2008年2月18日配信の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」です。
http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol20.mp3
鈴木:あ、どうも。わざわざありがとうございます。
中沢:いえいえ。
鈴木:こんな遠い所まで。
中沢:遠くもないですよ。
鈴木:そうですか?
中沢:ここはどういう場所なんですか?
鈴木:何か考える時は、大概ここでみんなで打ち合わせですね。
中沢:良い場所だなー。
鈴木:そうですか?ありがとうございます(笑)あ、そうだ。『ゲド』を読むときに参考させていただいて。ちょっと人数も多いですけれど。
中沢:ジブリって何人いるんですか?
鈴木:スタジオも美術館両方合わせて320人ですね。
中沢:結構いるんですね。
鈴木:そうなんですよ。スタジオは大体170人くらいかな。だから向こうが150人くらいですかね。いっぱいいるんで困ってるんですけどね(笑)
ーナレーションー
たくさん人が東京の街を走り抜けた日、レンガ屋に自転車で乗りつけたのは、作家で民俗学者の中沢新一さんです。
マラソンはスタートからゴールまで何万人もの人が決まった道を走りますが、レンガ屋で走り出す2人の会話は、どこへ行くのか行方知れず。夜のしじまへ羽ばたいて行ってしまいます。
鈴木:こんな話してもしょうがないんですけど、東京都って色んな美術館・博物館あるんですけど、ご承知のように経済的には効率的には全くうまくいかなくて。それをどうするのかで、今石原都知事が困っているというのか。
自転車で色々散歩なさっていると伺って。小金井にある江戸東京たてもの園ってご存知ですか?
中沢:江戸東京たてもの園、知らないですね。
鈴木:小金井公園の中にあるんですよ。
中沢:あ!それは知ってます。
鈴木:東京にあった明治・大正・昭和の古い家屋を移築して、一つの公園を作ってるんです。
中沢:いつ出来たんですか?
鈴木:確か15年ぐらいですかね。ここなんか宮崎と僕が大好きで。『千と千尋』を作る時、実は舞台はあそこなんですけどね。
中沢:今度行ってみよ。
鈴木:凄く良いですよ。ところがこれがそんな所にありまして、色々走ってらっしゃっても気づかないくらいで。入場者が少ないんですよ。
知事はそこを凄く気に入られて。「ここは良い所だなー」って。昔の東京があるっていうんで喜んでくれたんですけど、経済合理性の話を聞いて、「じゃあやめよう」っていうね(笑)
中沢:やめちゃうんですか?
鈴木:て言って、今大騒ぎでとにかくそれを何とかしようということで、ジブリも近いものですからね、協力していいってことで色々やってるんですけどね。
中沢:作家の生まれた家の保存とかもあるでしょう。で、作家の仕事場の写真って、昔の作家の見ると、ゴミだらけじゃないですか?
鈴木:はいはい。
中沢:ところが、それが、、
鈴木:展示になると。
中沢:キレイなピカピカに机なんかが置いてあって「嘘つけー!」ってなるんですよね。
鈴木:はいはい。
中沢:僕は割と汚くしちゃう方だから、仕事は外でするように。
鈴木:じゃあ原稿とかそういうのも?
中沢:集中してやる時は、長いのやる時は家でやりますけど、どうでもいい原稿ってあるじゃないですか。そういうのは喫茶店で書くようにしてますね。エクセルシオールは割合使いやすいかなー。日本はカフェで書く場所って少ないじゃないですか。でも最近スターバックスが出来たり、書ける場所が出来て、僕はすごく嬉しいんですよね。
鈴木:書くっていう時は、手で書かれるんですか?
中沢:いや、僕は昔からワープロが好きで。
鈴木:あ、そうなんですか。
中沢:オアシス第一号から使って。
鈴木:あー親指シフトですね。
中沢:そうそう。親指シフトは今少ないんだよねー。
鈴木:そうですよね(笑)
中沢:僕の周りも高橋源一郎だけになっちゃって。
鈴木:あれ良かったんですよ。本当に。
中沢:あれは素晴らしい発明だと思う。零戦の次くらいに。
鈴木:そんな発明なんですか!?あれは!
中沢:零戦がそうみたいですね。戦後にグラマンが解体に来た時に、過程がわからないところがいっぱいあって。
鈴木:どうしてこういう飛行機を作ったのか?
中沢:グラマンの流れ作業でいくと、絶対ここには別の工程が来なきゃいけないのに、とんでもない工程が入ってたりするわけですよね。
西陣の研究をしているハーバードなんかの学生が、「これは西陣のプロセスだ」って言って。
鈴木:西陣?
中沢:織物の工程と同じだっていう。それで初めて零戦のプロセスを解明されたっていう話があるみたいです。
鈴木:わかんないけどわかるような気がしますね。
中沢:あ、喫茶店の話でしょ。カフェ。
鈴木:でも零戦に戻すと、、
中沢:(笑)
中沢:昆虫みたいなもんじゃないですか。中に柔らかいグチャグチャの人間がいて、ソフトコンピューターですね。バイオコンピューターみたいなのがいて、周りを昆虫の殻みたいなので囲むっていう発想じゃないですかね。あれは。
飛行機があって、そこに人間がいて共同作業するってアメリカの発想、ヨーロッパの発想だけど、日本の場合あれはハナから昆虫みたいに考えてるんじゃないかなって気がします。
非人間的って言えば言えるけども、それも一つの考え方だと思うんですよね。兵器ってもののね。
鈴木:あれね、ちょっと話が飛んじゃうんですけど、西欧って人間大事にするじゃないですか。いわゆる人間中心主義。
中沢:ヒューマニズムね。
鈴木:それと同時にいわゆる近代合理主義になって、人間が中心じゃないですか。
中沢:そうです。
鈴木:あの発想ってどこから出たんですかね?
中沢:あれはね、ギリシャあたりからですね。大体都市が生まれてくると、人間中心主義になっていくんですね。
鈴木:都市が生まれるとね。
中沢:それまでは野生動物がいっぱいいて、人間は野生動物と関わらないといけないから、動物の生態にもすごく詳しいし、動物の考えてることに割合重きを置くんですよね。
人間の考えを動物の思いとか考えに合わせるっていうのが狩猟民だったんですけど、家畜化を始めると、都市が生まれて農業を始めるようになるんですけど、そうすると、動物がこうしたいっていう気持ちを大事にしなくなって、人間が作った中に入れて、動物がそれに従えっていう風になっていきますね。
鈴木:そうですね。
中沢:それまでの人間っていうのは、動物のことを考えながら世界作ってたんですよね。だから人間中心なんかならない。動物中心主義なんですよ。
鈴木:人間が偉いんだってことで、ある時に転換するわけですよね?
中沢:そうなんですね。
鈴木:つまり、土地としては向こうは土地が痩せてるじゃないですか?
中沢:そうです。
鈴木:切っちゃうと、砂漠化までが早いですよね。痩せた土壌であるが故に、人間中心主義になって、それで作ったのかな、なんてふと思ったんですよ。正しいんですかね?
中沢:正しいと思う。都市はアジアでも作れるんですけど、ボロブドゥールとか見てると、すぐジャングルに覆われちゃうでしょ?南米のマヤなんかもそうだけど、ジャングルが覆っちゃうんですけど、都市がそんなに手入れしないでも、砂漠地帯が出来ちゃうんですね。そうすると、どうしても人間中心主義の思考方法って発達しちゃいますよね。
鈴木:キリスト教っていう宗教だってね、僕は全然勉強しないで言っちゃうと、そういうことと非常に関係があって。
中沢:旧約聖書のユダヤ教は、神様が人間を作ってるわけですよね。アジア人なんかは先祖がみんな動物なんですよね。日本人だってそうで、皇室なんかはワニでしょ?あれ。
鈴木:そうなんですか(笑)
中沢:豊玉姫。神武天皇の先祖になるんだけど、ワニですよね。出産の時はワニになってるし。あと自分の先祖が動物だっていうのは、例えば、ヨン様がやってる韓国の王朝っていうのは、ご先祖熊ですからね。動物から生まれて人間とひと繋がりになってますけど。
旧約聖書のユダヤ教はそうじゃないんですよね。神様が人間をハナから作ってるんです。
鈴木:差別するんですね?
中沢:差別するんです。人間主義って言ってるけど、これはヒューマニズムってことです。ヒューマニズムの悪口言うっていうのは、良くないことだって考える人もいるかもしれないけど、ヒューマニズムはこの世界を悪くした根源だと僕は思うな。
鈴木:僕は実をいうと、悩んだんですよ。『もののけ』の時。
中沢:『もののけ』観てて、こう言っちゃなんだけど、混乱してるなって思ったんです。
鈴木:あそこにも木切って云々で、タタラ場が出てきたり。あそこに出てくるエボシが言ってることは、どうも日本じゃない。僕はものすごい悩んで。悩むと同時に、僕は作った映画を多くの人に観てもらわなきゃいけない。そこで悩みが出てくるんですよ。簡単にいうと、これ日本でないとお客さん観てくれないなっていうね(笑)
中沢:それは本当に正しい悩みだと思うんで。
鈴木:そう言っていただけると嬉しいんですけど。
中沢:あれには網野善彦さんの歴史学がすごい影響与えてるけど、網野さんの職人論の中にある問題点ってそこにあると思うんですよね。山の民、川の民っていうのは職人の原型になってていて、それがある意味でいうと、日本の商業を作っていったりするし、自由都市をつくっていくっていう根源になっていくんですよね。
ところが、その人たちはある意味でいうと、山入っていった開発者だし、タタラだったら炭を作るために木を切りますよね。自由という問題と自然破壊っていう問題を、両方抱えているのが職人っていう人々で。
それに対して、日本の人口の7割8割をもっていた農民っていうのがいるわけですよね。農民と非農民の戦いっていうか、緊張した関係で日本史っていうのは作られてきたわけだけど、そこの問題が未解決なんじゃないかって。未解決って解決出来ないでしょ、これは。技術って問題だから。技術はどうしたってそういう矛盾抱え込みますでしょ。
ただ日本の場合は、先ほど言ったように木を切っても、例えハゲ山にしちゃっても数年で元に戻っちゃうんですよね。この問題が日本人と自然の問題というので、非常に特殊な主題を持ってて。
もしあれでエボシの技術の問題を大きく取り出してくると、それこそ中国あたりで木をみんな伐採しちゃって、荒れ果てた大地を作るっていう話だったらすんなりいったと思うんだけど、そこがすんなりいかない所が日本だなーって思って、『もののけ姫』観てたんです。
鈴木:『もののけ』でも、タタラ場でああいう女性たちが働く。ああいう嘘は僕は許される範囲の嘘だと思ったけれど。
中沢:タタラ場は男だけがやるんですけど、エボシの造形が面白いなと思ったのが、タタラ場の炭焚いて、ガンガン鉄を作る時の技術の仕事場は男がやるんですよ。ただ男がやる時、男が物を作ることは出来ませんから。燃やすことは出来ませんから。女の要素必ず入れるんですよね。だってタタラ自体が大きい女性の性器でしょ。
鈴木:ああ、なるほどね。
中沢:それでタタラ場っていうのは、子宮なんですよ。あれ。そういう風にわざと作るわけね。女性的なものがそこで作ってるっていう装うわけ。だって日本神話だって、鉄は女性の体から出てくるじゃないですか。
鈴木:そうですね。
中沢:そういう意味で色々矛盾してることがボコボコ出てるんだけど、面白い。
鈴木:でも面白いですね。
中沢:どっちつかずの空間で人間でもあるし、動物でもあるし、ほら、こうやって対話してるじゃないですか?こういう時、「間」が出来てるんですよね。それは僕は考えを尊重しながら自分の考えを言ってるから。自分が好き勝手言ってるわけじゃない。対話する時は人と人の「間」にどっちでもない、対話の間が出来る。これを人間って言ってて。人間関係は全部「間」で作られるわけだから、エゴはないんですよ。
混沌っていうのが僕らは個体なんだけど、それを繋いでる根源的なものに混沌があって、混沌には顔もないし個性もないんだけど、それが「間」を繋いでるわけでしょ。混沌から時々顔が出たり、受け渡しをやって世界が成り立ってるわけで。
鈴木:東洋ですもんね。
中沢:物理学で最初に「間」のことを理論化したのが湯川先生ですよ。湯川秀樹で。それまでは二つの粒子があって。電子とか陽子とか。この二つの間での力関係が引っ張ったりしてるんだっていうんだけど、そうじゃなくて、間に中間子っていうのがいて、このやりとりしてるっていう考え方を最初に。
鈴木:中間子理論っていうのは、そういうことなんですね。
中沢:ええ。
鈴木:なるほど。
中沢:それを湯川さん、どこから手に入れたかというと、道教だもんね。老子から手に入れた。
鈴木:老子も色んなこと言ってるんですよね。僕もかじりしか知らないけど。「本当の自分と嘘の自分、それは両方とも本当なんだ」とかね。
中沢:うんうん。『ゲド』がね、あれ老子からすごい影響を受けて、影っていうのはそれから来てますよね。お互いの間を行ったり来たりしてるっていう。
鈴木:宮崎もここへ来て、『崖の上のポニョ』のちょうど追い込みの、一番大変な時なんですけど。彼しょっちゅう言うんですけど、オリジナルとか原作者とかよく言うけど、そうじゃなくて、自分は色々あった話を受け継いでやってるだけで、今度の『ポニョ』だってスタートは『浦島太郎』ですからね。
中沢:あ、そうなんですか?
鈴木:そうなんですよ。ポニョっていう魚の子が今はなにしろ海も汚れてますから、ジャムの瓶に頭を突っ込んじゃって、そこから抜け出せない。それが海岸へ流れ着いて。それを宗介くんという5歳の男の子が助けてあげる。それを忘れなかった女の子の話なんですよ。まさに『浦島太郎』ですね。はじまりは。
だからそんなの独創性も何もないんだって、自分で言い切ってますけどね。
中沢:宮崎さんの作るお話観てて、宮崎さんが作ってることは確かなんだけど、もっと普遍的なところから出てきてるお話だと思うんですね。
物語作者っていうのは、最終的には名前を無くしちゃう。神話を語ってる状態を作れたら、、
鈴木:最高ですよね。誰か書いたかわからない。宮さんなんかも、それに憧れてますね。僕はそんなに中沢先生の著書を真面目に読んでこなかったんですけれど(笑)物語もお書きになるんですね。
中沢:書きましたね。
鈴木:何を言いたかったかというと、スタジオジブリで『熱風』っていう小冊子を毎月刊行しているわけなんですよ。そこへ物語を連載してもらうのはどうかなって。
中沢:(笑)
鈴木:色んなこともご存知だしね。それを物語に織り交ぜて、なんか古代の話を書いてもらったらどうかなって思ったんですよ。神話っていうのがどうかなって思ってたんですよね。
中沢:ああ面白いかもしれない。
鈴木:どうですか?『熱風』の編集長の田居さんは。
中沢:準備させて下さい。
鈴木:(笑)