鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

ポッドキャスト版「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の文字起こしをやっています。https://twitter.com/hatake4633

ついにあの俳優・吉岡秀隆さんがれんが屋に現る! ゲスト:奥田誠治さん、吉岡秀隆さん、

2007年11月12日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol06.mp3

 

鈴木:でもまあとにかく拝見させてもらって、凄い良かったんで。

 

吉岡:ありがとうございます。

 

鈴木:僕、実は一作目より二作目の方が大好きで。公開中の映画。『続・三丁目の夕日』。

 

吉岡:本当ですか!?

 

奥田:鈴木さんは、吉岡さんのことを昔からずっと言ってたし、なにしろ『北の国から』は本当に大好き。

 

鈴木:そう。『北の国から』のDVDがここにあるんですよ。

 

吉岡:ありますね。

 

鈴木:そうなんですよ。僕、全部二回通しで観てますしね。フーテンの寅さんの『男はつらいよ』も全部待ってるんですよ。

 

奥田:それはほんっとに好きですから。

 

鈴木:そうです。あんまりそういうとあれなんですけど、ウチの息子にそっくりだったんですよ(笑)

 

吉岡:光栄やら複雑やら、、(笑)

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

日本シリーズも終わって、秋風の吹くれんが屋に嬉しいお客様が。いよいよ全国で公開が始まった映画『ALLWAYS 続・三丁目の夕日』。プロデューサーの奥田さんと一緒にやってきたのは、主演の吉岡秀隆さんです。

 

鈴木:今日は来ていただいて。

 

吉岡:いえいえ。

 

鈴木:吉岡さん、吉岡くんでいいですか?

 

吉岡:はい。

 

鈴木:年寄りだから、僕(笑)でも何かと山田監督って大好きだったんですよ。

 

吉岡:あ、そうですか。

 

鈴木:そう。おそらく山田監督ってデビュー作から今日に至るまで、ほとんど観てるんですよね。

 

吉岡:作品。

 

鈴木:作品。特に『寅さん』以前もいっぱい観てて、『寅さん』が始まった時はテレビだったでしょ?

 

吉岡:はいはい。最初は。

 

鈴木:実は全部観ててね。『寅さん』が映画になった時に凄い嬉しくて。だからある時、三年ぐらい前ですかね。山田監督と対談っていう話があった時に、恥ずかしいやらなんやら(笑)凄い困ってね。そんなことありましたけどね。

 

吉岡:僕は怖くてしょうがないですけどね。山田監督は。

 

鈴木:やっぱ怖いですか。

 

吉岡:怖いです怖いです。

 

鈴木ジブリへ来てもらったんですよね。

 

吉岡:え、そうなんですか?

 

鈴木:そうなんです。監督が話し合った後、ジブリをグルグル回って、彼が「ああ、昔の撮影所だなー」って言ってくれて。それが凄い印象に残ってますけどね。だから、山田監督の映画は凄い好きで、さっき僕初めて知ったんですけど、実は忘れてたんですけど、『遥かなる山の呼び声』。

 

ここの部屋にはね、実はキネマ旬報が全部置いてあるんですけどね。この40年分ぐらい。ちょっと取るとマイクが外れちゃうんで、すいません!(笑)そうしたら、ここに、、

 

吉岡:ちび俺が。これ僕なんですよ(笑)

 

鈴木:表紙に(高倉)健さんがいるんだけど、その隣に。

 

吉岡:ちっちゃーい。

 

鈴木:(笑)

 

ーナレーションー

テレビやラジオにはほとんど姿を現さない吉岡さん。取材にもあまり口を開かない。っていうか何も話さない、なんて噂も伝わっていました。

 

でもこの後、そんな吉岡さんがゆっくりと静かに語りはじめます。今まで誰にも語らなかった吉岡さん自身のことを。うーん。ジブリの魔法でしょうか。

 

鈴木:倍賞さんってジブリの作品を観てくれてて、『ハウル』に出てもらった時、色んな話したんだけど、「私がジブリの作品を観たのは、吉岡くんに言われたからだ」って(笑)

 

吉岡:『ルパン』を高校一年、中学生ぐらいの時ですかね。倍賞さん『寅さん』を撮影してる時に、「なんか面白い映画ない?」って言われて、それで「『カリオストロの城』すごい面白いですよ」って言って。

 

鈴木:「それで私も観てるんです」って言ってね。結局、倍賞さんの映画で僕が高校生ぐらいなのかな。『霧の旗』。弁護士に騙されて。松本清張っていう推理ものの。あ、これも山田監督だ。

 

奥田:『霧の旗』って山田監督ですか?

 

鈴木:そう。倍賞さんが復讐をするっていう話なんだけど、良かったんですよ。それで覚えてるんですよ、倍賞さんのことを。色々歳とってると覚えてるんだよね(笑)

 

吉岡:凄いですね。

 

鈴木:映画好きだったんだけどね。倍賞さんに会った時は、そういう話はするのが恥ずかしくてしなかったんだけれど(笑)

 

吉岡:『続・三丁目』の時、固くなってたんですよ。プレッシャーもあって。本当はやりたくなかったところもあったんで。

 

鈴木:そうなの!?なんで?

 

吉岡:ええー、だってせっかくキレイに終わってる作品を、、

 

鈴木:あのね、毎年一本やってほしいんですよ。

 

吉岡:シリーズ化希望(笑)

 

鈴木:僕は奥田プロデューサーに一番文句を言ったのはね、なんで間二年空いたのって。『寅さん』だって、最低一年に一本守ったでしょ?

 

吉岡:そうですね。

 

鈴木:でも『寅さん』は、実は一年に三本やったことあるんだよ?

 

吉岡:そうなんですよね。

 

鈴木:だって待ってるの嫌じゃない。

 

吉岡:(笑)

 

奥田:この前からそれ言っててね。

 

鈴木:僕は一年に二本くらいがいいと思ったけれど、それだと大変かもしれないから、二年に一本くらい。あ、じゃない。一年に一回はやってよって。二年に一回じゃダメだよ。

 

吉岡:(笑)

 

男性:続けるのは嫌だったっていうのは驚きだったんですけど。

 

吉岡:いやーでも僕、続編は基本的に何でも反対なんですよね。茶川良い人になっちゃいましたからね。

 

鈴木:色々変えていけばいいんですよ。

 

吉岡:やっぱり元に戻る(笑)

 

奥田:鈴木オートと喧嘩しなくなっちゃったとかね。

 

吉岡:そうなんですよね。丸くなっちゃったんですよね。

 

鈴木:それで言うんだったら、『寅さん』だってそうだよ。

 

吉岡:後半は丸くなりましたからね。

 

鈴木:色々あるもん。それはシリーズものってみんなそうなんですよ。それは勝新さんがやってた『座頭市』だって、最初は本当に嫌な奴だしね。それが段々善人になっていく。それをもう一回元へ戻そうとかね。色々あるんですよ。良いんですよ。

 

吉岡:(笑)

 

鈴木:だって『北の国から』の田中邦衛さんがやってるお父さんだってね、長く観ていくと、あれ同じキャラクターじゃないなっていう(笑)

 

吉岡:そうなんですよ。変わってると思います。五郎さんは。

 

鈴木:でしょ!?スペシャルになってから、前回とまるで違う人だなと思って。

 

吉岡:全然違うんです。急にインテリになったりとか。急にだらしなくなったり。

 

鈴木:でも観てる人はね、関係ないですよ。確かにお話も大事だけどね、みんなが観てるのはね、僕は違うところだって気がするんです。例えば、高倉健さんのやくざ映画っていっぱいあったでしょ?

 

吉岡:はい。

 

鈴木:これ書いた人には申し訳ないかもしれないからど、ほとんどストーリー同じなんですよ(笑)

 

吉岡・奥田:(笑)

 

鈴木:じゃあ何を観るかでしょ?

 

吉岡:そうですね。

 

鈴木健さん観てるんですよ。ずーっと最初から最後まで。健さんがどういう時にどういう顔をするか。この台詞をどうやって言うんだろう。それをずーっと観てるんですよ。だから楽しいんですよ。

 

吉岡:本当に健さん、お好きなんですね。

 

鈴木:(爆笑)

 

奥田:本当好きですよね。

 

鈴木:映画って別のところに魅力がある、と思うんですけどね。奥田さん、どうですか?

 

奥田:なんか鈴木さんの話を聞くと、鈴木さんがジブリで映画を一本作ったらいいですよね。

 

鈴木:何言ってんの(笑)

 

奥田:そうしたら、みんな協力しますよね?

 

吉岡:そうですよ。

 

鈴木:何言ってんすか(笑)ジブリの映画は観てるんですよね?

 

奥田:これはね、吉岡さん大好きだから!

 

吉岡:『コトー』やってる時も与那国に全部持っていって。でも不思議なのが、『紅の豚』ばっかり観てましたね。与那国で。何でしょうね?『ルパン』と『紅の豚』を交互に観てましたね。どっかラテンなんですかね。

 

奥田:ラテンもあるし、自分の年齢が段々あがってくるじゃないですか。最初作った頃と見方が全然違うんですよ。

 

吉岡:違うんですよね。

 

奥田:この前も飛行機の中でやってて、観ちゃったんですよ。

 

鈴木:『紅の豚』ね。

 

奥田:『紅の豚』をタイからの帰りで機内上映やってて。全然見え方が違ってて。

 

鈴木JALでキャンペーンやってるんですよ(笑)

 

吉岡:(笑)

 

奥田:たぶんジブリの映画って、自分の年齢変わってくると見方が変わるから、あれでいつも新しく観れるんですよ。『豚』なんかは四週間前に観たんですよね。びっくりしちゃって。あまりにも良いから。

 

吉岡:面白いですよね。

 

鈴木:『ルパン』って、カリオストロでしょ?

 

吉岡:そうです。

 

鈴木:あの人って、歳はいくつだと思いますか?

 

吉岡:ルパンですか?30いくつ?わかんないです。

 

鈴木:中学に観た時はいくつだと思いました?

 

吉岡:20、、あれ?

 

鈴木:これから40になって観てみたら、いくつだと思う?

 

吉岡:上ですね。常に。

 

鈴木:常に自分より上に見えるキャラクターなの。でしょ?

 

吉岡:本当だー。

 

鈴木宮崎駿って天才なんですよ。そこは。要するに、その人の年齢から見て、自分より上。それはいくつになっても付き纏うんですよ。追い越さないんですよ。自分が。なんでああいう才能持ってるのかねー。

 

奥田:そうですね。

 

鈴木:『豚』だってそうでしょ?あの人は一体いくつなんだっていう(笑)

 

吉岡:本当だ。でもどれだけジブリ作品に助けられてきたことかわからないですよ。

 

鈴木:急に恥ずかしくなってきた(笑)

 

吉岡:どうしても僕は芝居をしなくちゃいけなくなったりすると、どんなに良い作品だったりとかしても、ある時褪せて見える時があるんですよ。役者さんの作為が見えたり、こういう風に見せようとしてるなっていうのがちょっと僕に見えたりとかする瞬間があるんですけど。

 

ジブリ作品ってそういう意味でいうと、みんな芝居うめぇーなーっていうか(笑)ナウシカうめぇーなーとか。お芝居じゃないじゃないですか。それが見えないから、一番安心して観れるんですよね。何かあって元気がなくて落ち込んだ時とかに、生身の人間が演じてるものは観れなくなるんですよね。慰めてくれないんですよ。

 

映画だったら三ヶ月入ってたりとかすると、ある時ふっと馬鹿らしくなるというと、ちょっと違うんですけど、冷める時があるんですよ。何やってるんだろうなっていうのが。そういう時にはジブリっていうか。ものを作ってるんだっていうのは、どこかおかしくならないといけない、だからしょうがないんだって言い聞かせるっていうか、どこか冷静に一歩引いた自分を作りたいんですよね。僕は趣味もないし。

 

鈴木:趣味ないんですか?

 

吉岡:ないんですよ。それでいてプロ意識みたいなものをあまり持っちゃいけない職業なんじゃないかなって最近思うんですよ。どこか半分素人というか、当たり前でいなくちゃいけない。でも『三丁目』の茶川さんとかはそういうことがあまりないんですよね。完全に別の人格になるというか、純くんとか満男くんはどうしても僕の成長とともに合わせて書いてもらったりしてるところがあって、「本当の僕はどこにいるの?」っていう、変なトラウマなのかもしれないですけど。まともじゃないっていう職業というか商売というか。

 

鈴木:でも僕一番びっくりしたのは、倍賞さん。だってさくらと違う人だったから。

 

吉岡:そうなんですよ。

 

鈴木:全然違うでしょ?180°違うでしょ?あれは本当に驚いた。だってイメージとしてさくらが頭にこびりついてたから、お目にかかって喋り始めたら、まるで逆。よくああいう演技が出来るんだなと思って。

 

吉岡:倍賞さんは僕が目指すところっていうか、目指す人なんですよね。こういう人になりたいっていうか、こういうお芝居をするには当たり前でいなくちゃいけない。さくらさんがいて当たり前だったりするんですよ。撮影所の中にいたら。それだけでいいじゃないですか。成立してるっていう。

 

そこに行き着かないといけないって思うと、例えば、茶川だったら茶川がいるって思わせないといけないなって。演じてるっていうのが見えたくないんですよね。

 

鈴木:今のお話はよくわかりますね。

 

吉岡ナウシカはやっぱりナウシカじゃないですか。誰が演じてるわけでもなくナウシカなので安心するんですよ。ルパンはルパンだし。

 

鈴木:これはヒントになるか答えになるかわからないけどね、僕は宮崎駿を見てていつも一番感心すること。こんだけ映画作ってきて、いまだに新しい映画作る時、常に初心に戻るんですよ。というか戻っちゃうんですよ。あの人って。なんでだろうって思って。

 

ストーリーを作っていく時に、あの人の面白さは掌で駒を動かさない。自分がそのキャラクターのそばにいるんですよね。それでその人の気持ちになって、それで台詞も考えるんです。それから行動もする。そこがもしかしたら一番の他の監督との違い。

 

吉岡:わかるんです。説明しないじゃないですか。『ナウシカ』にしても説明なんじゃなくて、観てればわかるじゃないですか。僕いつも思うんですけど、空気が動く感じがとても好きなんですよね。

 

鈴木:自分で書いた台詞のやりとりでも、「あ、ダメだ!」っていう時には「どうしたんですか?」っていうとね、「理屈で書いてる」って。彼の得意な表現で「脳みそのフタを開けなきゃダメだ」って。そうすると、そこへ自分が立ち会える。そんな感じがあるんですよね。

 

だからいつも主人公のそばに行くんですね。目線が同じなんですよ。ないしは下の方っていうか。上から見てない。

 

吉岡ジブリ映画を観ると、ジブリ映画だけは絶対裏切らないっていうか、ずーっと助けてもらってますね。いつもロケに行くんでも、手放せないですよね。

 

ーナレーションー

自分に疑問を持つから、リアルな夢を描ける。

 

吉岡さんをはじめ、そんなたくさんの映画人の夢と現実が生きてるあの『三丁目』へ。ぜひあなたも訪れて下さい。

 

吉岡:やっばり健さんとか倍賞さんとか渥美さんとかは僕は大尊敬するというか、語らずして語るというか、台詞なくして観てる人間に伝えるっていうことが出来るし、それを山田監督もわかってるから無理に説明的な台詞は入れないで、ここは役者さんに任せるっていう。

 

鈴木:喋らない寅さん好きでしたからね。

 

吉岡:そうですね!背中で去っていくとか(笑)それだけ涙が溢れるんですよね。切ないというか。

 

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鈴木宮崎駿という人はね、いま『紅の豚』の話が出たから僕はいつも思うんですけどね、例えば、豚の顔してるわけでしょ?最初から平気で人間の中に混じってる。

 

吉岡:そうですよね。銀行とか行ってますもんね。「羨ましい」とか言われて。「そういうことは人間同士でやってくれ」とか。

 

鈴木:そばにいながら、どうしてこんなことが出来るんだろうって。普通説明するでしょ?なんで豚になったのかって。ないんですよね。いきなり豚が出てきて、色んな人と行き交うんですけど、誰も不思議に思わない。そういうことをあの人は平気でやるんですよね。僕はこれ世界でも珍しいと思う。何にも違和感感じないでしょ?気がついたらその世界に入っちゃってる。

 

吉岡:本当ですね。

 

鈴木:あれはあの人独特ですね。たまに『もののけ姫』なんかでも映画の冒頭、タタリ神が出てけるんですよ。村人が恐れおののいて「あ、タタリ神だ!」って。勝手に決めちゃうんですよね。

 

吉岡・奥田:(笑)

 

鈴木:まだお客さんの方はわかってないんですよ。「なんなんだ、あいつは!」って思ってる時に、ネーミングしちゃうんですよ。だから宮崎駿って日常的にもそうなんですよ。

 

例えば、この前僕がちょっと忙しくて疲れてたんですよ。そうしたら、いきなり来てね、「鈴木さん、黒い粉が出てる」って。

 

奥田:(笑)

 

鈴木:それで隣にいたスタッフにね、「ちょっと見て、鈴木さんのこと。黒い粉が出てるだろ」って。したらそいつがね、「いや、僕には見えません」って。

 

吉岡・奥田:(笑)

 

鈴木:したらね、怒るんですよ。「なんでお前は見えないんだ!」って。「見えないっていうのはお前の目が節穴だってことだ。鈴木さん。黒い粉をどうかした方がいいよ」って。日常的にもそうなんですよ。大変なんですよ、だから。

 

奥田:知らない人が聞いたら、ただの危ないおじさんにしか(笑)

 

吉岡:『崖の上のポニョ』楽しみだなー。早く観たい。