2014年1月17日配信の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」です。
ラジオ音源
http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol299.mp3
川村:「風に吹かれて」を読んだんですけど、面白かったです。
鈴木:あ、そう!読んだの?
川村:読みましたよー。いま日本で1,2番に鈴木敏夫に詳しい人間になってますね。文献読み漁ってきました。
ーナレーションー
今週の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」は、「告白」「悪人」「モテキ」「おおかみこどもの雨と雪」などの話題作映画をプロデュースした川村元気さんと鈴木さんのスタジオジブリ本社で収録したプロデューサー対談をお送りします。
川村:鈴木さんは日本で一番ヒットを生んだプロデューサーであることは間違いないんですけど、この方は編集者出身なのが興味深いな、と。そこに秘密があるんだろうなと思うんです。「野次馬」っていうキーワードをひたすらね。
鈴木:最近使い始めたんです(笑)
川村:いや良いキーワードだなって。わかりやすいと思います。当事者であって当事者ではないプロデューサーっていう。
鈴木:これ言うと誤解されるんですけど、自分がアニメージュっていう雑誌を任せられて、丸12年間やって赤一回もないんですよ。
川村:ほお。
鈴木:単なる自慢話なんだけど、僕のやったことは毎号部数を変えること。しかも5000部単位で。当時45万くらいだったんで。40万とか。次の号は43。その次は38。その次は41.5。っていうのをずーっとやったんですよ。自分が作ってるから、何となくどのくらいいきそうかは2、3万の感覚でわかるんですよね、やってくうちに。おかげさまで自分がやったアニメージュって、ほとんど1割切ってるんですよ。雑誌で1割切るっていうのはあり得ないんですよ、普通。でもそれをやらないと諸般の事情で困るんですよね。じゃあ何で部数を下げたのか。売れないことわかってるからなんですよね。これは気の小ささの証明というか。
川村:そうですね。ある種リスクを回避してるわけですもんね。
鈴木:そう。だって売れていれば誰にも文句言われない。それでいうと映画もそうなんですよ。
川村:そうですね。
鈴木:赤字になったらみんな良い気持ちはしないわけでしょ?それが怖いんじゃないかな。だからナウシカ以来やってきて、結果としておかげさまで「風立ちぬ」まで、ずっとプラスなんですよ。
川村:おー。
鈴木:マイナスが一回もないんですよ。で、自分でなんとなく思ってるのが、打たれ弱い。
川村:うん。
鈴木:だって挫折ないんだもん(笑)
川村:なるほど(笑)
鈴木:その危機が30年目にして初めて来てるんですよ。
川村:ハハッ!(笑)オチがついに来ましたね。長い引きですからね、これ。全部ここに焦点が(笑)
鈴木:だからどうなるのかなーって思って。初めての挫折。
川村:またそういうときによりによって初めてそうなるかもしれないときに、50億って公表するあたりが鈴木さんらしいなと思って。
鈴木:多少は自分を追い詰めなきゃ(笑)
川村:多少どころじゃないですよね。いやーすごいなーと思いました。僕はすごい心配性ですごい落ち込むんですよ。
鈴木:全部ヒットさせればいいじゃん。
川村:いやいやいやいや!
鈴木:どんな映画でもヒット出来るよ。
川村:それは頼もしすぎる発言だな。
女性:かたや別の方からは一回大ゴケしろって言われて大変なんですよね?
川村:秋元康さんからずっと「お前は一回大ゴケしたほうが良い」って言われていて。
鈴木:なんで?コケない方がいいよ。
川村:ハハハッ(笑)
鈴木:大ヒットした方がいい。一番つまんない映画で一番大ヒット。これが面白いよね。
川村:僕も全く共感するのが、自分の観たいものしかやらないし、やれないんですよね。観たいと思うとか、やりたいと思うところから始めないと作れないんですけど、やり始めたときにふと気づくんですよ。こんなもの誰が見たいんだろうかって。それで大体鬱病みたいになってくんですよね。
鈴木:そんなの直前に考えればいいじゃん。俺考えないよ、全然。
川村:本当ですか?
鈴木:だって「かぐや姫の物語」なんか、そろそろ考えなきゃって思ったのは、最近ですよ。だってその間は出来るかどうかでしょ?作るっていう方が大事だから。だからつい2ヶ月くらい前だよね。やり始めたの。で、もうこんなことやらなきゃ行けないの?って怒ってたんだもん。全く考えてなかった。特に今回は「風立ちぬ」やってたでしょ?そんな余裕ないんですよ。だから「風立ちぬ」の公開が終わって、そろそろかぐや姫やろうかなーってやつですよ。
川村:(笑)
鈴木:そこで誰が見るんだろうって思ったんですよ(笑)
川村:ハハハッ!(笑)
鈴木:いや本当。本当に本当だよ!で、非常に冷静に考えたんですよ。これって女性映画だよなって。でも女性映画だとどうしたって見えるじゃない?お客さんの数が。一方、これはかぐや姫だから家族も来るのかなーって。だからといってファミリー映画にしたら、本当に観せたい人が観てくれない。それで考えていくわけですよ。これを一つにするにはどうしたらいいのかって。それで頭の中で考えていって、ある日ふと思いついたんですよ。忘れちゃいけないのが、かぐや姫って知名度100%。その知名度100%のものを広く一般の人に見てもらうには、って考えたときに初めて思いついたんですよ。これジブリが作ったってこと言おうと思って(笑)それまで忘れてたんですよ、僕。今まで製作期間8年もかけてやったことない、製作費は50億。それでジブリが作る。よし、超大作路線だなって。そうすれば、どこかみんな強迫観念で見てくれるんじゃないかなって。
川村:すごいなー。それをつい数ヶ月前に思いついた、と。
鈴木:数ヶ月っていうのか、この1週間くらい(笑)スタジオジブリがっていうことをデッカくしようと思ったのが、このポスターが出来て思ったんですよ。桜の。これジブリ作品ってことわかんないなって思って(笑)その間に無駄なお金いっぱい使ってて申し訳ないですけど、関係者には。でも少しはゆっくりさせてよって感じですよね。
川村:全然鈴木さんの話参考にならないです(笑)
鈴木:何で!(笑)どうして!?
川村:全然参考にならない!
鈴木:ならない!?
川村:だって2週間前に考えたって、信じられないですよ。50億の映画で。
鈴木:だってやる余裕なかったんだもん。
川村:超ネガティブ男だからなー。いやーすごいなー。週刊誌をやってた頃から、直前の追い込みでってことですよね?
鈴木:だってやんなきゃいけないんだもん。そうすると何か良いことが起こるんですよ。それを真面目に考えるんですよ。自分を良いことを思いつく状態に置こうとするんですよね。シャカリキになってたら、それが降りてこないから、ある余裕を持っているとある日来るだろうと思ってるんですよね。中々来ないときもあるんですけど(笑)
川村:中々来ない恐怖に耐えられなくて、みんな考えちゃうし、動いちゃうんですよね。
鈴木:焦っちゃダメだよね。どうせ来るんだから。
川村:本当に来ないと、大事故だけどな(笑)
鈴木:これ少し見えてきたんですよ。何か行けるかな?って気になってきたんですよ、今。
川村:すごいなー。
鈴木:ぼく自分でわかったんですよ。さっきの自分の本を宣伝するみたいで申し訳ないんだけど、「風に吹かれて」っていう本を読んだでしょ?読まなきゃいけなかったから。わかりましたね、自分のことが。行き当たりばったり。
川村:うん。
鈴木:本当そう。何の計画性もない。これが宮さんもそうだし高畑さんもそう。行き当たりばったりなんですよ。
川村:でも週刊連載の人たちの週の締切の直前の考える量とか考える力っていうのは、物凄いわけじゃないですか?その連載スタイルの追い込みで、、
鈴木:でも合理的でしょ?そう考えてみれば。
川村:合理的なんでしょうね。僕はケツからしか考えられないっていうタイプなんで。
◇◇◇
川村:「かぐや姫の物語」昨日拝見したんですけど、やっぱりすごく面白かったです。
鈴木:ありがとうございます。面白いよね?
川村:面白いですよ。あのオリジナリティっていうのは日本映画どころか世界でもないかもしれないですね。
鈴木:どういう意味ですか?
川村:つまり「竹取物語」っていう大古典なわけですよね?多くの人が話を知っている前提で観るじゃないですか?でも僕は途中まで話を知っているのにこの先どうなるんだろう?っていう興味で観ている自分もいて。それは高畑さんがある魔法みたいなのをかけてるのかな、とは思ったんですよね、そこが例えば実写でああいうことをやっても、次はどうなっていくんだろうっていうよりも、話わかっちゃってるからなーって気分になっちゃうっていう。違う興味で観てたところがありました。すごく面白かったですね。
鈴木:僕が高畑さんに「かぐや姫の物語」をやってくれって言ったのは、2005年なんですよね。彼が「原作は起きた出来事しか書かれていない」と。月からやってきて、竹から産まれる。嫗と翁に育てられ都へ行って、5人の貴公子を袖にして帝まで出てきたのに、と。そしてお迎えが来て月へ帰っていくっていう出来事しか書いてなくて、その時々に姫がどう思ったのか何にも書いてない、と。
川村:うん。
鈴木:僕なんかね「あーそうなんすねー」って(笑)
川村:企画者なのに(笑)
鈴木:注文した方がどうにもならない返事しか出来なくて。そのうちに高畑さんが「原作を読んで計算してみると、この人3年半地球にいます。その3年半の間に彼女はどんな気持ちでその期間過ごしたのか。これがわかれば映画になる」って言い出したんですよね。
川村:すごい理詰めですね。
鈴木:理詰めなんですよ。まさにそこを描いていったんです。僕はタカを括ってたんですよ。高畑さんとはいえ、あんな短い話長くなるっていっても、90分くらいだろうと思っていたら、最初に書かれたシナリオが3時間半(笑)
川村:なるほど。
鈴木:僕は今回ひどいプロデューサーで、切り口その他何も言わない。ただ「かぐや姫やってください」って言っただけで。
川村:うん。
鈴木:高畑さんに頼めば、何とかしてくれるだろうっていう(笑)
川村:いやいやいや。僕は結構誘導されてるなって気もしましたよ。観ていて。
鈴木:ええ?!
川村:プロデュースの誘導をされてるなと思いました。
鈴木:何にもしてないですよ、今回。僕がやったのは「かぐや姫の物語」って題字を書いただけ(笑)
川村:この物語は明朝ですもんね(笑)
鈴木:そうそう(笑)
川村:3年半っていうのは、産まれて3年半ってことなんですか?
鈴木:地球へやってきてね。
川村:てことですよね?そこから竹の子っていうアイディアになってるわけですよね?
鈴木:まぁそうですね。どんどん伸びるから。
川村:あれが凄いなと思いましたね。
鈴木:ねー。
川村:あれは思いつかないですよね。宮崎さんって一度連載やらさせていただいたときに思ったんですけど、自分の感触とか感覚とかを絵を描くことでああいう竹の子っていうアイディアを思いつく人だと思うんですけど、高畑さんっていうのは原作を読んで、3年半だって割り出して、3年半でそうなっているってことは竹の子のように育つだろうって理屈から逆算してああいうシーンを作っているわけですよね?だからアプローチが真逆なお二人だなと思いました。
鈴木:真逆なんですよ。宮さんは思いつくことをやっていく人だから。例えば「カリオストロの城」。出来上がったときに感心してね。色んな布石を敷いといて、それか後で活きてくる。計算に基づいた映画だなと思って。で、付き合っていくうちにわかるんですよね。それを自然とやってるってことが(笑)
川村:恐ろしいですね。
鈴木:全然計算がないんだもん!
川村:そうなんですかね?
鈴木:全然ない!あの人は。
川村:僕は一時期宮崎監督の作品を脚本に起こし直すっていうことをやっていて。
鈴木:すごい!
川村:高校生くらいかな?それこそラピュタとかを全部映画観ながら脚本にしてたんです。で、テキスト化するとそんなに面白くないんですよ。
鈴木:はい。
川村:こんなこと言ったら失礼なんですけど(笑)すごい緻密に計算してるのかなって思ったら、全部絵で補完しちゃってるっていう。
鈴木:そうそう。
川村:「カリオストロの城」とか「風の谷のナウシカ」とか「天空の城ラピュタ」は、すごい伏線張られてるっていう人いるんですけど、一回脚本に起こし直すと、、
鈴木:その場の思いつき。
川村:それが緻密に見えてるっていうのが、とんでもないな、と。逆に高畑さんみたいに途轍もない緻密さを積み重ねると、誰も考えつかないようなアイディアが出てくるっていうのが興味深いですよね。
鈴木:宮崎駿がシナリオ書かないでしょ?あれはなぜなのか。シナリオ書いたら、描きたくないシーンを設定しなきゃいけないじゃない(笑)
川村:なるほど。絵であれば。
鈴木:描きたいシーンだけ描いてるんだよね。
川村:確かに絵でやれば、描きたくないシーンを避けて進めるわけですね?
鈴木:そうそう。だからああいう独特なものが出来たんですよね。
川村:たぶん世界中を見ても、脚本なしでメジャー映画作ってる監督っていないと思うんですよ。
鈴木:いませんね。
川村:それをやらせちゃった鈴木さんって、どうなんだろうっていう(笑)ナウシカ公開時は36歳ですよね?僕だったら「いや、監督。脚本書きましょうよ」って絶対言うと思うんですけど。良いですよって言っちゃったんですか?
鈴木:だってしょうがないじゃん(笑)「魔女の宅急便」は書いてるんですよ。
川村:あれは書いてるんですか?
鈴木:あれは書いたんですよ。色んないきさつがあって。「俺がこれをやる羽目になったのは鈴木さんのせいだ。シナリオ書くから俺の隣にいろ」と。ワンシーンごとに読んで、その次どうするっていうね(笑)それをやったんですよ!
川村:えー!
鈴木:あれは丸1週間。2週間かな?朝から晩まで。書き上がるまでずっとそばにいたんだから。でもそれ以降やってないですよね。
川村:(笑)
◇◇◇
川村:宮崎監督はまだまだ作るのかなって思ったんで、引退会見は本気でショックだったんですけど、っていうか信じてないんですけど、本当なんですか?
鈴木:だいぶ日が経ったんで言いますけど、宮さんが作り始めたときから、こう言ってたんですよ。「俺もう一本やる」。で、こう言ったんです。「77までやる」って。何かなと思ったら、高畑さんの歳なんだよね(笑)
川村:(笑)
鈴木:で、彼はタバコ吸うんですけど「鈴木さん、俺決めた。タバコは74で辞める。」「どうしてですか?」って訊いたら「高畑さんが74で辞めたから」って(笑)
川村:これまた二人でやってることのプラスな部分が出てるじゃないですか。僕も山田洋次監督とお付き合いさせていただいて、山田洋次監督、ここに来てペースが上がってるわけですよ。82ですよ?82歳で2年に1本しか撮れないって言ってたのが、毎年撮ってるんですよ。
鈴木:はい。
川村:70代超えてペースが上がってるんですよね。勿論、書くという肉体行為はあると思うんですけど、本当に引退をする監督が「来て」を「生きて」に変えないな、と(笑)
鈴木:(笑)
川村:と僕は思ってたんで、全然信じてないんですけど。
鈴木:そういう話になるといつも話すのが、黒澤さんの「夢」。あれは何だったのか。オムニバスでしょ?あれって本当はそれぞれが一本の企画。それをまとめたんだと思うんです。
川村:そうでしょうね。
鈴木:そうやって理解するとよくわかる。で、お歳がお歳だったから、何本も作れない。だからオムニバスでやっちゃおうって、実はこれ年寄の発想だと思うの。
川村:なるほど。
鈴木:あんまり速く作るっていうのは、歳をとるっていうことじゃないかなって、そういう気もしてるんですよね。
川村:どんな巨匠見てても、フェリーニとかもオムニバス的になっていって。
鈴木:そうなんだよね。
川村:長く撮っても後半が途中から息切れしていて。やっぱり体力なんだなって気はしますよね。
鈴木:それでいうと、今回高畑さんに呆れ返りました。
川村:すごい体力ですよね。
鈴木:最後一ヶ月以上、連日午前2時。休みはなし。78ですよ?あの体力。僕結構付き合ったんですよ。こちらがフラフラ。自分が年寄であることを認めたくないんですよ。ある時から高畑さんって人の映画観ても「これは老人映画だ」っていう言い方が増えて。やっぱり自分がそうなりたくない。
川村:スタジオジブリの特徴って、二人いたってことじゃないですか?
鈴木:そうですよ。本当にそう思う。
◇◇◇
鈴木:今はかぐや姫なんで。やっぱり色んな人に観てほしいですね。
川村:観ないと語れないから、絶対観たほうがいいですよね。映画の文脈を超越してますよね。アートフィルムとしても観れるし。古典のストーリーテーリングでもある。音楽もいいし。
鈴木:何なんだろうな、これ。本当に。
川村:僕はヒロインものだと思いましたけどね。タイトルがかぐや姫だし、原作に書かれていないかぐや姫の気持ちを考えてみたっていうのをクリエイティブだとしたら、そういう映画ですよね。そしてそういう映画になってましたよね。
鈴木:このコピー怒られてね。
川村:これは鈴木さんですか?
鈴木:もちろん(笑)
川村:この連載、糸井さんにもお話訊く機会があって、コピーの話になったんですけど、糸井さんより更に鈴木さんの方が踏み込みますよね。身内な分。普通、原作の「風の谷のナウシカ」の最後のセリフを「風立ちぬ」には載せないですからね。
鈴木:(笑)
川村:他人だったら怖くてね。「姫の犯した罪と罰」って、どこから引っ張ってきたんですか?
鈴木:これは種明かししちゃうと、これを作らなきゃいけない直前、WOWOWで「罪と罰」ってやってたんだよね。この言葉が残っていて、高畑さんが演出ノートを書いたときにこの言葉を使っていたんで。それを結びつけてこういう風にしたら、高畑さんが怒っちゃってね。怒った理由はただ一つ。「こんな品のない映画を作るつもりはない」と。二転三転したんですけど、高畑さんには納得してもらって。最後にセリフを付け足したんです。罪と罰についてかぐやが独白するシーンがあって、「このコピーがあったから、付け加えたシーンだ」と(笑)こういうものによって、お客さんが観る前の構えを要求される。だとしたら、それに応えないといけない。
川村:これがプロデューサーなんだよな。触らずに動かすっていう。
鈴木:(笑)
川村:サイコキネシスですよ(笑)