鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

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「風に吹かれて~スタジオジブリ鈴木敏夫・エピソード0」ゲスト:渋谷陽一

2013年9月4日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol283.mp3

 

ーナレーションー

先日、中央公論新社から発売された、ナウシカから風立ちぬまでのジブリ30年の歴史を鈴木さんが語り尽くした本、『風に吹かれて』。インタビュアーはロッキング・オン代表の渋谷陽一さんです。

 

今夜は、その中から鈴木さんの幼少時代から宮崎駿監督、高畑勲監督との運命の出会いを果たすまでの物語をお送りします。

 

題して、「風に吹かれて~スタジオジブリ鈴木敏夫・エピソード0」

 

渋谷:まず、1948年に鈴木さんは名古屋でお生まれになってるんですけど、元々おウチはいわゆる既製服の製造販売業なんですよね?

 

鈴木:そうですね。もう家内制手工業で、夏休みとかになるとね、従業員の人と一緒にご飯食べてましたよね。

 

渋谷:ほぉー。

 

鈴木:だからすごい人数で食べるわけですよ。

 

渋谷:なんかジブリみたいですよね。

 

鈴木:まぁそれは子供の頃から周りに人がいっぱいいた、それはありますよね。

 

渋谷:ねぇ。小学校入って、鈴木さんは盛んに勉強出来ない勉強出来ないって。

 

鈴木:本当に出来なかったんですよ。

 

渋谷:(笑)

 

鈴木:6年の1学期まで4って採ったことないんですよ。5段階評価で。

 

渋谷:3と2と1ばかりだった。

 

鈴木:そう。お袋がね、教育ママだったんですよ。それで5年生になって、名古屋に東海中学って名門があるんで、そこにいれたい。ある塾へ行くとね、東海中学100%なんですよ。そこへ入って、その個人教授を受けるんですけれどね、全く効果がない(笑)本当になかったんですよ。

 

渋谷:(笑)

 

鈴木:そんなことしてたらね、転校になっちゃって。6年の1学期が終わった直後ですよね。そうしたら新しい家の隣にね、大学生のお姉さんがいて。これが厳しい人で。

 

渋谷:ああ。

 

鈴木:1ヶ月間徹底的に鍛えられて、それで勉強したらね、オール5になっちゃうんですよね。これはビックリしました。自分でも。

 

渋谷:あのー明らかに自頭は良いわけだし、本来的にはオール5なポテンシャルがありながら、なんで1と2ばっかだったか。そちらの方をちょっと自己分析してもらいたいんですけども。なんで勉強出来なかったんですかね?

 

鈴木:何にもしなかったですよね。だって授業なんて聞いたことないもん。

 

渋谷:いわゆるグレてたんですかね?

 

鈴木:いや、そんなに。ただ、喧嘩はよくやったですよね。小学校の時に僕が住んでた家があるでしょ?道路がありますよね?その対面(といめん)から高級住宅街なんですよ(笑)

 

渋谷:ああ。

 

鈴木:それで僕の住んでたこっち側は一言でいうと、あんまり豊かじゃないんですよね。この一本の道路がね、世界を分けてたんですよ。

 

で、小学校4年生の時にクラスが真っ二つになって集団で喧嘩しなきゃいけなくなったときに、僕は皆さんから選ばれて。実は学校の中も2つに分かれてるんですよ。

 

要するに裕福な家とそうじゃないのと。僕は裕福じゃない方の代表になって。それで集団で戦うっていうね。

 

渋谷:鈴木さん、その頃はおウチは仕事やってるわけだから、それなりに経済的にはあるんじゃないんですか?

 

鈴木:だから後で考えるとね、そうなんですよ。だからそこら辺は矛盾ですよね。

 

渋谷:いわゆる、ワーキングクラス仲間とは違和感を覚えながらも、それのボスをやるわけですよね?

 

鈴木:そうなんです。複雑だったんです。

 

渋谷:今のお話を聞くと、勉強の出来る自分にはなりたくなかったんじゃないですかね?

 

鈴木:かもしれないですよね。

 

渋谷:自分はワーキングクラスの仲間と一緒に、そこでは自分は異邦人であると子供心に思いながらも、その子たちはみんなきっと勉強出来なかったと思うんで。

 

鈴木:そう。みんな勉強出来なかった。

 

渋谷:で、その仲間だ俺は、みたいな。

 

鈴木:そうですね。

 

渋谷:普通にやりゃあ出来たと思うんですよ(笑)ポテンシャルあったんだけども。

 

鈴木:引き裂かれてましたね。

 

渋谷:封印してたと思うんですよね。自分の勉強能力を。だから結構複雑な子供でしたよね?

 

鈴木:複雑でしたね。自分はみんなの様にはなれないなっていうのは思ってた。豊かな子たちにもなれないし、だからと言ってこっちにもなれない。それは自分の中でアンビバレンスで子供ながらに何となくわかってましたよ。

 

渋谷:へぇーー。

 

鈴木:中学入るでしょ?これは自覚的に勉強しないんですよ。そうしたら酷い成績ですよ。

 

渋谷:ああ。

 

鈴木:で、ある日親父がね、高校2年かな?「慶應行ってくれ」って言われたんですよ。それで親父がね、そこまで言うのも珍しいから、それはちょっとやろうかなって考えたんですよ(笑)それと東京は行ってみたかった。それと、なんとなく名古屋にいるの嫌だった。

 

渋谷:なんで名古屋にいるの嫌だったんでしょう?

 

鈴木:何か遠くに行きたかったですね。何か東京に行くと面白いことあるんじゃないかなと思って(笑)だから僕大学入るでしょ?そうしたら、同じ高校から慶應って100人いるんですよ(笑)そうすると、学校に行けば誰かに会うんですよ、高校時代の奴に。それ嫌なんですよね。せっかく東京に来てるのに、なんでまた名古屋のって。ついに僕その仲間に加わらないんですよ。

 

渋谷:というか、まぁ、名古屋時代嫌なんですよね、鈴木さん。

 

鈴木:やっぱりそうなんですよね。嫌だったんですね。

 

渋谷:今のお話伺ってると、やっぱり自分の少年時代に対しての、なんかこう割り切れなさというか、自分は何だったんだろうと。本当の鈴木敏夫は何なんだろうっていう思いが凄くあったんで、それをもう一遍自分の人生を獲得するためには、名古屋にいちゃダメだぞっていう。

 

鈴木:そうそうそう。自分が見つからないっていうやつですよね。自分が自分になれない。

 

渋谷:じゃあ大学に出てきて、すごい楽しかったんじゃないんですか?解放感が。

 

鈴木:めちゃくちゃ楽しかったですよ。本当に楽しかった。だけれど、あっという間に学生運動の時代が(笑)政治の季節になっちゃうんですよ。

 

そうこうするうちに大学入ったらね、なんだか知らないけど、カガヤ君っていうのがいてね、慶應って文学部は1年生だけで自治会を組織するんですよ。したらそいつがね、僕のところに来て委員長になりたいって言うんですよ。

 

渋谷:へぇーー。

 

鈴木:で、手伝ってくれないか?って言われて。それで僕、じゃあ手伝おうかなって思って、選挙請負人みたいなものですよね。それでみんなの確約も得たんで、これでなれるかなと。で、選挙やってみたらね、なったんですよ。

 

渋谷:だからまず知りたいのは、なぜその人は鈴木敏夫を選んだのかっていう。

 

鈴木:これはわかんないですよね。

 

渋谷:いきなり鈴木敏夫が現れるんですけど、大学に入った途端。

 

鈴木:入った途端なんですよ。

 

渋谷:いきなりジブリの社長が現れちゃうんですけど。

 

鈴木:で、見事委員長になるでしょ?他の局長たちって選ばないといけないんですよ。そうするとそれは選ばれた委員長の権限があるんですよ。そうしたら「お前手伝ってくれないか?」って言われて。「何するの?」って言ったら、「広報局長っていうのはやって欲しい」って(笑)

 

渋谷:その人凄いですよね。何でそんな鈴木敏夫の本質を見抜いたんでしょう?

 

鈴木:わかんないんですよ。いまだに。

 

渋谷:まぁそういう政治の季節じゃないですか?で、すごく内ゲバもあったし、各党派で党派闘争があって、彼はそういう組織に属していて非常に政治的な人種だったわけですよね?

 

鈴木:そうですよね。

 

渋谷:鈴木さんはそうではなかったわけですよね?

 

鈴木:全然違う。何の関係もないですよ。

 

渋谷:でも鈴木さん逃げなかったわけで。何かマルクス主義に共感はしてなかったけれども、きっと反権力的な意識、、

 

鈴木:は、あったですよね。

 

渋谷:すごく強くあったんですよ。

 

鈴木:と同時に、本当に世の中変わるのかなとかね。そういうのはありましたよね。

 

渋谷:ね。ただ鈴木さんはそこに、自分の本来的な役目を見ないというか、えっ、俺は確かに世の中に対してNOを言いたいし、、

 

鈴木:やっぱり疑問を感じますよね。

 

渋谷:この人たちのやり方とはどうも違うみたいだぞ、と。

 

鈴木:違和感を感じましたよね。

 

渋谷:ね。またもや、ここじゃない僕っていうのと向き合うわけですよね。その中で時は経ち、就職の季節がやってくる。

 

鈴木:そうですよ。その就職の季節の時に、一体自分で何をしていこうかなって真面目に考えたら、何にもないんですよね。

 

渋谷:(笑)

 

鈴木:本当になかった。僕の学生時代の一番親友だった男がいて、オオシマヒロシっていうんですけど、この男が僕にね、色んなこと教えてくれて。

 

1つは、僕就職先がないんだから、というか就職したくないもんだから、そうしたら担当の教授が「大学院来ないか?」と誘ってくれたんですよ。僕は実をいうと、すっかりその気になるんですよ。

 

渋谷:大学院に行こうと。

 

鈴木:そう。で、そうしたら、オオシマという友達がね「なんだお前は」って言われたんですよね。

 

要するにこういう言い方をされてね。「実人生を降りるのか」って言われたんですよ。要するに、大学院行って、教授とか研究もあるかもしれないけれど、それは実社会ではないと。実人生ではないんだと。

 

もう1つをいうと、普通に喋って通じることを理屈にする商売だぞって言ったんですよ(笑)それ言われた時にね、ガーンと来たんですよね。それ言われた頃は徳間書店を受ける頃だったっていうのとね、それからもう1つはね、運が良いことに徳間書店がなんだか知らないけど採ってくれることになったでしょ。それでいよいよ会社が始まるじゃないですか。そいつがもう1個教えてくれたんですよ。「1年目は働くなよ」って。「1年目は徹底的にサボれ。そうすれば、2年目から何やっても褒めてもらえる」って(笑)

 

渋谷:(笑)

 

鈴木:僕実行に移したんですよ。だから1年目ね、占いのページ以外何にもないんです(笑)だから暇で。で、1年でね、お払い箱に。

 

渋谷:(笑)

 

鈴木:やっぱりそいつって僕にとってはね、大きかったのかなっていう。オオシマヒロシ。

 

渋谷:「実人生を降りるな」って言葉、実に良い言葉ですね。で、アニメージュなんですけども、このアニメージュの創刊を担うっていうのはどういう経緯だったんですか?

 

鈴木:これはね、僕は会社入ったときにアサヒ芸能やったんですけども、その時の企画部長っていうので尾形さんっていうのがいて、この人がね、アニメージュをやりたい。何でかっていったら、「ウチの息子が好きだから」(笑)

 

渋谷:で、アニメージュの経営方針ってどういうものだったんですか?

 

鈴木アニメージュの時はね、なみきたかしっていうアニメーションに詳しい奴がいて、そことねやってたんですよね。それで「アニメージュっていうんだ」って尾形さんが言ってたから、へぇーなんて思ってたらある日、尾形が「敏夫くん、お茶飲みに行こう」って言うから、何かあるかなと。

 

渋谷:悪い予感がするぞ、と。

 

鈴木:簡単に言うとね、「アニメージュをちょっとやってくんないか」って。「どういうことですか?彼らいるじゃないですか?」「あ、クビにしちゃった」って。揉めたって。「えー!」って。だって5月28日発売で、もう5月になってるんだもん。

 

それでとにかく僕、色々言われているうちに何時間も経って、しょうがない、もうやるかってことになるでしょう?

 

渋谷:でも、アニメの雑誌は決まってるんですよね?

 

鈴木:そう。

 

渋谷:鈴木さん、アニメに興味ないんですよね?

 

鈴木:興味ないですよ。で、「詳しい女子高生が3人いるから、コイツを呼ぶから」って言われて。で、呼んでもらって、その3人に聞きまくったら、太陽の王子ホルス、これは名作だと。

 

で、これで僕は8ページは稼げるなっていうやつなんですよ。それで高畑さんと宮さんと初めて言葉を交わす。

 

渋谷:その映画を観て、どうでした?

 

鈴木:映画はね、当時は観ることが出来ないの。3ヶ月後くらいなんですよ。池袋の文芸座で観るのは。だから、映画の前にとにかく作った人で高畑さんというのがいる。

 

それでとにかく会って取材したいっ言ったら、高畑さんっていう人がね、あれこれ言い出した。「あなたの雑誌はどういう雑誌なのか?」から始めたんですよ。実はこうこうこういうわけで創刊するんですけれどって。でも、あーだこーだって言っても、何にもうんともすんとも。僕としては会いたいだけなんですよ。

 

で、1時間くらい経った頃、「実はホルスを一緒に作った宮崎駿っていうのがいる」と。これが初めてその名前を聞いた瞬間ですよね。「彼は違う意見を持つかもしれないから、電話変わりますか?」って。それで電話変わったの。

 

渋谷:つまり、1時間ずっと高畑さんは何を言ったかというと、お前には会いたくない、と。

 

鈴木:そうです。

 

渋谷:(笑)

 

鈴木:で、宮さんは電話を受け取っていきなり、「あらましは聞きました。その代わり組合運動その他全部語るには16ページ欲しい。だから16ページください」って。これはまた30分くらいかかるんですよ。

 

渋谷:(笑)

 

鈴木:で、諦めるんですよね。それでしばらくしたら、池袋の文芸座で夜中に上映があると。それで観に行ったんですよ。それで観てビックリなんですよね。こんなもの作ってるんだ!と思ってビックリしたんですよね。

 

そうこうするうちに、宮崎駿は『カリオストロの城』だし、高畑勲は『じゃりン子チエ』なんですよ。だから『カリオストロの城』、これは亀山っていうのに担当してもらったんだけど、亀山がとにかく「ラチがあかない。一緒に来てくれ」っていうんで、それで2人で会いに行って。

 

とにかく宮さんに酷いこと言われてね。「取材は受けたくない」ということを繰り返し言われて。何だかっていったら、「あなたたちの作って雑誌はくだらない。アニメを使って商売しようとしてるんだろ。そんなものに自分が登場したら、何かが汚れる」って言い出して。

 

で、頭に来たから、そばに腰掛け持ってきて座るっていう(笑)何にも喋んなかったですよ。彼が一生懸命仕事してたけどね、知らん顔して横にいる。

 

したら夜中の何時だったか忘れたけど、いきなり「僕、帰ります」って。ふーんって思って。「明日は9時です」って。しょうがないこれは付き合うしかないな、と。

 

それで朝に行って。で、3日目ですよ。絵コンテ自分で描きながら、こちらを向いて「こういう時、なんて言うんですか?」って。これが第一声ですよ。したら、例のカーチェイスのシーン。そうしたら亀山が「競輪業界では"まくり"って言うんですけど」とか言ってね。

 

そこからですよ。ワーっと喋り出したのは。それで結局、映画の完成まで毎日行くことになっちゃうんですよ。毎日行ってましたよね。

 

渋谷:鈴木さんは、アニメージュはくだらない、って言われたわけですよ。

 

鈴木:そうです。

 

渋谷:その時、どう思いました?

 

鈴木:いや、もう腹が立って。

 

渋谷:でもどっかで痛くなかったですか?

 

鈴木:いや、痛かったですよ。だから、痛いのを何とかしたいと思ったんでしょうね。

 

渋谷:そうですよね。

 

鈴木:それは仰ることは至極正しいんだもん。くだらない雑誌だって。アニメを使って商売しようとしてるんだろうって、その通りなんだもん。

 

渋谷:要するに、映画観てショック受けた鈴木さん。で、ショックを受けて行くんだけども、取材に応じないという。

 

鈴木:はい。

 

渋谷:で、アニメージュ批判をするという。鈴木さんは鈴木さんのアイデンティティを否定されるわけですよ。

 

鈴木:そうですね。

 

渋谷:で、相手は強固に何かを持ってるわけですよ。そういうのってかなりショックですよね?

 

鈴木:火をつけましたよね。

 

渋谷:ね。それと半分嬉しいんですよね。鈴木さん。きっと。

 

鈴木:ああ。なんか火つきましたよね。

 

渋谷:そういう素材に出会ったってことは、すっごい嬉しいんですよね。

 

鈴木:それはその通りです。

 

渋谷:あれ?こういう奴いないはずなのに、なんかいるぞ、と。俺はこういう奴いないはずだって人生送ってたのにって。

 

だから、最初の出会いの中で鈴木さんは、高畑勲宮崎駿を発見したのと同時に、幸福なことに自分を発見出来たわけですよね。ああ、俺はこういう人と付き合うことによって、鈴木敏夫になれるっていう、実にドラマチックな出会いだったわけですよね。

 

鈴木:だからね、それを決定づけたのは『じゃりン子チエ』なんですよ。どうしてかっていったら、『じゃりン子チエ』は大塚康生さんっていう人が『じゃりン子チエ』を紹介してくれたんですよ。高畑さんを。それで3時間喋りこむんですよ。

 

それで僕の最初の質問は、要するに、ハイジみたいな名作物を作ってきた人が、何故『じゃりン子チエ』。まるで違う映画じゃないですか?と言ったら高畑さんが怒ったんだよね。「僕の中では一貫してます」って。それで3時間くらい延々喋る。

 

高畑さんっていう人はね、何しろ論理的な人で最後の捨て台詞。「色々話しましたけど、原稿にならないでしょ?」って。で、僕は「まとめますから」「まとめられるなら、まとめてみてくださいよ」って言われてね。「あ、そうですか。やりますから」「勝手に」って。これが大きかったんですよ。

 

で、その後プロデューサーのところに行ってね、絵コンテを手に入れ、原作を買ってきてね、全部覚えるんですよ。それで高畑さんと議論が始まったんですよ。

 

それで僕が「非常に原作を尊重してこの映画は作られていて非常に面白いんだけれど、しかし、原作の中にあったこのお母さんのエピソード、何故削ったんですか?」って言ったら高畑さんがノッテきたの。「スタッフからもその意見が多い。鈴木さんはなぜそう思うのか?」って。また延々これ毎日のようにやるんですよ。

 

それで、その1ヶ月後だか2ヶ月後に映画が完成したらね、打ち上げパーティっていうのがあって。その打ち上げパーティに僕も毎日高畑さんに会ってたから行ったら、高畑さんってそういうところあるんですよ。いきなり僕を見つけて頭を下げたんですよ。「ありがとうございました」って。僕もビックリしちゃって。「あなたと色んな話をすることによって、僕はこの映画をどうやって作ったら良いかが非常に明快になった。そういう意味であなたにすごく感謝してます」って。これですね。ちょっとこの仕事やろうかなって。

 

渋谷:っていうか、だからそこで初めて、鈴木敏夫鈴木敏夫としての認証行為が高畑勲によって成されたんですよ。

 

鈴木:そうですね。

 

渋谷:で、「鈴木さんは鈴木敏夫で良いんだよ、あなたは」って初めて言われたんですよ。

 

なぜ鈴木敏夫宮崎駿の横に8時間もへばりついたかっていうと、そこで宮崎駿に話しかけられなかったら終わりですよ、鈴木さん(笑)

 

でもこの宮崎駿高畑勲とちゃんとした関係性を作れれば、俺は本来の鈴木敏夫を回復出来るぞっていうその予感は鈴木さんは感じたんですよ。そこで頑張ったんですよね。最高の出会いですよね、鈴木さんにとってね。

 

まぁ結果的に2人も最高だったですよね(笑)鈴木敏夫という素晴らしいものに出会うんですけども、それがまたそう思ってもらえてるって鈴木さんの全てのエネルギーになってますよ。

 

ーナレーションー

この後、スタジオジブリを設立し、現在まで30年という月日を共にすることとなる鈴木さん、宮崎監督、高畑監督ですが、この続きは中央公論新社から発売されている本、『風に吹かれて』でお楽しみ下さい。

 

渋谷:まぁ鈴木さんは、実人生を降りるのかって言われたように、実人生からある意味逃げていたというか、ずっとそういう生き方だったじゃないですか。

 

で、その実人生にちょっと気づいたのが宮崎駿高畑勲との出会いで。そこから彼らと付き合うことによって、彼らによる自己認証というのを自分の中に大きなテーマとして設定して、そこから生き始めるんですけれども。そこで鈴木さんは、ジブリを作って、宮崎駿高畑勲の映画を作り続けたいな、と思ったんですけども、それは何ででしょう?

 

鈴木:やっぱり、気の合う人たちと一緒に仕事をするっていうのは良いですよね。基本はそれだけですよ。それでそこに仲間がいて、みんなでやっていくっていう。それだけですよね。

 

渋谷:また勝手なことを言うんですけども。

 

鈴木:はい。

 

渋谷:鈴木さんは、どう思ったかというとですね、高畑勲宮崎駿はアニメを作るべきだ、と。で、鈴木さんは、これは作らせないといけない、と思ったんですよ。

 

鈴木:それが任務だと思ったんでしょうね。

 

渋谷:そうです。だから高畑勲宮崎駿と一緒に作るのがすごく楽しかった。

 

鈴木:そう。楽しくてしょうがなかった。

 

渋谷:なんで楽しかったんでしょう?

 

鈴木:なんでなんですかね。充実してましたね。

 

渋谷:すごい充実してたんですよ、鈴木さん。

 

鈴木:毎日が楽しくてしょうがなかった。

 

渋谷:なんででしょう?

 

鈴木:なんでなんですかね?

 

渋谷:それはここで結論を言っちゃうのはなんなんですけども、要するになんで楽しかったかっていうと、天職だったからですよ。

 

鈴木:天職(笑)そうですか(笑)

 

渋谷:だから、ようやくここで出会ったんですよ、鈴木さんは。

 

鈴木:やだなーもう。

 

渋谷:だから、鈴木さん。生涯こんな楽しい思いをその時までしたことなかったでしょう?仕事で。

 

鈴木:たぶん、そうでしょうね。だから今この瞬間本当に面白かったですよね。この瞬間っていうのはね、かぐやも風立ちぬも、2人で同時で作るってスリリングだったんですよね。で、僕にとってこの1、2年、本当に充実してましたよね。これはやっぱりスリリングで。現状もまだかぐやが完成してないわけだし。

 

渋谷:(笑)

 

鈴木:面白いですよね。

 

渋谷:というか、鈴木さんはこのかぐや姫も、、

 

鈴木:やんなきゃいけないって思ったんですよ。

 

渋谷:そうです。そうなんです。

 

鈴木:でないと、僕という人間がダメになっちゃうんですよ。

 

渋谷:そうです。

 

鈴木:うん。

 

渋谷:ようやく言ってくれましたね(笑)まさに鈴木さんが言ったように、これを作らせなければ鈴木さんがダメになってしまうわけです。

 

鈴木:そう。

 

渋谷:それはなぜかというと、鈴木さんはこの映画を作らせるためにこの世に生まれてきた人だからなんですから。

 

鈴木:そうなんですかね。

 

渋谷:要するに、宮崎駿高畑勲の認証行為の次に、鈴木さんを認めてくれたのは、アニメの神様なわけですよ。だからそれこそ、高畑勲宮崎駿に出会ってなきゃ、どれだけやさぐれていたか、わからないですよね?

 

鈴木:わからない。正しい道に、、

 

田居:導いてくれた2人。

 

渋谷:だから、本当に宮崎さんと高畑さんと一緒にやった、あの高揚感。その青春が未だに続いてるってことですよね。

 

鈴木:それがね、この歳まで出来るっていうのは幸せですよね。自分でそう思いますよ、本当に。