鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

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小説家・中村文則さんとの座談会 その2

2016年1月13日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol402.mp3

 

中村:日本人だから世界に言いたいことを言ってやる、とか思ってというのもあって。でも世界を見渡すと、ひどいんですよ。色々。色んな構図が。だから言いたいことを言ってやるって思って。これがチャンスだと。自分の言いたいことを、何の制約もなく好きなように書いたっていうのが、この本ですね(笑)

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

今週も先週から引き続き、小説家の中村文則さんをお迎えしての座談会。中村さんの著書「教団X」に焦点を当ててお送りします。

 

出席者は、ドワンゴ会長の川上量生さん、「教団X」を細部まで読み込んだという米倉智美さん、そして鈴木さんです。今週はこんなお話から。

中村:一番良いのは、前の小説を常に超えたものを書くっていうのが一番なんですけど、少なくとも必ずこの小説を超えた部分があるとか、そういったものが出てこない限り書かないっていうのは毎回やってるんですけど。

 

でも自分の作品が多岐に渡ってきて、今やってるのは「去年の冬、きみと別れ」という本を超えるものを書くっていうのを今やってまして。今書いてるものの、次の次の次ですかね。に書く小説で「教団X」を超えたものを書こうかなっていう風に思ってます。色んなタイプの本を書いてますので。また違うアプローチで書こうかなっていうアイディアが今あったりするので。相当大変だと思いますけど。

 

でも色んな人に言われました。これ書いて、これからどうするの?っていうのは色んな人に言われました(笑)

 

川上:本当そうですよね。

 

中村:全部書いちゃったんじゃないかって言われるんですけど。でも小説っていうのは奥が深くて、どんどん出てくるんですよね。色々と。もう少し先の話ですけど、その小説でこれを超えるものを今練っている途中ですね。長くないとこれは超えられないので。

 

川上:長さなんですか?(笑)

 

中村:やっぱり長さありますよ。「教団X」が短いとちょっと、、これでも省くに省いてるんですけどね。書こうとしていること。実は風景描写とかほとんどないんですよ。

 

米倉:ないですよね。

 

中村:本当は小説って、風景描写だけで1ページとかは平気であるんですけど、それも全部カットして、削ぎ落として削ぎ落として、それでこれですからね。

 

鈴木:だからそういうことでいうと、読みやすいですよね。

 

中村:そうですね。読みやすいのはあると思います。

 

鈴木:第一部を1日で読んで、間を置いて第二部をまた1日で読んだんですよ。そういう読み方が出来る本。次から次へと先へ先へ進みたくなったから。

 

米倉:全然眠れなかった。

 

中村:それはありがたいですね。短いのが僕は本当は好きで。短い言葉で大きいことをどう言うかっていうのをずっと考えて。

 

助詞とかあるじゃないですか?例えば、「そんなことはない」の「は」が余計だと思うと、「そんなことない」とか。ちょっとでも短くしようとするんですよね。

 

鈴木:余計な形容詞ないですよね。全体を通して。こんだけ長いのに。

 

中村:長くて詰まってるっていうのはあるかもしれないですよね。

 

鈴木:形容詞がないっていうのは、すごく読みやすいんですよね。みんないっぱい書くから、それ。

 

中村:風景描写って特にそうですよね。

 

鈴木:世界を作っておいて、人間を描こうとするから、どうしても昔の人はそうやってやってましたよね。

 

中村:ホテルの部屋とかも、ホテルの廊下でドアが並んでいて、静かで、絨毯があって、とか書くと長いじゃないですか。

 

鈴木:勝手に想像しろと?

 

中村:「沈黙したドアが並ぶ」とか書くと、一言で全部わかるっていうか、「あ、静かだな」とか全部わかるとか、そういうのは色々研究して、短くどうデカいことを書けるかなっていうのはやりました。

 

---

 

中村:タイトルは最初「『教団』にしないか?」って言われたんですよね。でも教団ってなんか「だからなんだ?」って感じなんで。「X」ってつけたらインパクトあるんじゃないかって思って。「教団X」ってなんだよって自分でも思ったんですけど、まぁいいやって思って(笑)

 

鈴木:でもそれに惹かれましたよね。

 

米倉:惹かれましたね。

 

鈴木:あれ「X」がなかったら、、

 

中村:なんか弱いですよね?

 

鈴木:全然弱い。インパクトがあるんですよ。「X」によって。そこに謎が出てきているし。

 

川上:題名自体に狂気が宿っていますよね。

 

鈴木:そう。

 

中村:だいぶヤバい表紙ですからね。これ絵みたいに見えて、実は写真なんですよね。

 

川上:え?

 

中村:これ実は全部シャンパングラスなんですよ。曼陀羅に見えるんですけど、これシャンパングラスなんですよ。

 

米倉曼陀羅だと思ってました。

 

中村シャンパングラスを重ねたものを写真撮ってるんですよ。

 

米倉:絵じゃなくて?

 

中村:絵じゃないんです。写真なんです。

 

鈴木:写真を加工したんですね。

 

中村:写真を装丁家鈴木成一さんが加工して、全然違うように仕上げちゃったんですけど。これ実はグラスで出来てるんですよね。

 

米倉:これはご希望だったんですか?

 

中村:もう全然ですね。鈴木さんにお願いする時はお任せしちゃうので。で、僕のこれまでの本の中で一番装丁難しいって仰っていたんですけど、出来上がってきたのを見たら、うわっと思って。

 

鈴木:良いですよね。凄く良い。

 

中村:「教団X」の文字がワインレッドバージョンもあったんですけど、ちょっと見えづらくて。黒は黒で見えづらいんですけど。これは浮き出すっていう、字を浮き出させるのが結構時間かかって。

 

米倉:最初これをネットで装丁とタイトルを見た時に、ミステリーかな、とか、サスペンスかなと思って。

 

中村:ジャンルもよくわからなかったものだったってことですよね?

 

米倉:良い意味で裏切られたんですけど。

 

鈴木:これね、こうやって文字が浮かび上がってるでしょ?高いんですよ。これ。

 

米倉:えーそうなんですか?

 

中村:そうなんです。これ高いんです。

 

米倉:二倍くらいするんですか?

 

鈴木:部数にもよるけれど、一冊につき50円くらいかかるのよ。

 

米倉:え!高い。

 

鈴木:僕、出版社にいたからよくわかるんだけど(笑)

 

中村:これ細かい部数はあれなんですけど、純文学だと本の値段って、初版部数とページ数で決まるじゃないですか。部数が少ない本ってどうしても高くなっちゃうんで。これ書いてる時だったら、ある程度の部数で出せるので、そうすると、安く出来る。2000円を切ることが出来ると思って。

 

それもあってこのタイミングでこの厚さを出したっていうのもちょっとあるんですけど。本当だとこれ2600円くらいするんです。それを1800円に出来て、浮き出すのも使えたっていうのは、今がそれが出来るチャンスかなっていうのもあったりして。

 

鈴木:部数が少ないとね、どんどん高くなっちゃうんですよ。2万くらいまでだと50円くらいになってくるんですよ。箔押しとか色々あるんですよ。僕も好きだったからよく使ったんで。

 

中村:これ一回書店さんから消えたことがあったんですよね。テレビで紹介された時に。その時に集英社さんが大急ぎでこれを増刷する時に、この浮き出しで3日でしたっけ?

 

鈴木:そう。余分にかかるんですよね。

 

中村:余分にかかっちゃうっていうのがあって。出版社からすれば損なんですけれど。間に合わないというのは。でも一個一個浮き出しにして、ちゃんとやるっていう(笑)

 

鈴木:逆にやるのも面白いですよ。絵の方をそれでやるんですよ。それで文字の方を普通の印刷でやるとかね。僕そういうの好きだったんで(笑)

 

中村:それものすごく高くなる、、

 

鈴木:それは版を作れば出来るから。

 

中村:そういうもんなんですかね。

 

鈴木:僕やってみたことあるんですよ。「明日のジョー」ってあるじゃないですか。あれの真っ白になって下を向いてるやつを、線画だけをそれにしてみたんですよ。そうしたら無茶苦茶面白いんですよ。

 

中村:面白いですね。

 

鈴木:だから逆の発想でね。そうしたら、ちばてつやさんが凄い喜んでくれて。普通こうなると、金赤でやりたがりますよね。タイトルなんかもね。それを敢えて黒にしたのは正解ですよね。

 

川上:これで1800円は安いですよね。

 

中村:そうなんです。実はすごい安いんです。あと紙も凄い軽いやつ使ってるんです。

 

鈴木:これ厚さのわりに軽いんですよね。あとね、本当は重さにこだわると面白いですよ。

 

中村:重くするってことですか?

 

鈴木:僕2000円以上の本は、必ず1キロにしたんですよ。

 

川上:1キロ(笑)

 

鈴木:いや本当に。

 

中村:なんでですか?

 

鈴木:そうするとね、2000円払う気になるんですよ。

 

米倉:なるほど。大事にしますよね。

 

鈴木:そう!

 

米倉:捨てられない、全然。

 

中村:重いから。

 

鈴木:そう。その効果ってあるんですよ。斤量って言うんですけど。わざと紙の重いやつを使うの。値段によって重さを決めてたんですよ。実は。

 

例えば、僕らだと「THE ART OF NAUSICAA」なんてね、2000円にするわけですよ。重くしなきゃいけないから、目方本当に測るわけですよ。で、1キロって。

 

米倉:紙が重いんですか?

 

鈴木:そう。分厚くなるの。

 

中村:永久保存版感を出すってことですよね。

 

鈴木:そうそう。本当はね、冗談でやってみたかったくてしょうがなかったのは、表紙が重いとかね。やってみたいんですよ(笑)

 

川上:最初開くのが重い(笑)

 

鈴木:そう(笑)そうすると、なんか大事なものになるでしょ?そういうことってある気がしてるんで。だからこの本見た時に表紙が良かったから、若干の不満さは軽さなんですよ。

 

中村:なるほど。

 

鈴木:で、これを川上さんに言いたいんだけど、デジタルで読むんじゃないって言いたいんですよ(笑)

 

米倉:川上さん、デジタルで読んだんですか?

 

川上:僕iPhoneで読んだんですよ。

 

米倉:え?

 

川上:だから全然終わらなくて。ページ数も何万ページとかになってるんですよ(笑)

 

米倉:最初ウンザリしますよね(笑)それ見た時に。

 

中村:僕、電子で読んだことないですからね。これいつまでも終わらない感じですよね?先見えないですよね?

 

川上:そう。全然終わらなくて。「おかしいな」と思って。でも携帯で読んでるから、時間がかかってるだけだと僕は信じてたんですよ。

 

米倉:実際どうでした?

 

川上:だから2/3くらい読んで気づきましたよ。これはおかしいと。どう考えてもおかしいと(笑)

 

米倉:さすがにこれ持って電車に乗らなかったですね。

 

中村:鞄が埋まりますもんね。

 

米倉:そうなんです。女子としてはですね。あんまりちょっと荷物増えるなーって。

 

鈴木:でもこれ、上下より一冊の方がよかったね。

 

米倉:もちろんです。

 

中村:やっぱり上下にすると値段が上がるので、少しでも安く皆さんに読んでもらうには。

 

米倉:だからこそじっくり読みました。家でじっくり読んだ。

 

鈴木:これハードカバーで分厚いわけよ。これソフトだったらこんなに読まないもん。

 

米倉:そうなんですよ。移動時間で刻み刻み読むんじゃなくて、夜10時から朝4時くらいまで缶詰めで読むっていうのが出来たので、凄い集中したし、移動中には読んではいけない内容だと思って(笑)

 

中村:なんか一気に読んだって方多いですね。2日3日で飲んだっていう意見は結構聞きます。

 

川上:正確に言うと、iPhoneだと6465ページあります(笑)

 

中村:そんなありますか!

 

米倉:始める気失せませんか?それ最初にページ数読んで(笑)

 

川上iPhoneで小説読んだの、これ初めてだったんですよ。感覚わからなくて。

 

鈴木:川上さんこの間ね、ある温泉で二人で入ったんだけど、なんか持って入ってるんですよ。iPhoneを。何かと思ったら小説読んでるんですよ(笑)

 

川上:そう。鈴木さんに薦められたやつを(笑)

 

中村:水って大丈夫なんですか?それって。

 

川上:意外と防水なんですよ。

 

中村:意外といける?

 

川上:防水って謳ってないんだけど、全然普通に濡れたくらいじゃ大丈夫ですよ。

 

米倉:でも中の隙間からプロセッサーとかやられません?ちょっとした隙間からプロセッサーやられません?

 

川上:と思うでしょ?意外と大丈夫なんですよ。

 

中村:意外とやられてる可能性とかことないですか?既に。 

 

米倉:いつ電源入らなくなるかわからないですよね?

 

川上:いや、これ実はiPhone6Sをすでに買ってるんですよね。壊れたら差し替えようっていう。

 

米倉:SIMを差し替えようと。

 

鈴木:何考えてるの(笑)

 

川上:発売時期が近づくと、お風呂の中で読み始めるんですよ。

 

(全員、笑い)

 

中村:じゃあやっぱり不安は感じてるわけですね(笑)

 

川上:不安は感じてる。買ったばかりはやっぱりやらないんですよ。そろそろどうせ買い替えたいから、、

 

中村:防水って信じない方がいいですよね(笑)

 

川上:だからね、新機種が出るたびに買い替えたいんだけど、勿体無いっていう気持ちがあるんですよ。だからもし壊れてくれたら気持ちよく買い替えられるじゃないですか。

 

中村:言い訳ですよね(笑)

 

---

 

鈴木:映画化の話は来ないんですか? 

 

中村:ああ、この小説に限ってはないですね。

 

鈴木:そうなんだ。

 

中村:映画にする勇気が、、結構勇気いると思いますよ。これ。

 

鈴木:僕、職業病でね、考えちゃうんですよ。どうしても(笑)

 

川上:セリフこれめっちゃ長くなるんじゃないんですか(笑)

 

中村:これ映画にすると、かなりのチャレンジですよね。

 

米倉:結構、過激な描写もたまにあったり。 

 

中村:そうですね。過激な描写がいっぱいあるので。

 

鈴木:映画にする時に、DVDの部分、そのままやるべきだと思ったんですよね。でも普通の映画人がやると、どうしてもそこをドラマの方に持ってっちゃうから。だから本みたいな作りにしちゃう。そうしたら面白いんじゃないかなって気がしたんですよね。

 

中村:でも映画館で観る人なんかも、ワーグナーのあれ聴くみたいな。休憩があって何時間みたいな(笑)

 

米倉:これ映画化になったら、何時間くらいで収まるんですかね?

 

鈴木:だからやる人によって全然変わる。

 

米倉:二時間で出来ますか? 

 

鈴木:やる人は二時間でやっちゃう。90分くらいでやっちゃう。

 

米倉:教義抜いたらダメですよ。絶対ダメですよ(笑)

 

鈴木:「カラマーゾフの兄弟」だって、あれ確か映画あるんですけど、もの凄い短いのよ。

 

中村:ああ、そうですね!

 

鈴木:「薔薇の名前」なんかも、あんなやつがなんでこんな映画になっちゃうんだろうって。

 

中村:たしかにそんな長い映画じゃないですもんね。あれ。

 

鈴木:だって「カラマーゾフの兄弟」なんて、兄弟がどうしたとか、兄弟の名前だけで永遠続くとか、色々あるわけですよ。そこなんて一体どうするんだっていうね(笑)ドストエフスキーってなんで好きなんですか?

 

中村:やっぱすごい深いので。すごい好きです。描写は例えば、女性一人出てくると、その女性がどんな服を着てるかとか1ページくらい使うので、その情報いらないって思うんですけど。書いてることはすごく好きなので。僕なりのそういうのを書こうっていうのを野心としては、一応あったりもしたりなかったりするんですけど。

 

鈴木:中村さんにとっての「カラマーゾフの兄弟」なんですね。

 

中村:という風にあまり大きい声で言うと批判を受けるので、僕のホームページのあるページにちっちゃくチョロっとは書いてますけどね(笑)

 

鈴木:なんで批判受けるんですか?

 

中村:おこがましいとか色々言われちゃうんで。なので、自分のホームページだったら自分の読者さんしか来ないんで、それだったら。

 

鈴木:人が勝手に言うのはいいですよね?

 

中村:それは全然構わないですけどね。

 

鈴木:僕らの世代だと、あれ必読書だったんですよね。とにかくわかってもわからなくても読まなきゃいけない。「罪と罰」もあるけれど、若者に焦点を当てたってことですよね。それはそれまでの小説になかった。腐っていく死体を目の前にしながら、本当に人間じゃなくなる。そうなった時に「これが神だ!」って言ってね、みんなが叫ぶあのシーン。そこがあの小説の真髄はここだよなって、そんなことを死んでっちゃったんですよ。

 

中村:長老が腐ってっちゃうところですよね。奇跡が起こると思ってみんな待ってたら、普通に腐ってしまうっていう。あそこで奇跡が起こったら台無しですからね。全て。

 

鈴木:でもそれを言い切る。

 

中村:そうですね。しかも当時。

 

鈴木:そう。カフカなんかと影響があるんですか?やっぱり。

 

中村:そうですね。大きいですね。海外文学のあの辺の古典は大好きで。

 

鈴木:あんまりいないですよね。その年代で。

 

中村:僕デビューしたの25歳だったんですけど、25の時にそういうのが好きって言って出てきたっていうのが、かなり異質だったみたいですね。「なんじゃコイツ」みたいな。

 

鈴木:絶対そうですよね。

 

中村:でも僕は、現代文学あんまりわからずにデビューしたので、何がいけないのかよくわからなかったんですけど。そういう変わってたのが良かったみたいですね。みんなと同じものとか、古典名作だから同じものと言えば同じなんすけど。

 

あんまり流行ばっかり追っかけて読んでいても、みんなと同じような感覚しか持てなくなっちゃうので。バックグラウンドがちょっと変わってたっていうのがデビュー出来た理由なのかもしれないなっていうのが、今になって思いますけどね。

 

米倉:私もすごく本が好きで、水と空気と一緒くらいに本がないと生きていけないんですけど(笑)本は元々お好きなんですか?

 

中村:そうですね。元々好きですね。高校生くらいですね。暗かったので、ものすごく。すごく暗くて、ずっと演技して生きてきたんですよ。皆さんそういう傾向ってあると思うんですけど、高一の時にそれに耐えられなくなってしまいまして、教室行ったら、色んな人が椅子に座ってみんな黒板見てるのが、気持ち悪いと思って。他人がいっぱいいると思って。急に学校行けなくなってしまって。不登校ですよね。

 

不登校だけど、あんま目立つの嫌だったんですよ。不登校って目立つじゃないですか。だから「ちょっと腰悪い」って嘘ついたりして。腰が悪いから学校行けないし、座れないってことでひと月休んで、高校行って具合悪くなると、「腰が痛いです」って手を挙げて言って保健室行ったりっていうのを繰り返していたんですけど。

 

その時に太宰治の「人間失格」っていう本があって、あれはタイトル勝ちだと思うんですけど、こんな僕は人間失格だと思ってたんで、じゃあ読むしかないと思って。で、その簡単な動機で読んで、太宰を読んだ時の典型的な反応で、「これは僕だ」って思ってしまって。

 

鈴木:はい。

 

中村:そこからですね。高一からです。小説をひたすら読むようになったのは。

 

鈴木:「わざわざ」とか言われるんでしたっけ?

 

中村:あの辺が「これ僕だ」とか思って。

 

鈴木:鉄棒からわざと落ちて、「わざわざ」とか言われるんですよね?

 

中村:そうなんですよ。

 

鈴木:あれすごいですよね。

 

中村:そこからより深くて、暗いのは何だ、みたいなことになってきて。で、ドストエフスキーとかカミュとかサルトルとかカフカとか、昔の本にひたすら潜って。じゃあ日本は何だってなったら、三島由紀夫とか大江健三郎さんとか安部公房とか、とにかくそういうものばっか。

 

鈴木:聞いてると、僕らの世代ですよね?

 

中村:そうなんですよ。それも結構よく言われるんです。

 

鈴木:ねぇ。だって確かサルトルの「嘔吐」とか読んでらっしゃるでしょ?

 

中村:はい。最初は当時のデビューした時の雑誌の人に言われたのが、まさにそうですね。「世代がだいぶ前の世代の読書体験だよ、それは」っていう風に言われました。

 

でもだからといって、そういうものばっか読んでたわけでもなくて、色々読んだんですよ。漫画もいっぱい読んでたし、映画とかも新しいものとかも大体観に行ってたりしたんですけど。その中で一番古典文学がカッコよく感じたんですよね。

 

最初はデビューしなきゃいけないじゃないですか、作家なんで。だから現代文学っぽいことをやった方がいいのかな、とか色々考えてやってたんですけど、全然ダメで。

 

じゃあデビューとかどうでもいいから、自分の好きなものを書けばいいじゃないかって思って。21世紀のシーンが新しい文学を探している時に、拳銃を拾った青年の話っていう非常にオーソドックスなものを書いて、応募したら逆に新しいみたいになって、それでデビューしたんですけど(笑)

 

そこから昔のものに影響を受けつつ、新しいことを加えていくっていうことをずっとやって、現在に至る感じですね。「教団X」も元々にあるのはドストエフスキーとか色んな要素があるんですけど、その中に科学的な最新の理論も入れて、それとドストエフスキーの理論を入れるとどうなるのか、とか色んなことを考えて、新しいものとして出すっていうのを2年半は試行錯誤してやってました。

 

ーナレーションー

小説家の中村文則さんをお迎えしての座談会、いかがだったでしょうか。来週も引き続き、このメンバーでお送りします。

 

中村文則さんは、2002年「銃」で第34回新潮新人賞を受賞してデビュー。2005年「土の中の子供」で第133回芥川賞を受賞。今年5月の「あなたが消えた夜に」まで、数々の小説を執筆してきました。そんな中村文則さんの集英社刊「教団X」、ぜひ書店で手に取って見て下さい。

 

米倉:本が好きで、小説含めなんですけど、ずっと読み手だったわけじゃないですか。それを書き手になろうって、どういう時に思ったんですか?

 

中村:ものすごい憂鬱になりまして。なんか生きていけないくらいだったんですね。その時に悩みはたくさんあったんですけど、実際自分の悩みを全部把握してみようと思って、文章に書いたのが最初です。何悩んでるんだろう、みたいな感じでずっと書いてたんですよね。

 

ずっと書いていったら、気持ちが落ち着いたりして、詩も書いてみたり。今読んだらすごく恥ずかしいポエムだと思うんですけど(笑)それを書いてみたりして、段々短編小説っぽいのをやってみたりとか。

 

で、卒業論文を書く時に、ワープロを初めて持って。ワープロあるから、こんだけ小説好きだから一回長編小説っていうものをやってみようかなって思って、やったらすっごいしっくりきて。人生一回しかないから、これでちょっとやってみようと、その時に思ったっていう感じですね。