2008年10月28日配信の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」です。
https://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol56.mp3
鈴木
五十才?
はい。五十です。
鈴木
ちょうど十才違うんで。
男は還暦っていうのがあるじゃないですか。
鈴木
この間なったんです。
鈴木さん、そうじゃないですか。六十才になると暦が回る、元に戻るっていうことで還暦。男はちゃんちゃんこを着せられるわけじゃないですか。何故か知らないですけど。そうなった時に僕はいま五十なんですけど、あと十年あるんですよ。そのイベントまで。避けて通れないイベントまで。六十までの十年間がすっごい大事だなと思って。安土桃山の時代、織田信長の時代だったら人生五十年だから死んじゃってるんですよね。だからあの時代だったら、「ああ、CHAGE寿命だったな」ですけど、いまそういうわけにいかないじゃないですか。
鈴木
長いですよ。
僕らの直属の先輩でも、六十才の人がコンサートツアーをドーンとやってらっしゃる。「ロックだぜ!」とかやってるわけじゃないですか。
鈴木
僕は六十になったら歳をとると思ってたんですよ。ならない。
それは十年年下の僕から言わせると、有り難い言葉ですね。
鈴木
で、僕は悟ったんですよ。人間っていうのはたぶん明日死ぬっていう一日前、初めて歳をとるんじゃないかって。
ーナレーションー
秋も深まった日曜日の夜、れんが屋にはなんだか温かい笑い声が響いています。
今夜、れんが屋を訪れたのは、そんな深まる秋のような色づく秋のような方。あのCHAGE&ASKAのCHAGEさんです。
鈴木
ポニーキャニオンの人から電話いきなりもらいまして、ヨシダケンさんっていうんですけど、いきなり「チャゲアスのプロモーションビデオ作ってください」と。
CHAGE&ASKAをアニメにしてみたいな、というのを浮かんで、本当ダメもとなんですよ。ダメもとっていうのは強いですよね。断られて当たり前っていう気持ちでいってますから。で、アニメっていったら宮崎駿さんでしょ!みたいな。ジブリさんでしょ!みたいなところで、とりあえずダメもとで電話してみましょう、みたいな。そこから始まったんですよ。そうしたら、引き受けてくれるっていうことになって、こっちが逆にビックリして。先生は確か次の作品の構想を練っていらっしゃって、、、
鈴木
よく覚えてらっしゃいますね。
確か『もののけ姫』かなんかの、、、
鈴木
そうです。
そうですよね!ちょうどそういう時期でした。
鈴木
彼がちょうど『もののけ姫』をやろうと。というのは、その時からちょうど十年前に書いた案があったんですよ。それを色々いじくってて、どん詰まりで上手くいかない時だったんですよ。
ちょうど煮詰まってる時だったんですか?
鈴木
煮詰まってたんです。
良かった、煮詰まってて(笑)
鈴木
ちょうど煮詰まってる時にそういうお話をいただいたものだから、僕にとっては渡りに船なんですよ。それで宮さん自身がやるんですけれど。ちょうどその直前に奈良へ社員旅行に行ったんですよ。二泊三日。あそこは鹿で有名なんですけど、とあるところにセガのゲームのデッカいやつがあって、面白そうだから中へ入ってみて遊んでみようよってやってみたら、宇宙へ連れていってくれるみたいなゲームだったんですよ。目の錯覚でそういうことを体験させるやつだったんですけど、僕とか宮さんとか他の人数名で「ワーっ!」って言って騒いでたんですけど、宮さんだけが「俺はこんなのには引っかからない。ただ目の錯覚を利用してるだけじゃないか」って。
それで『On Your Mark』やる時に彼が絵を描き始めたんですけど、どこかで見たことがある絵なんですよ。その奈良のゲームの世界なんですよ(笑)
あー!なるほど!
鈴木
俺がやれば人を騙くらかすことは出来る、と。セガのゲームに対するライバル心。そこから始まるんですよね(笑)
面白いですね!一つのことからここまで広がっていくっていうのが。
鈴木
あの時、ご注文の中で、いわゆるチャゲアスを出して欲しい。そういう注文をいただいてね、僕らは実はキチンとお断りしてるんですよね。
あ、そうなんですか!
鈴木
そういうことが条件としてあるなら、これは申し訳ないけど出来ないと。これはヨシダさんと話したのかもしれないけれど、そうしたら「構わないですよ」なんていうことがあったんだけれど、そういう話し合いがあると、宮崎が妙に気にするタイプなんですよ、後で(笑)それでやっていくうちに、なんかASKAさんとCHAGEさん出てくるんですよね。
見事でした。僕らでしたもん。嬉しかったですね。だから今でも先生が描いてくださったセル画を大切に額に入れて。
鈴木
あ、そうなんですか。
はい。いただいたんですよ。
鈴木
スタジオ来ていただいたんですよね?
はい、そうです。本当に夢のようでしたね。ジブリの中を見れるっていうのが。そうしたら先生も普通の人じゃないですか。
鈴木
全く普通のおじさんですよ。
ビックリしました。もっと凄い部屋で描いてるのかなって思ったら、普通のところで描いてらっしゃるし。
鈴木
町工場ですから。
いやいや。あれはビックリしましたね。こういうところで手作業でやってるんだと思って。
鈴木
十二年経って、お礼を言わなきゃいけないんですけど、要するに、あれを作った後に一気に『もののけ姫』は構想がまとまるんですよ(笑)
そう言っていただけると嬉しいですね。後にも先にもああいうプロモーションビデオは作れないですね。
鈴木
でも宮さんにとってもそうなんですよ。というのは、『もののけ姫』なんて自然と人間がどうしたとかね、どっかで問題性を含んでるじゃないですか。元々はルパン三世がどうしたとか、活劇が大好きな人で。そういうことが色んなことを考えずに出来にくくなってたんですよね。あの『On Your Mark』の時はね、しちメンドクサイ理屈を放ったらかしにして、楽しいものを作ればいい。そういう気分になれたやつなんですよ。だから、ああいうチャンスでもなきゃ、そういうものを描けませんでした。
そうですか。なんか嬉しいですね。
鈴木
でも十二年も経ってるんですね。
ね。一回りしてるんですね。
鈴木
ヤマハで働いてらっしゃる佐多さんにも初めてお目にかかったのは、その時で。それだけ歳をとったっていうことですよね(笑)
佐多
その通りです。鈴木さんもまだ若くてね!
鈴木
佐多さんは藤岡藤巻っていう、、、
僕、ビックリしました!まりちゃんズでしょ!?
鈴木
そうです。
だから想像つかなかったんですよ。はじめに藤岡藤巻って言われて。記念写真みたいなジャケットを撮って。
鈴木
佐多さんが作ったんですけどね(笑)で、話がやっとそこにいくんですけど、ちょっと最近考えてたことがあるんですよ。いま興味持ってることだからぜひ訊きたいんですけど、唐突ですよ?いま男の人はどういう人がモテるんですかね?
ああ、どうなんですかね。どういう人がモテるんでしょうね。
鈴木
僕の知ってるあるテレビ局の34才くらいの独身男性、、、
バリバリじゃないですか。
鈴木
背は高い。で、僕らからすると凄い良い男。仕事は凄い出来る。気はきく。ところが、若い女の子に訊くと、一番嫌なタイプだっていうんですよ。アイツは仕事も出来るし、良い男だし、イケメンだし、あれはモテるだろうなって想像してたんですよ。ところがある日、そいつが現代においていかにモテないかっていうのを知ったんですよ(笑)
なんでだろう?女性から見たら、突っつくところがないから嫌なのかな?弱みを見せないというか。
鈴木
藤巻さんっていうのが代理店の人で、ジブリとずっと関わってきたんですよ。この人が背は低いし、胴長短足、顔見るとどっかのとっつぁん坊やで、後ろから見ると髪の毛ちょっと禿げてたりして、普通でいったら絶対モテないなと思ってたら、女の子に評判良いんですよね。さっきのA君と藤巻さんを比較すると、時代が変わったんだなって気がして。そういうことちょっと訊きたかったんですよ。
今年の夏、加山雄三さんとジョイントすることになって。加山雄三さんって70才ですよ?で、自分のコンサートツアーのタイトルが「古希」ですよ?
鈴木
僕、そこで言いたかったことがあるんですよ。実をいうと、若大将の話がしたかったんですよ。なんでかっていったら、いま若大将ってモテないんですよ。
モテないですね。
鈴木
青大将がモテるんですよ。
「澄ちゃん!」の方がモテますよね。
鈴木
なんとなくわかります?
わかりますわかります。
鈴木
藤巻っていうのがそういう男なんですよ。テレビ局の青年は、若大将タイプなんですよ。そうすると、現代は青大将がモテる時代。簡単にいうと、青大将がそうだったけれど、女の子に尽くすんですよね。で、若大将って尽くさないでしょ?尽くされる方でしょ?どっちかっていうと。
そうですよね。
鈴木
藤巻もそうなんですよ!(笑)
そうなんだ(笑)
鈴木
あの時代は青大将がフラれて、若大将が良い思いをするんだけれど、現代はひっくり返ったのかなって気がして。なんか女の子たちが良いっていうんですよ。
女性は欠点を持っていたいんじゃないですか?彼に対して。
鈴木
CHAGEさんは尽くすタイプなんですか?
尽くすのかもしれない。怒られるのが嫌だから。
鈴木
なんかそういう気がしたんですよ、僕。
僕ね、褒めれば伸びる子なんですよ(笑)昔から。
鈴木
別におべんちゃらじゃなくて言いますけどね、CHAGEさんの時代かなって気がして。
そうなんだ。
僕の今回のアルバムタイトルは直球で、「アイシテル」っていう。これ曲制作で最後に出来た楽曲で、シンプルなストレートな楽曲が出来た。でもこれに糊代が多い歌詞をつけたら、曲が死んでしまう。メロディーも死んでしまうから、死なないようにどうしたらいいかっていったら、言葉もストレートで行こう。「アイシテル」っていう単語。ずーっと言いたいし言われたいしっていうところに辿り着いて。
鈴木
ありそうでないですね。直球。
「アイシテル」って良いですよ。40で言えなかったら流石に。厄年も終わってないのに。鈴木さんは60になって「アイシテル」って言えますよ。絶対。
鈴木
頑張ります(笑)
言ってくださいよ!照れなく。
鈴木
やっぱり世の中は男と女の子じゃないですか。それがゴチャゴチャするのは面白いですよね(笑)
面白いですよね。ハメ外さない程度にやるのは。ちょっと毒があって面白いですよね。
鈴木
それしかないですよ。宮崎駿も作ってる映画は所詮、男と女ですね。
そうなんだ!
鈴木
そうですよ。やっぱり。
実は十年前の時、自分の楽曲があったんですけど、それをどうしても歌えなかったんですよ。
鈴木
歌えなかった?
はい。厄年をまだ経験していない四十の男には。レスリー・チャンに書いた曲があったんですけども、全然四十才の時は歌う気もなくて、十年間全然ダメだったんですけども、五十になってパッと見たら、この詩が非常に自分に響いてきて。なんでこんな生活チックな、昔でいう四畳半フォークですよね。変化が起きてるんですよ。それは何かなって思ったら、まだわからないんですよ。自分も。ただ、等身大でいいのかなっていう。
鈴木
等身大?
等身大。聞こえるものとか、見えるものって限られてるじゃないですか。
鈴木
身近なものがいいってことですか?
うん。見えるものとか、聞こえるものを伝えればいいのかな、というところにいま来てて。これが面白いですよね。
鈴木
だから、藤巻さんとCHAGEさんの時代じゃないでしょうか。
わかりました(笑)
(了)