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ポッドキャスト版「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」「未来授業」の文字起こしをやっています。「未来授業」は2020年4月分からです。文字起こししてほしいものがあれば、ツイッターのDMに連絡下さい→https://twitter.com/hatake4633

<未来授業>角田光代 第2回「心を込めず、チクチクと」

 

ーナレーションー

今週の講師は、作家・角田光代さんです。

 

角田さんがおよそ5年をかけて取り組んだ『源氏物語』の現代語訳が、今回ついに完結しました。

 

紫式部が『源氏物語』を書いたのは、およそ1000年前。天皇の子で、光輝く美貌と才能の持ち主・光源氏が、女性たちと恋愛遍歴を重ねる物語です。

 

原作は、原稿用紙に換算すると、およそ2400枚もの大長編。

 

現代語訳を終えた、角田さんの率直な感想とは。

 

未来授業2時間目、テーマは「心を込めず、チクチクと」

 

角田:長い!(笑)長かったですね。思ったより。編集部は3年でやって欲しいという話だったんですけど、とてもとても無理だったし、5年というのもかなり急いだかなという気がしますので、やっぱり本当に長い長い物語だな、というのが率直な感想です。

 

実際にやるまで、これほど長いとは思わなかったんです。分量は知ってても、こんなに終わらないものなのかっていうのが、実際やるまでわからなかったですね。

 

挫けそうにはならないです。とりあえず、終わらないと終わらないので(笑)

 

自分で小説を書くより、もっと事務的というか、もうテキストはあるので、考えなくてもお話は進んでいってくれるので、割と仕事場に行って、私は時間を区切って仕事をしているので、その仕事終わりの時間が来るまでちょっとずつちょっとずつやっていくという意味では、非常に感情の伴わない本当に事務的な作業でしたね。

 

でもたぶん、私が枚数で区切ってないというか、あと何枚とか数えないのでわからないだけで、たぶん編集者の方にしたら、この章だけ異様に遅いとか、意外に早く来たとかあると思うんですけど、私としてはもう本当に心を込めずにチクチクチクチクとやっていたので、何が早くて何が遅いかっていうのは実は感覚的にわからないんですね。

 

場所場所によって、「うわーここ面白い!ここずっとやってたい!」みたいなところもあるんですけど、私は若菜とかがすごい面白かったんですよね。すごい物語として秀逸と思って興奮するんですけど、でも「ワーっ!」という気持ちではなくて、チクチクチクチクやって帰るっていう繰り返しではあるんですけど。

 

ーナレーションー

角田さんの現代語訳は、上・中・下の3巻です。上と中では、主人公・光源氏の出生の秘密や女性たちとの恋愛、そして宮中の政治的な駆け引きが描かれます。

 

角田:作者がこの女性を好きで書いたんだろうなとか、嫌いで書いたんだろうなっていう想像は常にあって、例えば、紫の上(むらさきのうえ)なんかは作者はは本当に好きで書いたと思うんですね。すごく女性の生き方、こう生きるべきとか、こういう風に生きたい、みたいな願望を紫の上に重ねて書ききってると思うんですよね、最後まで。

 

反対に、末摘花(すえつむはな)とかは、本当にこういうタイプの女性が嫌いなんだろうなと思って、ちょっと容赦がないのでそう思ったりとか。はい。

 

ーナレーションー

続く下巻は、光源氏が死んだ後の世界。物語は光源氏の息子・薫に引き継がれます。

 

ライバルの匂宮と女性と取り合う三角関係の構図。この薫を中心とした下巻の翻訳作業で角田さんの筆が止まりがちになります。

 

角田:たぶんですけど、筆が止まっちゃうというよりも、薫という登場人物が嫌い過ぎて、すごく辛くなったんだと思うんですよね。薫という人間と付き合い続けることが、一番遅かった時はそういう気持ちだったんじゃないかな。何かペースダウンしてしまう。

 

やっぱり光源氏って、神様なんですよね。神様というか光なんですよね。だから非常に色々やってもうまく処理して、つい女性たちを救おうとしてきたと思うんですよ。で、下巻に行くにつれて、そういう光は消えてしまって、どんどんどんどん下界に降りてくる感じですよね。人間界が下巻で書かれると思うんですけど。

 

もう神様はいない。光はない。そこで愚かな人間たちが蠢く様が下巻に書かれていると私は思うんですけど、その愚かな人間たちの中で最も愚かなのが、薫だと思うんですよね。思ったんです。それで、すごく辛かったんだと思います。薫と付き合うのが。

 

逆に総角(あげまき)っていう巻が終われば、もう慣れてしまって、嫌な奴が一人いるっていう状況に慣れてしまって、またペースが戻れたかなと思うんですけど、ちょっと一回本当に苦しかったと思います。

 

すごく作者は、この薫という人間の計算高さとか、策略派のところとか、ねちっこい所とか、むっつりスケベ。むっつりスケベ的な所を作者も書いてると思いますね。