鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

ポッドキャスト版「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の文字起こしをやっています。https://twitter.com/hatake4633

鈴木敏夫の謎の記憶!トトロとアスペルガー症候群

2008年2月12日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol19.mp3

 

鈴木:僕ね、自分の小学校時代ですけど、いじめってあったんですかね?

 

石川:今とは違いますけどね。ギャラリーがいないですね。その頃は。

 

鈴木:ギャラリーがいない?

 

石川:ええ。一対一に近いのが多かったような感じですね。

 

鈴木:どういういじめがあったんですかね?

 

石川:個人攻撃みたいな。個人が個人を攻撃するような。

 

鈴木:ありました?

 

石川:ええ。

 

鈴木:僕、全然覚えてないですけど。

 

石川:似たような子が争うんですよ。で、どっちかが強くなったり弱くなったりして。ひょっとしたらいじめてたのかなって。

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

この番組は、ウォルト・ディズニー・ホームエンターテインメント、読売新聞、"Dream Skyward"JALの提供でお送りいたします。

 

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

鈴木:あの鈴木敏夫と言います(笑)

 

石川:お世話になります。

 

鈴木:初めてなんですよ(笑)あのね、石川さんとはたぶん、小学校4年生だと思うんですけど、同級生だったんですよ。それで一緒に遊んでたんですけどね。僕は覚えてるけど、石川さんは覚えてない。そう思ってたんですよ。実は。

 

ーナレーションー

昨日発売された文藝春秋3月号の同級生交換というページに、二人の姿があります。

 

スタジオジブリ鈴木敏夫と、児童精神科医石川元

 

鈴木:今回ね、文藝春秋の同級生交換というのがあって、他に色んな方の候補があったけれど、僕の頭の中でずっと石川さんがいたんですよ。で今回、こういう機会があった時に、石川さんがいいなって(笑)

 

ーナレーションー

昭和30年代の名古屋の小学校で4年生の時に同級生だったという二人。

 

鈴木:4年生の時。何にも覚えてないでしょ?覚えてないですか?

 

石川:覚えてないです。本当に完全に忘れてますね。

 

鈴木:僕ね、4年生の時、手下だったんですよ。石川さんの。

 

石川:他には手下いたんですか?

 

鈴木:他にはいない。

 

ーナレーションー

でも鈴木さんには忘れられない記憶があるみたいです。

 

鈴木:旭丘小学校の裏手に壊れたゴミ置き場があったんですよ。パッとみると牢獄みたいで。そこへ石川さんがその前を通りかかる色んな下級生を捕まえてはね、中へ閉じ込めるっていう。

 

石川:ええ!そんな記憶にないです(笑)

 

鈴木:それで僕はそれを手伝わされたんですよ。毎日やってたんですよ。

 

石川:ひどいですね。

 

鈴木:ひどいですよ(笑)でも僕はね、くどいですけど手下だったんですよ。石川さんの。

 

(風船を膨らませる音)

 

ーナレーションー

子供の頃、空に飛ばした風船は何色だったのか。そんな小学校時代のある日の記憶をハッキリ思い出すことは出来ますか?

 

(風船を膨らませる音)

 

ーナレーションー

たぶんそれは星草の中の一本の針を見つけるようなことかもしれません。

 

なぜ鈴木さんには、その針が見えるんでしょうか。まるでその針を今も手に取ることが出来るみたい。

 

(風船を膨らませて、破裂する音)

 

ーナレーションー

きゃっ!

 

石川さんは去年、『アスペルガー症候群ー歴史から現場から究める』という本を編集して出版。今さまざまな不可解な事件の背後に潜んでいるとも言われるアスペルガー症候群の研究を続けているそうです。

 

石川:私もほとんどジブリのものを見ていなかったんです。

 

鈴木:あ、そうですか(笑)それは良いんですけれど。

 

石川:今回初めて『トトロ』を観たんです。でね、訊いてみようと思ってたんですけど、『トトロ』のヨウコちゃんってわかります?

 

鈴木:いや、わかんないです。

 

石川:わかんないですか。

 

鈴木:ヨウコちゃん?

 

石川:私がどんな子供たちを診ているかというと、「空気が読めない」とか「KY」とか言いますよね?駆け引きが出来ないとか。裏表がないとか。

 

低学年の頃は博士とか言われてたら、昆虫図鑑を全部覚えていたり、面白い子なんですけど、段々、対人関係出来なくて嫌われて、5年生くらいからひどいいじめに遭うんですよ。そういう子たちを3歳くらいから見つけて、キチンと対応をさせるっていうことを今やってるわけですね。

 

で、『トトロ』の話っていうのは、ある男の子が2歳半過ぎて、『となりのトトロ』に夢中になったんですね。よくあることだと思うんです。

 

鈴木:はい。

 

石川:お母さんに毎日3、4回は観たいと催促して。そのうち、『トトロ』のヨウコちゃんが、ヨウコちゃんが、って言うんでお母さんが、「ヨウコちゃんなんて出てこないでしょ。サツキちゃんとメイちゃん。で、サツキちゃんのお友達はみっちゃんよ」と。その度に応じてたんですね。みっちゃんっていうのは、二度ほどしか登場しないんです。それもお母さんは知ってて、一緒に観てるんで。ずいぶんトトロ通になってたわけです。

 

で、その後数ヶ月『トトロ』を観ない時期が続いてですね、3歳を過ぎた日にある日突然『トトロ』の話題をその子が出してきて。メイちゃんが迷子になって、「止まって下さい」って言ってバイクの兄ちゃんが「ヨウコちゃん気がついた?」って言うシーンがあるらしいんです。そのことを言ったんです。

 

それでお母さんは改めて観てみると、メイが行方不明になった時に、サツキが探しに行くんですね。そうすると、道のところで荷台のついたオートバイに男と女が乗ってくるんですよ。その時にオートバイの前にバッと飛び出して、「妹を見なかったか?」って言ってサツキが男の人に訪ねるんですね。そうすると男の人はフッと後ろを見て、「ヨウコちゃん気がついた?」って言うんですよ。

 

鈴木:忘れてました。

 

石川:それを観てたんです。母親はそこで初めて納得した。その時に初めて母親は、うちの子はよその子と違うな、と。私たちとは違うな、ってことを感じて、私たちのところを受診したんです。で、アスペルガー障害とかアスペルガー症候群って診断されたんですね。

 

鈴木:3歳ですか。

 

石川:ええ。2歳半の時に、彼は車やオートバイに夢中だったわけです。例えば、母親がどういう時気がつくかというと、絵本を読んであげますね。大体主人公が大きく全景に描かれていて、物語の話も言葉で書かれた話も、その主人公について書いてありますね。

 

ところが、それをその子に見せると、「あ、トヨタの○○型」とか言うんですよ。よく見ると、山の中に細い道があって、そこに米粒大ほどの車があって、それが形になってるんですね。そんな所は物語を読む人は全く注目していない。だから彼は車に興味があって、物語とか感情とかには全く関心がないわけです。

 

そこでなんでさっきのオートバイの後ろに乗ってる女の子の名前。劇の中では全然大事じゃないのを覚えていたかというと、オートバイに惹かれてたんですね。そういう形で診断されるわけです。

 

だから枝葉を見て、一本の木を見ても森は見えないっていうか。いい加減な脳だと、木も見えるし森も見える。木しか見えない。そうすると当然、周りの子と見方が違うんで。

 

鈴木:でも一般的にね、僕なんかこの間若い人と付き合ってきて、「木を見て森を見ず」っていう言葉があったけど、最早葉っぱどころか、みんな葉脈を見てるんですよね。そして、もちろん木も見なければ森も見ない。それが僕の感想ですよ。

 

石川:今まではほとんど、障害っていう形では言われなかったんですよね。おそらく、その後精神病になった人とか自殺をした人とか、そういう人たちの中に非常に多いんですよね。それから引きこもりだとか不登校だとか、そういう人たちの中にも。

 

鈴木:ある特別じゃなくて、一般的にそうなってますよね。なんでそういう人たちが生まれちゃったのか。

 

石川:ほとんどの人が、健康な脳っていうのは、いい加減なんですよね。しょっちゅう錯覚をしているんです。

 

鈴木:そうでしょうね。

 

石川:ところが、不健康な脳っていうのは、部分的にすごい正確で、全体で何かっていうのが出来ないんですよ。ものすごく真面目にやってて、能率が悪くて、人との関係っていうのは誰でも両面がありますから、片方の面だけずっと信じてると裏切られるわけですね。だからこんなもんだと思ってやっていかないと、この必ず計算通りいかない。

 

鈴木:世の中本来そういうものですよね。

 

石川:その法則っていうのは生まれつき刷り込まれているのか、ほとんど教えられるものではないんですね。その教えられないところを自分で出来てない人が、、

 

鈴木:増えてますよね?

 

石川:ええ。増えてるっていうのは世の中自体が割とキチンとした形を求めて、いい加減さも要求するっていうことだから増えてるんで。

 

ほとんど駆け引きとか出来ないし、裏表もないしって言う形でやっていくと、悪いこと全部引っ被らなきゃいけなくなるんですね。

 

その辺は特殊な世の中だったら生きられないっていうことじゃなくて、どこへ行っても難しいんですよね。彼の世界を周りが作らないといけないんですよ。

 

鈴木:いまお話伺っててね、2歳半の子の場合、ビデオさえなければそういうことが起きなかったって思ったりするんですね。繰り返し繰り返し見るから、そういう所の発見も生まれるわけですよね。

 

僕は本来なんとなく思ってたこととしては、映画なんか一回だけ観たら、二度と観ない。それで後は自分の想像力の中でそれを膨らませばいい。ところが、そういう装置が出来たが故に、そういうことに関心を持つ人が増えている。

 

石川:悪夢みたいなものですね。

 

鈴木:そうです。チャチに作ってあれば、僕らの子供時代がそうであったように。それは引きずらなかったはずですよね。それはそのままジブリの作品にも当てはまるわけですよ。やっぱり精緻に作ることによって、それをずっと引きずる人が出てくる。

 

石川:なるほど。

 

鈴木:それと今言ったようなビデオみたいな装置がある。そのことによって、そういう風になりやすい人が多いですよね。

 

石川:だから劇みたいに舞台装置を壊しちゃって、上演の時だけっていうのが良いのかもしれせんね。そういう意味では。

 

鈴木:それを許す環境が生まれちゃったっていうのもあるんですけど、例えば、劇なんかはみんな約束事じゃないですか。書き割りその他チャチであることによって、本質が見える。そういう部分をチャチじゃなくしたものが多く出来ちゃってるから。それは悩みの対象ですよね。

 

石川:段々、現実もどきのものを作っていくんですよね。クローン人間の世界ですよね。それを現実だと思う人が出てくるんじゃないんですかね。

 

鈴木:だからこれ、すごい矛盾があるんですけどね。例えば、『トトロ』を作ってる時、僕なんか宮崎駿っていう人に要求してるんですね。何を要求したかっていうと、サツキとメイが初めてトトロに会うシーンがある。バス停。その時が勝負だと。子供はこういうのがいるって信じてもらえる可能性が高い。確率は高い。

 

しかし、大人はどうだろうって。大人にまでその存在を信じさせることが出来たら、成功ですよね。なんて要求してるんですよね(笑)

 

で、要求した結果、どうなったかはみなさんの評価があるんでしょうけれど、しかし結果として、色んなことを生んでる。なんでいうのはちょっと思ったりもするんですよね。映像っていうのは怖いですよね。

 

『隠蔽された障害』でしたっけ?

 

石川:ええ、ええ。

 

鈴木:あの本ちょっと読ませていたいただいたんですよね。いわゆる非言語性っていうんですか。

 

石川:今でいうアスペルガー障害っていうやつですね。

 

鈴木:そういう人たちはどうなっていくんだろうって、すごい気になったんですよ。というのは、僕にとっては切実なんですよね。自分の子供たちの問題でもあるし、それから働いてても、その人たちと一緒にやっていかなきゃいけないんですよね。

 

石川:そういうパターンをその人が自覚することが大事なんだけど、まず自覚することの第一歩は「治らない」ってことですよね。治そうとして努力すると、余計ひどくなりますよね。

 

それから周りも治らないっていう風に思うことですよね。それが理解ってことですよね。

 

鈴木:本人も自覚し、周りもそれを認めてあげると。

 

石川:周りは、身近な人は治らないと思ってないんで。

 

鈴木:なんとかしようと思いますよね。

 

石川:なんとかしようと思って、拗(こじ)れるんですよね。治らないって認めたら、治りますね。治らないってことを教えるんですね。それでもいいじゃないか。

 

人間の感情が複雑になるって、欲望がどんどん出てくるってことですから。人間が知識を持てば持つほど、あるいは色んな可能性を信じれば信じるほど、欲望の塊になって、何も出来なくなるわけですよ。「あなたは何でもやれるのよ」とか「こんな世界もあるのよ。あんな世界もあるのよ」っていうのは、いい加減に生きれない人にそれを見せちゃうと、大変なことになる。いい加減に生きれる、そういう意味健康な脳の人は、「そんなありはしないわ」と。

 

鈴木:僕はいい加減ですけどね。

 

石川団塊の世代って、いい加減でしたよね。

 

鈴木:ちょっといい加減過ぎたんじゃないかっていう。それも含めて、本当は問題じゃないかなって思ってるんですけど(笑)

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

鈴木:どうしてそうなったかはわかんないですよ。旭丘小学校の裏手に壊れたゴミ置き場があったんですよ。ところが、その壊れたゴミ置き場。ドアが格子になってるんですよ。ちょっと大きめの。だからパッと見ると牢獄みたいで。石川さんがその前を通りかかる色んな下級生を捕まえてはね、中へ閉じ込めるっていう。

 

石川:ええ!そんな全然記憶にないです(笑)

 

鈴木:それを僕は手伝わされたんですよ。

 

石川:へーー。

 

鈴木:色んな子たちがそのことによってね、授業に出席出来ないんです。それを石川先生が嬉々としてやってたんです。

 

石川:なんででしょうね(笑)

 

鈴木:いま精神医学者をやっていらっしゃるでしょう?

 

石川:私そんな患者さんばかり扱ってますね。

 

鈴木:(笑)でも4年生の時、何にも覚えてないでしょ?たぶん。

 

石川:覚えてないです。

 

鈴木:毎日やってたんですよ。中学になっても高校になっても大学になっても、そして社会人になってもずーっと僕の記憶の中から消えないんですよ。

 

石川:罪悪感なんですか?

 

鈴木:罪悪感とはちょっと違うんですけどね。石川元という名前が、今の牢屋遊びと結びついてて。中学の時も高校の時もどっかで見かけることはあったんですよ。見かけると、その牢屋のこと思い出してたんです。で、今回こういう機会があった時、色んな候補の方がいらっしゃったんですけど、石川さんがいいって。

 

石川:(笑)いやービックリしましたね。

 

鈴木:分析されるとどうなるんですか?先生だから(笑)

 

石川:いやいや。本当に完全に忘れてますね。

 

鈴木:何にも覚えてないですか?

 

石川:ええ。

 

鈴木:なんで僕は覚えてるんですかね?

 

石川:いや、なんで私が忘れてるかですね(笑)

 

鈴木:4年生の時、ちょうど『月光仮面』流行ってる時なんですよね。石川さんは風呂敷を使って月光仮面の真似をして。ついこの間、どういう少年だったか。石川さんがね。絵に描いてみたんですよ。こんな感じだったんですよ(笑)→その画像のリンクです

 

石川:子供の頃は、雪女っていうあだ名だったんですよ。

 

鈴木:あ、そうなんですか。

 

石川:いまと全然違って、ヒョロっとして。

 

鈴木:そうヒョロっとして。だから僕の中では痩せてて、顔が長いんですよ。色が白くて。それでこんな感じだったんですよね。ちょっと雪女の感じありますでしょ?

 

石川:これ後でコピーくれますか?

 

鈴木:いやこれどうぞ(笑)

 

石川:これ面白い。

 

鈴木:ヘラヘラって描いてみてね、自分で描いてみてこの通りだなって。

 

石川:額縁入れてとっておこうかな。

 

鈴木:いやいや(笑)

 

石川:面白いよね。だけど、恐ろしいこと知ったね。私が親だったら、受診させるよね。

 

鈴木:(笑)

 

ーナレーションー

その似顔絵は番組のホームページにアップしておきましたけど。

 

この続きは、また来週。