2009年10月6日配信の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」です。
http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol105.mp3
―ナレーションー
れんが屋に珍しく、若いお客様がやってきました。
鈴木:なんか遅れて大学卒業したんだよね?
佐藤:留年しまして。
鈴木:あ、留年したんだ。
佐藤:で、一昨日卒業してきました。
鈴木:あ、卒業出来たんだ?
佐藤:どうにか。
鈴木:良かったね。
佐藤:どうにか終わりました。
鈴木:それで来年の4月からある会社に入ることになってる。それでその前、東京の出版社でアルバイトくらい半年やってみようと。
佐藤:そうですね。出版不況で正規でアルバイトは雇えないと言われて。
鈴木:あ、そうなんだ。
佐藤:お手伝いでたまに呼ぶから来て、っていう感じで。だからそれほど働けないっていう感じですね。
鈴木:仕事ないんだ?
佐藤:今ないですね。
佐藤:汗まみれは、最初の頃は聴いてなかったんですけど、全部ポッドキャストで落としてって感じですね。
奥田:だって清田タクシーの浜野さんもどっか行っちゃったしね。この番組が出ちゃったことがキッカケになっちゃったんですかね。
ーナレーションー
以前、インターネットサイトの取材で、鈴木さんのインタビュー記事を書いたことのある佐藤君は、この汗まみれのDVDがリリースされた時には、1万字に及ぶ分析とレビューを試写室レンガ座に寄せてくださり、スタッフの度肝を抜きました。
そして、京都の大学を卒業して、来春の就職に備えて東京にやってきた彼は、鈴木さんがれんが屋に招いたんです。
鈴木:東京慣れた?
佐藤:東京はまだまだですね。
鈴木:あれ、いつ東京来たんだっけ?
佐藤:三週間前に鈴木さんにお会いしたのが初めて。
鈴木:9月か。
佐藤:そうですね。
奥田:元々どこの人?
佐藤:京都です。転勤したんでややこしいんですけど、大学は京都だったんで。
鈴木:正伝寺。正しく伝える寺。
佐藤:あ、知らないですね。
鈴木:知らない?京都。この間ね、行ったのよ。すっごい良かったの。ちょっとね、任天堂の宮本さんのところへ遊びに行こうっていうのか。その後ね、イッヒーと行ったんだけど。
奥田:あの電話した時ね。
伊平:あ、そうですそうです。
奥田:「これからご飯来なよ」ってどこかなと思ったら、京都(笑)
伊平:鈴木さんは「元気な時な奥田さんだったら来た」って言ってましたよ。
鈴木:奥田さんも歳とったなと思ってね。だって18時だから20時半くらいには着くでしょ?
奥田:仕事が(笑)
鈴木:今日星野さんね、なんか若い人たちに就職斡旋をしてきたんでしょ?
星野:いやいや、そうじゃないんですけど。ここのところ、前に鈴木さんとも話したんですけど、自分の周りの人たちがめちゃくちゃたくさん会社を辞めてるんですよ。辞めされられる。クビになる。
鈴木:外資の人が多いんですかね?
星野:そうですね。だもんで、2桁くらいの数で。身近な人が。
鈴木:京都大学だと、どこでも入れるの?
佐藤:それが違うんですよ。僕の友達まだ決まってない人いますし。決まらなくて留年決めたっていう人が結構いますね。
奥田:ということでいうと、どこ行ってもどうなるかわからないわけだから、自分がやりたいことをやった方がいいなって思いますけどね。
佐藤:地味な会社に行きたいっていうのがすごいあって。
鈴木:地味な会社?
佐藤:今までアルバイトしていたのが、ネット企業の中でもすごい元気な「はてな」っていう会社なんですけど。
鈴木:はてな?
佐藤:ネットベンチャーで、結構ネット界隈では有名なところで。でもネット企業に行きたいなと思ってて、価格コム。
鈴木:なんで色々行こうっていう時に、価格コムにしたの?就職する時って、やっぱり色んな会社考えたの?
佐藤:考えましたね。自分の実力とか能力とか自分に足りないものとかを鑑みて、マッチしたのが価格コムかなって。
星野:何人くらい採ったんですか?
佐藤:応募が6000で、内定者が8。
鈴木:え、6000人応募があったの?え、なんで?そんな大きな会社なの?価格コムって。
佐藤:ジブリと人数は一緒くらいですね。200人くらいですね。
鈴木:ふーん。
佐藤:僕が10年くらい前だったら、出版社とか、、10年じゃないな、20年前くらいかな。出版社とかテレビとか行ったと思うんですけど、今考えた時に、、
鈴木:それに相当する会社は、、
佐藤:ネット企業で、かつ雑誌みたいなことをやってる、、
鈴木:新手の情報誌なんだ!
佐藤:そうですね。
鈴木:新手の情報誌って、悪い会社みたいだけど(笑)
佐藤:でも、「ぴあ」とか、、
鈴木:それの発展形じゃない?
佐藤:そうですね。
鈴木:だから僕も世が世なら、テレビだとか新聞だとか、いわゆるメディア。そういうところを目指しただろうと。出版とかね。でもそういうメディアが古くなっちゃってる。そういうものを今の時代で探すなら、ネットワーク関係だと。そこでそういう会社を選ぶわけですよ。そうすると聞いててね、そんなこと考えて入ったんだと。
星野:凄いなと思ったのは、そこまで考えてそういう風に就職活動でゴールをしていくっていうのがね。僕の場合はそうではなかったので。交通事故みたいなもので。最終的には何10社も落っこちて。僕が最終的に引っかかったのが建築材料のメーカーだったんですよ。
鈴木:もうどこでも良かったんですよね?こういう会社入ってこういうことやってみたいって、、
星野:ないんですよ。僕の場合、キャリアプランなかったんで。全くなかった。
鈴木:なんでしたっけ?ジョーダン電気(?)でしたっけ?
星野:いや違います。僕はその後に日本の電機メーカーのアルプス電気。
鈴木:あ、アルプス電気か(笑)
奥田:それ安井の社長が亡くなったところですよ。
星野:アメリカの建築材料メーカーで、その後はアルプス電気。アルプス電気でも周りを見て、僕の場合は会社の先輩が「君の人生はこうなるよ」って絵を描いてくれたんですね。
会社からお金を借りて家を建てて、君の一生はこうなるから安心しなって言われた時に、「あ、これじゃまずいな」って。それで辞めようと。
鈴木:星野さんって、会社4つ目?
星野:ええとね、アームストロング、アルパイン、ディズニー、で、スタジオジブリ。4つ目ですね。
鈴木:ディズニーって言ったらさ、ある一つのイメージがあるでしょ?ディズニーランドとかね。白雪姫だピノキオだミッキーマウス。そういうことでいったら、夢と魔法のなんとかでしょ?で、奥田さんはそれが大好きなわけだし。
それで色々あって、「もののけ姫」の前に星野さんという人と出会うわけだけど。それはちょっとショックを受けたよね。その夢と魔法の会社をやってる一番偉い人がこういう人なんだと思って(笑)
奥田:(笑)
鈴木:まぁ安心したんだよ?普通の人だと思って(笑)それで色々あって今ジブリに来ていただいてるんですけどね。だから、イッヒーなんかもイベント会社行ったり。
伊平:と、テレビの制作。
鈴木:イッヒーは2つ目の会社かな?12年くらい前に出会ってるんで。これはジブリの原画展なんてやる時に相手の会社だった。もう一つの就職をして、それでジブリだよね。
伊平:はい。
鈴木:なんとなく入ってきちゃうわけでしょ?じゃあしばらく草鞋脱がない?っていうやつなんですよ。色んな時に色んな人に声かけてきて。あいつナヨなんかどこの雑誌だっけ?
みんな:サイゾー。
鈴木:あいつなんか僕のところに取材来ててね、面白いやつだなっていうんで、「来るか?」って言ったら「じゃあ」って。
僕はなんとなくジブリに顔を出してるやつで、「ちょっと来るか?」って言って入れた人、ものすごい多いわけ。それで言うとね、僕の就職した時の気分とそのことって関係あるんですよ。
なんて言ったらいいかな、どこそこの会社入って何やりたいってことじゃないんですよ。やっぱり、即生活ですよ。目的が。
就職っていうとね、今の話だと何をやるかでしょ。それで自分に向いてるかどうか。僕の場合は就職っていうのはね、即給料もらうっていう。それだけなんですよ。
奥田:現実的ですね。それ。
鈴木:だからね、働かなきゃいけないんですよ。何やりたいだの、何の関係もないんですよ。何が良いじゃないんですよ。何だって良いなんですよ。
星野:ちょっと違うかもしれないですけど、鈴木さんと出会った中で何度も出てくる話題が、自分は会社と付き合うんじゃなくて、この人と付き合うんだっていうのを仕事の仕方として鈴木さんはやってきてると思うし、それを仕事をする側から見るとね、「あ、そういう考え方があるんだ」っていうのが新鮮だっていう気はするよね。伊平って鈴木さんと仕事してるのは?
伊平:2年ですね。
星野:それで随分違うでしょ?最初の頃と今とでは。
伊平:あ、違います。
星野:鈴木さんだって、そういう面でいうと、一緒に仕事するまでは「あ、いるな」っていうのはわかってたけども。
鈴木:それだけ。
星野:それ以上はわからないわけじゃない。やっぱり仕事していくって、違った意味で人と出会うんじゃないかなって。
鈴木:本当にそうなのよ。イッヒーはね、久しぶりに僕が怒るようになった。
奥田:(笑)
鈴木:せっかく身につけてきたこの温厚さをね、崩されたんですよ。
奥田:せっかく身につけた温厚さ(笑)
伊平:「俺の目を見ろ!」って。
鈴木:本当に憎たらしい顔をするんですよ。
奥田:(笑)
鈴木:僕だって我慢出来なくなる時があって(笑)
伊平:「何だその顔は!」って言われても、どうしようもないですよ(笑)
奥田:地獄の地を這うような声で怒るんですもんね。
伊平:太いですよね。
奥田:うん。こういう良い鈴木さんとまだ違う。
伊平:鈴木さんが怖いのは、声と目です。目を見たらみんなやられちゃうと思います。本当に怒ってバラバラになるっていうのはすごくわかります。
星野:それはいつからですか?鈴木さん。
鈴木:え?
星野:若い時から?それとも会社に入ってからなのか。
鈴木:自分でちゃんと覚えてるわけじゃないけれど、怒るようになったのは、素直にその怒りを表現するようになったのは、宮さんに出会ってから。宮さんがそうだったからですよ。
星野:ああ。
鈴木:宮さんが怒鳴ってくるから、こちらも怒鳴り返す。それはハンパじゃなかったですよね。向こうが思い切り声出すんだったら、こちらも同じくらいの声を出す。それはやりあったですよね。それで働いちゃったですよね。だからイッヒーは僕を働かせますよね。僕は本当に自分で言うのもなんですけど、宮さんと高畑さんは相変わらずだけど、俺は違うぞっていうね。それで歳をとってったら、自分はどういう人になるんだろうって、少しその像が見えたりしてね。ちょっと自分でうっとりしてた時があったんですよ。
みんな:(笑)
鈴木:あったんですよ!それでちょうど僕がもうこれで還暦を迎えるしね、俺もこれからは立派な人だぞって思ってた矢先に。
伊平:何かわからないんですけど、気が緩んだ時に何か言っちゃうんですよね。その時に「それはどういう意味だ?」とかなってですね。
鈴木:要するに、僕があるとき決めた。それから数時間後だか一日経ったか忘れましたけど、ひっくり返したんですよ。そしたらイッヒーはこう言いに来たんですよ。「これ変えたのは、今はこうだってことですね?」って言いに来たんです。これ頭に来たですよね。何だこの野郎って。
わかってて念を押しに来たんですよ。挑戦的なんですよ。何が言いたいかというと、「昨日言ってたことをひっくり返したでしょ?」って言いに来たんですよ。これは喧嘩売ったんですよ。
みんな:(笑)
伊平:そうかもしれないですね。
鈴木:喧嘩売ってきたら、こちらも頭来たんですよ。
伊平:確かに。
鈴木:(笑)譲君わかるでしょ?
佐藤:メチャメチャわかりますね。
鈴木:誰もそんなこと言ってこないもん。やっぱりそうなるんですよ。普通。誰も仕掛けてこない。誰も僕に喧嘩なんか売らないもん。イッヒーは喧嘩売るもん。
伊平:ここにわだかまりみたいなのがあるみたいなんですね。それは顔に出してないんですけど、鈴木さんが「何か言いたいんじゃないのか?」って。
鈴木:(笑)
佐藤:喧嘩売ってる気がないのに、喧嘩売れてるっていうのがすごい辛いなって。
鈴木:(笑)
ーナレーションー
佐藤譲君は、なんとなく「母をだすねて三千里」のマルコに似ています。もちろんポンチョは着ていないし、アマディオも連れていないし、ほっぺが赤い歳でもありません。でもなんかちょっとマルコの雰囲気というか、マルコのような面構えなんです。
たぶんそれは、この世界的な不況の砂嵐の中、これから大平原を旅をしていこうっていう男の子の、強くて柔らかな風情なのかもしれません。
鈴木:譲君は本当はね、イッヒーみたいなのが先輩にいたら鍛えられる。
伊平:先輩は別として、一緒にいたらってことですよね?
鈴木:鍛えられるでしょ?
鈴木:そうですね。
鈴木:ね?この人の言うこと聞かなきゃいけないんだよ?どうする?
佐藤:きつい(笑)
鈴木:きついだって(爆笑)
佐藤:でも本当に必要なんですもんね。
鈴木:鍛えられるよ。
佐藤:わかります。
鈴木:俺はね、イッヒーに提案したの。この際だから譲君呼ぼうって。俺がいてイッヒーがいて譲君がいたら、これは上手くいくんじゃないかなって。
佐藤:僕は鈴木さんとタイプ一緒ですよ。一緒過ぎると思いますけどね。
鈴木:どういうこと?
佐藤:簡単にいうと、伊平さんと正反対だし。
鈴木:譲君にないもの全部持ってるよ。
佐藤:わかりますね。足りないものを全部持ってますね。
鈴木:そんなわけで譲君には明日から、ジブリでアルバイトをやってもらいます。
鈴木:イッヒー、ちゃんと指導して。イッヒー?譲君の面倒見てよ。
伊平:とんでもないです。よろしくお願いします。さっききついって言ってたんで。
ーナレーションー
そんなわけでマルコ佐藤君の「何をたずねたらいいかわからない三千里」が、いきなり思わぬ方向へと進み出しちゃったみたいです。
ウフフ。人生はそうでなくっちゃね。
佐藤:昨日、内定式行ってきました。
鈴木:僕も栗くださいよ。
奥田:栗美味いですよ。
佐藤:他に受かったところでいうと、楽天という会社が。
鈴木:一人で食ってるんだもん。一人で持ってきて。