2011年1月25日配信の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」です。
http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol171.mp3
男性:ニコニコ生放送に政治番組とか尖閣のビデオが流れて翌日だったと思うんですけど、尖閣の討論番組だったりとか、政治に重きを置き出しているのかなというのはこの1年感じるんですけど、それは何か意図があるんですか?
川上:政治は3年前から力を入れてるんですけど、それは何でかというと、ニコニコ動画が途中からオタクのサイトだとか言われ始めたんですよね。そういうのムカつくんで、ちょっとイメージを変えようと。イメージを変えようとすると、1番みんなが真逆だと思うのは何だろうって思ったら、政治家が出たら笑うよねとか思って(笑)。
ずっと政治番組を3年間やり続けたんですよ。そうしたらその過程でどんどん政治サイトっていうイメージがついてきて(笑)
この前ニコニコ動画で新規入会が多かったベスト10というのを生放送でやってみたんですけど、ベスト10のうち9つが政治系の番組でそのうちの3つくらいに国会中継が入ってるんですよ(笑)
ーナレーションー
新しい内閣の顔ぶれが発表された2011年のはじめ、れんが屋には2人の青年が遊びに来ていました。
あのニコニコ動画を運営するドワンゴの代表取締役会長 川上量生さん。ドワンゴの社外取締役でもある株式会社麻生 代表取締役社長 麻生巌さんです。
鈴木:それこそ麻生巌(げん)ちゃんがですね、ドワンゴ・ニコニコ動画の川上という会長に会わないか?って言われて、もう僕最初イヤでねー。
だってベンチャー企業でしょう?で、おまけに会長でしょう?会長って名前聞くだけで僕あんまり好きじゃなくて。会長って名前が。で、現れたら破れたジーパン履いて、ヒドい格好でやってきて、僕いまだに忘れないけど、「そんなややこしい肩書きをつけるな!」っていう話をね(笑)
川上:ベンチャー業界って前向きな人が多いじゃないですか?テッペン獲るんだ、みたいな。とりあえずトップになるとか、Googleを超えるとか。あの感覚が全くわからないんです。
鈴木:実はこういう方だったんでね。要するにこんな前向きじゃない人が何でこんな一生懸命やってるんだろうって思って。
川上さんの人生の目的って何なんですか?
川上:あのーあんまり欲望とかないんですよ。ずっと月給50万円ぐらいあったら、ずっとあとは遊んでいればいいかな、みたいなことを26くらいに思ったんですよ。その時に会社が潰れたんですよね。
鈴木:ソフトウェア、、
川上:ソフトウェアジャパンが潰れたんですよ。その時にこれからはおまけの人生だとか思って、他の人をもっと幸せにする会社を作ろうというのでドワンゴを作ったんですよ。
どういう人を幸せにするかっていったら、僕と同じでネットにハマり過ぎていて、人生を見失っている。優秀なんだけど、この子の未来暗いなみたいな子が働けるところを作ろうと思って、ドワンゴを作ったんですよ。
基本的におまけの人生だというところから始まってるんですよね。
それで僕が会社を作って何をしたかといったら、そういう人生を踏み外した廃人と呼ばれてるゲーマーを全員クビにしたんですよ。働かないから(笑)僕はその時点で人生見失ってるんですよ。目的を(笑)
助けようと思って作った会社で、助けようと思った人をクビにしたっていうのがドワンゴを作って最初にやったことなんですよ。
そこからは何だったのかっていったら、親の会社とかも借りて会社を作ったんで、失敗したら人を助けるどころか、親が路頭に迷っちゃうからしょうがなしに逃げられないというので、目標を見失ったまま後ろ向きで働いてきたのが、僕の今までの人生なんで。
そういう意味では見失ってる状態なんです。決めた目標がどこかに行っちゃって。別に人生の目的ってないです。
ーナレーションー
この夜、れんが屋でどんな話が繰り広げられるのか、まだ誰も知りませんでした。
川上:人生の目的ってないです。
鈴木:ない?
川上:ないっていうか、今やってることってどういうことやってるかというと、対外的にはニコニコ動画がやってることって、論理的に思ってこういうことが出来るなって思ってやってることで、僕の感情からやってることじゃないんですよ。
感情からやってることっていったら、たぶん外からは宣伝だって思われてますけど、2ちゃんねる採用とか。
ネットで2ちゃんねるばっかりやってる人。学歴は大卒未満。大学在学の人は卒業の意思がない人に限るっていう風な感じでやってるんですよね(笑)中卒高卒のみで。どうしようもない人間とかを採用してるんですよ。
実力はあるんだけど、普通の会社だったら採らないような人を採用してるんですけど、実は僕にしてみたら失った目的を少しでも埋め合わせようとする行為で、僕にとってはそっちの方がやりたくてやってることなんですよ。
だから今でも求人とかでも、他の会社が採らないような人を採れるようにしたいと思ってて。
もう学校行かなくていいから、そのまま内定出したら学校辞めてこい、みたいにことを大手を振ってやってやろうと思ってるんですよ(笑)飛び入社みたいな。
鈴木:でも躍進してるんですよね?ニコニコ動画は。
麻生:そうですね。
鈴木:何やりたいんですか?ニコニコ動画で。ま、今もやってるんですけど。
川上:何なんでしょうね。僕は興味のあることしかやりたくないんですよ。自由が興味あるっていうか、ゲームが好きなんでパズルとかゲームだと思って仕事やってるんですよね。
じゃあどういうパズルを解こうかっていうので、僕が興味を持ってるのが、みんな同じことを言うじゃないですか。
例えば、経営はこういう風にやるべきだ、ITビジネスはこうやるべきだって色んなマニュアルとか言説がありますよね。
その通りにやる人たちって、これは僕の世界観なんですけど、それは人間じゃないんですよね。何かのイデオロギーのミーム、社会的な生命体の歯車、奴隷になってる人間であって。
鈴木:ああ、そういう人たちがね。
川上:そうそう。実際そうじゃないですか。例えば、資本主義の奴隷みたいな人だと思うんですよね。資本の論理だけで動く人っていうのは、全体の価値観通りに動くマシーンみたいな存在じゃないですか。それは僕は嫌だなと思っていて。
人類の歴史を考えると、将棋がもうプロが勝てなくなっていて、チェスなんかもう勝てないですけど、将棋も実際は勝てなくなってる可能性がありますよね。戦ってないだけで。囲碁もあと10か20くらいしかもたないんですよ。
そうしたらボードゲームの世界では、人間というのは最強でなくなっているんですよね。
で、ミームが支配している世界っていうのも、実は人間が気づいていないだけで、人間じゃなくてロジックという名前の生命体が世の中をどんどん支配しつつあって。
麻生:証券取引だってそういう部分ありますよね。
川上:もう人間が制御出来ないもんね。人間がコントロール出来てなくて、アルゴリズムの事実進化みたいなもので今は社会が進化していて。人間の意思が入る余地がどんどん狭くなっていて。
たぶん、21世紀が最後の人間の世紀なんですよ。
鈴木:これ、どこかで破綻することってないんですか?
川上:人類が滅びるっていうことがあるんだったら、それに乗っかって一緒に破綻するっていうシナリオはあり得ると思います。
でも人類が破綻しないでも、文明が退化すればまだ人間の歴史っていうのは生き延びる可能性はあると思うんですけど、進化していく以上はもう社外全体を動かしているルールみたいなものっていうのが、事実的に進化していますよね。
鈴木:自分で育っていっている?
川上:はい。資本主義もそうだし、今の経済システムもそうですよね。格闘技とかスポーツもそうで、結局それがロジック同士の戦いになっていくと、みんな同じ戦法を使い始めたりだとか、一個のところに収束し始めるんですよ。
で、そういう風に収束し始めるっていうのは、プレイしてるのはもう人間じゃないんですよね。人間っていうのはそれを構成するパーツであって。
そういう現象って、世界各地で起こっていて。ネットを使って独裁とか言われてますけど、この未来っていうのは、独裁者が出来ない未来なんですよ。21世紀っていうのは。人間一人が独裁するっていうことが不可能なんですよね。
ひょっとしたら10年前20年前だったら、日本は小沢一郎さんっていうのが日本を全部コントロールする世の中が誕生したかもしれない。
けれども、今の時代って小沢さんが失脚したら、もう出てこないと思うんだよね。可能性がある人すら出てこないと思うんですよ。
それは人材がいない云々じゃなくて、社会的にそういう人が存在出来なくなっちゃう世の中になっていって、これ世界的に起こってる現象なんですよ。
鈴木:なるほど。
麻生:この1年2年で語るのは薄っぺらくなっちゃうかもしれないですけど、捻じれがすごく多く出てきている。イギリスも何十年ぶりにそうなってる。豪州も米国もそうですし。それはもう近いかもしれないですよね。
川上:残ってる間に世界ってすごい変わりますよね。
麻生:変わるでしょうね。
鈴木:アメリカがどうやって崩壊するのかなと。やっぱり中国の台頭ですよ。
麻生:あれもわからないですけど、中国も川上さんが言われたロジックにものすごくコントロールされてると思いますね。
鄧小平まではわからないですけど、今の彼らはお金が入ったらこうするのが一番合理的っていうのに基づいて行動してると思うんですよね。
川上:Googleに代表されるシリコンバレー発のネットのイデオロギーって何なのかっていったら、人間を部品化して見るってことだと思うんですよね。人間をパーツとしてそのパーツの集合体で熱力学機関を作ってるんですよ。
そしてそのエンジンから得られる動力とかを広告費なんかで集めていくっていうモデルなんですね。GoogleってCPMっていうクリックパーなんたらって用語を作るの好きじゃないですか?あの人たちって。
そうしたらどういう世界が出来たのかっていったら、クリックする機械みたいな人間が増えたんですよ。ブログもそうで、ブログとかもGoogleで検索すると、そのブログって機械で自動生成されたブログなんですよね。
文章が日本語なのか意味があるのかわからなくて、実は自動生成されてるブログで。ブログも半分以上が機械でつくったブログなんですよ。
いまSEOって流行ってますけど、それって何なのかっていったら、Googleの検索エンジンがこのページは重要だって思ってくれて、順位を上げるためのやつなんですよ。これってマーケティングでいったらGoogleのロボット相手のマーケティングをしてるんですよ。既に人間を見てないんですよ。
麻生:ロボットとロボットがやってるわけですよね。
川上:そう、ロボットとロボットがやってるんですよ。Googleは機械で出来ることは全部機械でやって人間にやらせないっていうような哲学があるんですけど、Google的未来には人間の住む場所が少なくなってるんですよ。機械が住んでるんですよ。
それが僕はGoogle的価値観の一番の欠点だと思ってるんですよね。
まだ世の中を支配しているのは何だかんだ言って、最終的な財布を握っているのは人間の方なんで、人間の機械に対する反乱みたいなエネルギーが世の中には潜在的に存在しているはずだと思っていて。
Googleって好きな人ってIT業界多いですけど、Googleが支配する世界に対して、あまりバラ色の世界じゃないなって感覚って世の中全体にあると思うんです。Googleの理想の世界に人間の居場所があるのかってみんな潜在的に思ってると思っていて。
麻生:そういう意味で、ニコ動ってすごくラッキーパンチだと思うんですよね。GREEとモバゲーってすごくロジカルなんですよ。
特にモバゲーとかすごくロジカルだと思うんですよ。携帯っていうプラットフォームがあって、タダのゲームを配信してそれに入ってもらって、課金をする。高度経済学の観点から見てもすごく合理だと思うんですよ。ニコ動は全く合理じゃないですよね。
川上:全く合理的じゃない。
麻生:ぼく変な話、上手くいくのかなーって思ってましたもん(笑)
鈴木:だってね、世界を変えた人たちって上からもの見てないんですよ。地面から見てるもん。それが歴史だもん。
川上:論理って必ず穴があるんですよ。段々完璧に近づいていくのかもしれないんだけど、大体簡単な論理がいくから、相当な矛盾を抱えていて。まだネットの世界を支配しているGoogle的世界観の論理って、まだまだ荒いと思っていて。
鈴木:論理の人って要素をいっぱい出さなきゃいけないでしょ?その要素足りないですよね?大概。
川上:そうです。物事を単純化しようとするので。
鈴木:論理の人ってやっぱり単純だと思うんだよなー。
川上:単純化された世界を本当の世界と思ってしまう人がいて、作った論理を世界と思いたがる人っていうのが多いんですよ。論理の人って。
これはすごく弱いパターンで、そこを突いていくっていうのが人間が出来ることなんですよ。人間のロジックの方が機械のロジックよりも強いっていう。
何回は勝てると思うんですよ。何回かは勝てる。そのうちの1回ぐらいをやるのに出来たら面白いなーと思って、僕やってるんですね。目指すのはニッチなんだけど、最大のニッチを目指そう。最大のニッチは何処かっていったら、アンチGoogleの世界観だ。
で、アンチGoogleの世界観を表す標語っていうのを作ったんですよね。それは「Google機械帝国」っていう標語だったんです(笑)Google機械帝国に対する反乱。
鈴木:狭い範囲でいうと、人間と機械と戦って機械に勝つっていうんですか?
川上:はい。っていうかひと花咲かせる。
鈴木:一矢報いる。
川上:一矢報いる。っていうパズルは面白いなーと思ってやってるんですよね。
鈴木:なるほどーー。面白いこと考えてますね。
ーナレーションー
今夜の出演は、スタジオジブリ鈴木敏夫、ニコニコ動画のドワンゴ代表取締役会長 川上量生さん、株式会社麻生 代表取締役社長 麻生巌さんでした。
鈴木:次また新しい映画作るんですよ。そこにポスターがあって。見ていただこうかな。
麻生:へーーー!
川上:これこのままポスターですか?
鈴木:そうです。
川上:すごいですね。
鈴木:旗を揚げる少女。少年は海からやってくる。で、この二人がどうなるかっていうね。
時代が1963年。オリンピックの前年。戦争が終わってまだ18年。いよいよ高度経済成長。
宮崎がこの企画をやるときに、高度経済成長、バブル、バブルの崩壊っていろんなことあったけれど、そういうもののスタートっていつだったんだろうって、たぶんあの頃だよねって。そこら辺の時代をやってみようって。
麻生:これ夕焼けじゃなくて、朝焼け、、
鈴木:朝ですね。
麻生:ですよね。いいじゃないですか。何かこれから始まってくるような感じですよね。
鈴木:なんかね、新しい映画作りたくなって。本当のことをいうと、ニコニコ動画って何なのかよくわかってないの。川上さん面白い人だったから、なんかねニコニコ動画でやってもらえないですかね?
川上:やります。
鈴木:何やるかさっぱりわからないんですよ!
麻生:(笑)
ーナレーションー
その船の行方は来週に続く。