鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

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CS人気番組「この映画が観たい」との共同企画「鈴木敏夫のオールタイムベスト」

2015年8月2日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol383.mp3

 

鈴木:映画だけじゃなくて、すべての原体験って映画館の中なんですよね。というのは、僕の親父とお袋が大の映画ファンで、親父が日本映画でお袋が洋画。というわけで、代わりばんこに連れられてって(笑)それで映画ばっかり一週間に何本も観るかっていう環境の中で育ったんだけれど。

 

一番最初に観た映画はね、なんか劇映画だったんだろうけれど、関東大震災を扱った映画。たぶんこれじゃないかって、ある人が教えてくれたんだけど、もう一度観直してなくて、ちょっとタイトルがわかんないんですけど、関東大震災の最中のドラマでしたね。

 

あとは、僕らの時代だと東映の時代劇、全部観てましたよね。時代劇に限らないですけどね。それと、洋画も特に思春期の頃っていうのかな、お袋と二人でね、「007」を観まくるとかね(笑)そんなことやってました。

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

今週は、CS映画専門チャンネルムービープラス」の人気オリジナル番組「この映画が観たい」との共同企画をお送りします。

 

テーマは「鈴木敏夫のオールタイムベスト」。鈴木さんが選ぶ名画の数々のエピソードを交えてご紹介します。まずはこんなお話から。

 

鈴木:この「ドーバー青い花」っていうのはね、僕は忘れないんですよね。たぶん、高校1年くらいかな。中3か高校1年なんですよ。これはいわゆる映画館じゃなくて、試写会で観たんですけどね。名古屋だったんですけど、愛知文化講堂っていうところで。

 

なんで観たかったかというと、僕はこの主役のヘイリー・ミルズっていう人、この人の大ファンで。日本で随分昔のことになるから、若い人にはピンとこないけれど、「罠にかかったパパとママ」っていう映画があってね、これが日本で大ヒットするんですよ。その映画って実はディズニーだったんですけれどね。ディズニーのライブアクション

 

で、ディズニーと契約してね、毎年一本ずつ色んな映画撮ってたんですよ。「難破船」とか「ポリアンナ」とか。その後、ある年齢になるじゃないですか。小さい頃から映画出てたんですけど。それで独立して、ディズニーとの契約が終わってね、それで初めて撮ったのがこの映画なんですよ。

 

その時にね、お父さんと共演なんですよ。お父さんは有名な役者さんで、ジョン・ミルズっていう「ライアンの娘」とかね、ああいうところにも登場するんですけど。あれでアカデミー助演賞獲ったのかな。そんなこと言ってると、僕マニアみたいですね(笑)

 

これ皮肉れた女の子で、その女の子がある女性の家庭教師との出会いによって、心が開くっていうやつなんですけど。元々舞台なんですけどね。舞台劇。

 

日本語のタイトルは「ドーバー青い花」っていうんだけど、原題が「The Chalk Garden」。彼女はイギリス人だったんですよ。ドーバーってね、白亜。つまり石灰で、花が咲かないんですよね。彼女はお婆ちゃんと二人で暮らしてるんだけど。良い家の子で。それで、いくら庭に花を咲かそうと思っても咲かない。そこへ現れたデボラー・カー扮する家庭教師が、彼女の心を開くと同時にその庭にも花が咲くようにするっていう良い話なんですよ。

 

で、話も去ることながら、なんていったって彼女の大ファンだったから。ちょっとしたエピソード話しますとね、僕はいわゆるファンレターって生涯一度きり出したことがあって。たぶん中学2年くらいなのかな。習いたての英語で一生懸命書いて、彼女に送ったんですよ。僕。それで返事を期待したのにも来なかった。頭きたんですけど。

 

それで、後に僕はウォルト・ディズニーというところと仕事でお付き合いすることになって、アメリカでディズニースタジオの中でね、向こうの取材を受ける機会があったんですよ。それで質問されたんですよね。「ミスタースズキ、あなたはディズニーの長編アニメーション、どれが一番好きだ?」って。

 

困ったんですよ。僕。困ってね、それでハッと思いついたのはね、ヘイリー・ミルズそういえばディズニーだったな。それでアニメーションじゃない、ライブアクションなんだけれど、実は彼女が出た映画が好きだって言ったら、「そのタイトルはなんだ?」って言われてね、「罠にかかったパパとママ」って日本語のタイトルで、元のタイトルわかんないんですよ。それで聞いてみても誰もわかんないしね。それでハッと思いついて。主題歌を覚えてたんですよ。「Let's Let's together year year year」っていうやつなんですけどね。それでちょっと歌ってみたんですよ。そうしたら、そこにいたディズニーの古手のスタッフたちが、一緒になって歌い出して合唱になっちゃったんですよ!本当に。みんなでそれを歌いまくって、それで事なきを得るというか、誤魔化したんですけどね(笑)

 

それで、その様子を見ていた向こうの責任者が、ちょっと僕にねサプライズをしてくれたんですよ。日本へ戻ってある日、僕の会社へ彼女からちっちゃな小包が。開けてみたら、自分の出演作品のビデオにヘイリー・ミルズと書き、尚且つ手紙まで入ってて。つまり、計算すると正確にはわからないけど、50年前に出したファンレターの返事が50年後に戻ってきたっていう。

 

インタビュアー:羨ましいですね。

 

鈴木:いや、すごい嬉しかったから!なんていったって彼女の大ファンでね、今もそうなんですけれど、彼女のサインを僕書けるんですよ。紙があれば書くぐらいなんですけれどね。そのぐらい大ファンだったんで。それと同時に、映画としても非常に良い映画なんで。

 

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鈴木:「テキサスの5人の仲間」っていうんですけどね。本当のタイトルは「Big Deal at Dodge City」っていうのかな。これね、B級映画なんですよ。アメリカの。これは映画館で観たんじゃなくて、高校生の時かな、偶然テレビで観て。大学の時かもしれない。一発ですんごい好きになっちゃって。

 

いわゆる、映画ファンの間で俎上(そじょう)に載せてね、みんなが論議をするような映画ではなかったんですよ。僕はたぶん大学生くらいだと思いますけど、この映画を観たのは。

 

中身はね、ポーカーゲームの話なんですけどね。この映画を好きになったけれど、何となく勘でね、自分の周りでこの映画を観て、本当に好きだっていう人はまずいないだろうって。自信を持ってたんですよ。絶対にいないはずって。

 

ところが、29かな。宮崎駿という人と出会うわけなんですけどね。出会った当初って、お互い何が好きかって色んな話するじゃないですか。そうしたらなんと、宮崎駿が観てたんですよ(笑)僕が観てるっていうことを知ってね、ものすごい驚いて。「え!鈴木さんも観てたの!?あれ良いよね!凄いよね!」って(笑)っていう、僕と宮崎駿が一緒に仕事をする時のちょっと誇張すると、キッカケになったような作品なんですよね。だって、これほとんどみんな知らないですもん。この映画。たまに今でもテレビでやったりはするんですけれど。実はこれもビデオになってない。

 

この映画は、ヘンリー・フォンダっていう人がいて、ポーカー好き。西部へ来て色々やるっていう話で、あんまり中身話すとつまんなくなっちゃうので言いませんけど、予告編で言うなら、このタイトルをつけた人は最高に天才だと思うんだけど。この「テキサスの5人」とは一体誰なのかって、これだけを頭に置いてみると、絶対面白い映画になるんで。

 

それで何が良いかっていう時に、僕宮崎駿と喋って、お互いそれも一致してたんですよ。この中にある女性が出てくる。その女性のことをある人が最後に、やっぱり本当に好きな人と男は一緒にならなきゃダメだよっていうのがあるんですけれど(笑)これも予告編。素晴らしいんですよ!

 

ちょっとだけバラしちゃうと、ある男がお金とか色んなことのために欲しくもないある娘と結婚しようとしてたっていうところから物語が始まる。それを最後にひっくり返すんですよ。「お前は本当にそれでいいのか?」っていって。これはラストシーンに大きく結びつくんですけど。

 

もちろん、途中のポーカーのゲームのシーン、何回も出てきますからね、手に汗握るんですけど。これは内容喋っちゃうと、本当つまんなくなっちゃうんで。ぜひ観ていただきたいですね!

 

こうやって観ると一見、どっかの牧場で決闘でもあるのかなって思うけれど、決闘は決闘でもポーカーの決闘なんで。でも良い映画ですよ。これ。宮崎アニメにも通じるものがありますよね。でも本当面白かった。大好きです。この映画は。

 

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鈴木:ぼく名古屋で、高校生の時に観たんですけれどね。新聞広告があるんですよ。「春のめざめ」っていうタイトルだけれど、ギリシャ映画で。ここにいわゆるキャッチコピーがある。「18歳未満でも観られます」って(笑)これ観たくなるんですよねー。多感な高校生だったら。それでね、みんなで観に行くわけですよ。

 

これもテレビでまずやらないんですよねー。もちろんDVDも発売されてないし。僕は後に海外のやつを手に入れるんですけど。観ていくとわかるんですけど、再見して驚いたのは、僕は全編セリフがないと思ってた。ところが観ると、ちゃんとあるんですよね。とはいえ、セリフがほとんどないんだけれど、この子ともう一人の少年が出てきてね、美しい話。僕は本当に感動しちゃってね。

 

動機は不純だった。ところが、動機の不純をかき消すように心が浄化されるような映画でね。凄い感動しちゃったんですよ。

 

これは後に知るんですけどね、このパンフレットは後にある方に頂いて、驚くんですよね。なんでか。この裏だったと思います。春のめざめに寄せてって、詩が書いてあるんですよ。あの谷川俊太郎っていう詩人が映画を観て、それを詩にしてるんですね。

 

「愛ということばが生まれようとしている

 

クローエの息の中から

 

心と体がわかれようとしている

 

クローエの乳房のしたで

 

海辺の村の愛のあけぼのーー

 

その潮騒はいまにつづいて

 

少女のなかに今日も二羽の鳥がいる

 

殺された鳥と放たれた鳥と」

 

びっくりですよね。このパンフレットを作ったのはどういう人なんだろうと思って。だって、感動したんですよ。感動して、どういうパンフレットを作ろう。で、谷川俊太郎さんに当時売れっ子の詩人でしょ?彼に観てもらって、それを詩にしてもらう。それをパンフレットにつかったわけでしょ?凄いなと思いました。

 

この女の子が、クレオパトラ・ロータっていうんですよ。ベルリン映画祭で最優秀監督賞とか貰ってるんですよね。「純」っていうんですかね。イノセンス。イノセントか。無垢っていうやつですよね。無垢を映像化すると、こういう映画が出来るのかって。大人になったからそういうこと言えるんだけれど、とにかく高校生に観た時は圧倒されて、言葉も出なかった。不純な動機で行った仲間たちは、みんな映画を観終わったあと、外は出てきて誰も何も喋んなかった。

 

でも、宣伝文句がね、「18歳未満でも観られます」っていうのがね(笑)それどうなのかなーって思うけど。でも映画って、そういう部分があったんでしょうね。やっぱり観てもらわないと話にならないから。

 

で、僕はこの映画はね、そういうわけでずっと心に残ってて、後にあるロシアのアニメーション映画、そのタイトルをつかないといけないってときにね、ここから頂くんですよ。「春のめざめ」って。本当にまさに「春のめざめ」の映像化だから。

 

と同時に、僕は実はこの映画をね、「ゲド戦記」やる時に、吾朗くんに観せたんですよね。宮崎吾朗に。ヒロインのモデルにこの子はどうだって。この中にゲドと少女が出てくるんだけれど。この感じが出たら、良い映画になるんじゃないかなって。参考試写もしました。

 

まぁ神話ですよね。一種。さっき宮崎駿と「テキサスの5人の仲間」っていうのを話したんだけれど、なんとこれはですね、高畑勲が観てて(笑)高畑勲が大好きな映画だったんですよ。だから高畑さんと親しくなる大きなキッカケにもなった作品。それは忘れてたんですけど、喋りながら思い出した(笑)

 

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鈴木スタンリー・キューブリックって、色んな人が好きな人多いでしょ?それこそ「2001年宇宙の旅」をはじめとして、「ロリータ」がどうしたとか色んなものを作ってるんだけれど、実は僕はこれが大好き。

 

これは正直に言いますと、あるアメリカの評論家。その評論家の方が古今世界の映画を10本挙げて、そのうちの一本にしたのこれなんですよ。キューブリックの中でこの「バリーリンドン」を取り上げたんですよ。そこにもの凄い面白いことが書いてあったんです。僕はそのことによって目を見開かされるんだけれど。

 

ずばりこう書くんですよ。「この映画はつまらない」って。いきなり。「しかし、なぜつまらないかを考えると面白くなる」って書いてあるんですよ(笑)それで確かにそういう映画なんです。

 

映画には2種類あると。要するに、スピルバーグのように全てを見せてくれる映画。ところが一方で、小津安二郎に代表されるようにね、描かれてるものだけでは全て面白味はわからない。何でこんなことをやるんだろうって考えると面白くなる。映画はこの2種類だって。それで言ったら、「バリーリンドン」はまさにこの後者である。

 

その人から僕はずいぶん学んで。学んだっていうのはね、この映画って、たぶんキューブリックの中で全作品の中で桁外れにお金のかかってる映画。たぶん18世紀くらいですかね。あるヨーロッパ、まるごと再現。すんごいお金かけてセットを作り、そしてそこでやってることは何かっていったら、ドキュメンタリー。架空のドキュメンタリー。

 

つまり、みんな下手な役者さんを起用。そのことによって現実感を出そうとする。それでまるでその時代にカメラがあって、ドキュメンタリーフィルムを作ったように作ったのがこの映画なんですよ。

 

僕は自分で観て、本当のことを言うとわからなかった。ところが、その方の示唆によって、それがものすごく理解出来て、それで面白かったっていうのは覚えてますね。

 

テーマっていうことでいうとね、この映画が作られたことってね、いわゆるサルトルとかカミュっていう人がいて、実存主義。ちょっと関係あるんですよ。この映画の言わんとするところってね、「人生はそんなに面白いものじゃないよ」ってこと言ってるんですよね。だから、面白くなきゃ面白いもの作ればいいじゃないか。そんなようなことがテーマに作った映画でね。

 

かつて、サンスーシという街を訪ねたことがあって、そのお城をねガイドしてくれてるあるおじさんがいた。もちろん、向こうの人なんですけどね。ヨーロッパの人なんですけれど。ドイツ人だったと思うんだけど、色々喋ってて僕が映画が好きだとわかって、どういう映画が好きだ?っていったら、その時に「バリーリンドンだ」って話したんですよ。そしたらなんと、そのガイドのおじさんが、もうジジイだったんですよ。急に胸を張って、「私はバリーリンドンのスタッフの一人だった」って。えー!って。セットを作ったスタッフの一人として、僕はやってたんだって。それを言われてね、そのエピソードをすごい覚えてるなー。

 

ちなみにキューブリックの中で一番当たらなかった作品で(笑)だから、すごい赤字出したんですよね。でもね、気持ちはわかりますよ。その架空のドキュメンタリーを作ってみたいというのはね、ジブリでいうと、高畑勲。彼もアニメーションでありながら、常にそれをやろうとするんですよ。で、映画の一つの種類としてそういうものがあるんですね。

 

この「バリーリンドン」というのは、僕がいつ観たのかっていうのは、たぶん大学の時だと思うんだけど、本当のこと言って、何がなんだかさっぱりわからなかったんですよ(笑)

 

ところが後に、キネマ旬報でね、これはアメリカの人なんですけれど、ドナルド・リチー。日本文化に大変造詣の深い人で、この人がですね、「映画理解学入門」っていう本を出したんですよ。で、世界の古今東西映画を10本選んで、日本映画も選んでます。「東京物語」とか。それで10本選んで、解説していったんですよ。映画100年の歴史の中でこの10本が面白い、という中にこれを入れてたんですよ。もう一言で言い切りましたよ。「架空のドキュメンタリーなんだ」と。要するに、18世紀を再現し、そこで敢えて下手な役者さんを選んで、それで演技させる。そのことによって、リアリズム。現実感を出したかったんだと。そういうことを意図したんだろう。そういうことを全部教えてもらった上で観てみたら、こんな面白い映画なくて。これは本当に勉強になった映画ですね。

 

やっぱり、日本の映画なんか今そうなんだけどね、映画ってね、大きくいって2種類ある。主人公に感情移入出来るように作るのか、それとも主人公を含めて、登場人物全員を客観的に見るのか。っていうことでいうと、今日本映画って、みんな感情移入型の映画になってるでしょ。しかし、西洋の映画って、中々感情移入型の映画作らない。特にこの映画は誰にも感情移入させないように作ってるんですよね。

 

人間っていうのは一体なんなのか、を感情移入させないことで、考えさせるように作ってる。それがね「バリーリンドン」の面白さの秘密。これはドナルド・リチー先生様々です。僕はドナルド・リチーから映画を随分学びました。