鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

ポッドキャスト版「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の文字起こしをやっています。https://twitter.com/hatake4633

春風に乗ってやってきた!しまおまほさん登場

2008年3月10日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol23.mp3

 

しまお:17から22までタイに行ってたんで。

 

鈴木:タイへ?なんで?

 

しまお:仕事で。

 

鈴木:あ、仕事なんですか!

 

しまお:はい。友達のアニメ描いてる男の子がタイにいて。

 

鈴木:それ日本人?

 

しまお:いえ、タイ人。凄く面白いんですけど。その人。

 

鈴木:どういう人なんですか?

 

しまお:漫画も描いて、アニメも作る人。日本で凄く人気ある人みたいですけど。

 

鈴木:あ、そうなんだ。日本の雑誌にも描いてるの?

 

しまお:はい、時々。細野晴臣さんのジャケットとかも描かれたりとかもしてます。

 

鈴木:タイって人気があるんですか?日本人に。

 

しまお:どうなんですかね。私は大好きですけど。

 

鈴木:タイの魅力はなんですか?

 

しまお:これまだ始まってないですよね?

 

鈴木:いや始まってるの。

 

しまお:もう始まってるんですか?本当に!?

 

鈴木:本当に。

 

しまお:あ、そうですか。

 

鈴木:タイの魅力。

 

しまお:結構、みんなのほほんとしてるんですよね。

 

鈴木:それが良いんですか?

 

しまお:うん。のんびりしてて。ストレスな感じがしないっていうか。

 

鈴木:まぁタイマッサージとかありますね。そういえば。

 

しまお:そうですね。安いし。

 

鈴木:リラックス。

 

しまお:リラックス出来ます。でも凄く都会だから。

 

鈴木:都会は都会なんだ?

 

しまお:都会です、凄く。バンコクは。

 

鈴木:「また行きたい」ってウチの息子なんか言ってたよ。娘は僕の家っていうのは東京・恵比寿にあって、この恵比寿から一歩も足を踏み出さない人なんですよ。例えば、新宿へ行って帰ってくると、「疲れた」っていうわけ。「嫌だ。やっぱり恵比寿がいい」って。そのぐらい東京の中でも自分の生まれ育った恵比寿で、ある世間があって、その範囲で生きてるっていうのか。

 

かたや息子の方は世界中あっち行ったりこっち行ったりね(笑)世界中色んなところに行きたいっていう人で。

 

しまお:私その中間だな。

 

鈴木:それはわかるんですか?その感覚。

 

しまお:わかります。でも息子さんもきっとお姉さんが恵比寿にいてくれるから、どっかあっちこっち行けるっていうのもあるんじゃないんですかね?

 

鈴木:そういうことなの?両極端なんですよね(笑)

 

しまお:へぇー面白いですね。

 

鈴木:その真ん中?

 

しまお:真ん中ですね。ちょっと家のこと考えながら旅行をしてるところはあると思います。

 

鈴木:家のこと考えながらっていうのは?

 

しまお:今頃、豪徳寺の駅はどうなってるかな、とか(笑)

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

この番組は、ウォルト・ディズニー・ホームエンターテインメント、読売新聞、"Dream Skyward“JALの提供でお送りします。

 

田居:まほさん、何年生まれ?

 

しまお:昭和53年です。1978年です。父が48年ですね。

 

鈴木:僕と同じなんですよ。

 

しまお:あ、そうなんですか?

 

鈴木:そうそうそう。僕も48年。今年還暦なんですよ。

 

しまお:昔からお爺ちゃんぶるんですよ。

 

鈴木:ああ、お父さんね。

 

しまお:うん。年寄りぶるというか、「もう死ぬ、もう死ぬ』とかね、結構40代くらいから言ってて。「もう俺の体はボロボロだ」とか言って。

 

鈴木:お父さんのこと、なんて言うの?

 

しまお:ジジイって呼んでる。

 

鈴木:(笑)あ、そうなんだ。

 

しまお:はい。

 

鈴木:それ物心ついて?

 

しまお:父がそう呼ばせたんですよ。

 

鈴木:あ、そうなんだ。

 

しまお:はい。呼ばせたというか、「ジジイでいいよ」みたいな感じだったような。

 

ーナレーションー

島から桜の花の便りも届き始めた穏やかな日。

 

れんが屋にやってきたのは、漫画家でエッセイストのしまおまほさん。

 

しまお:結局カッコつけ、、

 

鈴木:なの?

 

しまお:はい。カッコつけなので。

 

鈴木:若さを持て余す、若い時には。という考え。要するに早くに死んだから。というのがあったのかもしれない。

 

だって僕もね、お父さんと同い年なんだけど、若い時一番考えたことはね、「早く歳をとりたい」って(笑)なんでかっていうと、若さに伴う持て余す色んなものあるじゃない?青春の時は悩む、とか色々。そういうのが鬱陶しい。歳をとればそういうことから逃れられる、なんて気分があったりして。

 

そうするとね、ジジイになったら楽だろうなっていうのがあったんだよね。もしかしたら、ジジイと呼ばせたのはそんなようなことがあるのかなって。

 

しまお:あるかもしれないですね。そういうところは普通っぽいかなとは思うけど。

 

ーナレーションー

しまおまほさんはジブリが発行している月刊誌『熱風』にエッセイを書いていただいたばかり。でも、、

 

鈴木:今日何話そうかなと思った時に、『パンダコパンダ』で、今度『熱風』っていうジブリの月刊誌に文章を書いていただいて。その時にお父さんと子供のことが書いてあって。ね?

 

しまお:あれ、どんなこと書きましたっけ?

 

鈴木:(爆笑)

 

しまお:えっとー、うーーん。

 

ーナレーションー

しまおまほさん。なんだか春の風みたいな方です。

 

鈴木:あれがパパっていう感じに、、

 

しまお:あ、そうです。そうですね。

 

鈴木:なんで!(笑)

 

しまお:思い出しました(笑)すいません(笑)

 

ーナレーションー

いや、海辺の風でしょうか。

 

しまおまほさんのお祖父さんは、作家の島尾敏雄さん。代表作『死の棘』は、まほさんのお祖母さん島尾ミホさんとの物語です。

 

そして、鈴木さんと宮崎さんはその島尾ミホが残した『海辺の生と死』という本が大好きなんです。

 

しまお:今生きてたらすごい喜んでくれてたと思います。ちゃんと大人になってるから(笑)

 

鈴木:ちゃんとした大人になったんですか?

 

しまお:ちゃんとしてはないかもしれないけども、たぶん女の人の方が好きだったんじゃないかなって、今にしてなんとなく思うんですよね。

 

鈴木:え?

 

しまお:女の人が好きだったんじゃないかなーって。

 

鈴木:え、誰が?

 

しまお:敏雄が。お祖父さんが。なんか私のことも凄い女性として扱ってくれてたというか、レディファーストとか。

 

鈴木:へーー。

 

しまお:たぶん人生で二度目の映画は『ラピュタ』だった。それは敏雄お祖父さんに連れてってもらって。

 

鈴木:あ、そうなんだ!

 

しまお:鹿児島で。

 

鈴木:鹿児島で観たの?

 

しまお:うん。確か鹿児島で観たはず。あれは何年ですか?86年ですか?

 

鈴木:そう。

 

しまお:じゃあ亡くなる年の夏ですね。11月に亡くなったので、たぶん8月ぐらいに鹿児島に遊びに行って、その時に一緒に観たんです。

 

鈴木:そうなんだ。

 

しまお:お祖父さんが凄い感激したのを覚えてます。  

 

鈴木:お祖父ちゃんが?

 

しまお:うん。でも「ラピュータ」って言ってたんですよ。お祖父さんが。それが訂正出来なくて。「ラピュタ」なのになーってずっと思いながら。でも「ラピュータは良い。ラピュータは良い」って。家に帰って浴衣で一緒にお風呂から上がってから遊んで、本当に面白かったって。

 

鈴木:お祖父さん孝行だったんだね。

 

しまお:お祖母さんも夜遅くまで貝殻の種類とかを、父方の祖母のミホが、夜中の一時になっても二時になっても教えたくれるんですよ。貝殻の種類とかを。私がたまにしか行かないので、嬉しくて。

 

鈴木:それって小学校の時?

 

しまお:幼稚園とか小学校の時。すると私はグズったりしたら悪いと思って、半分白目になりながら「あ、はい」って。

 

鈴木:ミホさんってそういう人なんだ。

 

しまお:全然夢中になっちゃって、貝殻の「これはこうよ、これはこうよ」とか昔話の話したり、こんな話があってとか、こんな歌があってっていうのをずっと喋ってるんですよ。夢中になって。

 

鈴木:子供だから早く寝かせなきゃっていう、、

 

しまお:っていうのはあんまりなかったみたい。

 

鈴木:なかったんだ。

 

しまお:うん。私がいる時は少しでも長く一緒に起きていたいと思ったのかも(笑)だから結構夜中の記憶もありますね。家の。どっちかっていうと夜の方が多い。

 

鈴木:家っていうのはその、、

 

しまお:鹿児島の夜の電気つけてっていう風景とか覚えてます。

 

鈴木:まほっていうのは本名なんでしょ?

 

しまお:はい。

 

鈴木:これはやっぱりミホさんの方からとったんですか?

 

しまお:そうです。ミホのホと父の妹にマヤっていうのがいるんですけど、マヤのマとミホのホで「まほ」なんです。

 

鈴木:じゃあお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの記憶は強烈なんだね。

 

しまお:そうですね。

 

鈴木:お祖父ちゃんの小説は読んでるの?

 

しまお:読んでないです。

 

鈴木:それは読まないんだ?

 

しまお:はい。でも故意に読んでないわけではなくて、あんまり小説とか普段からあまり読まないので。

 

鈴木:じゃあ『死の棘』とかいうのも、あまり読んでないんだ?

 

しまお:読んだことないですね。

 

鈴木:お祖母ちゃんのやつは?

 

しまお:読んだことないです。

 

鈴木:『海辺の生と死』とか。

 

しまお:ない。

 

鈴木:全然読まないんだ?

 

しまお:読まない。

 

鈴木:だってそんなに可愛がってくれたお祖父ちゃんとお祖母ちゃんだよ?普通読みそうな気が。

 

しまお:そうですか?

 

鈴木:一冊とか二冊くらい。『出発は遂に訪れず』とか色々あるんだよ。

 

しまお:知ってます。タイトルは知ってます。どんな表紙だとかは知ってるんですけど(笑)

 

鈴木:まだ開かないんだ?

 

しまお:パラパラっとめくって、、

 

鈴木:開くのが怖いの?

 

しまお:いやそんなことないですね。それはむしろ父の方が開くの怖いですけど。『死の棘』とか面白そうだなと思ってはいるんですけどね、なかなか、、

 

鈴木:じゃあ僕のオススメ。僕のオススメはね、こういう読み方。これ僕の意見ですよ。『死の棘』だけ読むっていうのは、僕は違うんじゃないかなって気がしてるんです。なんでかというと、何か足りない。

 

やっぱり『海辺の生と死』っていうのはミホと敏雄の出会いを描いてある。それがあった上で『死の棘』を読むとね、実は一つの話になるんですよ。と僕は思ってるの。この両方を、、

 

しまお:どっちが先がいいですかね?

 

鈴木:『海辺の生と死』。二人の話は一言でいうと美しい。その美しいものが『死の棘』でどうなったかっていう話だから。両方なきゃダメなのよ。そうすると、人間ってこういうものなのかって伝わってくるの。

 

誤読しちゃうと、『死の棘』だけ読んじゃうと、なんか嫌になっちゃったりする人が中にはいると思う。でも両方読むとね、「人間とは何か」みたいなことが伝わってくるんです。僕はそう思ったの。なんかお孫さんにこんな話するのもあれだけど(笑)

 

しまお:なるほど。

 

鈴木:面白いのよ。お祖父ちゃんたち面白いの書いてるのよ。ほんとに。

 

しまお:そうみたいですね。なんか家族だからあんまりよくわかってないかもしれない(笑)

 

鈴木:でもその島尾敏雄さんがね、「ラピュータがよかった」っていうのは宮崎駿に話したら喜ぶんじゃないかな。

 

しまお:そうですか。

 

鈴木:宮さんっていう人もね、両方とも読んでるんですよ。ミホさんの方も敏雄さんの方も。

 

しまお:50いくつで亡くなったんですが、父の妹が障害を持っていて、もう亡くなってしまったんですけど、ずっと小学生の女の子みたいな可愛いおさげして、赤い服着て、ずっと変わらない女の子っていう、凄い不思議な妖精みたいな人だったので、特殊な空間だったんじゃないかなと思うんですよね。家の中が。

 

そこに私たちの家族がいて、ウチの母親も普通の女の人だから。結構嬉しそうにお祖父さんが接していたのを見てたので。私も普通に元気に女性になったから、それはきっとお祖父さんも凄く嬉しいんじゃないかなって思うんですよね。

 

鈴木:お祖父さんの方が先に亡くなったんだよね?確か。

 

しまお:はい、そうです。お祖母さんは去年ですから。

 

鈴木:新聞出てたもんね。

 

しまお:はい、そうなんです。でも本当たまたまなんですけどね。私が行って見つけたので。私が行った日に亡くなったみたいなんで。本当に偶然で。

 

鈴木:そういう運命なんだな。

 

しまお:ずっと雨が降ってたんですね。朝。で、家を開けてお祖母さんを見つけた時に凄いバーっと晴れて。不思議な力とかよくわからないけど、そういう色んなシチュエーションが重なって、本当にお祖母さんは凄い人だったんじゃないかなって。お姫様みたいに倒れてたんですね。見つけた時に。

 

鈴木:それ、どういうこと?

 

しまお:お姫様を横にパタっと。可愛くパタっと倒れてて。髪の毛はいつもひっつめてるんですけど、寝る時の長い髪の毛が畳にサーっと揺れてなってて、柔らかい曲線とか、指を真っ直ぐ伸ばして倒れてる姿とかが凄い綺麗で、見た瞬間に綺麗だなと思って、良かったなと思って。

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

鈴木:僕よくね、鍵かけない人なんですよ。

 

しまお:ふーーん。

 

鈴木:なんかね、昔からそうなんですよね。鍵かけないと一緒に外に出る人がすぐ「鍵かけないんですか!?」って怒られるんですけどね。なんで鍵かけなきゃいけないんだろうって(笑)

 

しまお:泥棒は?いいんですか?

 

鈴木:一度も遭ったことないし、その時はその時でしょうがないかなってどこかにあるのね。

 

しまお:というよりかけないことの方が、、

 

鈴木:なんとなく出掛けるでしょ?で、帰って来た時に鍵あけるの嫌なんだよね。開いてるとなんか嬉しいんだよね。

 

しまお:(笑)まぁわからないではないけど。

 

鈴木:東京の色んな会社がね、会社の中に入るのにICカードとかね。

 

しまお:そうですね。作ったりしてますね。

 

鈴木:そういうのでピッてやって中入らなきゃいけないでしょ?色んな会社の人って、首からICカード下げてるじゃない?あれやるんだったら会社辞めたらいいなって気がしてるの。

 

泥棒が入る家って、塀が高いんだよね。統計的には。低けりゃ入らないんですよね。僕そう思ってるんですけどね。守るからみんな破りたくなるわけでしょ?だから「いいよ」ってやって間口広げておくとね、みんな欲しくないんじゃない?みんな憧れがあるんですよ。やっぱり。そういう奄美大島とか、ああいうところの世界。

 

しまお:ああ(笑)パンダコパンダ

 

鈴木:ああいう世界は(笑)

 

ーナレーションー

今週の土曜日から公開が始まる『パンダコパンダ』。パンダコパンダとしまおまお。なんだか分かれてないのが似てますね。

 

鈴木:『パンダコパンダ』はどうですか?

 

しまお:泥棒さんもみんな家族っていう。

 

鈴木:そうそうそう。

 

しまお:パンダだって家族になっちゃうわけだから。それをお祖母ちゃんも楽しそうに手紙読んでるし。

 

鈴木:どこかにそういうのに憧れがあるんですかね。だから未だにあの作品に関わった高畑、宮崎はもちろんのこと、他の人たちもみんな嬉しそうに『パンダコパンダ』の話になると、顔が和らぐんですよね。高畑、宮崎の二人ともまだ子供が小さくて、その子供たちのために作った作品。そういうことでいうと、二人が一番幸せな時期ですよね(笑)本当にニコニコして使ったみたいですからね。「あれは楽しかった」って。

 

しまお:私も小さい時に住んでた家は、アパートですけど一軒家がアパートになってる家だったので、ほとんど境がないんですよね。隣の家とも。トイレも一つだし。お風呂はないし。だからたまたま隣になった人と家族になるっていう関係は、、

 

鈴木:わかるなー。僕、人がいっぱい集まるのが大好きなんです。今も。しかもそこで知り合う。

 

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しまお:あっ。

 

田居:おにぎりを食べたかった?

 

しまお:はい。

 

鈴木:(笑)お腹減ってないですか?

 

しまお:あ、減ってます。

 

鈴木:じゃあ食べて下さい!

 

しまお:いただきます。いいんですか?こんな感じで。

 

鈴木:ちょっとあったかいお茶でもあると、、