんですけど、たまたま貰ったんで後で読んでおいて下さい。まあまあ置いていきますから。
鈴木:これご自身の?
上野:いやいや、他所が出した私見もの。私の文章です。私本フェチだけれども、本が無くなっても痛くも痒くもないのね。本は伝統工芸品になるでしょって。
鈴木:ソースという伝統工芸品って、よくわかるなこれは。
上野:一部の人にはすごい不評なんですけどね。
鈴木:そうなんですか?
上野:いやだから、本が大好きな人がいるじゃないですか。まあそうすると、後の1/3くらいをプロデューサー養成にお使いになってもいいかもしれませんね。
鈴木:嫌です(笑)
上野:悪魔の囁きですよ、今のはね(笑)
鈴木:日本のアニメーションっていうのも伝統工芸品だったんですよね。
上野:まあそうですね。確かにね。素晴らしい伝統工芸品ですよ。
鈴木:それがどうなるかですね。
上野:その中で人材育ってるでしょ?
鈴木:育ったとは思いますよ。
上野:だからね、アニメーターは育つとは思います。監督は育つと思います。プロデューサーは育ちました?
鈴木:なかなかねー。
上野:やっぱ大事でしょ?
鈴木:そうですね。はい。全部言うこと聞きます。
上野:(笑)