鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

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磯部澄葉さん 舞台『千と千尋の神隠し』を観て(中編)

 

鈴木

この3時間の中に要素を全部入れる、それは大変だよなと思ってて。その大変さをゲネプロの時にはちょっと感じちゃったのよ。でも今日はそうじゃないのよ。ゆとりがあるのよ。そうすると、面白いもんだなーと思ったね。やっぱり生き物だね。芝居って。全然変わるもん。おまけにストーリーも、俺は違って見えたんだよね。どうだったの?

 

磯部

私はですね、1回目の時は演出とかもすごく気になってたので、そっちにも目が行ってたんですね。今日はカオナシインパクトというのが出てたなっていうのもありましたし、夏木マリさんが演じる湯婆婆と銭婆、特に銭婆の印象もグッときました。

 

鈴木

今日の方が強烈だったもん。ゲネプロの時は銭婆も湯婆婆も同じ人に見えたのよ(笑)でも今日はキャラクター変えてるの。夏木さんが。ね?

 

磯部

違いましたね。演じ方を変えられてたりして、素晴らしい。

 

鈴木

芝居ってね、早めに行くもんじゃないね。1ヶ月の公演があったら、後ろの方で観た方が面白そう。

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

今週も先週に引き続き、金城学院大学准教授の磯部澄葉さんをお迎えして、東京帝国劇場で行われている舞台『千と千尋の神隠し』について、鈴木さんと語ります。

 

今週はこんなお話から。

 

注:「桜井」というのは、桜井玲奈さん。スタジオジブリのプロデューサー室で鈴木さんのアシスタントをされている方で、「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」担当もされています。

鈴木

千と千尋』って何が面白いの?俺が訊くのもなんだけど。ちょっと教えて下さい。

 

磯部

まず、女の子の頼らないって言ったらあれだけど、普通の女の子が湯婆婆をはじめ釜爺、カオナシとか色んなキャラクターの中で凄い逞しくなっていくなっていうのは、今日の(上白石)萌音さんの演技を観ても感じて。それは思いました。

 

あともう1個思ったのは、宮崎さんがカオナシとかどういう風なイメージで作ったんだろうっていうのが。どこから現れるんだろうとか。

 

鈴木

途中まではね映画の方は、神様たちが疲れてお風呂に入りに来る、そのお風呂に来る人の1人に過ぎなかったのよ。カオナシを活躍させるっていう考えは全くなくて。

 

磯部

あ、そうだったんですね。

 

鈴木

なんでそうなったかっていうのは、僕がちょっと関与したんですよ。

 

宮崎駿は、不思議な街へ行ってお父さんとお母さんが豚にされる、それで千尋がどうやって生きていくか。そこで彼女は今日の話でもわかるように、湯婆婆の所へ行って「ここで働かせて下さい」。そうしたら、名前を奪われるわけじゃない。名前を奪われて、さあどうする?ってそういう展開だったのよ。

 

宮崎駿が最初考えてたのは、湯婆婆をやっつけなきゃって。実は成功するのよ。

 

磯部

やっつけるのを?

 

鈴木

やっつけるのを。それで湯婆婆は見事にやっつけられるわけ。それでやっつけたら、なんとお姉さんがいた。お姉さんは湯婆婆どころの強さじゃないわけ。わかる?玲奈。

 

桜井

たぶん(笑)

 

鈴木

それで宮さんがいうには、これは千尋1人の力ではダメだと。で、ハクの力を借りて、2人で銭婆をやっつける、という話だったのよ。

 

磯部

じゃあ、ハクはそこから出てきたんですか?

 

鈴木

ハクはその前も出てるんだけど、一応ハクの役割ってそれだったの。それで「鈴木さん、そうやってやるから」って言われて、聞いててバカバカしくなったんだよね(笑)

 

磯部

本当は千尋とハクが協力して銭婆を倒して、完結?

 

鈴木

そう。それで完結だったの。なんでそんなバカなことやんなきゃいけないんだと思ってね。それで俺はね、そういう正直なんですよ。顔に出ちゃったみたいで。「どうしたの?鈴木さん」って言い出したの。「いや、別に」って言ったらね、「つまんない?」って言うから、「いや、つまんないわけじゃないけど、どうなんですかね?」って(笑)そうしたら、宮さんが「つまんないんだ?」って言うから、「なんて言うんですかね。これはアクション映画ですか?」って。そうしたら、「そうだよ」って言うわけ。名前を奪った湯婆婆をやっつけて、更に強大な敵・銭婆をやっつける。「宮さん、そういうのよく作ってきましたよね?」って言ったら、「どうしよう」。そこで腕組みなのよ。

 

そうしたら、宮さんが「そうだ」って言い出したの。「鈴木さん、覚えてる?」って。「何がですか?」って言ったら、さっきの話。お風呂に入りに来る疲れた神様の1人がカオナシ。当時ってカオナシって、名前もないのよ。そうしたら、宮さんがカオナシの顔をホワイトボードに描いたの。「思い出した?これ」って。描かれても覚えてないのよ、これ(笑)印象が薄かったのよ。「コイツをクローズアップしようか」って言い出したの。

 

磯部

へぇーー。

 

鈴木

「それ、どういうことなんですか?」って訊いたら、今の話をしだしたのよ。要するに、カオナシっていう神様は人の心の弱い所を持ってるっていう話をしだして。それで宮さんって面白いのよ、そういう時。実は映画の今のカオナシの話の内容全部喋っちゃったの。喋って、「鈴木さん、湯婆婆と銭婆をやっつけるやつと、このカオナシの話、どっちがいい?」って。

 

俺、本当のこと言うとね、こう考えたんですよ。要するに、他愛のない話だと思ったの。湯婆婆をやっつけて銭婆をやっつけるって。映画っていうのはその方が健康的かなって。そういう考えもあるのよ。

 

ところが、このカオナシの方。人を惑わすじゃない?人の心を弄ぶじゃない?そういう存在って。そうすると、俺の中に2つの心が思い浮かんだのよ。1つは悪魔なのよ。こっちの方がお客来るなって(笑)どっちの方が良いのかなって、一瞬のうちに考えたの。そうしたら宮さんが「鈴木さん、早く決めてよ!」って。それで思わず「カオナシ」って言っちゃったの。そうしたら、「わかった。それでやるから」って。

 

磯部

それで決まったんだ。

 

鈴木

そう。大体映画ってこうやってやるの。大体、湯婆婆と銭婆って双子じゃなかったんだから。最初。

 

磯部

違ったんですね。

 

鈴木

ちゃんと銭婆のキャラクターも描かなきゃって言ってたの。そうしたら、面倒くさくなっちゃってね、「鈴木さん、双子でいいかな?」って。したら、楽じゃん。ということなんだよね。今そうやって振り返ると、面白いよね。どっちが良かったかって。だから何が良かったかって訊いたの。

 

磯部

私としてはカオナシがいて欲しいですね。ああいう存在でいて欲しい。

 

鈴木

となると、ゲネプロの時より今日の方がカオナシの存在大きいよね?

 

磯部

大きいですね。

 

鈴木

というと、この間より今回の方が面白いってことになるんだね。

 

磯部

そういうことでしょうね。

 

鈴木

他の言葉が見つからないから、そういう言い方をしちゃうけど、カオナシって人の心をざわつかせる。だって、金を出してね。

 

磯部

カオナシの「ア、、」とか言うじゃないですか?あれはああいうキャラクターだったんですか?初めから。

 

鈴木

あれね、最初はセリフなかったの。これどうする?ってことになって、現場で「こういう声出したらどうかな」って、たぶん録音監督の人が言い出したんだと思う。それであれになったんだよね。

 

磯部

そうなんですね。

 

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磯部

今日の観て思ったのが、カオナシの切なさが現れてて。

 

桜井

切なさ。

 

磯部

音楽と「ア、、」っていう音声が凄いインパクトがあって。

 

桜井

ゲネプロと全然違うんですね。やっぱり。

 

磯部

違いますね。カオナシ人間性というのか。

 

桜井

より映画のカオナシに寄っていたというか。

 

磯部

寄ってました。切なくなるというか。

 

桜井

最後、千尋が電車に乗りに行く時に、切ない感じでフラフラフラとやって池に落ちていくじゃないですか。ゲネプロの時、もっとそのシーンが見えるのかなと思ったら、シューという感じ。なんて言うんですか。サーと来て、そのままポチャって落ちたような感じがして、あそこがもうちょっと切なさが欲しかったなっていう。なんかメチャ上から目線ですね(笑)

 

磯部

でもわかります。

 

桜井

でも今日は違かったですか?全体的に。

 

磯部

間の取り方が違うから、間が「あっ」と考えさせられるというか。切ないというか。2人の電車のシーンがぶっちゃけちゃうと、ゲネプロの時は流れで行く感じがあったんです。でも、あそこがあの映画の感じがすごい出てて。

 

桜井

ちょっとそれも気になりますね。観てみないとわからないじゃないですか。やっぱり。だから何回も観てみたくなるっていう。

 

磯部

何回も観てみたくなる舞台だなって。

 

桜井

私ももう1回観たいです。

 

磯部

でも最後のトンネルから抜けて、千尋が残る時にハクがフッと出てきてフワってやるじゃないですか。あれは良いなって。

 

鈴木

何のシーン?

 

磯部

最後のシーンです。ハクが1番最後にフワっと出てきてフーって。

 

鈴木

ああ、あれは良かったよね!

 

磯部

あの演出がとても良かった。

 

鈴木

それで今の千尋っていう字になるでしょ?あの千尋っていう字、僕の字だから僕も嬉しかったですよ、あれ(笑)

 

磯部

そうですよね(笑)

 

鈴木

かなり嬉しかった!

 

桜井

かなりデカく「千尋」って出てくる。

 

鈴木

今日の方がハッキリ見えたんだよ。

 

桜井

あ、本当ですか?

 

磯部

途中の湯婆婆が荻野千尋の荻野だけを取って、千だけ残す、あれも鈴木さんの字なんですか?

 

鈴木

あれはね、映画の通り。あの「荻野」っていう字、間違ってると思うんだよね。だから直したくなったの。でもやっぱり嬉しいよね。こうやって映画でヒットしたものが舞台になって、それで単なる焼き直しじゃなくて、命を注がれた感じがして、それで元気になるっていう。良かった。

 

桜井

本当ですね。

 

鈴木

本当に貴重な経験。ゲネプロを観てもう1回日をおいてもう1回観る。こういう経験って初めてだったから、長生きはするもんかなって。

 

桜井・磯部

(笑)

 

桜井

また観たくなっちゃいますね。

 

鈴木

うーーん。ビックリしたね。

 

磯部

何回観ても、違う発見がありそうで。

 

鈴木

また変わりそう、それはそう思う。落語でもなんでもそうなんだけど、同じネタが日によって雰囲気変わるんだよね。考えてみたら当たり前なんだよね。

 

桜井

生ものですね。やっぱり。

 

鈴木

でもね、俺に取って1番嬉しいのは、やっぱりジョンだね。ジョン・ケアードという人は最初は単に『レ・ミゼラブル』をやった人で有名な演出家なんて思ってたんだけど、とにかく『千と千尋』をやりたいということで東宝に申し入れて、それでやることになったでしょ。初めて会った時になんか意気投合。良かったんだよね。なんか仲良くなっちゃった。

 

冒頭の『千と千尋の神隠し』って、ジョンに頼まれて筆で書くんだよね。あのプランって冒頭だけアニメーションでやりたい。彼としてはジブリに手伝ってほしい。この『千と千尋』という作品にはやっぱりジブリも参加してよ!ってやつなのよ。具体的な案を持ってたわけ。それだけじゃなくて、俺に字を書けって。ロゴがあるんだからそれ使えばいいのにって一瞬思うんだよ?だけれど、これは参加しろってことなんだなって思って。それで書いたんだよね。そうしたら、それを今度字をアニメーションで動かす。動かしたのは『かぐや姫』をやった田辺修。まあ上手かったね。あのアニメーションって中々難しいの。だから、そんなこんなで良かったね。

 

桜井

ジブリの公式のツイッターにも載ってますけど、ジョンさんと鈴木さんが熱くハグをされてる、あれがもう染みました。あれが成功したねって伝わってきました。 

 

鈴木

彼女にも送ったの。

 

桜井

あ、そうだったんですか?あの写真が良かったですよね。

 

磯部

同じ年齢の。

 

鈴木

そう。

 

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インタビュアー

千と千尋の神隠し』世界初の舞台化、ご覧になられたご感想をまず。

 

鈴木

本当に面白かったですよ。これ普通だとおべんちゃらん入るんですけど、そういうのなしに。映画も面白いけど舞台も面白い、という時に舞台ってイギリスから始まったんだろうなって。シェイクスピアの。もちろんもっと前からあるんだろうけど、その伝統を受け継いてるっていうか、とにかくジョンが素晴らしい演出ですよね。すごい嬉しかったです。

 

みんながいっぱい出てくるシーンは、いずれも良かったですね。こちらも気持ちが高揚したし。映画でもそうだったんだけど、カオナシと2人で電車に乗っていくところ。あれは非常に上手くいってますね。あそこどうなるか心配だったんですよ。そうしたら、それがちゃんとなってるから、感心しちゃって。

 

仕事って本当に面白いですよね。1個仕事やるとね、友達が1人増えるっていうのか。そうすると、大変なんですよね。

 

インタビュアー

あ、そうですか?

 

鈴木

歳とって仕事やってると、どんどん仕事増えるでしょ?全部賄いきれなかったりするんで(笑)でも彼は本当に良かった。会った時から、この人良いなって思ったんですよね。そういうのってあるんですよね。この人ダメだなって思ったら、大概ダメで。それって日本人たろうが外国の人だろうが関係ないですね。

 

インタビュアー

演出、全体的な部分で、、、

 

鈴木

彼はさっき、幕間と終わった時にちょっと話したんですけど、ストーリーがいいんだって言うんだけれど、そうじゃないって。同じストーリーでもどうやって見せるかだから、役者の方ももちろんいいけれど、やっぱり演出のジョンが素晴らしかったですよね。奥さんの彼女も素晴らしかったし。僕はそう思いましたよ。

 

宮崎駿という人も、戦争終わったとき4歳なんですよね。戦争が終わって、彼が学校時代に学んだことって西洋が中心なんですよ。西洋のものだけ見てきて、おまけに仕事も彼が関わった作品を見ると、『アルプスの少女ハイジ』とかアニメーションの素材が外国のものが多かったんですよ。

 

途中から彼が言い出したんです。「日本に借金がある。日本のものやんなきゃ」って。それで色々やっているうちにこういうことになって。で、今日改めて観てね正直に感じたのは、西洋流の語り口で日本を描く。そうすると、外国の人にもこれは通用しやすいんだなっていうことを今日発見でしたね。それはそう思いました。

 

外国の人にとって日本のこういうものって、なにしろ神様いっぱい出てくるわけでしょ?こんな神様が多いってことが外国の人にとっては理解しがたいでしょ?それがどうなるのかは興味ありますよね。

 

インタビュアー

そうですよね。八百万の神ですからね。

 

鈴木

大変ですよ。神様がいっぱいいて(笑)

 

インタビュアー

どうですか?千尋役の橋本環奈さんは。

 

鈴木

良かったですね。ビックリした。歳が歳だから若い子って全然わかんないでしょ?若い子に対する不信感があったんだけれど(笑)それが払拭出来ましたよ。

 

インタビュアー

そうですか。

 

鈴木

うん。もちろんもう1人の上白石萌音さんもたぶん良いんでしょうね。

 

インタビュアー

まさしく千尋って感じでしたよね?

 

鈴木

本当驚いた。良い感じでしたよね。普段の声も違いますね。彼女。挨拶に来ていただいたんでね、その時の声を覚えてるんですけど、あっ違うなーと思って。

 

(夏木)マリさんはマリさんですよね(笑)僕は映画でマリさんとお付き合いして以来、20何年なんかで色々あるんですよ。必ずご連絡もらってりして。夏木さん、この『千と千尋』で湯婆婆のイメージがついちゃって。コンサートその他で湯婆婆をやらなきゃいけないんですね。その許諾をご本人自ら僕に電話をしてくるっていうね(笑)で、僕はその場で全部OKなんですよ。そんなこともあって、今回も頑張っていただいてありがたいですよね。

 

インタビュアー

宮崎さんにはどういう風にお伝えなられますか?

 

鈴木

どうしようかなーと思って一晩ゆっくり考えてから喋ろうと思ってるんでしょうけど。とにかく素晴らしかった。それを伝えるしかない。これ日本の人がやるんじゃなくて、異国の人がやった。それでしょうね、勝利の秘密はね。たぶんそんなことを言うんじゃないかなって気がしてますけどね。

 

インタビュアー

ジョン・ケアードさんには改めてどんな言葉をかけますか?

 

鈴木

さっき2回もかけたからね。というか僕が「素晴らしい」と言ったら、彼女自身(通訳)が興奮されたんですよ。訳してくれないんですよね。僕しょうがないからね、「パーフェクト」って言ったんですよ。そうしたら、ジョンがすごい喜んで。それ以外ないですよね。本当にそう思ったから。心からそう思いましたよ。でもすごい緊張されてたんでね。その緊張が舞台に良い感じを持ち込んでますよね。

 

映画もそうなんですけど、舞台も美術が大事ですよね。それほもちろん役者さんも大事ですけど、美術で品格が決まるから。それでいうと、今回のやつは美術の勝利っていうのが大きいんじゃないですかね。と僕は思いますね。

 

キャストの方へのエールってことなんですけど、今日改めて思ったことがもう1つ。20年経ったんだなって。たぶん今日出演されてる方のかなりの多くがまだ産まれたばかりとか、小っちゃかったとかね。『千と千尋』をどこかでご覧になってる。そういうことが舞台の迫力、魅力に繋がってるような気がしましたね。

 

もちろん、皆さんに頑張っていただくっていうのか、それでなきゃ話にならないですけど、ただ放っておいてもやっていただけるんだなって今日安心しました。皆さん、頑張って下さい!