鈴木
『ポニョ』をやっていく時に、これはもちろんDVD、それと今回はじめての発表になるんですけど、ジブリ作品のBlu-ray化をやろうと。まず『ポニョ』。そのBlu-rayをやってくれるのが柏木さん。
柏木
ありがとうございます。
ーナレーションー
先週明らかにされたジブリとパナソニックのBlu-rayプロジェクト。しかも、その色の移植作業は、パナソニックハリウッド研究の柏木吉一郎さんが署名入りで行うという、これまでになかったシステムも導入されることになりました。
鈴木
Blu-rayをやるかどうか、僕はどっちかというと否定派でしたよね。柏木さんという人にお目にかかって、色んなプレゼンでジブリの映像もBlu-rayにすれば、こういうことも出来ると。それを色々柏木さんがおっしゃって、僕がそれに対して「とは言っても、これ色々言っているけれど、実はこういうこともあるんじゃないんですか?」って嫌味を言っていったら、ちょっと最初驚いたんですよ。何を驚いたか。「鈴木さんの言っていることは正しいです」って。
ーナレーションー
あ、あのこの方がその柏木さんです。
柏木
それこそ最初の5分か10分くらいで「こりゃ困ったな」と。鈴木さんとお話をさせていただいて。
鈴木
僕はちょっと虚をつかれたんですよ。それで色んな話をしていったら、柏木さん僕の言うこと全面的に認めるんですよ。
ーナレーションー
この柏木さんと会って、Blu-ray化を決断したという鈴木さんには、どんな思いがあったんでしょう。
鈴木
実をいうと5分くらいで「この人に任せるならやってみようかな」って。これも何かの縁かなって。どうもこの人と相性が良いかなって。それだけですよね。まあ一言でいえば、僕が発した質問に対して正直に答えてくれた。その一点なんですよ。よろしくお願いします。
柏木
はい。こちらこそ。頑張ります。
ーナレーションー
今夜はちょっと深いお話です。それはジブリの伊平さんが語る、ある映画の話から始まります。
伊平
ちょっとだけ話が逸れるかもしれないですけど、『スラムドック・ミリオネア』っていう映画があるんですね。アカデミー賞を受賞した。あれは「ミリオネア」っていう番組の中で、学校もあまり行けなかったスラムの男の子が、普通だったら教養とか知識が少ない男の子がクイズ番組に出て、一つ一つ問題をクリアしていくんですけど、なんでクリア出来るかっていうと、彼の人生の実体験で学んだことで知識を得ていくんですね。100ドル札でしたっけ?
鈴木
そうそう。「100ドル札の肖像画は誰でしょうか?次の4つから選びなさい」って。ワシントン、ルーズベルト、フランクリン、リンカーン。はい、誰でしょうって。答えはフランクリン。それはその男の子がある子に100ドル札を渡した。その時にその子が目が悪くて。でも「フランクリンだよね?」って言うんだよね。
伊平
そう。彼はそこに描いた人なんてわからない。でも目の悪い男の子が何が描いてあるんだっていう時に「お髭が生えてて、なんとかだよ」って説明をしたら、それは彼だよって知識を得るんですね。実体験で学習していったことが自分の身に落ちていく。自分の人生自体が勉強なんじゃないかって。
鈴木
その映画を薦めてくれたのが、あるアメリカの映画会社の人。その人が日本へ来て食事をする機会があって、その時に「この映画いいぞ。本当に良いから薦める」って。それで試写会があったんで僕らは観に行くんですけど、その人に言わせると、アメリカの経済破綻、その元は何かっていったら学校。特にビジネススクール。そこでマネーゲームの知識を詰め込まれて、なおかつビジネスの実体験はまるでない奴が、そこを卒業していきなりビジネスの表舞台に躍り出ると。それであれこれやる。その成れの果てだと。どこかで破綻することはわかってたはざだと。しかもそういう人たちが山のようにいる。そういうアメリカの実態。自分が何やりたいんじゃない。会社は自分に何をしてくれるか。これがアメリカの現実だと。わかります?
僕がなんでこういうことを訊くかというと、アメリカっていうのは凄いなと。それをどこかで僕らは憧れたし、その影響を受けた世代だったんだよね。ところが実際は、1945年、第二次世界大戦後、産業社会というのがアメリカに出来て、その時のシステムとして何が持ち込まれたかっていったら、戦争のシステムなんですよね。男たちは家族じゃなくて会社のために働かなきゃいけなくなったんですよ。そこで実は色んな電化製品っていうのが発明されて、主婦たちは労働から解放。そうすると暇になったわけでしょ?暇になったことによって、奥さんたちは何をしたらいいかわからない。というので、初めて鬱病っていうのが出てくるんですよね。いわゆる抗うつ剤って、その主婦たちのために研究が進んだんですね。時間を持て余したわけですよ。なにしろ労働から解放されちゃったから。凄い冷蔵庫だの凄い洗濯機だの、どこかの会社の歴史を見るみたいですけどね(笑)これアメリカの歴史なんですね。
僕も受け売りですよ?これNHKである人が作ったドキュメンタリーでやってて。それを作った人は、20世紀を振り返ってみると、20世紀というのはなんだったかっていうと、ビジネスの世紀だって。エジソンという人は、発明王として有名なんですけど、あの人がもう一つ残した言葉があるんですね。「私はドイツの学者のように、純粋に発見をするなんて馬鹿なことはしたくない。私の発明したものは、全てビジネスだ。役に立たなきゃダメだ」って。ビジネスを巡って、あらゆることが起きた。奥さんたちは大変だと。その労働の解放、それを考えるのは当たり前ですよね。技術革新っていうのは掃除機を生んだし、洗濯機を生んだ。そして冷蔵庫を生んだ。僕は歴史の必然だという気がしてるんですよ。
例えば、ビデオなんか無くったって、手塚治虫という人は『バンビ』っていう作品を100回以上観てるわけですよ。そんじゃそこらのビデオなんかで観る人どころじゃなかったわけで。で、何をやってたかっていうと、映画を自分で観てはウチへ帰って、絵コンテに起こす、なんていうのが手塚さんなわけですよ。装置っていうのが常にそういうのが付き纏うことは確か。良いことがあって悪いことがある。
柏木
我々は普段、技術革新なり商品開発をする時っていうのは、どんな付加価値を提供出来るかっていう風に考えるんですよね。それがさっきお話があった洗濯機とかであれば、利便性であったり。私が携わってきたDVDやBlu-rayであれば、いかに綺麗な映像を家庭で楽しんでいただけるか。その時に、、おっしゃる通り、、、
鈴木
例えば、古くて新しいものを持ち出せば、ある研究者がいて結果として、原爆作っちゃったわけでしょ。それが何に使われるか考えなかったわけですよね。実際使われた時にびっくりするわけですよね。自分がやってきたことっていうのは何だったのか。でもこれは難しい問題ですよね。やっぱり目の前のことに人は夢中になるから。
服部(番組プロデューサー)
右肩上がりにしたいんですよね。右肩で上がっていきたいんですよね。進歩していきたいんですよね。
柏木
そうですね。
鈴木
でも端的にいうと、柏木さんは好きでやってるだけなんですよ。そうですよね?どうやって圧縮するかって。だって馬鹿みたいですよね?
柏木
(笑)
鈴木
どれだけ細い線でどれだけ多くのデータ量をって。普通でいうと、馬鹿ですよね(笑)これなんでもそうなんですよ。僕らが映画を作るってこともそうかなって。
柏木
昔は一人ひとりがやってることは、手始めに始めるところから、最終的にこんなものを作りたい、という道筋なり全体像っていうのがわかりやすかったと思うんですよ。ところが今は複雑になり過ぎちゃって、一人ひとりが全体を見る、作るっていうことがほとんど出来なくなってきて、一人ひとりがやってるのはほんの一部になってきちゃって。自分が携わってる仕事が最終的にお客さんのところに行った商品の中で、どういう役立ち方をしているのか、とか、極端な話、最終的な商品がどういう風にお客さんに喜んでもらえてるのか、どんな風に使われてるのか、がわからないっていう人がいっぱいいるんですよね。
鈴木
やっぱりチャップリンの『モダンタイムズ』になっちゃったんですよね。また。
伊平
わからないうちにそれに着手しているというか。
鈴木
Blu-rayの話に戻します。とにかく僕らがやろうとしていることは、ジブリとしては、これがジブリの色だっていうことでジブリの方でまず作ります。映画の絵の確認って、データをそのままDLPを使って映写してるんですよ。いわゆるラッシュっていうんですけど。そこで良い悪いを決める。皆さんビデオって観る時に、いわゆるモニターで観るじゃない?映写するものとモニターに映るものって、基本的に違いがあるから。
僕は誤解を恐れずに言うと、こういうことも思うんですよ。自分がそういう体験をいっぱいしてきてるからあれなんだけど、映画館で観たものをそのままの状態で家で観たい。これみんな願うんだけど、これは難しい。だって環境が違い過ぎるんだもん。だから僕は映画館で観る時は映画館、モニターで観る時はモニター、家でも最近はプロジェクターがあるからそれで観ていただいていいんですけど、自分で決めればいいことなんですよ。どこかでそう思ってるんですけどね。
柏木
テレビがハイビジョンになった頃、高精細、細かいところまでくっきりはっきり見えるようになりました。より臨場感のある絵が見えるようになる。で、宮崎さんの絵で言うと、細かいところのタッチとかも見えるようになる。
鈴木
くっきりはっきり見えれば良いのか、てこともあるわけ。
伊平
背景の吉田さんのタッチがあるんですけど、それと吉田さんが描いてない部分のタッチの差が違うわけですよね。そういうのがもしかすると、差が出来たりするのかもしれない。それはもちろん、奥井さんや柏木さんが調整して上手くやってるんですけど、くっきりはっきり見えることで違うステップでバランスが、、、
鈴木
それによって悪くなってきます。
伊平
そうなんです。それはちょっと柏木さんもいらっしゃるし、言葉が難しいんですけど。
鈴木
それだけの潜在能力を持てるっていうか、今まで見えなかったものが見えるようになったっていうことで。大は小を兼ねるっていうか。それはちょっと乱暴かもしれないですけども。
鈴木
そこは難しい。それを細かく言っていくと、言葉遊びになっちゃうんですよ。
伊平
だから決めたんですよね。ジブリでこういう色、こういう感じで出しますっていうのを決めることにして。それを柏木さんに作っていただくというか、そういう方式にしたんですよね。
鈴木
完全一致とか、それを求めていくのはこの世にないものを求める。そんな気がちょっとしてるんですけどね。僕今回、新しいことをやることに結果なるんですけど。そんなつもりはなかったんですけど。皆さんジブリがBlu-rayをやるっていうのは、当然大きな期待が集まる。そういう中で僕は色んなものを作ってきた過程でいうと、僕も元々出版社にいたんで、その時に本を作ると、必ずこういうことがあったんです。著者は誰なのか。編集者は誰なのか。これを発行しているのは誰なのか。そして、印刷の責任者は誰なのか。名前を表記するんです。そうすると、今回から『ポニョ』に関しては、それをちょっとやってみようと。ということを話していたら、実はウォルト・ディズニー・ホームエンターテイメントっていうところで出していくんですけど、そこの責任者で塚越さんっていう方がいるんですけど。この番組にも出ていただいたことのある元プロボクサーですけど(笑)
柏木
そうなんですか!?
鈴木
そうなんです。ボクシングの選手だったんです。怖いですから気をつけてくださいっていうのは冗談ですけど(笑)そうやって話したら、「画期的だ」って言われたんですよ。要するに、そういうことを今までDVDの業界で誰もやったことがない。僕はCDやる時もそれをはっきりさせようと思って、実をいうとやってるんですよ。これを作ろうと誰が考えたのか。実際にやった人は誰なのか。そういうことって映画の場合、端的にいうと、監督とプロデューサーってそういうことだし。それをちょっとやってみようかなって思ってるんですよね。ついでに言うと、この汗まみれがなんとDVD化されることになったんです。DVDなのに絵はないっていう。僕はこれも誰が作るかはっきりさせたんですよ。要するに、服部さんであると。僕は自分が出版をやってたから、そういうことをはっきりさせるし、じゃあこれを世の中は出していく時に、公序良俗に反してないか、とか、色んな責任問題あるでしょ?それは一体誰が責任を取るのか。やっぱりそういうことになるんですよ。今回の場合は、塚越さんかなって。それは今後はっきりさせなきゃいけないなって気がしてるんですけどね。出版は必ずはっきりしてる。映画もはっきりしてる。ところが日本のものを見ていった時に、音楽とビデオの方がそこら辺が曖昧だった。なんかそれをちゃんとした方がいいんじゃないのかな、なんてことを思ったんですよね。どういうことかって言ったら、発行元は一応僕なんで、鈴木が出て。ジブリとしては奥井が責任を持つと。で、製品化の過程では柏木さんに責任を持ってもらう。その3人の名前を明らかにすることによって、世の中へ出していこう、ということなんですよ。
実際やってみたら、何が起こるかわからない。裏切られるかもしれないんですよ。でもそれはその時のことでしょう?余計なことをごちゃごちゃ言っているより、どうこの人もは相性が良いから、それを信じたらいいだろうと。
柏木
自分の気持ちの中では優越感ですよ。これは大変なことになるぞ、と。だけど反面、そういう人と仕事が出来るのは楽しいかもっていう風にも思ったんですよね。
鈴木
そういうもんでしょ?仕事って大概そういうもんだと思うんですよ。色んな仕事をやっていく中で色んな人に知り合う。そうすると、その人が信じられるかどうかですよ。一番言いたかったのはそれ。
ーナレーションー
フィルムの色はこの世界の色を再現するものでした。でもデジタルの色は、この世界にない色も作り出してしまうと言います。それは一体何の色なんでしょう。そんな色は必要がないんでしょうか。それともその色は未知の世界を開く扉でしょうか。どっちにしても、答えのない世界が待っていそうです。だからこそ鈴木さんは、人が大切だって考えたのかもしれません。
鈴木
例えば、今回聴いてる人たちが一番気になること。今回出るBlu-rayに関して、宮崎駿はどう思ってるのか。僕は「宮さん、どうします?」「全部、鈴木さんに任せる」。嬉しいですよね。これは嬉しかったですよ。
(了)