鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

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小説家・中村文則さんとの座談会 その1

2015年12月8日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol401.mp3

 

鈴木:どうも。初めまして。わざわざ今日はありがとうございます。

 

中村:とんでもないです。とても驚きました。ありがとうございます。

 

鈴木:とにかく3人が「教団X」のファンなんで(笑)

 

中村:本当ですか?

 

鈴木:それで今日3人なんですよ。「教団X」を見つけたのが、米倉さんで。僕に薦めてくれて。僕も読んで凄い面白くて、一気に読んだんですよ。

 

中村:ありがとうございます。

 

鈴木:ただ、読んでから随分時間が経ったでしょ?色んなことを忘れてるから、やっぱり応援メンバーとして。

 

中村:去年の12月に書いたやつだから、僕も結構怪しい(笑)

 

鈴木:自分で書いたら覚えてるよ!(笑)それで川上さんはね、僕が薦めたんですよ。これ川上さん絶対喜ぶに違いないって。川上さんはね、この本を読むために入院までしてね。

 

川上:読んでたんですけど、鈴木さんが芥川賞作家の凄く面白い本があるっていうんで、たまたま入院してたんで。

 

中村:時間はあったんですね?

 

川上:時間はあったんですよね。

 

鈴木:だって、ベットから僕に面白いって途中経過報告が来たしね。で、彼女はね、僕なんか書いてある文章そのまま記憶するっていうのが非常にダメな人で。しかし彼女、よく覚えてるんですよ!そのままを。そういうこともあって、今日この3人で一斉に襲いかかろうという(笑)

 

中村:ありがたい話です。

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

今週から、3週にわたって小説家の中村文則さんをお迎えしての座談会、中村さんの著者「教団X」に焦点を当ててお送りします。

 

出席者は、ドワンゴ会長の川上量生さん、「教団X」を細部まで読み込んだという米倉智美さん、そして鈴木さんです。

 

中村さんは1977年9月2日愛知県東海市に生まれ、2002年「銃」で第34回新潮新人賞を受賞してデビュー。2005年「土の中の子供」で第133回芥川賞を受賞。今年5月の「あなたが消えた夜に」まで数々の小説を執筆してきました。まずはこんなお話から。

鈴木:きっかけはね、買ったじゃないですか?それこそAmazonで買ったんだけど、レビュー見てね、頭に来たんですよ。あれ。ひどいこと書いてあるんですよ。

 

中村:ネットはしょうがない、、

 

鈴木:あれほとんど読まない方がいいって感じですよ。そういうことを書いてあるんですよ。それで全5段階の「非常にいい」も、2つくらいしかいってないしね。それで本屋さんに行ってみたら、10万部突破でしょ?少ないと思ったんですよ、僕。もっと売れるべきだと。別に集英社の人が来てらっしゃるから言うんじゃないんだけれど、やっぱり30万50万いって欲しいですよね。最低。

 

中村:素晴らしいですね、それは。

 

鈴木:おこがましいんですけど、多少の応援をして(笑)

 

中村:いやすいません、ありがとうございます。僕もジブリ大ファンなんで。本当に光栄です。

 

鈴木:え?

 

中村:宮崎さんの映画は、僕が把握してるのは全部観てると思います。

 

鈴木:あ、そうなんですか?

 

中村:一時期からですけど、映画館で全部観てますね。割と歳をとってからは映画館で観てます。

 

鈴木:ありがとうございます。

 

中村:本当に大好きです。

 

鈴木:川上さんは化学勉強した人だから。

 

川上:勉強はしてないですね。化学しか入れなかったんで行っただけで(笑)

 

中村:一番難しいところだと思いますけどね。

 

鈴木:物理とか得意なんですよ。それで文化系の人はなんで大学行くんだろうって思ってる人なんで。

 

川上:いやそんなこと言ってないですよ(笑)やめて下さいよ(笑)文系をディスってるって、ただでさえネットで思われてるんで。文芸をやってる出版社としては。

 

中村:そうですね!そうだ!

 

川上:僕、理系大好きですけど、文系も大好きです。

 

鈴木:小説は好きなんですよね?

 

川上:そうですよ。本当に好きですよ。

 

鈴木:でも本当に面白かったですよね。

 

川上:小説本当に好きなんですけど、最近ほとんど読んでなくって。久々に読んで本当に面白いと思ったんです。

 

中村:それはありがたいです。

 

米倉:私も本を見つけたキッカケが、ネットサーフィンをスマホでしてて、最近、小説読んでないなと思ってタイトルが目について、「あ、面白そうだな」と思って。ただもう勘です。すいません。何のレビューも読んだとかじゃないんですけど。

 

中村:タイトルはやけくそですけどね。「教団X」ってどういうことだよっていう話ですからね(笑)

 

米倉:半年ぶりくらいに小説を読んで、感想は、小説ではないのかもしれないと思いました(笑)

 

中村:確かに。色んなもの入ってますからね。

 

鈴木:そこが面白かったよね?

 

米倉:はい。これはジャンルがないなと思った小説でしたね。

 

川上:見たことないですよね。

 

米倉:見たことないです。

 

川上:色々不思議はあるんですけど、これは小説なのかっていう不思議さがあるのと、何でこんなの書いたの?っていう(笑)

 

鈴木:まぁわかりますね。

 

川上:もしあれを小説家として作品として選ぶんだったら、一生にたぶん一冊か二冊ぐらいしか見ないんじゃないかなって(笑)

 

米倉:全ての要素が散りばめられていたので。

 

中村:そうですね。やっちゃった感がありますね。

 

川上:というか、そんな書ける人じゃないですよね。しかも長いし。

 

中村:そうですね。ちょうど10年目に始めたんですよ。連載を。で、ちょうど僕の本が色々広がっている時だったんで、ちょっと今のタイミングで言いたいことを言っちゃえ、と思って。言っちゃえ言っちゃえ、と思ってガーっと書いたら、どんどん長くなっていって。まぁ最大の長さになっても、10年のトータルの「これだ!」っていうものを思いっきり出したっていう感じですね。それが2年半連載だったんで、結局13年目くらいの時に出たんですけど。

 

鈴木:今おっしゃった「言いたいことがある」っていうのがね、非常に明快な小説。

 

中村:そうですね(笑)

 

鈴木:小説っていう形式が手段になってるでしょ?

 

中村:この「教団X」はそうですね。

 

鈴木:ね。そこが面白かった。

 

川上:あの本を読んで思ったのが、この作者はよくわかんないんだけど、宗教を自分で開きたいんだと。これはその経典なんだっていう風にしか思えなかったんです。

 

鈴木:(笑)

 

中村:色んな方法があるんですけどね。人文学だから芸術に落とし込めたりとか、見る人が見れば「あ、これってこういう意味だったんだ」とかあるんですけど、現代ではそれだと広がらないと思って。

 

鈴木:僕は時期が同じだったんですけどね、又吉さんの「花火」でしたっけ?あ、「火花」?そうすると、又吉さんの方はね、いかにも小説のファンっていう感じでしょ?

 

中村:そうですね。

 

鈴木:小説のファンで小説を書きたいっていうのが露骨に伝わってきて、僕なんか彼の書いたものって一種懐かしかったんですよ。ああ、文学だと思って。でも一方で、小説は手段であって言いたいことがあるっていうやつでしょ?この対比は面白かったんですよ。

 

川上:逆に又吉さんが「教団X」を薦めてるのもよくわかって。「火花」もそうなんだけど、あれは又吉さんが思っている世界観を、世の中に伝えたいと思って書いたんだなと思ったんですよね。こう思っていて、そうじゃないかなって。「教団X」はそれをさらに(笑)

 

中村:後半とかどうなったんだっていう感じですからね(笑)小説なのかこれっていう。なんか見たことないものが良いって思ったんですよね。

 

鈴木:でも第一に面白いのは、現代との格闘がある。

 

中村:ああ、そうですね。それはやってますね。

 

川上:昔はもっと近かったんじゃないかって思うんですけど、理系と文芸の距離が。ほぼ同じ人がやってたりしましたけど、今って専門で分化してますよね。例えば、物理学とかの最先端の知識をそういう世の中の理解に使うっていうので普通にやっちゃうと、たぶんトンデモ理論になっちゃう。今はそれを文系の社会学者とかが物理学を使って世の中を解説するってやると、たぶん笑われる。今はそれを発表するんだったら、こういう形で小説にするしかないのかなって。

 

鈴木:なるほどね。

 

中村:昔のドストエフスキーとか凄い尊敬してるんすけど、あの人たちが出来なかったことって何かなって思った時に、最新科学かなと思って。一番発展したのはそれなんで。

 

で、「人間とはなにか」って哲学的にやってももちろん面白いんですけど、ちょっと物理からもいってみようかなって。小説だったら良いんじゃないかなって思って、多方面から「なんだろう人間とは」みたいなことを真正面からやるっていうのをやった感じですよね。

 

鈴木:僕週刊誌なんて、小学校以来ですよ?湯川秀樹先生の(笑)

 

川上:小説の最後にある参考文献が小説の参考文献なのかって(笑)

 

中村:しかも多すぎるだろう、みたいな(笑)どんだけ読んどんねんって。

 

---

 

川上:僕は今日番組に備えて、もう一回読み直そうと思って「教団X」じゃなくて、「ひも理論」の本を読んでたんですよね(笑)

 

中村:「超ひも理論」のやつですよね?

 

川上:「超ひも理論」のやつですね。ホログラフィーとか、あそこら辺のやつをちゃんと読み直さないと、今日は臨めないなと思って。

 

中村:僕書いといてなんだけど、僕ここに書いてるのが限界ですから(笑)これ以上なかなか出てこない(笑)

 

米倉:私は「教団X」を読んだ後、すぐ仏教の方に走りましたからね(笑)「仏教とは」みたいな。仏教の基礎入門みたいなやつを三冊くらい読んで。完全に感化されたんです。そういうことですよね?

 

川上思想書ですよね?

 

米倉:そうなんですよね。興味が湧く部門がそう。

 

中村:多岐に渡ってますからね。神社とお寺区別ついてない人、意外といますからね。若い人とかでね。中々気がつかないことあると思います。

 

僕もゼロから知識を得たりとかしていて、僕なりに発見しながら書いたっていうのもあるんですよね。勉強しながら書いていったっていうので。こんな知識とかも元々ないので。

 

自分が好きなジャンルを色々調べていって、全部書いたっていう感じで。だから多岐に渡ってますね。分厚いから出来るっていうのももちろんあるんですけど。

 

川上:元々、物理とか好きだったんですか?

 

中村:元々興味はあったんですけど、どうしても小説家って「人間とはなにか」みたいなものって考えるんですけど、これまで西洋の宗教から哲学でやってたんです。生物学からのアプローチは前もやったんですけど、今度は物理からのアプローチで多角的にやろうと思って。物理はこういう時に欠かせないので、仕方ないから勉強するか、と思って、基礎入門からずーっと読んでいって。それが小説にもあるんですけど。

 

最初は元々神話を調べようと思って。「リグ・ヴェーダ」っていうインドの昔の宗教を読んでて。その後に物理の宇宙の本とか読んだら、「あれ?これ『リグ・ヴェーダ』と凄い似てるじゃないか」と思って。そういう昔の宗教に詳しい人は宗教に詳しい。で、物理「詳しい人は物理に詳しい。なので、そこは中々リンクしないんで。あんまりリンクすると、変ないかがわしい宗教とかになっていくんですけど、それはちゃんとした知識でやってみて。だから、ほとんど近かったんですよね。小説にも書いたんですけど。

 

鈴木:書いてありますね。

 

中村:それを見た時に、これは近いなってことは色々リンク出来るぞってことで、生物学と宗教絡めてみたりとか、色んなことをやって、自分なりに「人間とはなんぞや」みたいなことをひたすら書くっていう感じでしたね。

 

小説じゃないような要素とかあるっていうのも、意識してまして。小説読みながら現代とちょっとリンクしてくるとか、「これは新書なんじゃないの?」とか思ったりとか。それは長さがあるので、総合小説っていうので。色んな楽しみ方が出来るようにしようと思って。

 

物語は物語として読むし、知識としては知識として読むし。その知識も本当はああいう本って難しく書いてるじゃないですか?理系の人たちって、とにかく頭が凄くいいので難しいんですけど、それを文系の言葉でどう書くかなっていうのをずっとやってましたね。あとは知識を繋げるっていうことをやってました。

 

鈴木:ちょっとお名前忘れたんですけど、「14歳シリーズ」っていうのがあってね、14歳のための理科系の色んなことを教えてくれる本。僕はその本で躓いてたわけですよ。わかんなくて(笑)ところがこの本読んでみたら、それを非常に端的に明快に書いてあるから、非常に勉強になったんですよね。

 

米倉:松尾先生のお話ですよね。

 

鈴木:そう。あのDVDは凄い面白かったもん。

 

中村:あれも本当は小説の会話文でやるのが小説なんですよ。でもそれすると長過ぎて、訳わかんなくなっちゃうので、教祖の話って章に分けちゃって。ここからは知識ですよって。

 

鈴木:でもあそこから僕、俄然読み方が深くなった(笑)

 

中村:ありがとうございます。

 

鈴木:何回も同じところを繰り返して読んだりね。

 

川上:僕の友達に薦めたら、教祖の話だけ読んでましたよね。

 

鈴木:それ凄くわかる!

 

中村:それも全然良いと思います。

 

鈴木:だって読み返すところ、そこばっかだったもん。ストーリーの方がおざなりになったりして(笑)

 

川上:そうそう。ストーリーを追うと、それが褒美として出てくるみたいな。

 

鈴木:そうそうそう(笑)早く次のDVD来ないかなとかね。

 

中村:色んな人がいて、あの知識じゃなくてストーリーだけでいいっていう人もいるし。だから色んな人いるんですよね。

 

鈴木:でもそれ勿体無いですよね。

 

中村:色んな読み方が出来るように、僕も意識して書いてますんで。だから色んな読み方で全然良いんですよね。知識だけ楽しむ人もいるだろうなと思いながら書いてましたし。知識がダルいなって思う人もいるだろうなと思って、ちょっと間に違うの入れて休憩してもらったりとか、あの手この手で。

 

デビュー当時では、これは流石に書けなかったと思います。10年くらいやってたんで、自分なりの技術的なこともあったんで出来たのかなって。

 

鈴木:「土の中の子供」でしたっけ?

 

中村:ありましたね。はい。あれは10年前ですね。

 

鈴木:暗い話ですよね。

 

中村:そうですね。10年前の芥川賞ですね。

 

鈴木:でも暗いのが良いですね(笑)

 

中村:貰ったとき27歳だったんですけど、わかんないわけですよ。芥川賞ってどんなものかとか、全然わかんないので、行ったら記者さんバーっとたくさんいて、写真たくさん撮られて。ああなると人間って、どうにでもしてくれっていう気持ちになってきて、気取るもなにも全て消えたんですよ。

 

それで「悪いところ教えて下さい」って言われたんですよ。それ作品について、自分なりの批判をしてくれってことだと思うんですけど、27なんでわからないので、1分くらい黙って考えた後に「寝起きが悪いです」って言ったのね。でもそれは作品関係ないじゃないですか(笑)記者さんもそんなこと訊いてないんだよ、みたいな。あなたの寝起きが悪いのはどうでもいいんだけど、結構それで和んだことは凄い覚えてる。それぐらいしか覚えてないですね(笑)

 

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米倉:小説じゃないなっていうのが読後の感想だと言ったんですけど、正確には少し語弊があって、一番最後、松尾さんの最後のやつはDVDですかね?講話なんですかね?

 

中村:一番最後のやつはDVDです。

 

米倉:色々あるけれども、いま生きているというのはすごく特殊な状況だから、まあ生きていこうよと。今までの語り口からは遥かに超える明るさっていうか、最後、希望を持って終わるんだなっていうのが。あそこは凄くくウルっとしたんですよ。

 

中村:ありがとうございます。

 

米倉:その部分は小説だったなって。色々この世界あるけど、みんなで生きていこう、という。この世界を諦めないで生きていこう、というところは。

 

中村:すごい暗いことも書いたし、ひどいこともいっぱい書いて。でも最後はやっぱり前向きに終わりたいっていうのがあったので、だからああいう風になったっていう感じですね。特に最後の松尾さんの演説は、ほとんど僕が思ってることを全部ですよね。

 

鈴木:あれは意表を突かれましたよね。もの凄いまともなんだもん。

 

米倉:鈴木さんと感想を言い合っていたときに、お互い意見が一致したところでしたね。これは小説としてではなくて、作者が世の中に訴えたいことなんだろうなっていう。

 

中村:実は純文学って不文律みたいな約束事がありまして。あんまり作者を出さないとか、意見を言うのは良くないとか、色々あるんですけど、そういう色んなタブーを全部取っ払っちゃったのが「教団X」で。

 

作者の地が見えていてもいいんですよ。小説として多少破綻していても、それが逆に僕も真剣に書いているので、真剣に読者さんに伝わればそれで良いというか。小説からだいぶはみ出しているのも意識してはいるんですけど。

 

色んな人がいた方が面白いと僕は思うので、「すべての多様性を愛する」というのが基本ベースとして小説としてはあって、これを言いたいがためにっていうのもあったんですけど。色々批判とかもあるんですけど、凄く褒めてもらえる声の方が多かったりして。

 

でもなんか僕は思うんだけど、例えば、政治的にこの本はリベラルな本なので、そうじゃない人たちからすると、我慢ならないと思うんですよね。でもそういう人たちはそこについて文句を言うと難しいので、作品と全然関係ないところで攻撃して、それを否定しようとするというか。そういうのがあるとは思うんですけれど。

 

でも僕からすると、人を変えるのは難しいですけど、凄い文句を書いている人もひょっとしたら、ちょっと変わってくれたかもしれないんじゃないかって思ってるんですよね。この本は差別とか絶対してはいけないって、至る所にあるし。  

 

なんでそう思ったかというと、ネットの記事を見ていたら、フェミニズムのインタビュー記事が載っていまして、そこの人が強い口調でこう言ってたんですね。「女性は一人でいて、周りが全部男性だった場合、女性はすごい恐怖を感じるので、その辺も男性は常に意識して生きていかなきゃダメなんです!」って、強い口調で言ってるのを見たときに、「えー」って一瞬思ったんですね。てことは、男子は常に周りに女性がいるかどうか気を配って生きていかなきゃいけないのかなって思って。それは大変だなーって思ったんですよ。

 

僕はネットにそういう意見を書き込む習慣が全くないので、そういうことはしないですけど。あの時頭の中では思ったんです。「その言い方は違うんじゃないかなー」って思ってたんですけど、でもある時電車に乗ったんですね。すごい空いてる電車だったんですけど、ふと気がついて。「そういえば、窓際にいるあの女性は、この中で女性一人であと全員男性だな」って思ったんですよ。その女性は全然気にせず本を読んでたんですけど、意識したんですね。確かにちょっと人によってはちょっと怖いと思うかもしれないなって、その時思ったんですよ。

 

だからといって電車降りるとか、そういうことはしないですけど、意識はしてたんですね。もしかしたら怖いのかもしれないなって。あの時には「えーおかしな意見だよ」って思ってたんですけど、後々、それが「意外とその意見ってあるな」とか後で思ったりとするので。

 

だから批判とかあっても、いま批判書いたけど、いまは違うことを思ってるんじゃないかな、とか、そういう風に作者としては思ってるんですけど。人って180度変わらないので。なんかの傾向があったら、それがちょっと弱まってくれるかもしれないし。例えば、ネットでバーっと悪口書いてる人もいると思うんだけど、「教団X」読んだってそれは変わらないかもしれないけれど、ちょっと弱まってそれがちょっと少なくなるかもしれないし。

 

だから、悪口とか書かれてても、変わってくれてるんじゃないかな、とか、勝手なことを色々思ったりはしてるんですけどね。

 

ーナレーションー

小説家の中村文則さんをお迎えしての「教団X」談義、いかがだったでしょうか。

 

来週も引き続き、このメンバーでお送りします。さらに興味深い話が聞けそうですので、お楽しみに。

 

川上:これを機会に宗教を立ち上げようとは思わないですか?

 

中村:いや、ないですね(笑)

 

川上:この思想をもっと広めようと。

 

米倉:「すべての多様性を愛する」という教義ですよね。素晴らしいですね。

 

中村:でも書いてることは、宗教の教義みたいなこともいっぱい書いてますからね。これは海外とかでも出るようになってきたこのタイミングで、日本人だから世界に言いたいことを言ってやる、というのもあって。でも世界見渡すと、ひどいんですよ。色々。色んな構図が。これは言いたいことを言ってやると思って。もうこれがチャンスだと。英語とかにもなるんで、そこで世界に向けて自分の言いたいことを言ってやるっていう意識で書いたのが、この「教団X」ですね(笑)

 

川上:じゃあ翻訳者大変ですね。

 

中村:これ本当大変だと思いますよ。

 

鈴木:言いたいことを言うって、小説にあまりないんですよね。

 

中村:そうですね。小説はあまりそういうことをやらない方がいいっていう考え方もあるんで。

 

鈴木:編集者の方がね、もしかしたら最後のくだり、あそこをやる・やらないで色んな議論があったのかなって。普通の小説だと手前で終わる。ところが、それを付け加えた。

 

中村:小説ってすごい自由がきくメディアだと思うんです。もしかしたら一番自由だと思うんですけど。

 

基本的に「こういうのはやめてくれ」っていうのは出版社からはなかったですね。書き方にもよるんですけど。本当に自分の言いたいことを何の制約もなく好きなように書いたっていうのがこの本ですね(笑)