鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

ポッドキャスト版「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の文字起こしをやっています。https://twitter.com/hatake4633

今週はベニス汗まみれ!

2008年9月9日放送の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol49.mp3

服部:汗まみれのプロデューサー

伊平・細川:鈴木さんの部下。ポニョでは宣伝担当。

星野:星野康二。スタジオジブリの社長。

 

鈴木 

夏真っ盛り。ベネチアの鈴木です。凄く暑いです。

 

細川

藤巻さん藤岡さんは、ちなみに今日『崖の上のポニョ』のTシャツを着て、ポニョをちょっと歌ったんですね。

 

鈴木

ベネチアはね、来るたびにいつも思います。この街は浅草観音だと。

 

星野

5分後とかにもう一回かけていいですかね?

 

細川

人々がみんな元気ですね。8:30にはみんな活動をしていて。凄く開放的で。

 

鈴木

サン・マルコの広場に行ったんですよ。そこでお茶を飲んでいたら、楽団の人が僕らを見つけて「上を向いて歩こう」を演奏してくれました。凄く嬉しかったですね。僕なんか手を振ったりして。

 

星野

暑い。ひたすら暑い。

 

細川

藤岡さんの面白い発言は、お土産さんが何百店舗とあるんですね。「この街に本当に必要なものは何もない」と言ってました。

 

鈴木

宮さんは藤岡藤巻を見た途端に「のぞみちゃんは来てないな」って、来てないことがわかると残念な声を出していました。

 

伊平

私はビデオを回していました。途中で大事な時に電池が無くなってしまって。

 

細川

ここはどこにいるの?みたいな状況にポーンと私と伊平さんがレッドカーペットのところに。

 

細川

どうもすいません。私あの、、、

 

細川

生まれて初めて足が震えました。

 

鈴木

そして鳩が飛んでいます。

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

今週は、ベニス汗まみれ。

 

ポニョとともに第65回ベネチア国際映画祭を訪れた鈴木さんとジブリスタッフたちの、ちょっと汗まみれな舞台裏をお伝えしたいと思います。

 

鈴木

良い写真がいっぱい撮れました。これは後で送りますから、ぜひホームページに。

 

ーナレーションー

この番組は、ウォルト・ディズニー・ホームエンターテインメント、読売新聞、「Dream Skyward」JAL、「街のホットステーション」ローソン、アサヒ飲料の提供でお送りします。

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鈴木さんの半自叙伝的読書録である『読書道楽』についてのインタビュー(後編) インタビュアー:金志尚さん

2023年1月22日放送の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

https://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol771.mp3

 

本を選ぶ時って、先ほど人から薦められたものは面白くないっていうお話があったんですけど、どういう風に選ばれてますか?

 

鈴木

人から薦められても面白いものは面白い。自分で匂いを嗅いで面白かったら読んじゃいますけどね。それこそ宮本常一の『忘れられた日本人』なんて、高畑・宮崎の二人から薦められたんで。読んでみたら本当に面白かった。読む基準は、自分がその時に何に興味あるかですよね。レヴィ・ストロースっていう人のことをこの中でも触れましたけど、僕らが大学に入った頃って、実存主義が大流行りなんですよ。最後の方だけれど。サルトルとかボーヴォワール。あとはカミュ。なんか一つピンと来なかったんですよ。ピンと来ない時に突如、レヴィ・ストロースサルトルが論争。そしてサルトルが負けちゃうわけですよ。これはレヴィ・ストロースに興味持ちましたよね。結局、その影響を僕は受けましたね。人類学の先生なんだけど、ある種、民俗学も入ってくるんですよ。

 

ーナレーションー

 

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

「読む。生きるために、読む。」

 

今週は先週に引き続き、毎日新聞のデジタル版で1/7に紹介された鈴木さんの半自伝的読書録である『読書道楽』についてのインタビューの模様をお送りします。

 

インタビュアーは、毎日新聞社デジタル報道センターの金志尚さんです。

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鈴木さんの半自叙伝的読書録である『読書道楽』についてのインタビュー(前編) インタビュアー:金志尚さん

2023年1月15日放送の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

https://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol770.mp3

 

鈴木

色んな本をジャンルを問わずに読んできたって、僕だけじゃないと思うんですよ。どういうことか。僕らの世代がそう。団塊の世代の人っていうのは、漫画のみならず、そういうのを読みまくった世代。子供の時から、日本は戦争に負けて、雑誌から始まるんだけど、いわゆる子供文化が僕らの時に花開いたんですよね。

 

何でかっていったら、戦前は子供文化ってほとんどないんですよ。戦後、子供文化っていうのが生まれたんですよ。なんで生まれたか。この中でもチラッと言ってるけれど、戦争に負けて、子供たちは大人を信用しない。戦争をやった当事者でおまけに負けたわけだし。子供の方が偉いぞ、みたいな無意識のものがあって、それのニーズに応えるためにそういう雑誌が生まれたし、単行本も生まれた。そういうことじゃないかなっていうのが僕の意見で。

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

「読む。生きるために、読む。」

 

今週と来週は、毎日新聞のデジタル版で1月7日に紹介された鈴木さんの半自伝的読書録である『読書道楽』についてのインタビューの模様をお送りします。インタビュアーは毎日新聞社デジタル報道センターの金志尚さんです。

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ゲスト:NHK荒川ディレクター 宮崎駿監督に2年半密着した男がれんが屋へ!

2008年8月5日に放送された「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol44.mp3

 

宮崎駿

なんか変な船がサーチライトをつけながら大波の荒れてる海の中を進んで行くのを、崖の上から見るっていうのが好きだったんですよ。それで映画が出来ないかなって(笑)

 

ーナレーションー

ポニョを生み出し育て上げ、共に生きてきた宮崎駿監督。

 

宮崎駿

宇宙戦艦ヤマト』みたいなのを作るんだったら、僕が一番上手いと思ってますけど。作らないだけで(笑)

 

比較的早くテレビは入りましたけど、よく壊れましたね。横にしないと映らないとか。横にしてみんなで横になってね。

 

6才か7才くらいで観てるんだと思うんですけど。僕が最初に観たアニメーションは、『マイティ・マウス』でした。ものすごく怖かったですね。

 

パチンコというのがありますね。パチンコも昔は子供が平気でやったもんだったんですけど、下町の親戚のうちに遊びに行くと、「前のパチンコ屋に遊びに行きな」って。そこのおばさんが「ああ、いいよ」ってやらせてくれましたよ。玉が無くなると裏から出してくれたりして(笑)

 

自分の親父が、株が好きでそれで財産無くしたような男ですから、どうして株をやるのか?って父親に子供の頃に何度も訊いたんですけど。どうして株が儲かるのかって。とうとう納得出来なかったんですよ。誰かが損するから得をするわけっていう。

 

ーナレーションー

でも海辺で、アトリエで、そして心の崖の上で。

 

宮崎駿

空襲の時に鉄道のガードがありまして、その下に逃げたんです。一家で。焼夷弾が落っこちてくるから、それを直撃すると死んでしまいますから。落っこちた拍子に中に入ってる油が周りに飛び散って周りが火になるんですけど。布団をかけられたんです。座った上に。その上に母親が畳乗っけたんですね。焼夷弾が落っこちないように。僕は死にそうになりましたよ。

 

ーナレーションー

小さなムービーカメラを覗きながら。

 

宮崎駿

街で闇の中へ消えていっちゃう。車掌もそこに駆け寄って車掌室を叩くけど、返事がない。開けてみたら、真っ暗の中に星が。街が青雲のようにゆっくり回りながら遠ざかっていくっていうね。それが『銀河鉄道の夜』の僕のイメージなんですけど。

 

ーナレーションー

そんな宮崎さんを見つめ続けたひとりの人がいます。今夜れんか屋を訪れたのは、ポニョと宮崎さんを3年近く見つめ続けたきた、、、

 

荒川

すいません。こんな鼻声で、

 

鈴木

荒川くんじゃない?

 

荒川

はい。

 

ーナレーションー

NHKの荒川格さんです。

 

男性

『ポニョ』が初めて出来たて初めて観た時、どう思いましたか?

 

荒川

冷静に観れなかったですよね。

 

鈴木

荒川プロでしたよ。映画なんか観てないですよ。映画を観てる宮さんを撮ってましたよ。

 

荒川

上手く撮れなかったですよ。真っ暗で(笑)

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

この番組は、ウォルト・ディズニー・ホームエンターテインメント、読売新聞、「Dream Skyward」JAL、「街のホットステーション」ローソン、アサヒ飲料の提供でお送りします。

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オンラインサロン『鈴木Pファミリー』のメンバーによる『かぐや姫の物語』について(後編) ゲスト:鈴木麻実子さん、小松季弘さん、小崎真寛さん、キョウヘイさん、竹森郁さん、内田周輔さん、沖田知也さん、清水慶子さん、町田有也さん

2023年3月19日放送の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

https://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol779.mp3

 

鈴木敏夫(以下、敏夫)

彼女は450騎でしょ?相手は万。その万の中へ450騎連れて突っ込んでいくわけ。これなんですか?その彼女の気持ちは。なんですか?竹森くん。死ぬことはわかってるんでしょ?これがわかると物語が作れるのよ。平家物語に書いてあるから、そこのくだりを読むと本当に面白いよ。どうして450騎で万の中へ突っ込んで行くんですか?

 

竹森

え、どうして?どうしてなんだろう。

 

キョウヘイ

義仲を逃したかった。

 

敏夫

違うよ。義仲への愛を貫くためよ。これがドラマっていうものなのよ。高畑さんってそういう激しいのが好きなの。ところが『平家物語』ってそれだけならいいけれど、一方で殺戮が無茶苦茶多い話なの。アニメーターでそれを描けるやつはなかなかいないんだよね。高畑さんが見込んだある男がいて、そいつだったら描いてもらいたい。ただそいつが「人殺しの映画は嫌です」って言って。なかなか大変だったんですよ。でも高畑さんの激しさはわかりましたか?

 

竹森

はい。

 

敏夫

そういう人なんです。

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

今週は先週に引き続き、オンラインサロン「鈴木Pファミリー」のメンバーをお迎えして、2013年に公開された高畑勲監督作品『かぐや姫の物語』について、鈴木さんと語ります。

 

「姫の犯した罪と罰

 

日本最古の文学物語『竹取物語』に隠された人間かぐや姫の真実の物語です。今週はこんなお話から。

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オンラインサロン『鈴木Pファミリー』のメンバーによる『かぐや姫の物語』について(前編) ゲスト:鈴木麻実子さん、小松季弘さん、小崎真寛さん、キョウヘイさん、竹森郁さん、内田周輔さん、沖田知也さん、清水慶子さん、町田有也さん

2023年3月12日放送の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

https://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol778.mp3

 

鈴木麻実子(以下、麻美子)

じゃあ今日は『かぐや姫の物語』について。一つだけ言いたいのは、私『かぐや姫の物語』が一番好きなの。ジブリ作品の中で。エンディング終わった瞬間に超号泣して、あんなのジブリ映画で最初で最後。

 

鈴木敏夫(以下、敏夫)

女性映画だよね。

 

麻実子

月に帰るシーンが最高すぎない?

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

今週は、オンラインサロン「鈴木Pファミリー」のメンバーをお迎えして、2013年に公開された高畑勲監督作品『かぐや姫の物語』について、鈴木さんと語ります。

 

「姫の犯した罪と罰」。

 

日本最古の文学物語『竹取物語』に隠された、人間かぐや姫の真実の物語です。まずはこんなお話から。

 

 

麻実子

私、あの音楽が好きすぎて。「天人の歌」だっけ?

 

キョウヘイ

ラテンっぽいというか、サンバっぽい感じの。

 

麻実子

そうそう。

 

敏夫

あれはね、久石さんが自由に作ったの。あれは「釈迦来迎図」っていうやつで昔の絵なのよ。その絵の中で一人一人楽器持っていて、その楽器を本当に鳴らしてみるとこうなるよ、っていうのが久石さんがやろうとしたことなの。

 

麻実子

そうなんだ!

 

敏夫

そう。高畑さんって厳しくて色んな注文があったんだけど、あれだけは手放しで褒めたの。

 

麻実子

あれが最高だった。あれが映画の全てくらい最高だった。

 

敏夫

音楽が良かったよね、あのシーンは。でもパパはさ、別の立場もあるじゃん?映画を楽しむっていうよりは、映画を作らなきゃいけない立場。ここからすると、あまり感動だけもしてられないんだよね。まあ色々あったよ。

 

風立ちぬ』があったじゃない?『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』って、本当は同じ日に公開しようって考えたの。映画館は違うけれど。それで進めてたの。

 

なんでかっていうと、高畑さんと宮崎さんって、片方は先生だし片方は弟子だし、会社の中では同僚だし、個人的には友人。色んな関係があるんで、その二人がそれぞれ映画を作って、頑張るっていうのは結構話題になるかなって。そういうことを考えたのよ。

 

ところがギッチョンチョン。高畑さんが怒り出しちゃってね。

 

キョウヘイ

何でなんですか?

 

敏夫

「二人を煽ろうと言うんですか?」って。「そんな話には僕は乗りたくない」とか言い出してね。「作ったんだから、色んな人に観てもらった方がいいと思うから、僕はそういう風にしようと思うんですけどね」とか言ってたんだけどさ、なかなか上手くいかなくて。高畑さんは作る方は本当良いものを作るんですけど、色んな人に観てもらう努力。そちらはあまりする人じゃなかったんで。

 

でもたぶん高畑さんの中で最高傑作。それは認めるよ。

 

麻実子

火垂るの墓』を超えたよね。

 

敏夫

うん。でも『かぐや姫の物語』を作ろうって言ったのは、パパなのよ。宮崎さんは自分からあれ作りたいこれ作りたいって、いっぱい言う人なの。

 

一方、高畑さんは絶対言わない人なのよ。でも変な言い方をする人で。あれ作りたいこれ作りたいって言ってくれると話わかりやすいじゃん?ところが高畑さんっていう人は、「かぐや姫は誰かが作るべきですよ」って。誰かが作るべきってどういう意味なんだろうって(笑)

 

高畑さんは『となりの山田くん』以降、あまり作ってなかったんで、どうしてもやろうっていうことになったとき、何をやればいいか?って言われたから、「『かぐや姫』やりましょう」って言ったの。なんでかっていったら、『かぐや姫』って日本最古の物語。それは日本の歴史の中で大事なことで、それを誰もやらないっていうのは良くない、とか言っちゃってね。それはパパもそう思ってたから。「誰かがやるべきですよね、って高畑さん言ってましたよね?」って言ったら「確かにそう言いました」って言うから、「高畑さんがその誰かになったらどうですか?」って。「いや、僕は誰かになるつもりはありませんよ」とか言っちゃってね(笑)でも最終的にはやってくれることになったんだけどね。

 

◇◇◇

 

麻実子

パパのコピーがすごく良かったじゃん。

 

敏夫

「姫の犯した罪と罰」。

 

これを高畑さん怒っちゃったのよ。高畑さんの話を聞いてたら、やろうとしてるのは「罪と罰」だなと思ったの。宣伝もそうすれば、企画と宣伝が一致するっていうのはすごい良いことだから。そうしたら高畑さんに「それをやろうとして上手くいかなかったから、やめたんですよ」って言われたんだよね(笑)「だからやめてください」って言われてね。

 

「姫の犯した罪と罰」。なんか観たくなるじゃない?自分としては満足だったんだけど、高畑さんがそこまで言うんだったら、と思って。それでもう一案考えたの。「清く、正しく、美しく」っていう言葉あるじゃないですか。あれのパロディを考えましたね。考えたんだけど、これじゃあインパクトに欠けるなって思ってね。高畑さんは「これでいいじゃないですか」って言うのよ。なんでかっていうと「これだったら作品の邪魔をしない」って言われて。

 

それは高畑さんを説得したんですよ。どう説得したかっていうと「やろうとしたけど出来なかった、だからそれは良くないっていう気持ちはわかりました。ただ色んな人の評判が良い。だからそれは宣伝として使わせていただけないか」って。それで高畑さんに色々交渉したんですよ。そうしたら高畑さんが、「いいですよ。勝手にやってください」って。所詮、作るのと宣伝ってどこかでバッティングするんですよね。

 

ところが高畑さんは、それにこだわり始めちゃったんですよね。こんなことを言ってると、内輪揉めを話してるみたいだけど(笑)やっぱり高畑さんがジブリで色んな作品を作ってくれたっていうのは、紛れもなくジブリっていう会社が色んなところへ出て行く時に大きかったんですよ。宮崎駿だって高畑さんがいたから、自由に振る舞えたっていうところもあったと思うので。

 

麻実子

じゃあそろそろみんなの意見も聞いてみようか。じゃあまず、現場にいるキョウヘイさん。

 

キョウヘイ

僕もこの『かぐや姫の物語』がものすごく好きで。今日めちゃめちゃ楽しみにしてました。僕も改めて観させていただいて、子どもの頃って教科書だったりとか、日本昔ばなし的な絵本の中で『竹取物語』を見ていたなと思っていて。時代背景とか歴史的な話としては理解出来てたんですけど、スタジオジブリが作られて、古典なんですけど物語を動かす力によって、現代の話でもあるし、出てくる人がみんな小賢しいというか、人間の性みたいなのも見られて、かぐや姫自体も迷いながら、生きるっていうことを端的に感じたなって思っていたんですよね。

 

日本の古典をちゃんと作るっていうときに、スタジオジブリとしても初めての試みだったと思うんですけど、古典に対してこう作ろう、ああ作ろうみたいなところって、鈴木さんとか高畑さんとかスタッフの方って議論されたんですか?

 

敏夫

それはそうでもないよね。大体骨格が決まってきたときに僕がポツンと高畑さんにあることを言ってみたら、これはすごい高畑さんが納得したの。「高畑さん、面白いですよね。」「何がですか?」「『ハイジ』に戻りましたよね」って言ったの。『ハイジ』って、アルムの山で子供時代生き生きでしょ?ところが都へ出てきたら、全く元気を失うわけでしょ?その構造って『かぐや姫』と全く同じじゃない?そうしたら高畑さんがね、「気がつかなかった!」とか、「それは鈴木さんが正しい」とかなんか言ってね。ちょっと考えればすぐわかると思うんだけど(笑)高畑さんはやっぱりそのテーマが好きなんだなって思ったことがものすごく大きいね。

 

古典がどうしたとか、それはそんなに深く考えたわけじゃないんだけど、高畑さんと一緒にやっているうちに高畑さんは作品ごとに何かを大幅に変えるとか難しくて。高畑さんがやったのは何かっていうと、本物の姫っていうのはどういう子だったんだろうって。それが一種『ハイジ』なんだよね。

 

簡単にいうと、本当の話があるじゃない?本当の話って後で物語になるじゃない?その物語になる前のドキュメンタリー、それを作るみたいな気分。そういう話をしたんですよ。高畑さんとは。だから『かぐや姫』っていうのは最終的には物語になったんだけれど、元は一人の女の子のドキュメント、ノンフィクション。そういうものと捉えるとわかりやすくなる。

 

諸般の理由によって、月からやってくるわけじゃない?その女の子がたまさか地球を選んで、しかも日本に来て、それで山の暮らしと都の暮らしが大きく違っていたわけで。そのときに周りの人、例えば、あのお爺ちゃんだって考えてたのは、都の方が幸せになれると思ってたわけでしょ?あれは面白かったよね。ところが、そうじゃない。

 

そこら辺も含めていうと、僕は先祖返りだなって思ったんですよ。この『かぐや姫の物語』って。つまり、何回も繰り返すけれど、『ハイジ』。そう思ってました。

 

◇◇◇

 

小崎

かぐや姫が捨丸と再会するシーンあるじゃないですか?捨丸がキジか何かを盗んで。一瞬考えて、結局車に戻るっていうシーンがすごい印象的で。あそこでかぐや姫の中で葛藤して、翁のこととか考えたりとか、今のことだけを考えて田舎に戻りたい。だけど結局車に戻っちゃうっていうあのシーンがすごい印象的でしたね。

 

キョウヘイ

意外と尺も長かったですよね。心の葛藤みたいなところの。

 

敏夫

最後の二人が空を飛んでいったのは、どうなんですか?

 

キョウヘイ

最後抱きしめ合って、消えるやつですよね?

 

敏夫

捨丸には奥さんがいたんでしょ?子供も。姫とあれは何をしてたの?

 

キョウヘイ

でもあれはそういうことなのかなって、、、

 

小崎

え、あれって、、、

 

敏夫

そうなんだよ。エッチしてるんだよ。あれ。

 

小崎

あれ最後に子供が出てきますよね?

 

敏夫

それは、、、そういうことかな?そこまでは考えてなかったけど。

 

キョウヘイ

あれはかぐや姫の子供なのかなって。

 

敏夫

そういうところは高畑さんって、面白い人なんですよ。それは宮さんにはない。子供のものとしては描かない。そういう男女の営みもちゃんとやりようによっては出来る。大人のアニメーションをやろうとした人。だってかぐや姫、捨丸のところに来ちゃうわけでしょ?無茶苦茶だよね。そうやって考えると面白いでしょ?そこら辺で「罪と罰」も見えてくるはずなんだけどね。

 

小崎

恐ろしいな、それ(笑)

 

敏夫

高畑さんはそういう意味でいうと、奥深いものをやってるんですよ。もう少し現実に即したこと。

 

麻実子

そういう意味だったんだ。私はあれ観て「不倫じゃん」って、ちょっとそこは引っかかったよね。でもそれが高畑さんなんだね。

 

敏夫

そう。大人のお話をやる人なのよ。だからそこら辺がアピールしたんじゃないかな。お婆ちゃんの声をやった宮本信子っていう人が、とにかく絶賛。試写が終わった後、「鈴木さん、これは日本の宝ですよ」って言い出して。すごい参加出来たことを喜んで。それは覚えてますね。

 

麻実子

たしかに翁が変わっていっちゃうのとかも、現実的だったもんね。

 

敏夫

そう。現実的なのよ。高畑さんって、あんまり絵空事って好きじゃないのよ。そういう気がするよ。

 

麻実子

はい、ありがとう。じゃあ次、竹森さんお願いします。

 

竹森

私は『かぐや姫』を振り返ったときに、一番最初に思い浮かんだのは、かぐや姫が屋敷から飛び出して、山に走って行くっていうシーンが一番最初に思い浮かんだんで、個人的にはあのシーンが脳裏に焼き付いていて。あのシーンがあるかないかで映画自体の印象も変わっちゃうんじゃないかなっていうくらいに思ってるんですけども。

 

個人的にあの映画の山場くらいに思ってたのが、今回映画を見返してみたら、映画が2時間17分あって、このシーンって51分くらいのシーンで、だいぶ前半に来てるんだなって勝手に驚きまして。

 

で、鈴木さんにお訊きしてみたいなと思ったのが、こういう印象がすごく残ってしまうシーンって、取り扱いが私のように浅はかに映画を観ていると、そこだけに囚われちゃう気がして。

 

敏夫

いや、いいんじゃないの?ああいうものを描けるアニメーターがいたんですよ。

 

竹森

橋本さんでしたっけ?

 

敏夫

そう。橋本晋治。彼がいなきゃあのシーンも生まれてない可能性があるの。あの疾走ってすごいでしょ?君はそういうことがわかるかどうか。「安珍清姫」って知ってますか?

 

竹森

いや、わからないです。

 

敏夫

古い物語なの。「安珍清姫」って坊主とお姫様の話なのよ。二人が愛し合っちゃうっていうやつなんだけど、そのエピソードをせっかくこの時代をやるんなら、あの中に入れ込みたかったわけ。それでああいうシーンを高畑さんは設定したんですよ。激しい子でしょ?かぐや姫って。それこそ形相も変わっていくじゃない?それは高畑さんはやりたくてしょうがなくて。あれは本当に高畑さんは満足したと思いますよ。ああいうシーンが出来たのは。

 

それと同時にああいうのをいくら考えたって描ける人がいなきゃやれないから。それでいうと、橋本晋治は本当に上手い男だから。僕も親しいんですけど、すごい男です。

 

竹森

鈴木さんはあのシーンを予告に使われたと思うんですけど、さっきのコピーの話もそうなんですけど、私の勝手な高畑さんのイメージだと、このシーンを予告に使ったらすごく怒るんじゃないかって。

 

敏夫

いやいや。あれはむしろ喜んでた。

 

竹森

あ、そうなんですか?

 

敏夫

そう。走って行くところって一言でいうと、衝動だと思うの。そういうものは高畑さん大好きなのよ。それによって全体の物語がわかるとか、そういうわけじゃないじゃない?人間にはこういう部分があるんだよっていうやつだから。そうやって考えたら面白いでしょ?だから人間の激しさだよね。

 

だって色んなことに囚われて、ああいうことが出来ないのが現代の人間じゃない?そういうことでいうと、高畑さん自身が激しい人だったから。ある意味宮崎駿より圧倒的に激しい人なんですよ。

 

実は高畑さん、本当にやりたかったのは僕は色んなところで話してきたんだけれど、『平家物語』っていうやつなんですよ。これはやりたくてしょうがないんですよ。それがついに成し遂げることなく死んじゃうんだけれど、これもなんでやりたいかっていったら、『平家物語』って一口で言っても色んなエピソードが入ってるわけ。やりたかったのは木曽義仲の話なんだよね。

 

端的なことだけいうと、木曽義仲って三日天下って言われたの。つまり、京都を支配したのはたった三日。それはちょっと大袈裟なんだけど、そういう言われ方をされてて。この義仲の恋人っていうのがいたの。この恋人が巴御前っていう人で。その巴御前っていうのはその『平家物語』の中でも有名なんだけれど、男装なんですよ。恋人だけれど。戦場にも自分が出て行くわけ。

 

ところが最後の最後、義仲はいよいよもうダメだってわかる。ダメだとわかった時に巴御前を呼ぶわけ。そしていきなり言うわけ。「お前はそうやって身を男にしているけれど、結局は女だ。お前が側にいたんでは俺の生涯の名折れ。だからここで別れよう」って。そうすると、その巴御前っていうのがなかなかすごい人なんですよ。一切抵抗しないで「わかった」って。

 

ちょっと正確な話は忘れちゃったんだけれど、最後、木曽義仲って500騎くらいの手勢なんですよ。その500騎のうち450くらいを巴御前にくっつけるわけ。それで自分はその残った50騎だったか、もっと少なかった気もするけれど、俺はこれと行くんだと。もう死を覚悟してるんですよ。それで巴御前に「ここで別れよう」って。それで一切、木曽義仲に対して文句を言うわけでもなく、その450騎を連れてその場を去るわけ。

 

ところがその後、源氏との戦いが待ってるわけ。源氏がいた人数は万。その万の中へ450騎連れて突っ込んでいく。これ何ですか?この彼女の気持ちは。竹森くん。

 

竹森

特攻?

 

敏夫

特攻じゃありません。違うよ。何で突っ込むの?万いるところに向かって。

 

(了)

「折り返し点」と「仕事道楽」 ゲスト:井上さん、古川さん

2008年7月29日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol43.mp3

 

※文中に出てくる「田居」さんは、ジブリ出版部の田居因(たいゆかり)さんという方です。

 

ーナレーションー

ポニョが美術館にやってきました。

 

司会

東京都現代美術館館長、日本テレビ放送網株式会社氏家齊一郎代表取締役、取締役会議長より皆様にご挨拶申し上げます

 

氏家

皆様、お暑いところお集まりいただきまして、誠にありがとうございました。私もいま見て参りましたが、なるほど、この映画はこういう風に出来ちゃうんだなっていうレイアウトがたくさんありまして。

 

ーナレーションー

一昨日金曜日から、スタジオジブリレイアウト展が始まりました。

 

鈴木

おはようございます。スタジオジブリの鈴木でございます。ジブリはですね、この展覧会の企画製作・協力というのをやらせていただきました。僕がやったことでいうと、レイアウト展っていうのをやってみないか、と。このレイアウト展。耳慣れない言葉だと思います。僕らの業界の専門用語なんですけども、なんでそんなことを考えたかっていうと、このレイアウトっていう仕事はですね、宮崎駿がアニメーション界に入って45年になるんですけど、、、

 

ーナレーションー

「高畑・宮崎アニメの秘密がわかる」とサブタイトルがついたこのレイアウト展。

 

『ハイジ』から『ポニョ』まで、鉛筆で描かれた1300店もの絵は、その一枚一枚に高畑さんや宮崎さんの慈しみが滲んでいます。

 

女の子1

トトロの絵がすごい可愛くて。

 

女の子2

ポニョ。細かくやってすごかった。

 

女性1

千と千尋の神隠し』のところが本当に迫力があって、感激しました。  

 

男性1

未来少年コナン』とかジブリの前のところなんかの宮崎さんのコメントがすごく面白かったですけども、ラナがマストに括り付けられてるようなところで周りの動きの部分と止まっている静の部分の対比を描きたいんです、みたいなのが書いてあって。表現したいっていうのがすごく伝わってきたんで。

 

女性2

拡大されてるのとかもあって、いくら大きくなっても素晴らしいっていうのと、デッサンとかが素敵なのでは。

 

女性3

細かいところまでそういう指示がされていて、例えば、ここはセル画に、とか、ここの色はこういう感じで、とか。

 

ーナレーションー

そんな夏休みの夜、れんが屋を訪れる二人の男女が。

 

宮崎駿鈴木敏夫の秘密がわかる二冊の本を抱えたそのお二人は、岩波書店の井上一夫さんと古川義子さんです。

 

鈴木

おかげさまで岩波書店から宮崎駿の『折り返し点』という本、これは7月16日でしたっけ?

 

古川

はい。

 

鈴木

それでおまけで付録ですかね?『仕事道楽』っていう僕の本を(笑)

 

古川

おまけじゃないです(笑)

 

鈴木

出していただくことになって。その宣伝のためのポスター。これって書店用ですか?

 

井上

そうです。

 

鈴木

僕と宮さんの写真がまさかこんなに大きく使われるとは思わなかったっていうのが一つと、もう一個は、タイトルより名前が大きいですよね。

 

井上

そうですね。

 

鈴木

真ん中にポニョがあって、両端に僕と宮さんがいて、一番下に「鈴木敏夫vs宮崎駿」って、「vs」ってウソですけれど(笑)これはある人に見せたら、K1の試合かなって誰かが言って(笑)全体を宮崎駿の顔でやる、それで『折り返し点』って入って、囲みでこの『仕事道楽』ってやるとどうかなって(笑)

 

井上

いや、これでいきましょう。違和感ないよね?

 

古川

違和感なく。

 

井上

まさにこのために撮ったのかなっていう写真ですよね。

 

田居

井上さん、上手!

 

鈴木

古川さん、正直なこと言って?

 

古川

いや、正直ですよ!ほんとに(笑)

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

この番組は、ウォルト・ディズニー・ホームエンターテインメント、読売新聞、「Dream Skyward」JAL、「街のホットステーション」ローソン、アサヒ飲料の提供でお送りします。

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