鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

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鈴木さんの半自叙伝的読書録である『読書道楽』についてのインタビュー(後編) インタビュアー:金志尚さん

2023年1月22日放送の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

https://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol771.mp3

 

本を選ぶ時って、先ほど人から薦められたものは面白くないっていうお話があったんですけど、どういう風に選ばれてますか?

 

鈴木

人から薦められても面白いものは面白い。自分で匂いを嗅いで面白かったら読んじゃいますけどね。それこそ宮本常一の『忘れられた日本人』なんて、高畑・宮崎の二人から薦められたんで。読んでみたら本当に面白かった。読む基準は、自分がその時に何に興味あるかですよね。レヴィ・ストロースっていう人のことをこの中でも触れましたけど、僕らが大学に入った頃って、実存主義が大流行りなんですよ。最後の方だけれど。サルトルとかボーヴォワール。あとはカミュ。なんか一つピンと来なかったんですよ。ピンと来ない時に突如、レヴィ・ストロースサルトルが論争。そしてサルトルが負けちゃうわけですよ。これはレヴィ・ストロースに興味持ちましたよね。結局、その影響を僕は受けましたね。人類学の先生なんだけど、ある種、民俗学も入ってくるんですよ。

 

ーナレーションー

 

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

「読む。生きるために、読む。」

 

今週は先週に引き続き、毎日新聞のデジタル版で1/7に紹介された鈴木さんの半自伝的読書録である『読書道楽』についてのインタビューの模様をお送りします。

 

インタビュアーは、毎日新聞社デジタル報道センターの金志尚さんです。

鈴木

池澤夏樹さんなんかもそうですよね。池澤さんも仕事を通じて知り合ったんで。そうしたらメールをもらって、こんなことが書いてありました。同世代なんです。「読んできたもの、同じだね」って(笑)

 

時期によっても、小説を集中的に読む時期があったりとか、お仕事の関係もあったと思うんですけど読書が増えたりとか、あるいは評論になったりとか、時期によって微妙に選ぶジャンルっていうのは意識的かどうかは別にして、変わってきたところはあるんですか?

 

鈴木

小説は面白くないなって思ったんですね。ある時期。いわゆる評論っていうものは、あまりよくわかってなかったですよ。読んでみたら面白かった。一方にエッセイっていうのがあって、エッセイという名前の色んな現代時評だったり色んなことがあるんだけど。やっぱり僕は寺山修司っていうのがすごい惹かれたしね。僕は『アサヒ芸能』っていう俗悪週刊誌に属したんですけど、そこの社会時評を書いてたのが寺山修司だったんです。あれ変な雑誌だったんですよ。そういうことをいっぱいやってましたね。あの雑誌は。

 

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いまって、一冊の本を読むのにどのくらいのペースで本は読まれてるんですか?

 

鈴木

あまりそういうことを考えないですよね。読む時は立て続けに読むしね。立て続けに読んでると、間を空けなきゃっていう気分になるしね。そういうのはありますね。

 

宮崎駿さんとの話も結構出てくるんですけど、本の話で盛り上がったりもするんですか?

 

鈴木

あまりないですね。彼は極端な人で読んでる本のほとんどが児童書。徹底してるんですよ。だから本当に映画監督に向いてるんだなと思って。僕はそうじゃないジャンルでしょう。「鈴木さん、これ読んで」っていうのもあるし、僕の方から「こういう本もあるんですよ」って説明する時もあるし。そんな関係ですかね。

 

いまはいわゆる「活字離れ」みたいなことを言われていて、若者ってレッテルを貼るのは良くないんですけど、スマホの浸透で本を読まない人が増えてると一般的に言われているんですけど、あえて次世代の方たちに本を読む豊かさみたいなものをメッセージとして送るなら、どういったメッセージを送りますでしょうか?

 

鈴木

僕はそういう風に考えないっていうのか。僕らが特殊なんですよ。だって僕ら以前、誰も本なんか読んでないじゃないですか。やっぱりグーテンベルクが印刷を発明して、そこから始まるわけなんだけど。ところが実際にみんなが本を読んだのは20世紀ですよね。20世紀っていうのは後に、みんなが本を読んだ時代があったんだよ、ってたぶんそうやって語られる時代ですよね。じゃあ21世紀はどうなるの?って言ったら、もう一回みんなが本を読むようになるっていうのは、そうならない気がしてるんです。それは問題じゃないって思ってるんです。

 

揚げ足をとってしまうと、「活字離れ」っておっしゃったじゃないですか。でもみんなSNSで何やってるかっていったら、活字で自分の考えてることを伝えようとしてるでしょう。前より活字に接してるんじゃないですか。それでいうと、本当に本を読まなきゃいけないっていう、本を読んで立派になるっていうのは幻想だったわけでしょう。

 

え、そうですか?

 

鈴木

でしょう。僕なんかも立派になってるかどうかっていったら、怪しいですから。

 

いやいや。充分すぎるくらい。

 

鈴木

いやいや(笑)そんなこと言ってもあれだけど、本を読まないといけないっていうことは絶対思わないしね。ベストセラーっていう言い方あったじゃないですか。あれって間違いなく、20世紀以前にはなかった言い方でしょう。それまでのみんなが好きだった芝居を観るとかと同じことでしょう。したら、大したことじゃないですよね。って思うんですよ。それは太古の昔から、いわゆる活字で本に相当するものは色々あったんでしょうけど。もう若い人に「本を読みなさい」って、僕は言わない。むしろ、新しいものを教えてくれって。あなたたちは今何が好きなんですかって。そっちですよね。

 

だって、ウチの娘なんかもうずいぶん年取ってるんだけど、本好きなんですよ。漫画は一生懸命読んでたんです。そうしたら、みんなから馬鹿にされてたんですよね。「漫画なんか読んでるの?」って。しかも少女漫画。もう少女漫画っていうジャンルがなくなった後も、彼女は読み続けた。僕なんか彼女に教えてもらったりしたから。やっぱり時代時代でみんなが読むものって変わりますよね。僕はそれで構わないって思ってます。遠い将来、もう一回そういう時期が来るかもしれないけれど、とりあえずは終わったんですよね。

 

あまり本に触れない人が増えても、それは例えば昔、テレビが浸透してきた時に「一億総白痴化社会」みたいなことを言われてたと思うんですけど、いまはSNS時代で、ネガティブな言い方をするとまたそういう時代になるのかな、という風に思ったんですけど、そういうネガティブな感じは鈴木さんとしては?

 

鈴木

僕は全然ないですね。代わりのものを見つけますよ。みんなそんなに馬鹿じゃない。本で得てたものを別の媒体で得るんじゃないかっていうのが僕の予想です。

 

僕も娘がオンラインサロンなんてやってるから、みんなと喋るじゃないですか。ビックリするくらいボキャブラリーを持ってますよ。僕らの世代が持ってなかったようなボキャブラリーを持ってる。むしろ優秀。そんな本を読んでるわけじゃない。そうすると、何なんだろうって。ビックリしますよ。ある意味、すごい勉強してますよ、みんな。

 

何で勉強してるんだろう。いまの子は。

 

鈴木

ネットっていうのは大きいけれど、やっぱり同じですよね。同じっていうのは、そこで起きてることを題材にみんなで話し合うって。本当に僕が教えられますよ。その子たちに会うと。

 

やっぱり癖なんですよ。映画を作ってきたでしょう。そうすると、世の中ってどうなってるんだろうっていうことを無視できない。やっぱり映画を作る時、そういうことがベースになるから。いまみんなが何に興味を持ってるか。例えば、ツイッターってするじゃないですか。みんな炎上を恐れる時代、なんて言ってるでしょう。もう終わる気がしますよね。だってみんなが炎上しまくったから。みんなが使いまくったから消費したんですよ。そうしたら無くなりますよね。じゃないかなって僕は思うんですけどね。これはちょっと本題から外れるんですけど。

 

—--

 

あれだけすごい蔵書を見てから、しかし本を読まなくても全く問題ないっていう、そういう答えが来るとは。

 

鈴木

あ、そうですか。

 

想像してなかったです。

 

鈴木

僕はある時代の人として、ああやって本をいっぱい本を読んだけれど、色々考えてる人が別の媒体でそれに相当するものを自分たちで見つけて、自分たちでそれを血肉化する、と僕は思ってますよ。

 

いわゆる名作って呼ばれるものっていうのは、本という形じゃないと得られないものじゃないですか?他の方法でも得られるものなんですか?

 

鈴木

僕さっき蔵書の部屋をお見せしたでしょう。一つの例として、僕チラッと言ったじゃないですか。世界文学全集って国別だったって。これっておかしいんじゃない?って言ったのが、池澤夏樹さんなんですよ。もう国別で世の中を語れない。現代は色んな人が移動する、動く時代。その池澤さんが河出書房から『世界文学全集』って出したんだけれど、その特徴の大きなものの一つは、動いた人、移民だった人、難民だった人。で、新しい国へ行って、新しい言語を獲得した人ですよね。で、書いたものが自分の母国語じゃないんですよ。その新しい言語で文学を著した。これすごいなと思って。そうやってその時代を捉えたわけでしょう。だから池澤さんってすごいなと思ったんです。僕なんかには絶対出来ないから。そんなこと。実際内容を読んでみると、やっぱり面白いですよ。そこには言語の問題だけじゃない、ジェンダーの問題その他、全部入ってますよね。世界は動いてます。

 

振り返ってみて、鈴木さんという人間を作り上げていく上では、、、

 

鈴木

僕は本だけじゃなくて映画もあるので、映画と本はものすごい大きな要素を占めていると思う。新しい時代の人はそれを何によってやるんだろうって。僕は同時に本という形でみんなが物語を読むっていうことも少なくなったし、映画も昔の映画とはもう違いますよね。やっぱり別のものが出てくるような気がしてるんですよね。というか、すでに出ているっていうのか。

 

その時にみなさんがおっしゃってる「双方向」、それがキーワードだと相変わらず思ってますけどね。一方的に流すものじゃなくて、やりとりによって生まれるもの。その中に色んなものが含まれるんだろうなって。それはなんとなく僕が思ってることですけどね。僕は本が好きですけどね(笑)

 

でもね、同時に僕ってね、本という形には実は拘ってないんです。

 

そうなんですか。

 

鈴木

そう。僕ね、西暦2000年くらいかな。ニューヨークでホテルで丸三日間閉じ込められたことあるんですよ。諸般の事情で。偉い方に会う予定だったんですけど、その人たちとニューヨークで待ち合わせたんですよ。そうしたら、その方たちがロスの人で。諸般の事情でロスから出られなくなって。すると三日間やることないでしょう。しょうがないから、当時僕はパソコンだったんですけれど、パソコンで青空文庫で次から次へと本を読みまくったですよね。あれは良い経験でしたね。楽しかった。

 

しょっちゅう、ネットで本読んでますよ。映画もネットで観るし。全然そういうのは僕は苦にならない人なんで。青空文庫なんて大好きな方で、思わぬ人が色んな文章を書いてて、そういうのに出会えるんですよ。映画の世界で山中貞雄っていう人がいてね、これは僕の大好きな日本の映画監督なんだけれど、この人の本なんてどこにもないわけですよ。ところが、ネットにあるんだよね。青空文庫に。「え!なんでこの人の本がこんなところに!」って。

 

今だったら電子書籍なんかも読んだりするんですか?

 

鈴木

これも告白しちゃうとね、花巻っていうところでピンチヒッターだったんだけど、高畑さんっていう人が亡くなったじゃないですか。その人が花巻の人と約束して、宮沢賢治のお祭りがあって、そこで講演することになってたんです。亡くなっちゃったんで、急遽僕がやらなきゃいけないでしょう。宮沢賢治については好きだったですけど、時間がなかったんですよ。どうしようかなって思って、青空文庫宮沢賢治見たら、全部あるんですよ。それで読み始めたんです。新幹線で。で、結構かかるから色々読んじゃって、これで良いじゃんっていうので新幹線の中で話す内容を決めたんですよ。

 

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本屋さんに行って買うんですか?基本的には。

 

鈴木

いや、いまはAmazonが多いですね。本屋さん行くの好きだったけど、いま面白い本屋さんないんですよ。僕にとってはね。「100分de名著」っていうのをNHKでやっていて、あれのテキストは結構買うんですけど、本屋さん行ってそのコーナーを見るんですよ。必ず。すると一石二鳥。どこに置いてあるのかとか。置き方もいい加減ですよね。もう少し真面目に置けって言いたいんだけど、行くと怒ってばっかりいるんですよ(笑)

 

スタートは鈴木さん自身が本が大好きだということと、それがご自身の形作ったっていうことは間違いないと思いますので、時代が変わって色んな方法で情報を見ていく。本という形に拘らなくていい時代に、、、



鈴木

本って、いつ出来たんですかね?この本だって100年経ったらどうなるんですか。読めるんですか?

 

いやもう、、、

 

鈴木

なんで?酸性とアルカリ性のせいでしょう。すると、新潮新書から出てるわけですよ。本というのは何なの?って。もう少し真面目に作ってほしいですよね。なんて批判ばっかりになっちゃうな(笑)

 

重要なご指摘だと思います。

 

鈴木 

じゃあ一個だけ。良い本屋さんあるんですよ。福岡。国体通り。そこに普通の本屋さんがあるんですよ。どこにでもある昔ながらの本屋さん。入ると、必ず僕が読みたいような本が並んでるんですよ。だから必ず僕立ち寄ります。福岡に行くと。気になって親父に尋ねたんですよ。「面白い本ばっかり並べてますね」って言ったら、「考えてます」って言われて(笑)でもそういう人がいっぱい出てきたら違うなって気はするけれど。でもその本屋さん、必ず行くんですよ。大好きです。

 

そんな大きな、、、

 

鈴木

普通です。だから本屋さんだからっていって、ベストセラーを順番に一位から並べるとか、ああいうことやめてほしいですよね。十把一絡げ(じっぱひとからげ)じゃないんだもん。物扱いしないでほしいですね。知識その他。

 

(了)