鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

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「風立ちぬ」のお話を聞くため、ロッキング•オン代表の渋谷陽一さんがれんが屋を訪ねました。

2013年6月26日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol275.mp3

 

ーナレーションー

今夜、れんが屋を訪れたのは、ロッキング•オン代表の渋谷陽一さん。

 

雑誌『CUT』のインタビューで、この夏公開される宮崎駿監督最新作『風立ちぬ』のお話を聞くため、鈴木さんのもとを訪ねました。

 

渋谷:宮崎作品の鈴木さんなりの作品に対するコメントがあれば。

 

鈴木:ポニョのあとに何を作るかって、『モデルグラフィックス』っていう模型の雑誌があって、ここに宮崎駿が『風立ちぬ』を連載。それを映画にしたいなーと思ったんですよ。

  理由は色々あるんですけれど、まず第一に零戦の設計をした堀越二郎っていう人のお話っていうのは伝わってると思うんですけど、この映画を作れば、宮崎駿の戦争観が出てくるかなと思ってね。なんていったって、日常的にはかなり好戦的な人なんでね。そういう人が戦争の時、どういうものを作るかっていうのは興味出るでしょ?渋谷さんだってわかるでしょ?好戦的ですよね?

 

渋谷:非常に好戦的です。

 

鈴木:その人がどうやって作るんだろうなって。まさか好戦的な映画作るわけにはいかないでしょ。そこに大きな興味があったんですよ。僕が『風立ちぬ』をやろうって言ったのもう3年くらい前なんですかね。夏だったですけどね。そうしたら珍しく宮さんが本当に怒りだしちゃって。

 

渋谷:あら。

 

鈴木:僕のことを怒鳴りつけたんですよね。「何考えてるんだよ、鈴木さん!」って。宮さんってアニメーションはこうあるべきだって考えがあるんですよ。

 

つまり、絵で描いた映画っていうのは原則として子供が見るものであるって。大人のものにしちゃいけない。だから企画としてそれは間違ってるって言うんですよ。確かその通りなんです。

 だけれど、宮さんっていう人は、日常喋っててイタズラ書きをよくするんですけど、すぐ戦闘機の絵なんか描いてるんですよ(笑)そのぐらいそっち関係得意っていうのか。それと宮さんっていう人が戦争というものに対しての造詣の深さって僕よく知ってましたからね。それを模型雑誌の隅の方で連載しているのはいいけれど、何かそれを世に問うべきではないかなって。そんな気がして、怒鳴られたにも関わらずその後、2回3回4回と何回も話し合うことになるんですよ。

  それで宮さんの考えていたある企画もあるんですけれど、それは確かに子供を対象にした作品だったんですけれど。僕はどこかでそういうものを宮さんがやっておかないと、あとで後悔する、なんて思ったものですから、ちょうど秋かな?10月くらいかな?「わかったよ、鈴木さん。暮れまで考えさせて。映画になるかどうか自分でやってみるよ」。

 それでしばらくその話は間空けたんですけど、12月の暮れが差し迫ったとき、宮さんの方から「鈴木さん、やるよ」って言ってくれて。それで始まったというのがこの『風立ちぬ』なんですけれどね。

 

---

 

渋谷:鈴木さんがおっしゃる様に確かに宮崎さんは好戦的というか、僕は宮崎駿の本を書いたときに、宮崎駿の基本にあるのは破壊衝動である、と。僕はそうだと思うんですね。

  で、人間好きのように言われてますけれど、宮崎さん人間嫌いだし、全てを焼き尽くしたい。今あるものを焼き尽くしたいという強い衝動を持っている。でも誰よりも今あるものを愛したい、という思いも両方ある人ですよね。

  あまり、焼き尽くしたいとか破壊したいっていう部分の宮崎駿というのは、多く語られることはないんですけれども、それが本質であるということは確かだと思うんですよ。実は皆さん映画を観ながら、宮崎駿映画のカタルシスっていうのを破壊したいカタルシスをお客さんも楽しんでるわけですよね。

  巨神兵の有名な焼き尽くすシーンから、それからポニョにおいて、洪水で全ての世界が水によって飲み尽くされてしまう、あの映像的なダイナミズム。あそこにみんな映像的なカタルシスを感じているんですけれども、そこにあるのは宮崎さんの一種破壊衝動というか否定衝動があることは間違いないと思うんで、それを誰よりも理解してるのは、鈴木さんなわけで。

 そこの根底にある宮崎さんの、好戦的という言葉が良いのかどうかはわからないですけど、非常に何か物に対して戦いを挑むという資質がある、というのはあると思うんですよね。

  それが宮崎エンターテインメントの基本になっているというのはあると思うんですよ。すでに鈴木さんがお書きになっているように、そういう兵器好きで、ある意味戦争的なるものにマニアックな興味をすごく持つ宮崎駿が、なぜあれほど強く平和を求めるのか。人の幸せを求めるのか。平和な世界であるべきだということを考えるのか、っていう二面性。というか鈴木さんの中ではそれは二面性ではなくて、統一されたものであるという認識があると思うんですけれども、そこをちゃんと描いてほしい、と。

 

鈴木:そういうことですよ。

 

渋谷:そういう思いが強く表れている。そのモチーフとして『風立ちぬ』というのは、これ以上のものはない。

 

鈴木:もうおっしゃってる通りですよね。得意技封じたら、どうなるかも興味あったんですよよ。はっきり言えば。

  宮崎駿って昭和16年生まれでしょ。戦争が終わったとき4歳。当然、戦後日本が独立する過程で戦時中のいろんなことが話題になる。その中で兵器なことも話題になることもあったわけで。そうすると、イタズラ描きで何か描くかっいったら戦闘機。この時代みんなその世代の子供たちってやったもので。でも一方で、生じて後は反戦デモに参加でしょ?そうすると、戦闘機の絵を描きながら、一方で反戦デモでしょ?この大矛盾を一人の人間が抱えてるっていうのが日本の戦後でしょ?

 

渋谷:そうです。

 

鈴木:そうしたら、それを映画にすべきではないかと思ったんですよ。わかりやすく言っちゃえば。その葛藤を見たかったんですよ。宮さんの。

 

渋谷:それは宮崎さんにおっしゃったんですよね?きっと。そこまでは言ってない?

 

鈴木:僕そういうのはなんとなくニコニコしてるんですよ(笑)

 

渋谷:言わないんだ(笑)

 

鈴木:だって出るに決まってるんだもん(笑)

 

渋谷:なるほど。

 

鈴木:そりゃ苦しみますよ。『もののけ姫』ってあったでしょ?あれは色んな言い方があるんだけれど、自分の得意技封じてるんですよね。

 

渋谷:ほぉー。

 

鈴木:一言でいえば、空飛べないでしょ?

 

渋谷:そうですね。

 

鈴木:飛べないんだもん。その中でどうするかでしょ?そのシンネリムッツリがある映画の粘りを生んでるんでしょ?そういうものが出来るに違いないっていう期待値はあったのは確かですよ。それはだって戦闘機を出して、大々的に空中戦、それは出来ないもん。その苦しむ様、まぁいいですよね。

 

渋谷:恐ろしいプロデューサーですね。

 

鈴木:なんで!?(笑)プロデューサーってね、一番大事な資質って野次馬だと思うんですよ。だって自分で作るわけじゃないんだもん。

 

渋谷:まぁそうですよね。

 

鈴木:そう。本人が、これやりたい、っていうやつやっちゃダメですよね。

 

渋谷:(笑)

 

鈴木:そういうもんじゃないかな。と思ってるんですけどね。

 

---

 

渋谷:これはどうなんですか?大人向きな映画になってるんですか?それとも大人も子供も楽しめる?

 

鈴木:大人ですよね(笑)

 

渋谷:(笑)大丈夫ですか?興行的に。

 

鈴木:興行?興行はだってそれは東宝がやるんじゃん(笑)

 

渋谷:ひどいこと言って(笑)

 

鈴木:だって面白いんだもん!本当に。だって日本が戦争をやったことも知らない人が増えた時代でしょ?

 

渋谷:はい。

 

鈴木:それはキチンと教えるべきかなと思ったんですよ。年寄りとしては。日本という国というのは、かつて戦争をやったんだと。始めたのは60年も70年も前のことよ、と。なってったって、その時代見ていくと、不景気と貧乏、そして病気。それで政治は大不安定でしょ?そういう中でみんな戦争に突入していく。当然若者たちはいた。一体どうやって生きたんだろうって。面白いですよ、これは。当然恋もあっただろう。

  これはやってるうちにそういうこと思い始めたんだけれど、最初はそのこと自体が面白くてやってたんだけれど、どんどん今の時代がそこへ近づきつつある、ということを最近思ってますね。

 

渋谷:どうですか?

 

鈴木:いやあ、いい感じですよ。

 

渋谷:ああ、そうですか。

 

鈴木:すごい面白い。だって無茶苦茶ですよね。無茶苦茶っていうのは良い意味でね。だって実在の人物堀越二郎という人がいたわけでしょ?同時代の文学者としての堀辰雄、宮さんって堀辰雄も好きだから、この二人を一人の人物にして主人公に設定ですよ!?あり得ないでしょ!?よくそんなこと考えるなと思って。

  これは原作に書いてあったんだけれど、自分が好きになる相手菜穂子ですけれど、最初から薄幸というか。要するに堀辰雄のヒロインってみんな結核だから、死んじゃうことわかってるわけでしょ?その女性に対してわかっていながら、結婚を申し込む。でも当然、幸せな期間は短いに決まってるでしょ?その中での悪戦苦闘、まあ見たいですよね。

 

渋谷:じゃあもう鈴木さん的には、宮さんのシナリオが上がった段階でこれはすごいぞ、という感じだったんですか?

 

鈴木:いや、その漫画でね、大体予測があつまたですよね。これは面白い映画になるな、と思って。宮さん、模型雑誌でそういうことをやるっていうときには大体わかるのは、模型雑誌だから描いていいかな、って。でも映画にしちゃいけないって思ってることもわかってるわけですよ。

 

渋谷:なるほどなるほど。

 

鈴木:でもそこでどうやってバランスとるかっていうのがテーマになるわけでしょ?だから面白くなると思ったんですよ。で、実際そうだしね。すごく良いですよ。

 

渋谷:じゃあ、手応えのある仕上がりになる?

 

鈴木:すごい手応えありますよ。無茶苦茶面白い。

 

渋谷:ああ、そうですか。宮崎さんはとにかく群衆シーンを描くんだって、それは全部描かせるぞって。

 

鈴木:描いてますよ。すごいですよ。

 

渋谷:大変だぞ現場は。でも俺はやるとか。作り始める前は言ってましたけど。

 

鈴木:あんまり言うとあれですけど、宮さんってヒロインとの出会いに命かける人でしょ?これはすごいですよね。

 

渋谷:(笑)じゃあ宮崎初の本格ラブロマンスですね。見つめるぐらいのもんでしょ?

 

鈴木:だから、ラブって言ったって戦争の時代でしょ?見つめるで終わらないですよ(笑)

 

渋谷:おお、そう。

 

鈴木:そうですよ。これはあんまり言っちゃうと面白くなくなっちゃうけれど、絵コンテやってくでしょ?かつて描いたことのない領域は入っていってるわけですよ。

 

渋谷:やったー。抱き合ったりしますか?

 

鈴木:色々あるんですよ、もう。そこで言い訳する人でしょ?スタッフから近しい人から取材の人に対してね、これはやるのは反対した作品だ、と。鈴木さんがやれって言ったんだ、と。だけど、作品がそういうことを要求するからこういうことをやらないといけないんだって、二言目には鈴木さんが鈴木さんがって言ってるみたい(笑)でもね、やりたかったんですね。

 

渋谷:でしょうね。すごいですね。さすが鈴木さん。

 

鈴木:いやいや、そうじゃない。本当にこの『風立ちぬ』はね、宮さん畢生のすごい作品なんじゃないかな。僕はいま見ててちょっと思い始めてるのはね、宮さんも色々作ってきたけど、激しいのから心優しいのまで。真っ先にまず思ったのは、もののけ。それからナウシカも思い出しましたよね。ナウシカですね。

 

渋谷:ほぉー。

 

鈴木:だってね、ナウシカの原作の状況があるじゃないですか?同じところに追い込まれるんですね。やっぱり次郎も。そうすると、今回この映画のキャッチコピーをどうしようかなってずっと考えてて。というのはね、これは宮崎駿という人が『風立ちぬ』を漫画で描くときから、そういう言葉を繰り返してたんだけれど、「力を尽くして、これを為しなさい。力を尽くして生きなさい」。という言葉が何回も出てきたんですよ。ふと思ったんですよね。宮さん、この言葉どこから持ってきたんだろうって。なんと旧約聖書

 

渋谷:へぇー。

 

鈴木:僕全然知らないんですよ。ただこれは堀田善衛という人が最後に出した本なんですけど『空の空なればこそ』。その最後に書いた文章がそれに触れてるんですよ。

 

渋谷:宮崎さんは堀田善衛フリークですからね。

 

鈴木:そうなんです。その伝道の書にこう言葉があったんですよ。覚えちゃったんですけれどね。「全て汝の手に堪うることは、力を尽くしてこれを為せ」。これかー!と思ってね(笑)

  

「力を尽くしてこれを為せ」。要するにどんな時代であっても目の前にそういうものがあったら。

 

 堀田さんも色々書いてたんだけど、宮さんの受け止め方って、戦争の時代の一番激しい生き方はね、反対することでしょ?投獄されることじゃないですか?でも多くの人はそういうことは出来ない。じゃあ、何やったかっていったら、与えられた環境の中で与えられたものをやるっていうのは、みんなでしょ?そこでいい加減にやるか、ちゃんとやるかでしょ?どうもそこら辺のことを言ってるんだなという気がしてきて。

  そこでふとナウシカが浮かんできて。ナウシカの最後のセリフをよく覚えてまして。これかなと思ったんですよ。コピーは。宮さんはこう書いたんですね。ナウシカが座り込んで、吐く言葉。「生きねば」って言うんですよね。

  「力を尽くしてこれを為せ」っていうのを、そのまま使ったら言葉として固いでしょ?でも翻訳すれば「生きねば」、そういうことなのかなって思って。

 

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鈴木:この間、Blu-rayを作るために『紅の豚』を観たんですよ。そうしたら、この『風立ちぬ』を作りながら『紅の豚』を観ると、その深さが伝わってきて(笑)

 

渋谷:へぇー。初めて豚を主人公にした映画ですけれどね、あれは。

 

鈴木:あれも1920年代、丁寧に描いてるんですよね。大インフレ。何か物買うにも、こんなに札束が必要だとか。国のためにお前は、って言われてると、それは人間に任せておけ、って。俺は豚なんだから、って。非常に斜に構えて世の中を見てる話でしょ?あの人の生き方にも通じるところがあるんだなと思うとね、やっぱり宮さんって一貫してるなと改めて思いましたね。それが面白い。見てて。宮崎駿が。

 

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渋谷:でもユーミンなんですよね?『ひこうき雲』なんですよね? 

 

鈴木:ま、そうですね。

 

渋谷:それも良いと思いますよね。

 

鈴木:あれは本当偶然でしたけれどね。

 

渋谷:あ、そうなんですか。鈴木さんが結局勝手に決めちゃったんですよね?

 

鈴木:いや、そんなことないですよ!そんなことない。僕はユーミントークショーをやらなきゃいけなくて、それで聴くじゃないですか?CD。で、聴いてみてビックリしたんですよ『ひこうき雲』の歌詞。なんだこれ、『風立ちぬ』にそのまま使えるなと思って(笑)それで宮さんに聴かせたら「あ、本当だ」って。

 

渋谷:名曲ですよ。

 

鈴木:あれ本当に名曲ですよね?

 

渋谷:名曲ですよ。二度と作れない名曲ですよ。

 

鈴木:僕も本当にそう思う。

 

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鈴木零戦の設計をした本物の堀越二郎さんはともかく、宮崎駿が描くとしたら一体この人は、どういう気持ちでその飛行機を作っていたのか。空に憧れ、飛行機に乗りたい。それは間違いないですよね?だけれど、時代は戦争だった、作らなきゃいけないのは艦上戦闘機でしょ?それを本当に嬉しくて日本のために作ってたのかって話なんですよ。

 

これは堀越さんの本にも書いてあるんですけれど、「私が作りたかったのは美しい飛行機だ」って。ずいぶんそこら辺の設定を持ってきてますけれどね。だけれど、それは本当のことは語ってないですよね。どう思ってたのかは。そこら辺は観てのお楽しみですよね。

 

渋谷:楽しみですね。

 

鈴木:良いの作ってますよ。

 

ーナレーションー

7月20日から全国公開される宮崎駿監督の最新作『風立ちぬ』。この番組の特別試写会が決定しました。7月11日木曜日、会場は東京汐留のスペースFS汐留です。当日は元NHKのアナウンサー住吉美紀さんと鈴木さんのトークショーも行います。この試写会に番組をお聴きの80組160名様をご招待しますの。ご希望方は番組ホームページをご覧下さい。

 

渋谷:いやー楽しみですね。夏どういう顔をしているのか楽しみだなー鈴木さんが。ひたちなか来てくれますもんね?夏のね。

 

鈴木ひたちなか!?まだやってるんですか?

 

渋谷:やってますよ。何言ってるんですか、大変ですよ。お客さんは増える一方だし。今年の夏はジブリ祭りだし。ウチのロックインジャパンも。

 

鈴木:え!知らなかった、僕。

 

渋谷:鈴木さんと話してるじゃないですか。

 

鈴木:そんなのやるんですか!?

 

渋谷:そうですよ。二年に一回のジブリ祭りですよ。

 

鈴木:そんな決まってるんですか?

 

渋谷:決まってますよ。鈴木さんと決めたんですよ。

 

鈴木:(笑)

 

渋谷:忘れちゃダメですよ。そこで鈴木さんがどういう顔でひたちなかにいるのか楽しみです。

 

鈴木:ま、良いことが起こるでしょう!

 

渋谷:(笑)