鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

ポッドキャスト版「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の文字起こしをやっています。https://twitter.com/hatake4633

"第一線で活躍する人から学ぶ講座"の模様の回 司会:石川牧子さん

2014年8月2日配信のポ「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol328.mp3

 

アキモト:アキモトです。いつもラジオを聴いてます。

 

鈴木:ありがとうございます!君の声を使いましょう!

 

アキモト:あ、ありがとうございます!

 

何とかなる、ということを言われてるじゃないですか。こういう人間は成功するとか、格言みたいな決まりがないからそう言われてるんですか?

 

鈴木:僕あんまり成功とか失敗って考えたことないんですよね。挫折は?とか。これも僕わかんないんですよ。いくら考えたってわかんないもん。

 

人の生き方って2つしかなくて、目標をもってそれに到達すべく努力する、っていう生き方は目標があるわけじゃない?その目標に到達できたら成功とかそういうことになるんだろうけど、もう1つの生き方っていうのは、目の前のことを一生懸命やってたら、自分でも思わなかった未来が広がったっていうそういう生き方もあると思うんですよ。

 

そうすると、前者なのか後者なのか。僕なんかはたぶん後者に属するんですよ。映画作りたかったのかって言われると、自分でも悩んだり。プロデューサーになりたかったんですか?って言われたら、何かやってるうちに知らない間にそうなっちゃったなあとかね、成り行きの人生なんですよ、僕。

 

そういうことでいうと、いつもその瞬間、自分が充実してればいい、みたいな考え方はあって。それを一生懸命やったけれど、結果はどっちかというと、そういうこともあるんだなぁで過ごしてきたんだよね。

 

だから、あんまり成功だとか失敗だとかあんまり考えないっていうのか、自分が判断すればいい。ということじゃないかな、って僕はしてるんですよ。 

 

アキモト:わかりました。ありがとうございます。

 

 

ーナレーションー 

 

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

今週は、日テレ学院で行われた"第一線で活躍する人から学ぶ講座"の模様をお送りします。

 

講師に招かれたのは、スタジオジブリ代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫。司会進行は日テレ学院石川牧子学院長です。

 

まずは、こんなお話から。

 

鈴木:今日ねここに来るにあたって、石川牧子さんにテーマをいわれてまして。ジブリのプロデューサーっていうのは何をやるんだって。

 

僕がやってきたことって具体的なことも言えるんですけど、一番大事だったのはあらゆることに好奇心をもって、わかんないことは人に訊くこと。

 

ついでに言いますと、石川牧子さん。皆さんどんな風に思ってらっしゃるか。今日僕は石川牧子院長にお誘いを受けて、ここに。

 

石川:そうなんですよ。長年かかったんですよ。

 

鈴木:一回二回じゃないんですよ。五回六回七回八回なんですよ!

 

石川:そう多くはなかったと思いますけど。

 

(会場、笑い)

 

鈴木:諦めないんですよ。ジブリの作品を作ってくるとき、作品の発表、記者会見その他本当にお世話になってきた方なんですよ。石川牧子さんって。

 

お世話になったことと、いま日テレ学院の院長になってこういう会を催す。しかし、色々頼まれましたけど、本当は何の関係もないって思ってたんですよね(笑)

 

それで僕は出来たら逃げ切りたい。そう思ってたんですよ。本当は!

 

石川:(笑)

 

鈴木:ところが、毎年同じ時期になると必ず連絡が来るんですよ。「今年はどうですか?」って。で、ああでもない、こうでもない。

 

自分がそこへ登場すると、話がややこしくなるでしょ?断りきれないってことがある。僕はある人を介して、ご丁重にお断りを申し上げてたんですよ。

 

ところが、全く人の話を聞いてくれない。押して押して押しまくる。

 

これもたぶん、僕らの仕事にも非常に共通することで。ダメだと言われても、そこで引き下がったんじゃ話にならない。

 

そういうことでいうと、僕が宮崎駿という人と一緒にやってるんですけど、実はその出会いが本当にそうだったんですよ。

 

いまだによく覚えてるんですけど、僕が彼に出会ったのは彼が「ルパン三世 カリオストロの城」という作品を作り始めたばかり。

 

僕は当時雑誌の編集者っていうのをやっていて、記者もやっていたんで彼に取材をしないといけない、ということで彼は高円寺の大和立橋のそばのビルで「カリオストロの城」を作っていた。

 

しかも、三ヶ月で作んなきゃいけなかったんですよ。いまジブリの作品って「風立ちぬ」だと約二年かけてるんですけど、当時たった三ヶ月。この期間内でどうやって映画を作るのか。

 

僕が「『カリオストロの城』の取材をさせて下さい」と言ったことに対して、彼が言ったことはただ一つでしたね。「あなたの雑誌は色んなアニメーションの情報を載せて、売ろうとしてるでしょ?そういうのに加担したくないんです。仕事が忙しいから、余計なことに時間を使いたくない。」って言われたんですよ。    

 

くだらない雑誌って言われましたね。カチンときましたね。カチンと来ると同時に僕が思ったことは、何が何でも一言ききたいなって(笑)

 

で、しょうがなく彼の仕事の席のそばにいって、腰掛けもってきて座りこんだんです。

 

距離が離れてない場所に座って、彼がどうするかなって何となく気になるから、放っておいたんです。放っておいて見てたら、何も一切喋らないんです。彼は絵コンテというものを描いていて、「カリオストロの城」のシナリオを絵にするっていう作業をやっている最中です。

 

僕は隣に座ってジーっと待ってたんです。僕が行ったのは昼ぐらい。それが夜になって夜の12時になってもまだやってるんです。何時まで働くのかなとか、考えるじゃないですか?挙げ句の果てに4時までやるんです。そうしたら急に色んなものを仕舞い始めたんです。で、「やっと帰るんだな」って思うじゃないですか?したらいきなり一言。「明日は九時です」って(笑)

 

人間ってそういうとき、変なことを思うんですね。午前四時でしょ?明日は九時ですって言われたときに、夜の九時だと思ったんですよ。で、つい馬鹿なことを訊くんです。「夜ですか?」「朝です」って。

 

しょうがないですよね。朝の九時に行くじゃないですか?来たらやってるんですよ。それでずーっとそばにいたら、彼も自分の仕事をやる。しょうがないから、僕もそこで仕事始めちゃったんです。ずっといたって黙ってるだけだから。

 

そうこうするうちに、また夜になって午前四時になったら、またバタバタっと片付けるんです。何か期待するじゃないですか?昨日は「明日は九時です」って言ってくれたんだから。今日は何言うんだろうって。

 

何にも言わないんですよ(笑)帰って行っちゃったんです。

 

しょうがないから、次の朝また九時に行ってみたんです。したら、やっぱり来てるんですよ。そのとき、もう一人援軍を連れてきてまして、亀山っていうんですけど。

 

映画の冒頭、車のカーチェイスのシーン覚えてらっしゃいますかね?あそこを一生懸命描いてたんです。僕も見るともなしに覗いていて、そうしたらいきなり僕らの方見たんです。「何か専門用語知りませんか?」って。

 

石川:いきなり。

 

鈴木:何のことかと思ったら、カーチェイスをやっていて、相手の車を邪魔して前へ出るときの専門用語知らないか?って訊いてきたんですよ。

 

これが彼との初めての本格的な会話。

 

石川:はあーー。

 

鈴木:そうしたら、隣にいた亀山っていうのが「まくるっていうんですよ」って。これ映画のセリフ覚えてる人はそのセリフ出てくるんで覚えてるはずなんです。そうしたら「ああ、そういう言葉があるんですね。ありがとうございます」って。それでまた黙るんですよ。

 

この「まくる」っていうのが参考までに申し上げると、競輪で相手の前に出て、行く先を邪魔するやつを「まくる」っていうんですよ。

 

石山:たぶん競艇なんかでも使います。

 

鈴木:(笑)

 

石山:ね?

 

鈴木:石川さん、やってらっしゃるんですか?

 

石川:嫌いではないです。

 

(会場、笑い)

 

鈴木:さばけた院長ですね。彼が「まくり」と書いて仕事に戻るんですけど、そこからなんですよ。絵コンテを描きながら、矢のように僕らに喋り始めたんですね。喋って喋って喋りまくる。

 

気がついたら、何の話してたかっていったら、映画の内容の話してるんですよ。挙句の果ては「ちょっとここまで読んでみて下さい」って言わてれてパラパラーと読んでみたりして。

 

「今こういう風にきていて、この次こういうこと考えてるんだけど、どう思いますか?」と。本当に偶然なんですよね。

 

で、何を言いたかったかというと、「あなたの取材は受けたくない」っていって、もしそのまま会社や家に帰っていたら、そんな関係は生まれてないんですよ。

 

石川牧子先生のことを言ってるんですよ。しつこいに限るんですよ(笑)

 

石川:それ褒めて下さってるんですか?(笑)

 

鈴木:すごい褒めてるんですよ、僕。

 

石川:そうですか。ありがとうございます。

 

鈴木:だってそういうことがなきゃ、僕はここへ来てないんだもん。

 

□□□

 

石川:よく宮崎さんはおっしゃいますよね?記者発表のときに、今年の夏はこういう作品を上映します。必ず記者さんの質問に答えて、「順調に遅れています」というのが常套句のように宮崎さんはおっしゃるんですけど、プロデューサーの鈴木さんとして、一番大変だった作品は?

 

鈴木:苦労した覚えってないんですよね。危機的状況って訪れるじゃないですか。「もののけ姫」も、スケジュールが順調に遅れるどころじゃなかったんですよ。完全に遅れちゃいましてね(笑)

 

原因は僕にもあったんですよね。当然スケジュールがあってやってるんで、宮崎駿もやっていく中で「もうこのぐらいで終わらせないと、公開に間に合わないから」っていって、あるストーリーを作ったんですよね。

 

石川:ということは、ストーリーは決まっているけれど、作っている過程でどんどん延びちゃうんですか?  

 

鈴木:ストーリーは決まってないですよ。いつも。

 

石川:作りながら決まってない?

 

鈴木:そう。作りながらやってるんだもん。だから「もののけ姫」の公開の年の1月の頭。宮崎駿が作ってきたラストシーン。これは僕は忘れないですよね。

 

今の映画を覚えてらっしゃったらわかると思うんですけど、エボシ御前という人が出てくるんですけど、この人の腕がもぎれるっていうシーンがなかったんですよ。

 

もう一つ。タタラ場っていうのが炎上するんですよ。これがなかったんです。あっさりと終わるわけです。

 

何でこんなことになっちゃったかというと、スケジュールのこと考えてたからなんですよ。それを僕が読んで、悩むんです。ちょっと嫌だなーって(笑)

 

悩んでたけれど、もう一つ悩みがあったんです。それはここで一言いうと、何が起こるのかなーって。つまり、一言いうことによって、描き直したりして。映画が長くなったりして間に合わない可能性がある。

 

だから、内容をどうしようかなーっていう悩みと、スケジュールのことが本当に難しい問題で。

 

で、結果としては、電車で久石さんのところに行くことになって、電車の中でつい言っちゃったんですね。

 

石川久石譲さんですね。音楽担当の。

 

鈴木:そうですね。何を言ったかというと、「エボシ御前ですけれど、殺したらどうですかね?」って(笑)言っちゃうんですよ。そうやって。

 

そうしたら宮さんが「やっぱりそう?」って言い出して。

 

石川:(笑)

 

鈴木:中央線の電車の中ですよ?デッカイ声で言い出すんですよ!周りに人がいるでしょ?皆が聞いてるわけですよ。

 

その次の日ですかね。もう本当にやる時は速い。あっという間に今の映画の案。腕がもぎれ、タタラ場が炎上する案を考えて、僕のところに持ってきてくれたんですよ。

 

で、このセリフも忘れないです。「エボシは殺せない」って。「腕はもぎとらしたから、それで勘弁して」って言ったの、よく覚えてますね。と、同時に僕は増えたのが15分ぐらいだから、さあどうしようですよね。

 

製作担当っていうのがいて、スケジュール見てるやつなんですけど、その絵コンテが出来た翌日いなくなるんですよ。

 

石川:どういうことですか?

 

鈴木:逃げたんですね。

 

(会場、笑い)

 

鈴木:これ本当なんですよ。彼の身になれば当然。だって出来ないもん。

 

石川:失踪。

 

鈴木:失踪。今はもういますけどね。

 

(会場、笑い)

 

鈴木:とはいっても、ゴチャゴチャやっててもしょうがないんだから、一生懸命やれば光明が射す日もあるだろうなーって思ってたら、宮崎駿がかつていたテレコムっていう会社があって、「カリオストロの城」を作った会社の人なんですが、ある日僕のところに訪ねて来たんですよ。

 

何かなと思ったら、「もののけ姫を手伝わせてくれないか?」って言うんですよ。ぜひやってください、ということになって、その援軍が来てくれたおかげで、本当に1ヶ月間の間にワーッと出来ちゃったんですよ。

 

石川:今の鈴木さんは一応プロデューサーのさらに上のゼネラルマネージャーとして、今度は後身の指導とかそういったことにあたっていらっしゃるわけですよね?

 

鈴木:カッコいいですね。

 

石川:ですよね?

 

鈴木:だって現場の仕事やるの面倒くさくなったから、お前やれって言っただけですよ。

 

石川:でもハタで見てるのって、どうですか?

 

鈴木:結構面白いですね。これ。

 

石川:ご自身で手を下したいっていう風には?

 

鈴木:もうサラサラないですよ。僕あんまり働きたくないんですよ。実は(笑)

 

石川:今年の夏に公開。先程皆さんには待っていらっしゃる間にPR映像を見ていただいたんですけど、「思い出のマーニー」という作品ですね?今度は。

 

鈴木:そうです。

 

石川:これは謳い文句は?

 

鈴木:「あなたのことが大好き」。

 

石川:ロマンチックですね。

 

鈴木:これね、僕考えたんです。ちょっと自分で嬉しかったんです。いいな、と(笑)こういうの考えてると、楽しくなるんですよ。

 

石川:そうですね。  

 

鈴木:そうなんですよ。みんな喜んでくれたし。ただ、悔しいんですよ。「思い出のマーニー」って、ヒロインがダブルでしょ?女の子が二人の話。これ考えたの三年前なんですよ。

 

男の子と女の子が云々とかね、そういうのいいやって思って。女の子が二人、つまり友達ってことなんですけど、それをやるっていうのがいいんじゃないかって思って。それでやってて、シナリオ段階になってスタッフが色々文句言うんですよ。「男は出てこなくていいのか?」とか。

 

僕は原作が大好きで、この女の子二人の話がいいなと思って。おまけに米林宏昌っていうのが女の子描かせると、すごい嬉しそうに描くやつで。

 

何でこの原作を選んだかっていったら、理由は二つだったんです。あいつ女の子描くの好きだから、女の子二人出てきたら喜ぶだろうなっていうのこと。もう一個が僕が原作が好きだった。

 

せっかくこうやって考えて自分としてはしめしめと思っていたら、雪の女王っていうのが出てきたんですよ(笑)

 

石川:あーー。お伺いしていいものかと思っていました。

 

鈴木:知らなかったんですよね、僕!雪の女王を作るっていうのは知ってたんですよ。だけどヒロインがダブルで出てくるっていうのは、知らなかったんですね(笑)

 

石川:「Let It Go」ですね。

 

鈴木:え?

 

石川:いえいえいえ(笑)

 

鈴木:レットイットゴウ?

 

石川:はい(笑)

 

鈴木:「ありのままの自分」。本当に頭にきますよね。

 

(会場、笑い)

 

鈴木:皆さん観てますか?「アナと雪の女王」。観てる人、手を挙げて下さい。

 

石川:うわー恐ろしいことになってます。

 

鈴木:もう観て下さい!

 

(会場、笑い)

 

石川:じゃあ「思い出のマーニー」、観るっていう方手を挙げてください。

 

お願いします!!

 

□□□

 

ポッドキャストを拝聴させていただいたんですけど。

 

鈴木:ありがとうございます。

 

:そちらの話で若い世代に考えておいてほしいっていうのが「友情」。これを若い人に考えてほしいっていう話がありまして。

 

それで思ったんですけど、鈴木さんたちの世代の方たちやジブリに関わる人たちが考える友情と、今私たち若い世代を見ていて感じる友情の違いというものはありますか?

 

鈴木:同じだと思うけどねえ。さっき何で「思い出のマーニー」やろうと思ったのかっていったら、ずいぶん昔の話なんですけど、「魔女の宅急便」を作るときに、宮崎駿と意見の食い違いがあったというか揉めたというのか(笑)

 

何だったのかというと、キキが街にやってくるでしょ?そうしたらいきなりトンボっていう男の子と友達になるじゃない?あれが気に入らなかったわけ。

 

何で13歳の子が全然知らない街へ行って、いきなり知り合いになるのが男の子なのか。本来、新しい街へ来て一人でこれからやっていかなきゃいけない。だとしたら、同性の女の子。しかも同じくらいの子を友達にすべきだと思ったんですよね。その後男の子に行くっていうのはすごくよくわかる。

 

そういうことって、僕すごい考える方なんですよ。まず、同性で友達になるっていうことをやりたかったんですね。「思い出のマーニー」で。

 

何でかっていうと、友情って一生続くもんだと思ってるんですよ。しかし愛情はどうかな?

 

まぁ石川先生はずいぶんご経験されてると思うんですけど、やっぱり飽きちゃったりとか、色々あるんじゃないですか?(笑)

 

(会場、笑い) 

 

石川:(笑)

 

鈴木:何一人で喜んでるんですか!もう。

 

石川:ありがとうございました。鈴木プロデューサーでした!大きな拍手をお願いします。

 

(会場、拍手)