鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

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鈴木敏夫のジブリ汗まみれ:映画監督・砂田麻美とは?

 ラジオ音源はこちらです

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol295.mp3

 

2013年12月2日放送の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」にて、スタジオジブリドキュメンタリー映画夢と狂気の王国」の監督砂田麻美さんについて話されています。ゲストはこの映画のプロデューサーの川上量生さんです。

 

・砂田監督は難しい人

鈴木敏夫:砂田くんって、やっぱり面白い監督ですよね。

川上量生:そうですね。今回砂田さんと付き合ったのは、良い経験でした。僕が思ったのは、砂田さんもエンディングノートで世の中の評価を受けた監督なんですけど、宮崎監督や高畑監督と比べるとまだまだ歳も若いし、実績もそこまではない。でもクリエイターとして難しい人だなーって思いましたね。監督という生き物そのものが難しい人達なんだなと。

鈴木敏夫:やっぱり難しい人ですよね?

川上量生:難しい人ですね。

鈴木敏夫:揚げ足とっちゃうんだけど、若いとか経験がないとか本当は関係ないと思うんです。

川上量生:関係ないですよね(笑)

鈴木敏夫:凄い人は最初から凄いので。その付き合うメンドくささとか、そういうことでは大監督ですよね。

川上量生:そうですね(笑)

鈴木敏夫:だって大変なんだもん(笑)1つ思ったのは、昔は職業演出っていう人がいたんですよね。

川上量生:職業演出?

鈴木敏夫:職業演出あるいは職業監督。要するに言われたらそれをこなす。これを作ってって言われたら「はい、わかりました」って。ところが、砂田くんの映画改めて観て、自己表現とかそういうことに拘ってるわけでしょ?

川上量生:そうなんですよね。意見言っても全然聞いてくれないんで。

鈴木敏夫:(笑)

川上量生:あんまり意見言ってもしょうがないのかなって(笑)

鈴木敏夫:砂田くんも苦しんでるのを僕も横目で見たり、本人からもチラッと聞いたりしてたんですけれど、苦しんでるレベルが作家的悩みですよね?

川上量生:そうなんですよね。例えば、彼女がパンフ作るときとかエンドロール作るときとかでも、最初「出演:宮崎駿」っていう風に作ろうとしていて、ドキュメンタリーなんだから出演はおかしいだろって話をして(笑)

鈴木敏夫:納得したんですか?

川上量生:最終的には納得してもらいましたけども、本人の希望としてはドキュメンタリーというよりは自分の作品を作っているという感覚が非常に強くある人ですよね。実際作ってるのはドキュメンタリーなんですけど、そこに自分なりの魂を込めようとしているっていうところはありますよね。

鈴木敏夫:自分関係なく面白いものを作っている発想もあるでしょ、本当は。でもそれ違うんですよね。何でなんですかね?

川上量生:やっぱり表現をしたい人なんじゃないですかね。クリエイターということなんだと思いますけども。

鈴木敏夫:砂田監督の場合は、自己表現をやろうと(笑)

川上量生:彼女が面白いのは、自己表現をやろうとする時に表現したいテーマなり、そういうもののシナリオがあるのかっていったらそうじゃなくて、それを見つけていく作業も同時にやるんですよね。

鈴木敏夫:そうですよね。

川上量生:彼女はこのドキュメンタリーを表現しようとすると同時に、何を表現しようかって作りながら考えてるんですよね(笑)だから凄いことやる人だなーと思っていて。それってジブリで見ていた宮崎監督の作り方と同じじゃないですか。結末のないドラマを苦しみながら作っていく作業ですよね。

鈴木敏夫:でも宮崎駿の場合まだ理解の範囲内なのは、彼のやり方は全体があるとすると大体25%ぐらい絵コンテが出来ると、シナリオも一切なしでいきなり作画に入る。それで絶体絶命に追い詰められたところで、次の話を考える。いわば月刊誌なんですよね(笑)

川上量生:雑誌の連載なんですね(笑)

鈴木敏夫:そうそう!連載型なんですよ。だって連載の人って、締め切りがあるから描くんでしょ?それとちょっと似てるんですよね。

川上量生:なるほど。砂田さんは違いますよね。

鈴木敏夫:違うでしょ?あくまでも娯楽大衆作家として宮崎駿はあろうとしているし。でも砂田くん違うんですよね。なんか芸術志向というのか。(中略)僕がたまさか隣に居合わせちゃったからついでに言うんですけど、宮さんのところにピクサージョン・ラセターが訪ねてきた。彼女は撮影しをいいか、それと同時に撮影したものを使わせていだだけないかと言うんですね。ジョン・ラセターっていう人は非常に厳しい人で、ところが2つの理由でそれを了承するんですよ。1つは宮崎絡みのものだったら、基本的には了解しようじゃないかと。それとその時に彼女がこれまでの編集したプロモーションビデオみたいなもの、それを観て感心するんですよね。何でかと言ったら編集が上手い。君は凄いと。そういう絶賛をされて本編見たらラセター出てこないですよね(笑)

川上量生:そうなんですよね(笑)

鈴木敏夫:これ何なんですか?いったい。だってあのラセターを唸らせたわけでしょ?そうしたら彼女も嬉しかったんでしょ?

川上量生:おそらくそうだと思います。

鈴木敏夫:嬉しかったら、撮った映像普通使いますよね?何で使わないんですか?

川上量生:彼女本当に不思議で、彼女の口から出てくる説明って、言い方を悪くすると非常に陳腐なことを言うわけですよ。ところが出してくるものは素晴らしいんです(笑)このギャップはいったい何なんだろうって(笑)

鈴木敏夫:そのラセターのエピソードなんで話すかっていうと、あり得ないですよね。今までの監督には。そんな大監督から君の編集は素晴らしいって言われたわけでしょ?で、撮影許可とって撮りまくったわけでしょ?それを一ヵ所も使わない。

川上量生:象徴的なのは引退会見なんですけど、彼女は引退会見に出発する前に宮崎監督と2時間くらい2人きりだったわけですよ。その瞬間を全くカメラを回さなかったんですよね。で、回さなかった理由。「何か違う」。

鈴木敏夫:(笑)これ職業監督だったら、そこで必ず回すんですよ。

川上量生:回しますよね。歴史的瞬間を。

鈴木敏夫:そう!あれが面白いんだよなあ。

川上量生:そうなんですよね。それっていうのは自分という存在も含めて、作品の中に彼女は住んでるんですよ。

鈴木敏夫:わかります。

川上量生:一方で彼女自身も葛藤があると思うんですよね。だったらなぜ本編に彼女自身が一切登場しないのか。ナレーションも結局彼女がやったんですけど、彼女は最後まで自分がナレーションをやることに抵抗していて、要するに自分を出さないっていう。

鈴木敏夫:何言ってんの、出しまくってるじゃん(笑)

川上量生:やってる行動は逆なんだけれども、表面的にはそれに激しい抵抗をしてるんですよね。彼女の中に葛藤があると思うんですよ。

 

・まるでホームドラマのような作品

鈴木敏夫:僕見たことのない映画監督なんですよね。いわゆるジャーナリスティックな視点はないですよね。

川上量生:ジャーナリスティックにドキュメンタリー映画を撮ってるとは言えないですよね。作品ですよね。

鈴木敏夫:映画の冒頭部分観たときに、正直言って相当ビックリしたんですよ。何でかっていったらまるでホームドラマが始まるような(笑)

川上量生:ドラマなんですよね。

鈴木敏夫:映画が始まって数分間、いわゆるテレビの連続ドラマの一風景がはじまって、これは面白いと思ったんですよね!だってそんな切り口でやった人いないから。

川上量生:彼女はドラマとして作ろうとしてますよね。今までジブリのドキュメンタリーいっぱいありましたけど、僕がジブリで感じたドラマ性ってドキュメンタリーからは中々出てこないんですよ。それが彼女の作品からはその雰囲気は出ていたので、それは違いだなと思いましたね。

鈴木敏夫:彼女って、是枝(裕和)さんの言ってみれば弟子ですよね。是枝さんの特徴って古い日本映画の良いところを活かしながら、どうやって現代の映画を作るか。日本映画の黄金期って1930年前後って言われてるんですけど、そこで大活躍した小津安二郎とか成瀬巳喜男なんかもいたんですけど、どうも是枝さんの映画観ていて、成瀬の影響が強いななんて観てたんです。彼女がそういう作品を観ているかどうかはともかく、あの人たちが作ってきたもののある影響みたいなものが出てる。成瀬巳喜男の場合は大概家庭だったりして、要するに仕事の現場においてだって日常はあるんだと。正直なことを言っちゃうと、何気ない日常のいち断面が映し出されるところ、みんな面白かったんですよ。それで一方、映画作ってるんだから仕事のことも触れるでしょ?そこにいくと、あ、これいつものやつだって(笑)

川上量生:何気ないシーンが本当に面白いんですよね。味が出るんですよ。

鈴木敏夫:それでまた繋ぎが上手い。ジブリで「風立ちぬ」が実際に作られていく2年のうちの一年を彼女は撮っていったんですけど、そういう仕事仕事の合間に宮崎駿は何をしていたのか。それを積み重ねていくって、そこが面白かったですよね。観たことがないもん。

 

ジブリの「空気」を撮った唯一の作品

鈴木敏夫:さっき川上さんがそう言ってくれたんだけど、彼女はまるで今から撮ろうとしている作品の登場人物の一人のようで、僕もちょっとお手伝いさせていただいたのが映画のキャッチコピー。「ジブリに忍び込んだマミちゃんの冒険」っていうのはやっぱり彼女にそれを感じたんですよね。それと小さいエピソードをコンパクトにまとめる力、あれは凄いですよね。一種徒然草みたいな。

川上量生:映像作品の随筆みたいな、そういう作品ですよね。

鈴木敏夫:だからいつの間にか始まって、いつの間にか終わる。その面白さはあるんですよね。

川上量生:少なくとも一個のテーマで作っているドキュメンタリーではないですよね。色んなテーマが現れては消えていって。

鈴木敏夫:消え方が上手いですよね。消えて終わりかなと思ったら、復活したり。

川上量生:結果的に何なのかっていうと、ジブリが持ってる独特の空気を伝えてる作品になってると思うんですよ。

鈴木敏夫:空気を撮りたかったんですね。