2008年11月8日配信の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」です。
https://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol59.mp3
鈴木
僕この間、ジャイアンツと中日のクライマックス観に行ったんですよ。そうしたら、僕はそこでショックを受けたんですよ。これは大きな声で関さんには言えないですけどね、球場で色んな人たちがジャビット君のパペット人形持ってたんですよ!あれはどういう意味なんだろうなと思ってね(笑)
関
名誉のために言わせてもらいますけど、いつもクリスマスの時期になると、ドラゴンズの発注をたくさん頂くんです。これは何年か前に僕が社長になった時の鈴木さんからのプレゼントだろうなって、今でも有り難くご注文だけはいつも承ってるんですけど、その時をもって私たちはジャイアンツから降りました!(笑)いまのパペットは私たちのではありません!
鈴木
あれ、サン・アローさんじゃないんだ!
関
当然違いますよ!今はガブリですよ(笑)
鈴木
あ、そうなんだ!
関
当然ですよ!
鈴木
だってね、ガブリのパペットがあったんですよ!みんな持って!僕はひどい男だと思ったんですよ!関さんは。
ーナレーションー
めっきり冷え込んできた晩秋のれんが屋に、昭和の横丁のおじさんみたいな二人の賑やかな声が聞こえて響いています。
鈴木さんに心置きなくいじめられているのは、ジャビットくんも真似をしたらしい、あのポニョのパペットを作った人。株式会社サン・アローの関正顕さんです。
鈴木
関さん。今回のポニョは大変でしたよね。
関
おかげさまで大変でした。
鈴木
宮崎監督が(笑)
関
トトロの時は鈴木さんおっしゃったようにお腹を突っつくと跳ね返ってくるあの柔らかさ。メイちゃんが飛び乗っちゃう、そんな感じっていうのを自分たちもわかったんですね。ポニョの場合は、似てる似てないは二の次で、技術的な面は後からいくらでもカバー出来るんですね。ぬいぐるみって縫って包むんですよ。包むものっていうのは、感じしかないんですよ。
鈴木
改めて紹介しないといけないけど、ジブリのぬいぐるみ。日本で一番の良いものを作ってくれる会社の社長さんで関さん。もう気がついたらお付き合いも、、、
関
二十年くらいになりますかね。
鈴木
そうなんですよ。僕は未だ忘れないですよ。ある日、僕のところにお見えになって何かなって思ったら、トトロって映画の公開の時に皆さんよく錯覚されるんですけど、今のぬいぐるみがあったと思われがちなんですけど、実はその時にはなかったんですよ。映画の後、あれだいぶ経ってからですよね。関さんの方で「ぬいぐるみを作りたい」というお申し出をいただいて、僕は「映画っていうのは作品であって、ぬいぐるみを売るために作ってるんじゃない」とかって偉そうなことを言って、「そんなの嫌ですよ」って言ったら関さんが、「ちょっと作品だけでも見てくれないか」と。それで僕、見たんですよ。そうしたら、今のトトロですけど、本当に良い出来だったんですよ。これは関さんの名誉のために言いますけどね、こんな凄いものを作れるぬいぐるみ屋さんがいるんだな、と思って。だから、人間って顔じゃない(笑)
関
二十年前にそう言っていただけると、もっともっと成長したと思うんですけど(笑)
鈴木
僕、本当にそう思ったんだから!あれ。ただし、宮さんも「ぬいぐるみ作りたい」って言ったら、絶対嫌がるのわかってたんですよ。それで僕、偉そうですけど、関さんに知恵を授けましたよね。
僕はトトロはこう出来ました、ネコバスはこうやって出来ました、って見ることが出来たんですよ。しかも関さんが凄かったのは、大きいやつを作ってきたんですよね。見てたら色んな種類が出てきたんで、あるアイディアが浮かんだんです。それは何かっていうと、当時、吉祥寺にあったジブリに「トラックで全部持ってきてください」と。一個だけ持ってきてもダメ。出来上がってる試作品全部を。そうしたら、トラック一台分くらいになるんですよ。それで宮さんの方には「浅草橋の方でぬいぐるみ屋さんやってる人が、トトロのぬいぐるみ作りたいってうるさくてしょうがないんですけど、ちょっと宮さん見てくれます?」って言ったら、「見るくらいいいですけど、僕、嫌ですよ」って。「絶対に僕はぬいぐるみなんて嫌なんだから」って言ってて。
それでとある日、トラックに全部乗っけて、当時ジブリにあった小さな会議室にそれを全部持ち込んでいただいて、それで宮さんに見てもらったんですよ。
関
角に富士銀行があって、あそこに駐車場があったんですよ。そこに顧客のようにして車を停めて、あそこから運び出したのは今でも思い出します。
鈴木
あの銀行今でもありますよ(笑)
関
今でもありますか!
鈴木
名前変わりましたけど。
関
絶対拒否されるって、もう諦めなさい、って言われると思ってたんです。それが行ってみた瞬間に、「目やなんかはもっとこうで」って紙を貼ってくれたりして。
鈴木
その前にこう言ったんですよ。宮さん最初の第一声覚えてます?
関
いや、第一声は覚えてません(笑)
鈴木
「これはしょうがない」って(笑)そのど迫力に一瞬にして打ち込まれたんですよ。それで全面降伏。「やりましょう」って。
関
あの時に「トトロの目はこうじゃないんだよ」って、紙を切って描いて貼ってくれて。
鈴木
トトロだったら目を少し離した方がいいって。大きさはこのぐらいだ。一個一個やり始めたんですよね。
関
本当に感謝してます。
鈴木
その時も関さんって素晴らしかったんですよ。若いでしょ?若くて貧乏って感じで。あったのは野心だけ。それがこうなっちゃうんですもんね。
関
今でも変わらないものはいっぱいありますよ(笑)
鈴木
今なんか社長業に胡座をかいてね。
関
鋭いです(笑)
鈴木
この間、岩波書店の山口社長って方がお見えになって、ちょっと最近色んなお話をしていたら、「鈴木さん、伊豆へ行った時にトトロのぬいぐるみがいっぱい飾ってある美術館があって、あそこ良かったですね」って。すんごい喜んでくれたんです。
男性
それは常設でやってるんですか?
関
僕は常設にしたいんですけど、期限がきられてるんですけど。
鈴木
きられてるって、あれは自分から言ってきたじゃないですか!
関
最初は作戦ですから、そういう風に言っておかないといけないんで。
僕は先ほどのミュージアムの話を引っ張ると、ちっちゃなミュージアムを作りたいんですよ。トトロで作りたいんですよ。子供が喜んで、大人がえばれる様な。子供が出来ないことをやってあげて。で、子供が親父に対して、その時に思った素晴らしいなっていうのは、一生変わらないと思うんですね。そうでないと、すぐ逆転されますよね。それ自分の娘見ててわかるんで。小さい時に「このお父さん凄いな」って思わされるような、そんな空間を、僕らの力ではでっかいのは出来ないんで、ちっちゃいものをやりたいと思ってるんです。その練習を鈴木さんを騙しながら、伊豆と那須にある自分たちの美術館があるんですけど、そこで練習をさせてもらってるんですよ。ぬいぐるみでトトロを演出するっていう、これも鈴木さんが上手く監督を、、、
鈴木
上手くって人聞きの悪いことを言わないでくださいよ!(笑)
関
騙してくれて僕らにチャンスを、、、
鈴木
騙すって(笑)説得して。
関
説得してやらせていただいてるので、いま練習して、それをどっかでやりたいですね。
鈴木
アニメーションと似てるんですよね。要するに、手で描いた絵、そこに命を吹き込むなんて言うけれど、ぬいぐるみも多分同じですよね。
関
全くその通りなんですね。
鈴木
テレビその他に出てるハンドパペット、実は『ポニョ』っておかげさまで世界から引き合いが多くて、世界へ行くんですけど、世界の色んなところに送ったんですよ。そうしたら、これが評判良いんですよ。アメリカへ行こうが、韓国は行こうが、台湾へ行こうが、フランスへ行こうが。フランスのパリへ行った時かな。あ、ベネチアもかな。とにかく、あのキャラクターが大評判で。
関
この商品のここって、感じてものを作るわけですね。僕らは。この商品のここの所を表現したいっていうのが、キャラクターでなくても、犬でも猫でもなんでも、この部分のここを表現して、それが喜んでもらえるだろうなって思ってやるわけですよね。それを汲む、そして縫う、ということなわけなんですよ。それを「僕はこうだから、こういうのを作りたいんだ」っていう風にデザイナーに行って、それをとにかく汲んでくれって、いつも作り手にはデザイナーの人には言ってるんですね。それを買ってくれた飼い主になる人とか、それが親から子供へだったら、気持ち込めていって、また一生離れない仲間になっていくんじゃないかなって。
鈴木
だって映画でね、、瓶に頭を突っ込んで困っていたポニョを助けるじゃないですか。そのポニョに名前をつけて、その後宗介くんは何をしたかっていったら、ポニョを育てますよね。だから似てるなって気がしたんです。そういう話ですよね。『ポニョ』って。だから、それによって自分のものになるっていうのか。言葉だって教えたのは宗介だし、こういう時はこうする、ああするを教えたのも宗介。これは面白いですよね。
そうすると、お客さんだって映画を観るとか色んなことがきっかけであるキャラクターを見るんですけど、頭の中にたぶんイメージするんですよ。ポニョなんかもポニョは触ったらどうなるんだろうって。それを実現してあげるのがキャラクター商品。
鈴木
僕は今年還暦を迎えて、皆さんにお祝いをしていただいて凄い嬉しかったんですけど、お返しをどうしようかって思って、凄い悩んで。悩んでいる時に色々相談に乗ってくれたのが、関さんだったんですよ。
関
声をかけていただいて、本当に有り難く。最終的には箱書きが良かったですね。鈴木さんの文字の。僕は中はいらなかったんじゃないかと思うんですよ。「開けずべからず」って玉手箱みたいにして。
鈴木
あれ箱は、カズちゃんのアイディアだったんですよ。カズちゃんってジブリのね、、、名字なんて言うんだっけ?
女性
小林です(笑)
鈴木
あ、小林って言うんですけどね(笑)「表に何か書いた方がいいですよ」って。「書くって言ったって、何書こう?」って言ったら、彼女が思い出してくれて。「この間、あれ書いてたじゃないですか。遊びをせんとやなんとやら」って。言ったんだよね?確か。それで時間ないから、じゃあもうそれにしようって。僕、あの言葉好きだったんですよね。「遊びをせんとや生まれけむ 梁塵秘抄より」って、雰囲気出たもんね。
そうしたら、色んな方から言われて「ええ!」って思ったのが、あの箱の文字のところの蓋だけを外して、どこかに飾ってらっしゃるっていう。
関
それはわかりますね。
鈴木
僕の下手な筆の字で。
関
とっても良かったですよね。初めはあそこに星野社長がおっしゃってた「不老不死」。鈴木さんが老いないで死ななかったら嫌だなーって思う人たくさんいるかなって、冗談で話してたんですけど(笑)
鈴木
木の箱があるわけですよね。その中に湯呑みがあって、そこに絵が描いてあると。それとサイコロが三つ。そして最後にそれを切れで包んであるんですけど。箱も良かった、湯呑みも良かった、実はそれを包んであった切れが良かったですね。あれはどなたのアイディアだったんですか?
関
みんなのきめ細かいフォローで(笑)
鈴木
一個一個バラバラにあったら、変な言い方ですけど大したものじゃないかもしれないけれど、その三つが合わさると良い感じのものになってた。余ってるのがあるんですよ。プレゼントしましょうか。
男性
ぜひ。
鈴木
三個ぐらい。
関
喜ばれると思います。
鈴木
「遊びをせんとや生まれけむ」という言葉があります。これを聞いてどう思いますか。短い文章でいいから感想を教えてください。応募の条件。良い言葉ですよね。
鈴木
今回、自分が宣伝をやっていくっていう時、あのハンドパペットが凄い僕にとってはポイントだったんですよ。僕は三つぐらいしか宣伝って考えてなかったんですよ。あの歌があるでしょ?それでハンドパペットがあって、三つ目には世の中暗いから、これによって明るく出来ないかなって。考えたのはその三つしかないんですから。その重要な要素を占めるのが、このハンドパペットでしょ?そうやってたある日、五月くらい?宮さんが言い出したのが。
関
そうですね。五月とか六月とかですね。
鈴木
宮さんが担当の今井を呼びつけるんですよね。「このハンドパペットはなんだ!」と。宮さんってハンドパペットって英語で言えないから、「この指人形はなんだ!」って(笑)「この顔が嫌だ」って。
関
この膨らみを出すために、顔に縫い線が入っちゃうんですよね。
鈴木
それを違うじゃないかと。それをとれないかと。それと二つ目が髪の毛が違うと。
関
茶髪の不良に見えるらしいですね。
鈴木
これは不良だと。三つ目。これが大変でしたね。色が違うって。つまり、全否定ですよね?
関
全否定ですね。
鈴木
それで関さんが本当に苦労して、この色なのかあの色なのかって、宮さんの前に持ってきてもらって。髪の毛もいま思案してるものに辿り着くのに、色々ありましたよね?あれ公開間際ですよね?
関
公開間際で。
鈴木
もう公開には間に合わないかもしれない。
関
実際、二週間ほど遅れましたけどね。
鈴木
宮さんは完成度が高いものに対しては、何か違和感があるんですよ。
関
湯たんぽを作られて。ジブリの方が。
鈴木
ポニョで湯たんぽ作った人がいるんですよ。
関
「それと同じものを作ってくれ」って言われたんですけど、超えられなかったです。その味が出せない。
鈴木
宮さんって、上手に作ってあるよりも、一生懸命に作ってある方が好きなんです。要するに、好きな人が一生懸命作る、で、結果として完成度が低くても、そっちを評価するんですよ。
関
その通りです。
鈴木
だから、ポニョのぬいぐるみを買ってくれた人に伝えたいことはね、あれって上手じゃないけれど、一生懸命さが伝わってくる商品になってるんですよ。いわゆる、おもちゃっていう言い方をしちゃうとね、駄菓子屋の延長線上にあるものが好きなんですよ。だから、宮さんのああいうものって、面白いですよね。
その延長線上で言うと、いま言われてどうしようかなって悩んでるんですけど、何か作るのが好きなんですよね。宮さん。「駄菓子屋やろうよ」って言うんですよ。「欲しい」って。
関
やりましょうよ。
鈴木
関さん、やりたいですか?
関
はい。
鈴木
本当に?
関
「駄菓子屋の隣のメイちゃん」っていうのをやりたいんですよ。
鈴木
名前にそういうのをつけると、さもしいですよ(笑)
関
さもしいっすか?(笑)じゃあその駄菓子屋の隣に自分の店を出したいっていうことで。
鈴木
二軒出したいって言うんですよ。美術館に一軒、美術館のそばに一軒。ジブリで保育園作ったじゃないですか。その近くに。
関
いいですね。
鈴木
関さん、やりたいですか?
関
やりたいですよ。
鈴木
本当に!?
関
はい。
鈴木
じゃあお願いしますよ。関さん、毎日通ってくれます?
関
会社は任せちゃえばいいわけだから(笑)全然フリーな立場ですから、僕(笑)
鈴木
駄菓子屋大変なんですよ、あれ。宮さんがやってみたいっていうのはわかるんですよね。
関
白せんべい五枚持って、「四枚ね!」っておばちゃん騙したりしてね。後で「悪いことしたな」って、大人になって反省するんですよね。
鈴木
大体僕と宮さんって、趣味が同じなんだ困ってるんですよね。でもこの甘い誘惑に乗っちゃいけないなと思って、自分を一生懸命押し殺してるんですよ。こんなこと始めたら大変だもん、もう。
関
やりましょうよ?
鈴木
よろしくお願いします!(笑)
(了)