2008年2月25日配信の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」です。
http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol21.mp3
鈴木:今日はラーメンが来てるからね。
依田:ここではよく鈴木さんは料理を作られるんですが。
鈴木:俺作んないよ、そんなに!(笑)
中村:作るんですか?
依田:色んな人に作られせて失敗して、結局自分で作る羽目になるんですけど。永福町のあるラーメン屋さんのラーメンがあって、これがすごい美味しいんです。あれがあんまり美味しかったので、今日会社抜け出して買ってきたんですよ。
鈴木:あとで食べましょう。
中村:やっぱり鈴木さん、僕みたいな方ですね。
鈴木:え?
中村:自分で何でもやっちゃうって。
依田:あとで言おうと思ったんですけど、似てると思うんですよ。お二人。
中村:似てるっていうのは大変失礼なんですけど。
鈴木:血液型は何ですか?
中村:僕はAなんですけど。
鈴木:あ、僕もAなんです!(笑)
中村:あ、そうなんですか!
依田:で、言っていいですか?まず、全部やっちゃうでしょ?
中村:そう。全部自分でやっちゃう。
依田:それから怒るときは大きな声で怒るでしょ?
中村:そうです。で、人前で怒るでしょ。あと途轍もなく我儘なアーティストを抱えてるでしょ?
鈴木:(笑)ちょっとラーメン作ってよ。
中村:みんなタクシーやなんかがトイレ使うんですよね?あそこでね。
鈴木:そう。よく知ってますね(笑)
中村:僕、この辺詳しいんで。
鈴木:なんで詳しいんですか?(笑)
依田:二人のご縁というのが、、、えっと読売新聞の依田と言いますが。
鈴木:考えてきてるんですよ。いろいろ。
依田:読売新聞のウェブサービスに「yorimo」というのがありまして。その2006年の6月にそのサイトが始まった時に、期間限定のブログを書いていただく『今月の人』っていうコーナーがありまして。そこの第一弾に登場していただいたのが実は中村さんです。
中村:いやいや。ドリカムの吉田美和にお願いしに来たんですよ。
鈴木:(笑)
中村:吉田美和っていうのは、文字を書かないんですよ。詩以外では。詩書く時以外に文字を書くっていうのは、ものすごい時間がかかるんですよ。それで隣見たら僕がいたじゃないですか?
依田:書けそうだなと思って(笑)
中村:引っ込みきかなっちゃって、しょうがないから代打で。
依田:したら、中村さんが書かれるブログがものすごい面白くて。ファンの方からも評判が良くて、ドリカムの公式サイトに引っ越すことになったんです。6月に始まったんですけど、7月から始まったのが鈴木さんなんです。覚えてます?
鈴木:覚えてるよ。
依田:で、7月に鈴木さん始まった時に、たぶんそれまで中村さん僕に全く関心なかったと思うんですけど、メールが来たんです。今日それ持ってきちゃったんですけど。
中村:ええ!嫌な奴だなーもう。
鈴木:すごいシナリオが出来てるよね。
依田:「Dear 依田さん。本当に色々ありがとうございました」。
中村:それいつですか?
依田:これ2006年7月5日ですね。「さて依田さんが、ジブリさんとお仕事されてたとは知らず、知っていたらもっと色々お話出来たのにって悔やんでいます。実は僕のプロデューサーとしての目標の一つは、スタジオジブリであります。内緒ですが。中村」。
鈴木:どういうことなんですか?
依田:これが僕ずっと頭に残ってて、いつかお会いしていただきたいなと。
中村:汗かいちゃったよ。
鈴木:(笑)
ーナレーションー
春一番が吹いた週末のなんだか気持ちいい夜、れんが屋に乗りつけたのは、あの「DREAMS COME TRUE」の中村正人さんと、読売新聞の依田謙一さんです。
中村:鈴木さんが羨ましいのはね、これは鈴木さんがメディアを通してとか、ご自分でおっしゃってるのを全て信じれば、好きなことやってるんですよね。楽しいこと。常に鈴木さんが楽しいと思うことをやってるんです。
ジブリの音楽あるじゃないですか。もうメチャメチャですもん。音楽業界から言わせれば。
鈴木:あ、そうなんですか?(笑)
中村:メチャメチャですよ。
鈴木:そうなんですか?教えて下さい。
中村:あのね、だからすごいんですよ。例えば、2年前くらいに鈴木さんのドキュメンタリー観てて、ジャケットについてアイディア出してるんですよ。もう好きなこと言ってますから。
鈴木:(笑)
依田:好きなこと言わないんですか?
中村:好きなこと言えないんですよ。フォーマットがありますから。我々は。どうしても大きな事務所や出版社や音楽業界が作ったフォーマットがあるんですよ。そこからズレちゃ話が始まらないんですよ。
鈴木:なるほど。
中村:だから、鈴木さんがいつも音楽で主題歌でやられる手法って、僕らにとっては羨ましくてしょうがない。まず聴いてくれるんですよ、鈴木さん。僕らから見るとあり得ない。まず僕らからあり得ないって言いますよね。まず映画が出来てないうちから主題歌売っちゃったり。誰の言うことも聞かないで自分で選んじゃったりとか。駿さんが選んじゃったりとか。
鈴木:だから、知らない強みなんですよね。
中村:だから逆に僕らがハッとするんですよ。こうじゃないといけないじゃないって。なのに、しがらみに囲まれてるわけじゃないんですけど自分でルールを作って自分を閉じ込めてしまうので、だからジブリさんの音楽の売り方とかプロモーションを見ると、ハッとしますよ。一番先にユーザーのこと考えてるから。いつも同じこと言ってるよね。ジブリさんみたいに発想しなきゃダメだって。
依田:公私混同なんですよ。それをずっと持ってらっしゃったと思うんですけど、タチが悪いのは言い始めたんです。
鈴木:依田くん。大読売新聞の記者でしょ?
中村:そうなんですよ。
鈴木:それがいわゆるネットというのを手に入れて、自分でページ作り始めるわけでしょ。僕知らなかったんですけどね、気がついたら、その読売新聞の中にジブリのページが出来てるんですよ。これね、なんのことわりもないんですよ。
中村:それはあり得ないですね!普通ね。読売新聞ってそういうこと許されるの?
鈴木:でもおじさんたちはどうやって開いたらいいかわからないから、わからなかったわけでしょ?
依田:そうなんですよ。ページを見たことない、とか言ってたんですよ。
鈴木:ページを奥の方にしまってるんですよ。だから開けてかないと見つからないように出来てるんですよ。手が込んでるんですよ。
中村:知能犯だね。
鈴木:確信犯でしょ?あれ。
依田:上司も聴いてるんで(笑)
鈴木:そんなこと話してるんじゃないのよ。今。
中村:鈴木さん、ここでハッキリさせましょう、やっぱり。ジブリと依田くんの位相をしっかり修正しとこうよ。
鈴木:でも僕は褒めようと思ってるんですよ。なんで褒めようと思ってるかというと、昔の記者ってそうだったんですよ。
中村:そうなんですか。
鈴木:だって新聞記者がみんな真面目になっちゃったじゃない?
依田:もうどうやって放送するんですか、鈴木さん。
中村:(笑)
依田:僕も周り見てて、みんなすごい真面目だと思うんですよね。すごい真面目だと思うんですけど、あんまり無茶する人っていないんだなって。
中村:無茶しなくても食えるから。なんだかんだ。やっぱり豊かな国ですよ。日本は。
鈴木:ご飯が食えないってことないですよね。
中村:全てはお腹が空いたのが原因で何でも我慢出来るし、仕事も我慢出来るし、辛い上司の言うことも聞けるし、どうしようもないんですよ。飢えてないと。
鈴木:不景気だ不景気だって言うけれど、相変わらずゴミはいっぱい出てるわけですよ。だから日本は不景気と言いつつ、まだ本当の不景気が来てない。これから。ゴミが少なくなる日。
中村:あとはみんなが必死に働く日ですよね。
鈴木:ね。
中村:だって僕よくウチの社員に言うよね。俺たちは仕事をしてるんじゃないと。休みが欲しいとか、そういうことじゃないと。俺たちは食べるために毎日漁に出ないといけないと。獲物を獲りに行くためにね。男も女もですよね。人生というのは漁に行くことですよね。食事を獲ってくることが人生で、その人生を趣味で暮らしたいとか、そういうことじゃなくて(笑)でもそこにみんな不満を持っちゃうでしょ?だから辛くなっちゃうんだよね。きっと。でも「今日も食べられた」ってことがすごく嬉しければ、土日なんてないんですよ。
鈴木:関係ないですよね。
中村:土日は西洋のプロパガンダですよね(笑)
依田:中村さん本当に休まれないですよね?
中村:だって漁に行かないとウチの子供達が食いっぱぐれちゃうんだもん(笑)本当にそういうことだと思うんですよね。僕は厳しくやれとかそういうことじゃなくて、みんな色んな問題抱えているだろうけど、しょうがないなと思う。満たされているから。
依田:そういう時代って、例えば、映画でも音楽でも作品を作っていくのって、すごく難しくないですか?要するに、もっと時代がもっとヒリヒリしていた時って心もヒリヒリしていて、映画や音楽が切実に必要だったと思うんです。
鈴木:映画だけでいうと、日本が貧しかった時、やっぱりすごいの出来てるのよ。なぜか。不思議なんだよね。なぜですか?だって歌だってもっと切実だったわけでしょ?たぶん。わかんないけど。
中村:難しいですよね。いま。生物としての機能を忘れちゃってるというか。
鈴木:そう。宮さんが今回、モールス信号っていうのを使うんですよ。映画の中に。彼なりの最大の皮肉なんですよね。メールなんかやめろ!って。モールス信号で良いんだ!って。
中村:これからデジタルの世界でしょ?100%120%デジタルになって、電気が落ちた時に電気が落ちたらモールスはダメだけど、石や何かを叩くことでモールスが伝わるとすれば、水中でモールスを叩くことが、潜水艦がそうじゃないですか。モールス信号だけは通じるんですよ。電話が全部落ちて、インターネットが全部落ちた時に、音が伝わるところにはモールス信号で伝わる。
鈴木:彼の中でビデオはまだわかった。レーザーディスクもわかったんですよ。ところがDVDを見た時に「こんな小さい所に押し込めてあるのか!」って。「これで映画がダメになる」って言ったのよ。ある意味で当たってるんだよね。これ。僕は本当にそう思うし。だってこの中に入っちゃうんだもん。携帯その他で今は観れたりするわけでしょ?どうなのって。
それに対して今度の映画なんか、出来てないうちに言うのもなんなんですけど、そういうものに対する彼の考えが明快に出てるんですよ。モールス信号なんかそうなんだけど。僕なんかも使わなきゃいけない。僕に対して彼が文句を言ってくるのは、普段こうやって喋ってる時は何も文句は言わない。僕に対して文句を言うのは、「鈴木さん、メールやってるだろ?」って。
中村:すごい素敵。本当に怒ってるんでしょ?
鈴木:これは真剣に怒ってる。「メール、鈴木さんやめろよ!」って。こういう時は真剣なんだから。
依田:冗談じゃないんですね?
鈴木:冗談じゃないのよ。
中村:本当に悪いことやってることに対してですもんね?
鈴木:そう。「それをやってることでみんながどうなるか。考えたことあるのかって言いたい。みんな平気でやってるけれど」って。真剣なのよ。
中村:面白いことがあって、『ナウシカ』の中でエンジンを掘るっていう発想があるじゃないですか?0から1を作ることはもう『ナウシカ』の時代は出来なくなっていて、それを修理して再生する技術は持ってるんですよ。
これは『ナウシカ』が上映された当時、あるいは原作が始まった当時は、みんな理解出来なかったんです。どういう意味か。だけれど今音楽の時代にもそれは完全に起こって、これはサンプリングっていうものなんですよ。誰も生ドラムを見たことがないし、誰も生のストリングスを見たことがないし、誰も音の録り方を知らないんですよ。だけれど、サンプリングしてそれを音楽に再構築するんですよ。それはまさに『ナウシカ』の時代の音楽。
僕はそれに気がついた時に鳥肌が立って、「すごい宮崎さん!」って思って。ミュージシャンが音楽の特権だったんですよ。譜面が読めて書ける人だけの特権だった音楽が、どんな人でもサンプリングという技術を使えば、音楽を作れる時代になった。それが良い悪いじゃなくて。だから今、クリエイターで楽器の音を聴いたことがある人は半分もいないのよ。エンジニアもよ。一度も録ったことがない人いっぱいいるのよ。ドラムをどうやって叩くのかわからない。
鈴木:僕もそういうことだけ多少はわかるんでね、例えば、CDを聴いて、簡単に言うと無音の中で歌ってるじゃないですか。変ですよね?
中村:変ですよね。
鈴木:そのことをみんな変に思わなくなってるもん。で、そういうことをやっちゃったわけでしょ?寄ってたかって。
中村:ドラマやなんかで生で今の人たちが録ると、「ノイズが入り過ぎてる」って文句を言うんですよ。例えば、ストリングスで服が擦れた音とか。だからCDにただし書きを書くんですよ。「これは生で録ってますから」って。変な話なんですよ?じゃないと、小売店に苦情が来るんですよ。「キュっていった」とか「人の声が入ってる」とか。人の声って入っちゃうんですよ。それがおばけの音だとか、都市伝説になっちゃって、我々は商品回収に走らないといけなかったり。
ピアノのペダルの音でさえそうですよ。それでさえ、それを僕らが処理しなきゃいけなくなっちゃった。じゃないと、苦情を頂いちゃうんですよ。クラシックって最高の音質って言うでしょ?クラシックっていうのはノイズ音楽なんですよ。
依田:ノイズの塊ですもんね?
中村:ノイズの塊なんですよ。だから良いんですよ。
鈴木:とにかく僕らがそういうことを真剣にやろうとしたら、必然とCG使わなくなるんですよ。だってそれしかないんですよ。要するに、戻さなきゃいけない。だから手で描こうなんですよ。
ーナレーションー
アートとビジネス。現実と夢。二つの違った場所を繋ぐ橋。一つになるのではなくて、なんだか違うことが嬉しくなる。そして何かが生まれる。橋って不思議な魔法です。そう、もしかすると今夜、中村さんと鈴木さんの間にも橋がかかったかもしれません。
依田:ドリカムのライブDVDって、27日に出るじゃないですか。去年の『WONDERLAND』っていうライブ。国立競技場なんて音響空間から考えたら、どうやってやるのって、、
中村:前のライブDVDまではちょっと意地張ってたんですよ。やっぱりライブだからディレイもかかるだろう、多少ヘナチョコの音も聴こえるだろう、悪口言ってるお客さんも聴こえるんですよ。そういうのを全トラック聴くんですよ。ノイズで苦情を頂くから。
で、頑張ってたんですけど、今回はいわゆるアンビエンスというか、会場の音を録るのをやめてお客さんの音を録ったんです。逆にいうと。お客さんの音を録って、その時聴いたお客さんの臨場感を再現したんです。
依田:すっごい音質良いですよね。ビックリしますよね。
中村:そうなんですよ。それが音質良い、と言っていただけるんです。
依田:あーそうか。それじゃいけないんですね。
中村:いけなくないんです。それで良いんです。
中村:あ、いいですか?すいません!じゃあいただきます。鈴木さん、いただきます!
鈴木:どうぞ!
中村:すいません!お先です!
(麺をすする音)
中村:あ、美味しい!美味しいです!花まる!