2008年5月30日配信の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」です。
http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol34.mp3
鈴木:若い人は知らないかもしれないけれど、中村錦之助の映画でまたたびものっていうんですけど、『関の弥太ッぺ』っていう映画があったんですよ。山下耕作っていう人が監督なんですけどね。その中にこんなセリフがあったんですよ。「この世間っていうのは辛えこと、悲しいことがいっぱいある。だけど、忘れるこったあ。忘れて日が暮れりゃ明日が来る」って。これ、結構ジーンとくるセリフなんですよ。というのか生きる知恵ですよね。
ーナレーションー
この番組は、ウォルト・ディズニー・スタジオ・ホームエンターテインメント、読売新聞、"Dream Skyward"JAL、"街のホットステーション"ローソン、アサヒ飲料の提供でお送りします。
鈴木:一人一人、映画の感想を。
塚田:ヤマハの塚田と申します。中学生の時にこういう揺れる感情ってあったなーとか、最後に心に残るあったかく残る映画だなーって、観てもらいたいなと思いました。
佐多:ヤマハの佐多と申します。お婆ちゃんとのやりとりも、自分が小さい頃にお爺ちゃんやお婆ちゃんに接していた時の懐かしいものを思い起こされて、すごく良い映画だなって思いながら観入ってしまいました。
中野:ヤマハのサザエさんこと中野ですけど(笑)ハッと気づいた時に最後に涙がツーっと出てくるような物語かなって観て思ってしてたりしました。
藤井:集英社『ロードショー』の藤井です。自然の移ろいとか風の匂いとかスクリーンから匂いが感じるような、そんな映画だったと思います。
鈴木:ヤマハの鈴木と申します。私は主人公よりももっと大きな娘がいる親父なんですけど、なんとなく自分の娘と会話しなかったんだけれど、ひょっとしたら女の子はこういう風な感じで大きくなっていくのかなっていうようなものを感じながら映画観てて、最後は無条件で泣けると、こういう感じでした。
鈴木:山崎さんは号泣ですか?
山崎:僕は声が出そうになりましたね。
鈴木:声が出そうに?
山崎:はい。終わって眼鏡を外すと、眼鏡が水滴で濡れてるんですよね。激しく涙が出たんだと。
鈴木:それはどの辺なんですか?
山崎:それはラストですね。結構ずっと泣いてたんですけど、ラストシーン。
ーナレーションー
配給会社やレコード会社の女性たちに混じって、一人の無骨なおじさんが眼鏡に涙を滴らせていました。
鈴木:さっきから山崎さん、メモをずいぶんいっぱい書いておお持ちなんですけど、どうもシナリオを僕になんの断りもなく(笑)
山崎:いやいやシナリオじゃないですよ。僕は色々内省的にメモをとってるんです。
番組のスポンサーでもあるローソンチケットの山崎文雄さんです。
男性:ただ一人泣かなかった鈴木さんは、その辺はどう思われたのかなって。
鈴木:僕は一つ大きな感想としては、生と死を扱った作品、すごい多いですよね。ご多分に漏れずジブリの作品もその路線をやってるし、最近でいうと『世界の中心で愛を叫ぶ』。あの作品も実はそうですよね。なんでこんなに生と死みたいなことがこうやって映画のテーマになってきたんだろうなって。それはちょっと思ったですよね。
人には肉体と魂というものがあると。色んな意味で痛みを感じるのは肉体があるから苦しみ悩む。そうすると、肉体がなくなればそれはなくなるんじゃないか、みたいな、そんなセリフあるじゃないですか。
たぶん、生と死というのはそのセリフとの関係をたぶん言ってるんだと思うんですけどね。そうすると、娯楽として観に行く映画がっていうものがそこへ触れなきゃいけないっていうのは、なんなんだろうなってちょっと客観的にそういうこと思っちゃったんですよ。なんか多いですよね。
山崎:それは生きるということを大切にしていない時代だからじゃないですか?
鈴木:やっぱり生きてる実感がないってやつでしょ?
山崎:すごく主観的ですけど、僕はこの歳になって肉体を鍛えなければ強靭な精神力が持てないということで、色々やったりしてるんですけども。
鈴木:それは運動してるってことですか?
山崎:そうです。ジムに通って。
鈴木:押井さんはそれで風邪引いちゃったんですよね。生きてる実感って何なんですかね?
男性:ちょうど2年前なんですね。この企画をやろうと思ったのが。その時に一年間の自殺者の数が3万ぐらいだったんですよ。これを2万人台に落とせないかと思ったんです。
これはすごく綺麗事のように聞こえるんですけども、当時、学校に行けない登校拒否の子供たちが30万人いたんですね。その子たちはこのまま行くと、引きこもるか、死ぬかだったんですね。
さらに個人的な話なんですけど、ちょうど6歳になる子供がいるんですね。ついこの前の5月8日に12歳の子供が自殺したっていう記事がでっかく出てたと思うんですね。いっぱいそういう痛ましい記事があって。信じられない。これはどうなってるんだろうと自分の中で思ったわけですね。そういう時にこの映画の主人公のお婆ちゃんみたいに、「もう学校なんて行くのやめなさい」っていう人がいたら、どんなに楽かと思ったんです。
例えば、「いいよいいよ。もう会社なんて行かなくていいよ」って言ってくれるような人がいれば、僕はすごく救われたんじゃないかなって思うんですよ。
鈴木:子供の時に死にたいと思ったことないですか?
男性:僕はなかったですね。
鈴木:山崎さんは?
山崎:いじめられましたね。ずいぶん。
鈴木:死にたいと思ったことはないですか?
山崎:死にたいと思ったことはないですね。でもいじめられましたね。かなり。
鈴木:新井さんは?
新井:あまり理解出来てなかったんですよ。小さい時。
鈴木:自分がいなくなっちゃうっていうことですよ。自分自身の経験で言ったらね、子供の時やっぱり死にたいと思ったですよね。
男性:一番最初に思ったのは?
鈴木:小学校の高学年じゃないかな。それは特別なことだとは思わないんですよ。実をいうと、僕らの世代って言い切っていいかどうか。みんなそうだったんじゃないかなって。でもそれを実行に移すかどうかは別ですよ。そういうことでいえば、僕らの周りにいましたよね。
男性:自殺者がですか?
鈴木:そう。
男性:それは小学校の時ですか?
鈴木:小学校から中学、高校になっても。
男性:周りには全くなかったんですよ。
鈴木:全くなかったんだ?
男性:ええ。
鈴木:そっちの方が僕は不思議な気がする。なんでかっていったら、いわゆる思春期の時ってそういうことを考えるもんじゃないですかね。どういうことかっていったら、生きるとはどういうことかって、どこかで真面目に考えてみるっていう気は僕はするんだけど。だから、忘れてませんか?って問いかけたいんですよ。
男性:忘れてるかもしれませんね。
鈴木:この作品の場合だと、たまさかそういう期間を利用して、学校の代わりにお婆ちゃんのところに行くってことでしょ?そこでお婆ちゃんとの交流を通じて何を学ぶかって話だから。それはそれで良いとは思うんですけどね。
実をいうと、学校だけじゃないでしょ?会社だってそうでしょ?自分のことで言っちゃいますけどね、僕もサラリーマン生活っていうのをずっとやってるんですけど、変な言い方ですけどね、朝ちゃんとなんで起きるか。会社があるからなんですよ(笑)有難いんですよ、会社って。会社があるから会社行くんですよ。
今日来ていただいてるアスミックの小川さん。小川さんってレコード店にお勤めだったんで。HMVにいて、タワレコに移る時に4ヶ月の浪人生活があった。
小川:僕のその4ヶ月っていうのは、まいちゃんの魔女修行みたいなものだったと思うんですよ。
鈴木:そうそうそう。
小川:僕の場合そこに全く何もなかったんですけど、あれがあったからこそ次また一歩を踏み出せたっていうのがあるんで、人によりけりなのかもしれませんけど、この子にはこういうものって必要だったんですよね。この子が抱えてる息苦しさっていうのもわかりましたし、息苦しいから会社辞めたわけであって、僕も。
鈴木:人ごとだと思って観てたでしょ?
小川:人ごとだと思ってました。
鈴木:そうやって置き換えると、よくわかるでしょ?この映画。
小川:いや本当にキツかったですからね。身体は健康になっていくんですけど、心はどんどん鬱になっていくっていうやつで。
鈴木:彼女も同じような状態だったんですよ。たぶん。
小川:そうですね。それはいまだに言われますよ。「あの時のお前だけは絶対変だった」って。
鈴木:ある意味単純でしょ?だって会社辞めただけでしょ?
小川:そうなんですよ。そこだけで自分のアイデンティティというか、俺って何だったんだろうっていう。
鈴木:そう。こんな簡単に崩れるかってことでしょ?僕は人間はそういうものだと思ってるんですよね。こんだけ喋ってると、観たくなるでしょ?
鈴木:仕事が楽しくなきゃいけないって言葉も流行ってる気がするんですよ。
小川:ああ、そうですね。
鈴木:いつからそういうことをみんな考えるようになったんだろうって思って。だって生活の糧を得るために人は働くわけだから、本来楽しいわけがないですよね。
山崎:良いことはほとんどないくらいですよね。30年サラリーマンというものをやってきて、特に僕らの場合は、24時間365日の状況で色んな対応をしなければならない。信じられないような出来事も起こるんだけど。
鈴木:一日として休まる暇はない?
山崎:ないですね。特に携帯っていうものが出てきて、それまでは連絡が取れないっていうのがあったんですけども、連絡が取れるわけですから、お腹のところにバンドでつけててブルブルって鳴ると、ドキってして、お腹が鳴っても携帯が鳴ったなっていう時があったんですよ。
鈴木:自分のお腹が鳴っても?(笑)
山崎:でも、素敵なこととか素晴らしいことは少しは起こりますから。その時に映画があったですからね。僕には。そこで「よし!じゃあ明日も頑張ろう!」と。
鈴木:映画の高揚はものすごい多かったですよね。
男性:逆に仕事も高揚なんじゃないですか?
鈴木:仕事の高揚っていうのは?
男性:辛い仕事があるから映画が輝く。
鈴木:そう。そう思いますよ、僕も。だから映画を観に行って腹の底から笑い転げるとか、そういうことが成立したわけでしょ?
男性:仕事がなかったら、そこまで面白いかどうかですよね。
鈴木:そうですよね。
山崎:なるほど。
鈴木:山崎さんって、今日お話しててお分かりいただけたと思うんですけど、こういう熱血漢ですから、僕のコンビニ観が吹っ飛んじゃうんですよ(笑)
山崎:ありがとうございます。
鈴木:そんな山崎さんがですね、実はローソンを引退されると。30年勤めた会社をお辞めになるって。今どんなお気持ちですかね?
山崎:自分が60までに何がしたいんだろうって、ずっと考えてて。サラリーマンっていうのは30年やったんで、次は本当に僕を支えてくれた映画を一人でも多くの人に観て欲しいし、映画を作りたい。だからローソンというコンビニエンスストアのサラリーマンを辞めよう、ということで辞めることを決意しました。
鈴木:と僕のところに挨拶に来て下さったんですよ。それで僕ビックリしちゃいましてね。辞めてどうするんですかって。したら、「映画を作る」っておっしゃったんですよ。それで僕は「え、それってどこかに勤めてですか?」って言ったら、違うと。「フリーでやるんだ」と。
「どうやって映画を作るんですか?」って訊いたんですよ。したら僕はビックリしました。だって僕が訊いたのは「どうやって映画を作るんだ」って訊いたんですよ。そうしたら、「ファーストカットは品川駅です」って。朝のみんなの出勤時、ダーっと列車から降りたサラリーマンの群れがそれぞれの会社に向かって歩き始める。それを俯瞰で舐めていく。それがオーバーラップしてアフリカのサバンナへ行くって。それでヌーがパパパーって。「タイトルは?」って訊いたんですね。僕。
山崎:『サラリーマンブルース』。仮ですけど。それしかないですから。30年やったことをキチッと伝えて、今最も映画館に行ってないサラリーマンの人に観ていただいて、「よし。俺は明日も頑張ろう!」という映画になればいいなと。
鈴木:僕はそれを聞きながら、「山崎さん、大丈夫ですか?」って。「いや、大丈夫です。こうやって映画はもう出来てますから」って。イメージはもう完璧なわけですよ。
小川:流石ですね。
鈴木:でしょ?それでやあら僕の方から「山崎さん、決意も固いことだから中々悩みもあるでしょうけど、ジブリの美術館で一人探してるんで、その仕事をやっていただけないか?」と申し上げたら?
山崎:やります、と。
ーナレーションー
山崎さんのローソンでの最後の仕事として、いま映画『崖の上のポニョ』のローソン限定のオリジナル前売り券のカタログが置いてありますから、ぜひご覧になって下さい。
でも、住み慣れた街のホットステーションを離れて、西の魔法使いの元へ旅立つ山崎さん。大丈夫でしょうか?
鈴木:5月26日からジブリ美術館で働いていただくことになりました。皆さんそういうわけですので。
(一同、拍手)
女性:私は映画の方も気になっているので、サラリーマンの悲哀を映した映画もちょっと期待したいなと思っております。
山崎:エンドクレジットも色々考えてるんですよ。