鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

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世界を読み解くもうひとつの物語?中国化とは? ゲスト 與那覇潤さん、川上量生さん<前編>

2012年8月2日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol230.mp3

 

鈴木敏夫以下鈴木):まぁ元はね川上さんが「中国化する日本」って読んでいて。なんとなく気になって買おうと思ったら、Amazonだったから「帝国の残影」が出てきて。

 

那覇以下與那覇):同じ著者のものが出るわけですね。

 

鈴木:それで2冊買ったんですけど。

 

那覇:いや、恐縮です!

 

鈴木:どっちから読もうかなーと思って。やっぱり僕は映画が好きだから小津安二郎に惹かれたんですよね(笑)

 

那覇:いやいや!

 

鈴木:それで読んでちょっとたまげましたよね。とにかく小津さんの映画の見方ですけど、戦前作ってきたもの、戦後作ってきたもの、その間に中国へ兵隊として行っていた。そのことによって戦後彼がどういうものを作ったかというときに、各作品から戦争に関するセリフを全部引っ張り出して。

 

那覇:そうなんですよ(笑)そういうことをやって(笑)

 

鈴木:僕あれ本当に驚きましたよ!

 

那覇:いや、光栄です!

 

鈴木:それと過去、小津さんのことって、色んな人が評論書いてきたでしょ?

 

那覇:そうですね。

 

鈴木:大概奉るだけで、実は分析はほとんどない。外人の方はちょっと違うけれど。そういう中であれ知らなかったんですけど、「暗夜行路」。

 

那覇志賀直哉の。

 

鈴木:あれを一冊持っていって、戦後帰ってきて色んなものを作ったけれど、それの翻案である。断定してたでしょ?

 

那覇:はい。でもあれはもう指摘されてる方がいらっしゃるんですけども。

 

鈴木:あ、そうですか。 

 

那覇:逆に映画の素人だからああいう風に書けたんだろうなって思うことはありますね。歴史が専門で映画が専門じゃないので。

 

鈴木:色んな人の間違いも指摘してたじゃないですか!(笑)

 

那覇:いやいや!逆に映画に見入っちゃったら間違えるわけですよ。

 

鈴木:そうですよね。

 

那覇歴史学者っていうのは、意地悪だからひたすら文字資料を読んで、こいつここでこう書いてるけど、こっちはこう載ってるから食い違ってるぞ、とか。

 

鈴木:ある種「物」として扱ってるわけですね。

 

那覇:意地悪なことをするから、珍しく書けたのかなっていうのはありますね。

 

鈴木:使い分けが感心しちゃったんですよ。

 

與那:いやいや、とんでもないです。 

 

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」。

 

今夜は愛知県立大学准教授で、歴史学者の與那覇潤さんをお迎えして、昨年文藝春秋社から出版された『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』のお話をお伺いします。

 

日本史でいうと、中世の年代にあたる宋朝以降の中国の国内の秩序と、現在賛否両論のグローバリズムの国際秩序などからみる現代日本の姿を、與那覇潤さんを囲んでドワンゴ川上量生会長、そして鈴木さんとともに考えていきましょう。

 

 

那覇:中国化というのは自分が日本史を語り直すために作った概念で、これまで日本史というのは日本だけじゃなくて世界中の歴史がそうだったんですけど、ヨーロッパに似ていく西洋化であるとか、あるいは進んだヨーロッパのものを取り入れてきて、近代化していくっていう言い方でどこの地域の歴史も語られてきたわけですよね。

 

でもそうじゃない形で、日本史は書けるんじゃないだろうか。むしろ西洋化とか近代化という言葉を使わない方が正確じゃないか、という風に考えて作ったのが、中国化という概念で。

 

中国という国は、いま中国が台頭しているとか言われていますけど、元々台頭してたわけですよね。元々世界の中心にあったのが、近代に入って一時的に没落して、いままた戻ってくるという状況なわけで。

 

そうだとすると、日本というのは近代に入ってヨーロッパに追いつけ追い越せとやる以前は、隣にある中国という存在を常に意識しながら生きてきたわけですよね。自分がいう中国化というのは、中国の中華文明的といわれるような在り方に、日本の在り方が近づいていくことを中国化と呼んでるんです。

 

川上量生以下川上):本を読んで疑問だったのが、宋で出来た中国の仕組みというのが、人類の歴史の1番最後の形態であると。今のところ。

 

那覇:究極的にはみんなそうなっちゃうのかもしれない形態を作ってしまった。

 

川上:はい。ただそれは本当に最後の形態なのかわからないわけですよね?

 

那覇:まぁそうですね。

 

川上:とりあえずはそれが最後の形態になっているところの要因とは、いったいどういうものなのか。形態というところで特徴を挙げられてるのが、1つは皇帝専制。それと軍権制による地域の分断統治。直接統治ですよね。それと自由経済科挙による官僚制ですよね。

 

鈴木:お金のことも。

 

那覇貨幣経済

 

川上貨幣経済ですよね。

 

那覇:そうなんですよ。宋という王朝は、政治権力は一元化して皇帝が全権を握って、誰が政治を担うのかも試験をやって全部選ぶ。政治権力は一元化するかわりに、経済的には自由放任主義をとったわけなんですよね。ようするに、西洋化とか近代化とかいってしまうと、政治権力が一元化していくと経済的にも不自由になっていく。

 

例えば、ヒットラー式独裁というのはそういうものだったわけですよね。逆に経済的に進展すれば、政治的に自由化が進んで、議会政治が定着していくとか、そういうことが起きるんだっていう風に西洋化とか近代化という歴史の見方は考えてきたわけなんですけど、そうならない例って人類史上いくらでもあるわけですね。その1つの究極系が政治権力が皇帝のもとに一元化されて、政治的には不自由になっていくんだけど、経済的にはむしろどんどん自由になっていった。これが中国の事例だっていうのが自分の持論なんですね。

 

鈴木:すみません。質問の前に予備知識ね。どうしてそんなこと思いついたんですか?

 

那覇:あー。

 

鈴木:どうして宋に着眼点がいったんですか?だって僕だって科挙とかそりゃあ習ったわけですよ。習ったけどそんな風には捉えなかったもん。

 

川上:はいはい(笑)

 

那覇:1つは大学で教え始めたというのが大きかったですね。自分は2007年の秋に今の職場に就職をいたしまして、半年間あって2008年の春から通年で授業をもたないといけないっていうことがハッキリしていたんですよ。今まで1年間かけて教えることをやったことがなかったので、どうやって教えたらいいんだろうって悩んだんですね。初めての経験なんで。高校までの歴史とは全然違う歴史というのが、大学の研究者が研究しているっていうことをどうにか伝えたい。1年間かけてどうやってそれを伝えられるのかなって思ったときに、西洋化って言葉使わないで日本史を書いてみようと、実際に。歴史のすんごい細かいところを取り上げて、こう言われてるけど、厳密にはこう違うんだっていっても、それは伝わらないんじゃないかと。そんな細かいこと言われても大して興味ないんですよってことになっちゃうんじゃないかなと。むしろ大胆に高校までは西洋化と近代化で日本史を習うわけですよね?最初から最後まで。

 

鈴木:僕もそうでした。

 

那覇:普通はそうなわけですよね?でも西洋化近代化なしでいきますと。中国化でいきますっていう言い方で全部語り直したら、今まで習った歴史と違う歴史が大学ではあるんだなっていうことが伝わるし、中国化という言葉を使うことで、新しい歴史研究者の動向とか新しい捉え方をトータルに伝えられるんじゃないかなと思って、教育上の必要性から思いついたっていうのが結構大きいですね。

 

---

 

那覇:西洋化じゃなく近代化でもなく中国化だっていうと、お前は中国こそ理想だって言っているのか?って言う人が非常に多いですね。

 

鈴木:他の言葉も考えたんですか?

 

那覇:厳密に中国史を研究されてる方からは、宋朝化といった方が宋がモデルなので、宋朝化といった方が正確だし良いんじゃないかって仰ってくださる方がいるんですけど、そうすると一般的にはよりわからなくなっちゃいますからね。

 

川上:でも一般的には、資本主義と民主主義の波というのが、むしろ中国にいって中国も民主化されるんだみたいなことを考える人もいれば、逆に経済的な意味でいえば資本主義経済っていうのが行き詰まって、今後どうなっていくかといったら国家の統制経済に基づいた資本主義になって、むしろ中国型の方になっていくみたいな話ともこの話はリンクしてますよね。

 

那覇:国家資本主義論ですね。最近話題になってきた。

 

川上:そうですね。

 

鈴木:まぁヒットラーですよね。そうなると。

 

川上:そうですね。そっちの方になるみたいなことを言われてますよね。

 

鈴木:だってアメリカだってそうだもん。

 

那覇:(笑)

 

川上:だとすると、中国が民主化するよりも、中国化するシナリオも充分あり得るっていうことを思ったんですよね。

 

那覇:ありがとうございます。

 

鈴木:今の中国の一党独裁だって、何も鄧小平が始めたわけじゃなくて、宋の時代からあったんだよって話でしょ?

 

那覇:まぁそうですね。

 

鈴木:だってそれで皆上手くいくのかって色々言ってるじゃないですか。

 

川上:(笑)

 

那覇:皇帝専制だけれども自由経済というのを、今は一党独裁だけど自由経済にしてるわけですよね。その真ん中の一党専制で経済も全部画一化しようとするのは、毛沢東時代ですけど、結局それは破綻したわけですよね。

 

川上:でもそう考えるとこの本を読むと、世界の色んな人はベルリンの壁が崩壊して、ソ連が崩壊したように中国もそうなっていく、、

 

那覇:なっていくと思っているし、中国人当人もそれを恐れているわけですね。共産党の人たちは。たぶんそれは違うんじゃないかなと。

 

川上:もっと足腰が強いって話ですよね(笑)

 

那覇:ある意味そうですね。昔からみんな慣れきっちゃってるので、そのまま行ってしまうんじゃないか。良くも悪くも。

 

鈴木:中国の人たちの自覚が必要なんですね。というのか歴史を勉強して(笑)

 

那覇:逆にいうと中国の人っていうのは、もっと自信を持ったほうがいいと思うんですよね。今は軍拡に突っ走ったりとか人権活動をやる人を徹底的に潰そうとしたりっていうのは、中国の支配層と呼ばれる人たちの間に西洋化しちゃうかもっていう恐れがあるわけですよね。

 

大国になったとかなんだかんだって言われても、まだ中国は守りの姿勢だから、軍隊をしっかり持っておかないと、また欧米列強にやられるかもしれないし、国内で民主化運動が盛り上がって、共産党体制がひっくり返るっていうことを一番恐れるから、その芽を摘もうと躍起になって物凄いことをやってるわけです。

 

鈴木天安門のときに僕はもう大人だから、何であんな乱暴なことするのかなっていうのが。まぁちょっと待てと。もう少しすれば何とかなるからって言えば終わりだった話でしょ?

 

那覇:それが出来なくなっちゃってるのは、中国の元々のやり方でやってきたら、近代にものすごい損をしてるわけですよね。周りの国から切り取り放題に切り取られて、そのトラウマがすごくある。だからむしろ、宋の時代から良くも悪くもやってるんだから、そんなに簡単にひっくり返らないですよ、きっとっていう。

 

鈴木:それがわかんないんじゃないかな。

 

那覇:それがわかんないんですよね。例えば、情報の自由とか言論の自由に警戒していますよね。

 

鈴木:神経質だよね。

 

那覇ソビエト連邦ペレストロイカでひっくり返ったのは、もうかなりガタがきてていたところにペレストロイカをやってひっくり返ったわけで、今が中国が絶好調だと言われていて、なおかつ経済の自由化と政治の自由化が良くも悪くもリンクしないというのは、宋の時代から伝統なわけで、そこはちょっとでも西洋に似たものを取り入れると、例えば、言論の自由だとか結社の自由だとか自由な情報発信だとか、ちょっとでも取り入れたらひっくり返るかもしれないから、潰すっていう。

 

鈴木:「青い凧」っていう映画がありまして、田壮壮(でんそうそう)というのが作ったんです。北京電影制片廠(ぺきんでんえいこーす)っていう中国の映画会社があって、そこの所長の息子、田壮壮っていう男が文化大革命を描くわけですよ。

 

那覇:あ、なるほど。

 

鈴木:それでこれをスタジオジブリを作ってくれた徳間康快っていうのが支援して、その映画作っちゃって。

 

那覇:徳間は相当、日中交流には力を入れてましたよね。

 

鈴木:凄かったんですよ。田壮壮にお金上げるからそれ作りなっていって。テーマは文化大革命だって。で、東京国際映画祭に呼んで、グランプリにしちゃうわけですよ。

 

那覇:凄いですね(笑)

 

鈴木:これはね大変な事件!結果、今日に至るもその「青い凧」は、中国で公開されないんですよ。

 

那覇:へー。

 

鈴木:で、田壮壮は3年間蟄居(笑)中国から外に出られなかった。色々あって僕その人とも会って、話したんですけど。

 

那覇:そこまでやらなくたって、良くも悪くも今の体制は1000年間の伝統があるんだから、そんなにひっくり返らないんだから、そこまで警戒しないで自由にやりましょうよって。逆に自由にやればやるほど中国っていう国は名声が上がるわけですから。という風に言いたいですよね。逆に西洋化じゃなくて中国化とか言ってると、お前は中国万歳主義者なのかと。中国は今のままでいいですみたいに言いたいのかと。

 

鈴木:いや、僕そう思った(笑)

 

那覇:そういうわけじゃ全然ないんです。西洋化になったら、うちの国潰れるからダメになるからといって、徹底的にああいうことをやって中国の歴史の中で見ても、非常に良くない状態になってるわけじゃないですか。

 

だったらそうじゃなく、西洋化じゃなく中国化のまま行くっていう道もあって、その道の中で出来ることというのはいくらでもあるんだから、中国の人はもう少し自信を持ったほうがいいし、良い意味で。周りの国も「お前ら西洋化しろよ!」っていったら絶対聞かないわけですよね。そういう言い方は聞いてもらえない。だったらそうじゃないやり方で、文化の交流というのもその1つの手段だと思うんですけど、褒め殺しという言葉を使いましたけど、中国さん、凄いと。あんた1000年間同じ態勢でずっと続けていて(笑)

 

鈴木:でも映画だとこういうことがあったんですよ。第5世代の監督たちが出てきたとき、、

 

那覇:中国のニューウェーブですか?

 

鈴木:そう。結局何を描いたかといったら、近代化の矛盾。近代化しようとしてそこに出てくる矛盾をどう解決するかという映画ばっかり。西洋の価値観の中で映画を作ったんですよね。それが世界中の映画祭で賞を獲りまくった。

 

那覇凄かったですよね。一時期。

 

鈴木:あれってね、やっぱりその自覚がない証拠ですよね?

 

那覇:いや、僕はそうとは思わないですよ。必ずしも。

 

鈴木:そうですか。張芸謀チャン・イーモウ)とかなんかね。

 

那覇張芸謀とか陳凱歌(チェン・カイコー)とかですよね。

 

鈴木:そう。陳凱歌。

 

那覇:作品を観ても、ある意味自分の国を相対化するための軸として西洋化を持っていることは、日本の知識人もそうですけど極めて重要なことで、別に西洋化に価値がないという主張は全くしてないですから。自分の場合も。ただ問題は、だからといって世界が均一にしていくことが出来るのかというと、そんな単純な問題じゃない。西洋化というものを自分の国を見る鏡として使うことはできても、全ての国がそれに合わせるのは可能かというと中々難しいし、無理があることを強行すると必ずどこかで反動が来るわけです。そこを何とか乗り切っていくことが大事なんじゃないかなと思っています。

 

---

 

那覇:政治的には集権化して不自由になるんだけども、経済的には自由放任だって説明しましたけど、何でそうなるのかというと、それが一番効率がいいからなんですよね。あんだけだだっ広くて、人工が山ほどいると、権力を統一することは出来ても、経済社会の隅々まで国が指示して、社会の底辺まで管理しますということは、出来っこないわけですね。毛沢東はそれを目指して挫折したわけですけど。

 

鈴木:(笑)

 

那覇:だったら何をやるのが良いのかというと、権力は統一しておくが権力に誰が就くかといったら、自由競争であんだけだだっ広い国で山ほど人工いるんだから、天才が何人か絶対いるっていう(笑)

 

鈴木:いるに決まってますよね。

 

那覇:そういう奴を引っこ抜いてこれるような仕組みさえキープすれば、あとはザルな支配でいいというのが中国の伝統的なやり方で、科挙ってまさにそれなんですよね。科挙の特徴っていうのは、教育しないで試験だけやるっていう。試験やりますよっていって、教育は民間に全部任せて、そしたら村に一人の神童みたいな奴が勝手に受けてくれれば、何人かは絶対超絶級な天才はいるだろうと。そういうやり方でやってきたわけなんですよね。

 

中国がアメリカを経済力で軍事力で追い抜くんじゃないかって言われてますけど、一番ネックになってるのはそこですよね。アメリカの場合は自由な国だから世界中から来るよと。政治的にも自由、言論も自由な国だから世界中からみんな来る。ハリウッドだって亡命ユダヤ人が相当作ったわけですよね。

 

鈴木:そうです。

 

那覇:ヨーロッパにいたら差別をされて不自由な人が、アメリカに行けば自由があるからって行って、あのアメリカンカルチャーを作っていった。

 

鈴木:未だにそうですよ。

 

那覇:そうですよね。逆に中国は今のままだとそれが出来ないですよね。それが中国化のたぶん最後の頭打ちになるところで。逆に日本が中国に対して誇れるしプレゼンスに出来ることは、表現の自由があるからこれだけ漫画にしてもアニメにしても、追いつかれてきているといってもまだまだ豊かなものを持ってるわけで。日本人は自分の魅力がどこにあるのか気づかないで潰してしまおうとしちゃったりしますでしょ(笑)

 

川上:クールジャパンとか言ってるんですけど、何でクールジャパンなのかってことをもっと研究した方がいいと思うんですよ。

 

那覇:その通りですよね。

 

川上:クールジャパンの原因の部分を守ったり強化するってことをやるべきで、その中に明らかに表現の自由って入ってきます(笑)

 

那覇:必ず入ってるはずなんですよね。

 

川上:世界的に見たら入ってきますよね。日本でこれだけ文化が発展してきたのは。

 

那覇:なんですけど、出すと恥ずかしいからポルノチックなものは規制しようとか、どんどん自分の良さの根源を自分で殺しちゃってるわけですよね。 

 

川上:そうですね(笑)

 

那覇:日本に来ればどんな表現でも自由に出来るって、世界中からクリエイターが集まるようにしなきゃいけないのに、逆のことをやっちゃってるわけで。それがある意味中国化しちゃってるわけですよね(笑)

 

鈴木:(笑)

 

那覇:そこでなら中国じゃなくて日本でしょっていえる要素があるのに、ほっとけば中国に追いつかれるところで拘って、これは中国になくて日本の魅力ですよってところを自分で潰してしまっては世話ないわけですよね。

 

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那覇:この本の中でも書きましたけど、中国文明とか中華文明と言われてるものの個性って、元々は使い方を作り手が限定しないところにあったんだと思うんですよ。

 

川上:広東語とか上海語って、全然別の言葉ですよね。

 

那覇:読み方なんて全然別で、発音もバラバラなのに文字だけ同じ。読み方はあなた達の自由でいいです、勝手に使ってくれていいから、同じものを使ってくださいっていうのが漢字というもので、それがあったからあれだけ北と南だったら発音が全然違う人が、1つの国で長いことやってこれたわけですよね。

 

それが日本人って下手なのかなーっていう気がしてまして。日本文化を教える学部で教えてるんですけど、そうすると例年何人かはクールジャパンとかアニメとか漫画とかサブカルチャーで卒論を書く子って、毎年必ずいるんてすけど、昔クールジャパン現象を取り上げた子がいて、欧米でもアニメファンいっぱいいますみたいな感じなことを言ったんですけど、そこでビックリしたのが、欧米のファンが勝手に字幕をつけたりとかすると。そうすると元のアニメのニュアンスとズレるがあって、けしからん!みたいな(笑)

 

川上::けしからんなんですか(笑)

 

鈴木:それおかしいですね(笑)

 

那覇:本当にけしからんのかなー。

 

川上:それは例えばニコ動とかに外人が来て、英語とか中国語で書き込みをすると、けしからん!になるんですよ(笑)

 

鈴木:(笑)

 

川上:日本語のサイトなんだから日本語で書けっていうそういう意識ありますよね。

 

那覇:世界で観られるということは、多種多様な文化の人が勝手に解釈し出すっていうことなんだから。国内レベルで言えば二次創作ってそういうものだったわけですよね?

 

川上:はい。

 

那覇:勝手にコイツとコイツカップルにしちゃおうとか、勝手に続編描いたりとか番外編作ったりとか、それこそ国際化したらそうなったっていう話じゃないの?

 

川上:面白いのは、そこで海外のオタクも日本のものを勝手に字幕つけるわけじゃないですか?オタクの行動って世界的にすごい似てるんですよ(笑)

 

鈴木那覇:(笑)

 

川上:日本人のオタクっていうのも、YouTubeの最初の1年間ってアクセスの半分が日本だったって言われてるんですよね。Twitterも1番流行ってる国は日本だって言われていて、Twitterの日本でのブームって2回起こってるんですよ。1番最初のブームはTwitterが登場した年なんですよ。

 

那覇:へー。 

 

川上:その年にこれは面白いっていわれて、日本で流行っていて。そこで下火になってから2、3年前にもう1回流行ったんですよ。世界で流行ってるネットサービスって全部日本のオタクが最初に発見してるんですよ。言語の壁を乗り越えて。そして日本のものをオタク文化が好きな外国人も、日本語というバリアを乗り越えて、日本のものを持っていってるわけじゃないですか。

 

那覇:(笑)

 

川上:そうすると、日本の文化の普遍性って、むしろ日本人に似た感性を持ってる人がどれだけ世界にいるのかに依存してるんじゃないのかなって。

 

那覇:意外といるって思ったほうがいいですよね。

 

川上:はい。

 

那覇:中国の場合は西洋的な自由を認めたら、自分の国の体制が潰れると思い込まないで、ちょっと自信を持ったほうがいいのと同じように、日本の場合はどうせ特殊だから、世界で正しく理解されないって思い込むんじゃなくて、似たやつは意外と世界中にいるぞと。

 

川上:むしろ増えると思うんですよ。

 

鈴木:1億3千万がいけないと、僕は思ってるんですよ。

 

那覇:人口のサイズが良くないってことですか?

 

鈴木:例えば映画だったら、国内で商売出来ちゃうもん。成立しちゃうんですよ。

 

那覇:ドメスティックにいけちゃうから逆に、、

 

鈴木:これが5000万人になれば、それはもう出来なくなるから。外国に行かざるを得なくなるんですよ。

 

那覇:じゃあ韓国化した方がいいと?

 

鈴木:そうそう(笑)あるいはもっと増えちゃうか。

 

那覇:なるほど。

 

ーナレーションー

 

歴史の解釈は様々です。時代とともに新たな発見も生まれます。

 

今年33歳の若き歴史学者が探求する真実とは。與那覇潤・著『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』は、文芸春秋社から発売されています。

 

 

鈴木ナウシカラピュタの解釈も面白かったです。

 

那覇:いや、恐縮です!

 

鈴木:(笑)

 

那覇もう怒られるんじゃないかとドキドキしながらやってきて。

 

鈴木:僕は提供したものは、それを観た人がどう解釈しようが色々あるんだと思ってるんで。僕の立場だとね。

 

那覇:中華文明的ですね(笑)

 

鈴木:だから僕そんな怒んないんですよ。

 

那覇:よかったです。

 

鈴木:一部の人は怒るでしょうけどね。

 

那覇:メチャメチャラジオで怒られてるのを、学生に聴かれて僕はどうなるのかなと。

 

川上:(笑)

 

那覇:先生偉そうに授業してたけど、作った人に訊いたらメッチャ怒られてたぞと(笑)学生に後ろ指さされて生きていくのかなと。