鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

ポッドキャスト版「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の文字起こしをやっています。https://twitter.com/hatake4633

春を告げる花咲くスタジオジブリに新社長誕生!! ゲスト:星野康二さん

2008年2月4日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol18.mp3

 

西岡:皆さんおはようございます。本日は星野康二・スタジオジブリ社長就任記者会見へお集まりいただき、誠にありがとうございます。私、本日の司会を務めさせていただきます、スタジオジブリ広報部の西岡と申します。どうぞよろしくお願い致します。

 

(会場、拍手)

 

ーナレーションー

2月1日金曜日の朝、暖かい日差しが差し込むスタジオジブリのカフェに、たくさんのプレス関係者が集まっていました。

 

この日、世間を、そして世界を驚かせる発表が行われようとしていたんです。

 

西岡:さて、先日1月29日にスタジオジブリの臨時株主総会が招集されまして、2005年4月より約2年間社長を務めて参りました鈴木敏夫に代わりまして、本日2月1日をもって、星野康二を新しくスタジオジブリ代表取締役社長に就任されることが承認されました。

 

今日はその事実を皆様へのご報告とご挨拶の場として、報道関係の皆様にお集まりいただいた次第です。

 

ーナレーションー

鈴木敏夫から星野康二新社長へ。

 

スタジオジブリの社長交代。

 

社長を辞めた鈴木さんは、一体どうなるんでしょう。

 

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

この番組は、ウォルトディズニースタジオホームエンターテインメント、読売新聞、ドリームスカイワード、JALの提供でお送りします。

 

ーナレーションー

会見の前、集まった報道陣に一枚のプリントが配られました。鈴木さんに代わって新しくジブリの社長に就任する星野康二さんの華麗なる経歴です。

 

1956年札幌生まれの51歳。81年ニューヨーク州立大学MBAを取得。アメリカ・アームストロング社などを経て、90年にウォルト・ディズニー・ジャパンに入社。93年ホームビデオ部門の代表、2000年44歳でウォルト・ディズニー・ジャパン代表取締役社長およびエグゼクティブバイスプレジデントに就任。

 

うーん、なんか素敵。

 

でも、なぜこんな素敵な方が汗まみれなジブリにやってくることになったんでしょう。

 

新しい社長誕生の裏には、どんなドラマがあったんでしょう。

西岡:この後すぐにですね、鈴木・星野のご挨拶を行いまして、その後、質疑応答の時間、それからフォトセッションを設けておりますので、皆様には何卒よろしくお願い致します。

 

それでは、準備が出来るまでしばらくお待ち下さい。

 

ーナレーションー

会見の直前、鈴木さんと星野さんとは、二人の長い物語を振り返ってくれました。

 

奥田:なんて言うんですかね?星野社長って言うんですかね?これからね。今日何か言われました?

 

星野:いや、特別にはないと思う(笑)

 

奥田:星野さん。

 

星野:星野さんでしょうね。

 

鈴木:最初は様子見ですよ。たぶん。

 

星野:様子見ですよね。

 

鈴木:だって、顔見たらちょっとミッキーマウスに似てるでしょ?

 

奥田:まだね。これから段々トトロに似てくるんでしょ?(笑)

 

鈴木:僕はね、声かけてディズニーとすぐ食事しようと。なんでかっていったらね、星野さんどうもディズニーを辞めるらしいと。

 

星野:5月に遡るんですけど、昨年の。ディズニーの社長を退任して会長になる、イコール時間限定で辞めていくっていうのは自分の中ではっきり決まってたことなんです。

 

鈴木アメリカの方針の中で、もうアメリカ人でやっていこうと決まったんですね。

 

星野:トップが代わる。これは私も賛成したシナリオだったんで。ということは、18年勤めて一旦これで星野は卒業なんだっていうのは、自分の中でもスッキリしたことだったんですよね。

 

鈴木:それを聞きつけたんでね、僕としてはチャンスだと。僕はともかくずっと社長を探してましたんで、星野さん良いなと思ったんですよ。

 

僕その前からね、そんなことが起こる前から「星野さん、いつかジブリ来るよね?」ってよく話してたんです。「その時は色々やってよ」って言ったら「またまた〜」なんて言ってね。よくやってたんですよ、それ。

 

星野:そうなんですよ。でも冗談だと思ってたし。

 

鈴木:僕、冗談でモノ言わないんですよ。

 

星野:(笑)

 

鈴木:それで星野さん、聞いたと。あまり深く考えないでね、ジブリ来て欲しいと。そうしたらニコニコ笑ってばっかりなんですよ。笑ってるだけなんです。でも、とにかく最後にはね、こうやって声をかけていただいたのは有難い。だけど自分でも色々考えてみると。そこから延々何にもないんですよ。

 

星野:3ヶ月近い。

 

鈴木:全然ないんですよ。良い話がいっぱい来たんですよ。

 

奥田:確かになかったですよね。全然リアクションがね。

 

星野:悩んでたんですよ。悩んでました。最初のリアクションは「違うだろ!」っていうのはありましたよ。

 

鈴木・奥田:(笑)

 

星野:僕じゃないんじゃないかなっていう。

 

鈴木:顔に描いてあったんですよ、もう。交渉の時から。それを見ちゃってたわけでしょ。それが引っくり返るっていうのを画策するのは、僕にとってはエンターテイメントなんですよ。

 

奥田:要するに、自分が一番楽しみたいんですよ。

 

鈴木:いやいや(笑)だからね、自分で自分に魔法をかけるの好きなんですよ。どういうことかっていったら、自分に色んなこと言い聞かせると、本当に実現しちゃうっていう。

 

どういうことかっていったら、星野さんはジブリへ来るんだって。何度も言うわけですよ。言ってるうちに僕もそうなるけど、星野さんもそうなるだろうと、どっかで思ってることは確かなんですよ。自分がそうなるとね、その思った分くらい相手も思うだろうって。割とそう考える方なんですよ。

 

奥田:いつもそうですよね、鈴木さん。

 

鈴木:人と人との関係もそうなんですよ。僕が例えば、このくらい好きだからってある分量があるわけでしょ?相手も同じくらい好きだろうと思える方なんですよ。それは楽天的なのかもしれないけれど。そういう部分はありますよね。

 

だからどこかで、確かに星野さんが僕が誘った。でも星野さんはたぶん最初は受けないだろうと。でもどこかで逆転があるだろうと。それが何なのかは僕にとっては楽しみなんですよ。

 

例えばね、僕のことも星野さんのこともよく知ってるある外人がこういうことを言ったわけですよ。外国の人だから、下手な日本語なんですよ。「星野さん、ジブリに来ない?」とか言ったんですよ。

 

奥田:それアルパートさんですか?(笑)

 

鈴木:何でかっていったら、アメリカってトップとそうじゃない人との報酬、すごい差があるでしょ。「もし星野さんがジブリを考えたとしても、星野さんがジブリへ来れば、給料はずいぶん下がっちゃう。だから来ないだろう」って、こんなこと言ってたんですよ。

 

でも僕はそうじゃないって考える方なんですよ。割と考える方なんですよ、それ。人間はそれだけじゃないよって。人と人とが出会って、1+1が2だと思ってると間違いで、3になったり時には10になったりする。そうすると、僕は星野さんとの関係でいうと、1+1がたぶん10になった。そういう関係だと思ってたから。どっちかというと、そっちを信じるんですよ。

 

僕はある時期、ジブリが始まってから、元々出版社にいたでしょ。昼間ジブリにいて、夜に徳間書店に戻って、雑誌の編集、その二重生活をずっと送ってて。宮さんが「もしジブリを続けるなら、鈴木さん、ジブリの専従になってくれないか?」と。こうやって言われるわけでしょ。何しろ社長になんなりしちゃうわけでしょ。

 

それと本当に時を同じくして、徳間書店の販売部っていうところの総意だっていうんで、何かと思ったら、徳間書店で新雑誌をやると。その編集長をやってくれ、なんですよ。

 

目の前に選択肢二つ来たんですよ。宮さんのもとでジブリをやっていくのか、それとも徳間書店が社運をかけて、この大人雑誌をやりたい。それの編集長をやってくれって。どっちをやるか。しかも時間がないわけでしょ。その中で自分が選択しなきゃいけない。

 

これはやっぱり一瞬、僕だってその時は悩んだんですよ。その新雑誌も、僕が記者にもなって編集者になって、大人雑誌で総合誌っていうことだったから、それをやるっていうことに関しては、ある種の希望というのか野望というのか、それは生まれたですよね。

 

だけど一方で、宮さんのこともあるでしょ。でもどっちかは選ばなきゃいけない。両方二つは出来ないわけですからね。今度は。で、悩んだ結果、宮さんのところに行くんですけどね。

 

男性:何だったんでしょうね?

 

鈴木:理由は簡単。その大人雑誌をやりたかったんだけど、ある日ハッと気がつくんですよ。一体誰と一緒にやるんだって。その誰が見つからないんですよ。社内に。それまで子供雑誌とか色々やってきましたよ。だけど、そういう雑誌をやるにはスタッフが、一緒にやれる仲間がいない。

 

ところが、宮さんの方は自分がいないと宮さんやっていかないなっていう(笑)だとしたら、今もう宮さんとは仲間なんだから、一緒にやっていくのがいいかなっていうんで、そちらを選択するんですけどね。でもそういうのってあるでしょ?

 

星野:今の鈴木さんの話なんかも聞いててもね、予測外の展開っていう中で、良い方向に良い方向にっていうのが僕は鈴木さんと付き合ってきて、すごく感じてるし。

 

でもディズニーに入った時もそうなんだけど、その場の人の出会いっていうものの中に、自分じゃわからない未来性みたいなものが、種としていっぱいあるみたいなところあるじゃない?そういう面だと今回は鈴木さんと出会って、ジブリと出会って。

 

鈴木:そういうのってあるでしょ?人と人って。たぶんね、僕は来てくれるんじゃないかなって気がしてたんですよ。どっかで楽観論があるのね。

 

でも人間の世界っていうのは面白いもんで、必ずドラマがあるんですよ。僕らが作ってる映画以上に本物のドラマがある。どういうことかっていったら、今の話でもわかるように僕が話したのはずいぶん前でしょ。その時点でもう星野さんは、ジブリは俺が行くことはあり得ないって。その理由はともかくとして。もう決めてたわけですよ。

 

でもこれが落とし穴なんですよ。それで次から次へと自分にとって良い条件の、そして面白そうな仕事が次から次へと現れるわけですよ。

 

星野:(笑)

 

鈴木:ね?ほんとなの。これは。そういう中で星野さんの中で段々絞られていくわけですよ。AがいいかBがいいかCがいいかって。でもその時にはジブリのジの字もないわけ。ジブリジの字もないんだけど、なぜかそれが潜在的に残ってるんですよ。人っていうのは。

 

星野:確かにそうでしたね。

 

鈴木:消しゴムでいくら消しても消えないジブリの文字が残ってるわけ。

 

星野:全くその通り。

 

鈴木:人間ってそういうものなんですよ。だって宮さんだって、ドラマで何やろうかっていったら、それ探してるんだもん。宮さんがよくこういう言い方をするんですよ。「脳みそのフタ開けなきゃダメなんですよ」って。要するに、頭で考えてるうちは良いお話は作れないって。いつも悩んでて。脳みそのフタが開いたときに良いのが出てくるって。それと同じ。

 

奥田:今の話聞いてると、恋愛脳とかね、そういう感じですよね。

 

星野:あーなるほどね。

 

奥田:色んな人と出会ったんだけど、でもやっぱり結局っていう。

 

星野:確かに鈴木さん言ったように、他のお話があったことも事実だし、最初の段階から違うって自分で公に言っちゃったんですよ。自分の嫁さんにも「こういう話鈴木さんから貰ったんだよ。俺違うと思うんだ」って。ウチの女房なんかは後から言ってくれたんだけど、すっごく良い話だと思ったんだって。ところが、僕があまりにも断定的に「絶対違うと思う」って言ったらしいのね。だから女房はそれ以上言えなかったっていうんですよ。

 

自分の中では最初お話伺った時に、「いや俺じゃないんじゃない?」っていうのがすごくあったんで、自分はそういう風に思うように仕向けてたところがあったんです。今になって思うとね。鈴木さん言った通り、3ヶ月ほったらかしにしてて、これじゃいくらなんでも失礼だから、ちゃんと断らなきゃいけないっていう。

 

鈴木:僕は一個だけ自分で守ったことがあるんです。最初に誘ったでしょ?それ以来一度も星野さんと喋ってないんですよ。

 

星野:そうなんですよ。

 

鈴木:途中で「どう?」って聞いちゃいけないって思ったの。「どう?」って訊いたら、星野さん逃げてくと思ったの。

 

星野:僕もだから会えなかったです。「行かない」って言いながら、会うとか連絡をすることに対して躊躇があったんですよね。それを心の中では怖がってるような部分があって、もし会って断るっていうことになったら、本当に終わっちゃうじゃないですか。やっぱりなんか恋愛じゃないんだけど、自分の腹の中ではあったんじゃないのかなって思うんですよね。

 

鈴木:「来てください」って頼んで、それで一週間経ち二週間経ち一ヶ月経ち、そして二ヶ月目も終わる。何にもしなかったんですよ。

 

奥田:鈴木さんそれで、仮に来なくても絶対去るもの追わずですよね?それ前からそうですよね?

 

星野:それで鈴木さんに「よし」と思って連絡して、あとは電話して鈴木さんに会ってもらおうと思った段階で、もうわかっていただいたと思ったんですよ。その時点で。

 

鈴木:次の日なんですよ。

 

星野:「よし」と思って、れんが屋に来るわけですよ。で、れんが屋でこうやって鈴木さんに会ってもらったら、「星野さん、腹決まった?」って言われたら、「はい。お世話になります」って(笑)

 

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西岡:それでは、スタジオジブリ代表取締役社長に就任いたしました星野康二よりご挨拶申し上げます。

 

星野:何よりも自分の中であったのは、決定的な違いということで考えたのは、ディズニーはウォルト・ディズニーという人は1967年に亡くなってしまって、その亡くなった後のDNAの中で、これだけの大企業、グローバルカンパニーになってきてると思うんですけど、ジブリはそうではなくてですね、現実に宮崎さん、そして高畑さん、そして隣で鈴木さんもまだ生きてるんですね。

 

(会場、笑い)

 

星野:これはすごいことなんじゃないかなって。生きてる人たちの所でですね、生きてる人たちの創作意欲、創作活動、良い映画をこれからももっと作っていきたいんだっていうところに携われるとすれば、こりゃあすごいことなんだなって。そういう意味では気持ち新たにやる気満々で参画させていただけるっていうところに立っているんじゃないかなって思います。

 

(会場、拍手)

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

宮崎監督と星野新社長、そして鈴木代表取締役プロデューサーが汗まみれなトリオを組んで、どんな作品を生み出してくれるのか、楽しみです。

 

西岡:それではですね、昨日をもちましてスタジオジブリの社長を退任いたしましてですね、本日から新しく代表取締役プロデューサーに就任した鈴木敏夫をご紹介いたします。

 

鈴木:すいません。座ったままご挨拶させていただきます。改めまして、ジブリの鈴木でございます。いま西岡の方からご紹介ございました代表取締役プロデューサーなる肩書を作ったんですけど。

 

普通ですとね、僕の役割としては社長をやってたわけですから、その後、普通の会社だと会長とかですね、色んな言い方があるわけですね。どっかの会社だと議長っていう言い方もありますけどね。

 

僕としてはね、現場に拘りたいっていうんですかね。ここが一つ大きいんですね。どういうことかっていったら、映画を作っていく責任者としてその立場を維持したい。どこまでいってもジブリっていうのは、第一に大事なことは新しい映画をどんどん生み出すっていうこと。これが一番大事だと思ってます。

 

ある時宮崎駿に言われましてね。「俺が現役やってるんだから、鈴木さんも現役やれ」と。「俺がやってるうちは、鈴木さんもやるべきで、鈴木さんが辞めるんだったら俺も辞める」っていって脅されたことがありましてね(笑)そういうことでいえば、宮さんがやる限りは僕もやってくんだなって、そんなことを思ってる次第でございます。

 

(会場、拍手)

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

今夜の出演は、スタジオジブリ鈴木敏夫、星野康二、日本テレビ奥田誠治でした。