鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

ポッドキャスト版「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の文字起こしをやっています。https://twitter.com/hatake4633

ジブリから、もう一つの海の物語が!? ゲスト:野坂陽子さん

2008年4月22日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol29.mp3

 

鈴木:どうもこんばんは。

 

野坂:たくさんいらっしゃるんですね。

 

鈴木:(笑)すいません。どうぞ、こちらへ。

 

野坂:失礼します。

 

鈴木スタジオジブリの鈴木と申します。

 

野坂:野坂でございます。どうぞよろしく。ここって凄いですね。入った途端に始まっちゃってるんですね。

 

鈴木:すいません!始まってます(笑)

 

野坂:あれ?っと思ったら、なんか迷いこんじゃったな、みたいなところからね。

 

鈴木:(笑)

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

この番組は、ウォルト・ディズニー・ホームエンターテインメント、読売新聞、"Dream Skyward"JAL、“街のホットステーション“ローソン、アサヒ飲料の提供でお送りします。

 

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

鈴木:『火垂るの墓』はね、実は18歳で読んでるんですよ。1967年の直木賞ですよね。その後、アニメーションの世界に入って、『火垂るの墓』を企画したんですよ。

 

野坂:お陰様でというか、毎年放映されますよね。大体。毎年ご覧になって、どうしても放映させる日には観なきゃ気が済まないっていう人が多いんですよ。毎回みんな涙を溢して下さるんですって。それは嬉しいなと思いますけど。

 

ーナレーションー

高畑勲監督によってアニメ化された、あの『火垂るの墓』の原作者を、もしかしたら若い人は知らないかもしれませんね。

 

原作は野坂昭如さんです。

 

野坂:私は騙されたんです。

 

鈴木:騙されたんですか(笑)

 

野坂:もう忘れましたけど、気がついたら騙されて。

 

鈴木:そうですか。

 

野坂:はい。

 

ーナレーションー

五年前、脳梗塞で倒られて、今リハビリを続けている野坂さんに代わって、今日れんが屋においでくださったのは、野坂さんの奥様、陽子さんです。

 

野坂:私ね、車の運転してて「あら?」っと思ったら、ラジオから聞いたような声が聞こえてきた。

 

鈴木:はい。

 

野坂:そうしたら、彼の歌だったんですよ。ビックリして!その時に。窓を閉めました。別にそんなことしなくていいのに、人に聞かれちゃいけないと思って、慌てて窓を閉めた覚えはあるんですよね。

 

それからね、商店街歩いてた時にパチンコ屋から野坂の暗い声が聞こえてきたんですね。

 

鈴木:どの歌ですか?

 

野坂:ちゃんとは覚えてないんですけどね。それで娘の手を思いっきり引っ張って「早く帰りましょ!」みたいな感じで遠ざかったことはありますよ。

 

鈴木:全然話されなかったんですか?今度歌歌うとか。ラジオに出るとかテレビに出るとか。

 

野坂:言いませんね。でも段々段々歌は私の方が先輩だと思ってたら、彼は自分の方が先輩なんだと。「僕はクロード野坂という芸名まである」「クロードってなによ?」って「素人ではない」っていうそれだけでも私はウケましたけど、おかしいでしょ?これ。私何回聴いても笑っちゃう(笑)

 

鈴木:(笑)

 

野坂:大好きな話なの。

 

鈴木:でもカッコ良かったですよね。本当に。

 

野坂:五年前に脳梗塞で倒れましてね。右がダメになったんですね。仕事で使う右手が上手く使えないんですね。そうしますと、書くことが上手くいかない。原稿用紙のマス目を埋めることが出来ない。

 

しょうがないから私が聞き書きをするわけですよ。野坂の流れるような文体っていうのが私めには、向こうもコショコショって言うもんですから、「えー!?」とか訊いてると、向こうもガクって嫌になっちゃうわけですね。「もう一回。なに?」とか言って、中々続かないわけですね。

 

そうすると、「ちょっと待って。それはどういう意味?」とか、私もうるさいもんですから、一々止まるんですね。彼はそこで流れる如くのものが、つっかえつっかえつっかえなもんですから、結局私が勝手にマルをつけたり、勝手に点をつけたりするもんですから、文章が違って読みちゃうんですね。

 

鈴木:言っていただければ、僕出来ますよ?(笑)

 

野坂:今もそうかもしれませんけども、出しますよね。そうすると、ラジオとか新聞とか「近頃の野坂先生の文章がちょっと違うような気がします」とか言われたり。

 

鈴木:でも随分甲斐甲斐しくそばにいらっしゃるんですね。いま。いま病院なんですか?

 

野坂:いえいえ。

 

鈴木:ご自宅の方で?

 

野坂:ええ。

 

鈴木:それでずっと色々介護というのか。

 

野坂:そうです。今頃の時間はたぶん死んだフリしてるかもしれません(笑)

 

鈴木:あんまり立ち入るとあれですけど、仲がおよろしいんですね。

 

野坂:フリをしてます。

 

鈴木:どっちがですか?

 

野坂:私ですよ。

 

鈴木:(爆笑)あ、そうなんですか?

 

野坂:それは当然です。あの人にそんな権利はありません。

 

鈴木:色々あったんですよね?

 

野坂:え?

 

鈴木:色々あったんですよね?今日に至るまで、夫婦ですからね、最初のうちこそ、愛してるだの恋してるだのって色々あるかもしれないけれど、それが続くのも大体三ヶ月とか三年くらいですよね?その後、冷たくなったり色々あるじゃないですか?

 

野坂:ええ。でも主導権は私ですから。

 

鈴木:ずっとあったんですか?

 

野坂:それはそうです。

 

鈴木:一貫して、カカア天下ですか。

 

野坂:当然です。

 

鈴木:ずっと?

 

野坂:はい。

 

鈴木:それに対するフラストレーションというのはなかったんですね?

 

野坂:それは抵抗もしてましたけど(笑)でもいいんです。

 

鈴木:そうなんですか。

 

野坂:私が全部決めてましたから。

 

鈴木:じゃあこんなこと言ったら失礼ですよ?そうやって脳梗塞をおやりになって、そうすると動くのは不自由になるわけですよね?そういう時、もう勝手なことは出来ないわけですよね?そういう状態になった、、

 

野坂:途端に敬語を使ってました。

 

鈴木:奥様に対して?

 

野坂:はい!途端に。何を訊いても「はい」「はい」って(笑)

 

鈴木:その前は違ってたんですね。

 

野坂:そうじゃないんです。「あなた、お茶を一杯入れていただけますか?」って、ものを頼む時はそういうような言い方ですね。

 

鈴木:はぁーー。奥様をお呼びになる時はなんておっしゃるんです?

 

野坂:「あなた」って。

 

鈴木:名前はお呼びにならないんですか?

 

野坂:呼びません。忘れてるのかもしれないですけどね(笑)

 

鈴木:いやいやいや。

 

野坂:娘が二人いますけど、娘たちにもとにかく言葉遣いとか、それはとても言ってましたね。別に厳しい父親ではないんですけど、カッコつけていうと、小さい時はレディーとして育てる、みたいな感じでしたね。

 

鈴木:ふーーん。

 

野坂:ちょっとイメージ違いました?大丈夫?

 

鈴木:まぁ僕らの世代だとね、70年なんで学生運動華やかきし頃、、

 

野坂:だって私、おにぎり作ったり、東大に差し入れましたよ。

 

鈴木:そうなんですか!?

 

野坂:うん。だって彼が「お願い」って言うから、しょうがないから差し入れ作りましたよ(笑)

 

鈴木:いっぱい作ったんですか?

 

野坂:そうですね。

 

鈴木:したらそれを野坂さんが届けに行くんですか?学生たちを支援するために。

 

野坂:そうですね。しょっちゅうではなかったですけど、その代わりに火炎瓶を投げ込まれたりね、自宅に。

 

鈴木:そんなこともあったんですか?

 

野坂:ありました。いっぱい怖い目に遭いましたから。

 

鈴木:彼のせいで?

 

野坂:家族に対して、この私がこんなことがあったっていうと、とても怒るんですね。自分に向かってされることはどんなことでも受け入れよう。でも家族には許さないっていう、それは徹底してました。そういう時にはホホって喜んでましたけど、本当にこれは徹底してやってました。

 

鈴木:家族を守る人なんですね。

 

野坂:本当はもっと守ってもらいたかったんですけど。

 

鈴木:え?守ってたんじゃないんですか?(笑)

 

野坂:だって、気がつくといなかったですから。「口ばっかり!」とか私は言ってましたけど。

 

鈴木:いなかったっていうのは、、

 

野坂:やっぱり忙しかったから。

 

鈴木:どっか行っちゃうんですか?帰ってこないんですか?

 

野坂:凧でした。

 

鈴木:ああー風船ですね。

 

野坂:ええ。だから編集者の方がウチに飛んでいらして、「奥さん、野坂さんは出かけた時に靴を履いていきました?下駄ですか?」ってお訊きになるんですよ。

 

鈴木:それ、どういう意味なんですか?

 

野坂:靴だと違う場所に行けちゃうなっていうことなのかもしれないですよね。でも靴を履いて出て行っても、帰り下駄履いて帰ってくるんですね。本当にお酒ばっかり飲んでて、お酒のおかずがお酒、みたいな飲み方をしてましたから。

 

ていうか、五年前、それこそ倒れるところですから、ゲッソリですよね。枯れ枝一本落ちてても、つっかかって死んだだろう、ドブにはまってっていうくらいにおかしかったと思うんですよ。意識的にも。そこが上手いこと自宅で倒れましたんで、すぐに連絡をとって。また運良くすぐに連れて行った、ということでかかりつけの大学病院まで私の車で自分が運転をして連れて行ったの。

 

鈴木:救急車とかそういうんじゃなかったんですね?

 

野坂:なかったの。それでラッシュ時くらいだったの。21時くらいで。私は途中で「なんで救急車を頼まなかったんだろう」っていう、とても後悔をした記憶がありますね。

 

でもその時は食事療法で本当にひどい顔をして、写真を見るとわかるんですけど、虚ろで。いまや食べさせて、肉をつけて、彼の体を治していくことに快感を覚えるんですよね。

 

鈴木:なるほど。

 

野坂:今になると、あなたは生かされているんだから、頑張って。そう思うの。

 

ーナレーションー

『ポニョ』の公開は7月19日ですが、昨日の4月19日、ジブリからもう一つの海の物語が届けられました。野坂昭如さんの戦争童話に、男鹿和雄さんが絵を描いた美しい絵本『ウミガメと少年』です。

 

野坂:今日いただいたんですよ。で、、

 

鈴木:なんか問題ありました?

 

野坂:いえいえ。なんて可愛くて、美しくて、綺麗で、やっぱりこれにして良かったじゃないですか。

 

鈴木:僕、大賛成でしたよ。

 

野坂:あ、本当に?

 

鈴木:ラジオだから、聴いてらっしゃる方にわかんないといけないんで。『ウミガメと少年』って野坂さんの小説を、ジブリで活躍してる男鹿さんに絵を描いてもらって、物語を書いたと。これを作ってる時に実は絵物語ですから、中にいっぱい絵があるんですけど、どの絵を表紙にするか。今ある絵と違う絵が表紙になってて。

 

野坂:そうですね。でもそれもとても良かったですけれども。

 

鈴木:でも奥様の方からこっちの方が良いと。

 

野坂:見た途端に惚れ込んじゃって。

 

鈴木:わかりますよ。僕もそれ聞いて、こっちの方が圧倒的に良いと思いましたから。

 

野坂:もう本当になんていうんでしょう。もうこれだ、っていう。

 

鈴木:(笑)

 

野坂:だってこうやって泳いでくるんですもん。

 

鈴木:そうですね。

 

男性:で、この絵は中に開けたところの中表紙にこういう風になってたんですよ。

 

野坂:でも私見つけちゃったの。これよ!みたいな(笑)

 

男性:で、戻られてからも「一回、野坂にも訊いてきますわ」って言われて。

 

野坂:そう。「どっちがいい」って、やっぱり「これ」って言ってましたよ。

 

鈴木:あ、そうですか。

 

野坂:ええ。だって本当にこの子が私に向かって来たのよ。

 

鈴木:(笑)じゃあもう僕は言いますけれど、この話をジブリの橋田が奥様の方と知り合って、本当はこれ別途絵本もあったのに、もう一つ作ってもいいんじゃないかっていう話になった時、僕は二つ返事で大賛成だったんですよ。

 

野坂:あ、そうですか。

 

鈴木:なんでかっていったら、この本って奥付っていう最後のページを見るとですね、ここに野坂さんの作だと。絵を描いてるのは男鹿だと。ここに発行人で鈴木敏夫っていうのがいるんですけどね(笑)どういうことかっていったら、僕のことなんですけれど、僕はファンだったから、野坂の本を出すっていうのは単なるミーハーなんですけど、すごい嬉しかったんですよ。本当に。

 

野坂:次は潜水艦に恋をしたクジラの話にして下さい!

 

鈴木:はい(笑)

 

野坂:良かった。もう約束しましたわ!野坂に言わなくっちゃ!

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

鈴木:野坂さんの好きなところを3つ挙げるとしたら何ですか?

 

野坂:野坂のですか?

 

鈴木:はい。

 

野坂:私ね、今は思えないんです。

 

鈴木:今は思えない?

 

野坂:うん。このクソったれじじい、としか思えなくて。たぶんね、野坂がいなくなって、しばらくしたら、そこが好きだったなっていうことを思い出すことが出来るだろうって、私思うんです。今は「嘘つき」って思うし、「馬鹿」って思うし、「なんだ、本当は馬鹿なんじゃないの?」とか、せっかく病気になったんだからっていう感じで、もっとたどたどしくてもいいからどんどん喋るとか、それ流の歌を歌うとか。だから私は何回もリハビリソングっていう提案をしてるんですね。

 

いま私が訊きたいんですけれども、教えていただきたいんですけれども、どんなことをさせたらいいでしょう?

 

鈴木:野坂さんにですか?

 

野坂:うん。

 

鈴木:うーーん。

 

野坂:何をして欲しいでしょう?

 

鈴木:でもやっぱり、みんながこれが当たり前だと思ってることに対して、ご意見番として「それ、おかしいんじゃない?」って。野坂さんってそれ言わせると、実は若い時からすごいシャープな意見なんですよ。

 

野坂:今度のオリンピックの聖歌ですよね。「どう思う?」って訊いたんですよね。したら、もちろんチベット問題もそうですけど、「そういうことについては僕は細かいことはわからない」と。だけど、元々聖歌はなかった?

 

鈴木:そうです。なかったんです。

 

野坂:やっぱり。「嘘ばっかり!」って私が言ったら、なかったっていう。

 

鈴木:ベルリンのオリンピックからです。

 

野坂:そう言ってました。ベルリンからだって。「だから、なくてもいいんだ」って。

 

鈴木:一見チャランポランに見えつつ、その内実で何が大事で何がいい加減かっていうことを区分けしてらっしゃった方だなと思ってね。なんか野坂さんっていう名前を聞くと、未だにあるんですけど。今日奥様にお目にかかれて光栄なんですけれども。

 

野坂:いやあ、こちらこそ。なんかそんな良い男かなって、ちょっと思ってる(笑)

 

鈴木:なかなか分かりにくいと思うんですよ。これは世間の人の方がわかるんです。家庭にあったら家庭の良さがあるでしょうけどね。

 

野坂:私も先ほど申し上げましたように、後でじっくり考えたら良いところがあったと思えるかなって。そんな時が来るかなって。

 

鈴木:でもなんかわかりますね。

 

野坂:最初の孫が男の子だったので、「パパ。この子に兜を買ってあげて?」って。

 

鈴木:男の子だから。

 

野坂:そうそう。「お祝いに兜買ってちょうだい」って娘が言ったんですね。「あなたは馬鹿だな。兜は新聞紙に決まってるんだよ。昔から。兜なんて買うもんじゃない」って。したら娘は「ああ、そうだったの?」って。

 

それで「鯉のぼりならば、買ってあげる」って。それで大きい鯉のぼり買ってあげて、狭いところに鯉のぼりを立てたからって、そよがないじゃないですか?

 

鈴木:それは難しいですね。

 

野坂:ダラーっとしてるわけですよ!大きいのが。「風がないから、揺れもしないわね?」って話になってたら、なんとなく揺れだしたんですよ。それでこっちは家の中から見てたんですね。したら、洗濯竿で下からおじいちゃまが(笑)良いでしょ?