鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

ポッドキャスト版「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の文字起こしをやっています。https://twitter.com/hatake4633

城西大学で行われた鈴木さんの講演会の模様をお送りします。

2015年10月29日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

http://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol393.mp3

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

今週は、7月10日城西大学で行われた鈴木さんの講演会の模様をお送りします。

 

テーマは「日本から世界に広がるアニメ、芸術、技術、プロダクション」。

 

インタビューは、学校法人城西大学日本・アジア映像研究センター長・USC映像学部教授、水田リピット堯さんです。まずはこんなお話から。

 

水田:やっぱりジブリの中でも鈴木プロデューサーも宮崎監督も、皆さん日本という観客、日本で公開されるということがまず第一ですか?それともこれだけジブリの作品が全世界で評価されてることも頭の中には入ってます?新しい企画に入ると。

 

鈴木:今のご質問に対して端的に答えるなら、本当に日本のことしか考えてないですよね。だって僕ら、日本のことしかわかんないですよね。しかも日本全体だって、ちっちゃい国とはいえ北海道から沖縄まである。僕らがわかってるのは、ジブリは小金井というところにあるんですけど、東京の郊外の。やっぱりその周辺しか知らないですよね。

 

ただ、ジブリのスタジオ、作品作り始めると300人とか400人ぐらいになっちゃうんで、そうすると、小金井のスタジオで起きてることは、たぶん東京でも起きてるだろうと(笑)東京で起きてることは、たぶん日本全体でも起きてるのかなと。日本全体で起きてることは、実は地球の裏側のアメリカでもヨーロッパでも同じことが起きてるかなっていうことをたまに考えますね。

 

でないと、たぶん皆さんにわかってもらえないんだろうなって気がして。結果として、外国の方に観ていただいて良かったって言ってもらえると、嬉しいんですけれど、だからといって、そういう人たちを最初からお客さんの対象として考えて、それで作ってるわけじゃないですよね。

 

水田:ただ過去のものが後から世界的情報になるのではなく、ジブリが新しい作品を公開すると同時にその場で情報になってますから。世界的には。場が世界だ、ということは事実なわけですよね。

 

鈴木:結局、ここに書いてあるんですけど、「日本から世界」って。それに1番戸惑ってるのは僕らですけどね(笑)だって本当にそういうこと考えてなかったし。

 

実はキッカケはね、ディズニーさんだと思うんですよ。ひょんなことでディズニーと仲良くなっちゃったんですけど。

 

ディズニーと付き合うというのはどういうことかといったら、ディズニーって実は世界75か国。それだけの国と付き合ってるんですよね。僕らが作品を出したら、全部75か国へ作品が紹介されちゃうんですよ。僕全く考えてなかったの。それ。それで気がついたら、日本から世界へいっちゃったんですよ。

 

水田:(笑)

 

鈴木:ただ僕ね、それがちょうど「もののけ姫」を作ってる頃の話で、「もののけ姫」っていうのは僕らの基準でいうと、それまでの作品に比べて通常の倍の予算とか色々あったもんですから、どうやってヒットさせたらいいだろうっていうんで色々考えた結果、当時日本でもてはやされる人って、日本人でありながらアメリカは行って活躍する人とかですね、そういう人がもてはやされたんですよ。例えば、野茂英雄とかね。僕そういうものの真似しようと思ったんです。

 

真似しようっていうのはどういうことかというと、「『もののけ姫』は、アメリカで公開されます」って言えば、日本の観客もこの「もののけ姫」っていう作品に注目してくれるかなと思って。でもその結果、世界中に広まっちゃったですね。

 

水田:「もののけ姫」の海外での反応っていうのはどういうのでした?

 

鈴木アメリカはなかなか難しかったですね。ただ、それまでのジブリ作品ってほとんど日本の中だけでやってたのが、アジアでいうと、韓国、台湾、香港はおかげさまで大ヒットしましたね。それとヨーロッパでフランスが大ヒットでしたね。

 

水田:それはどうして?

 

鈴木:日本でヒットしたものが世界へ持っていったら、全部ヒットするかっていうとそんな簡単じゃないんですよね。

 

やってみてよくわかったんですけど、なぜフランスで大ヒットしたか。そこにフランスの配給会社、これディズニーだったんですけど、この「もののけ姫」を気に入って、本当に頑張って公開してくれた人がいるんですよ。そうすると、フランスは上手くいったけれど、実はドイツは上手くいかなった。どういうことかといったら、ドイツにはそういう人がいなかったんですよ。

 

結局、世界へ出ていくという時に、現地で僕らの作ったものを本当に好きになってくれる、そういうビジネスマンがいるかいないか、それがすごく大きかったですね。だから、韓国には韓国で「大元動画」っていうところの会長さんがいて、この人が頑張ってくれたし。そういうキーになる人がいる国は全て上手くいきました。ただアメリカはなかなか難しかったですね。

 

水田:何か問題だったんですか?

 

鈴木アメリカはね1番大きい問題は、内容です。「ミラマックス」という会社があって、ハーヴェイ・ワインスタインっていう人がいて、この人に預けるわけですけど。

 

日本では公開が終わって、アメリカではそこでやるっていうことになった時に、ニューヨーク映画祭、ここがお披露目だったんですよ。アメリカの色んな方に初めて見せる。そのパーティの最中に彼から提案がありましてね。

 

「『もののけ姫』っていうのは素晴らしい作品だとは思うけれど、残念ながらこれをアメリカでそのまま公開するというのは非常に難しい。なぜなら、この宮崎監督の考えた人間と自然の問題についていうと、これを理解出来るアメリカ人は限られる」。そのことをズバリ言われました。

 

で、彼の提案。「今のそのままのバージョンをアメリカでアート系の映画館で200スクリーン、それをやりませんか?」と。「その後、バージョンを変えたものを、アメリカ人にもわかりやすくしたものを全米で2000館でやりませんか?」っていう彼からの提案を受けたんですよ。

 

それで具体的でした。全編確か2時間15分くらいの映画なんですけれど、「最後の40分だけ変更を加えたい」と。「もちろん鈴木にも関わってもらう。『もののけ姫』の話の内容は、非常に複雑だ」と。「なぜなら、3つの対立するのがあるから。これを2つにしたい」って。「それを作るのに鈴木も協力してくれないか?」と頼まれたんですよね。

 

水田:で、結局どう、、

 

鈴木:断りました。

 

水田:断りますよね。それが正しい。

 

鈴木:だって1回作ったものをね、もっかい作り直すのって大変なんですよ。

 

水田:わかります。

 

鈴木:僕は嫌だったんですよね。めんどくさいし(笑)

 

水田:結局どういう公開、、

 

鈴木:普通にやりましたよね。正確な数は忘れましたけど、アメリカのアート系の映画館で4、500くらいはやったんですかね。でもなかなか難しかったですね。

 

---

 

鈴木:やっぱりカルチャーギャップっていうんですか。「トトロ」を最初アメリカで公開しようっていう時に、あるメジャーの会社が「ぜひやろう」と言ってくれたんですけれど、内容で問題になったところがある。

 

それは何かというと、皆さん「トトロ」を知ってるという前提で話しますけど、お風呂でお父さんとサツキとメイが3人でギャーギャーやるシーンがありますよね。あれがアメリカでは問題になっちゃう。なんでかっていったら、あれ幼児虐待として受け取られるんですよね(笑)これね、僕らにはねちょっと理解不能だったんですよ。どこがそんな風になるのと。

 

それで僕ら色々やってく時に、「ポニョ」って実はアメリカで数多く出来たんですよ。というのは、ひょんなキッカケでアメリカでスピルバーグのプロデューサーをやってたキャスリーン・ケネディ、それからその旦那さんのフランク・マーシャル。あの2人が夫婦なんですよね。僕、ひょんなキッカケでキャシーと知り合いになって。  

 

これキッカケは今だから時効だから話していいでしょうけど、スピルバーグさんがなんと日本の時代劇を作ろうとしていた時があるんですね。ボツになったから喋っていいと思うんですけど。室町時代が舞台で日本を舞台にチャンバラを作る。それでキャシーの方がある人を通じて、僕に協力の依頼が来たんですよ。それがキッカケとなって、映画はダメになっちゃったけど彼女とは友達になる。で、彼女が日本に来ると一緒にご飯を食べて、僕はロスは行くと彼女とご飯を食べるっていう関係が10年くらい続いたんですよ。

 

それで10年経った時がちょうど「ポニョ」の公開。それまでずっとディズニーでやってもらったんですけど、中々アメリカでの興行が上手くいかないから、いっそのこと彼女がやってくれたらどうなるんだろうって思って、彼女に頼んだんですよ。そうしたら彼女が2つ返事で引き受けてくれた。

 

ところがですね、やっぱり「ポニョ」もさっきのカルチャーディファレンスで、色々問題になるシーンが出てきたんですね。1番わかりやすいのが、宗介が自分のお母さんのことを「リサ」って呼び捨てにするんですよね。すると、指摘されたのが「アメリカで自分のお母さんは絶対に呼び捨てにしない」と。これをどうするかと(笑)そうなんですか?

 

水田:まぁ普通は母親にはママとかお母さんとか。

 

鈴木:名前を出して呼び捨てにする、それは問題なんだと。これをお母さんに変えていいかと。それからあの映画の中で洪水が起きて、お母さんがいてポニョがいて宗介がいる。そうしたらお母さんさんが、デイケアセンターのことが心配になって、2人を残して向かうんですよね。そうしたらアメリカでは「それは出来ない」っていうんですよ。要するに、ちっちゃい子2人を置き去りにして母親がどっかへ行く。これはアメリカの倫理観ではダメだと。

 

水田:まぁいつも起きてることですけどね。現実には。

 

鈴木:もう1個。洪水になってボートにポニョと宗介が乗って漕いで行くんですよね。そうしたら大人の船がやってくるんですよ。2人に向かってみんな手を振って「気をつけろよー。頑張れ」って言うんですね。これはアメリカ人の感覚からいうとあり得ないと。ちっちゃい子が2人でボートに乗ってたら、それは助かると(笑)

 

水田:(笑)

 

鈴木:やっぱりそうなんですね?細かい話まで聞かされたんですよ。共和党民主党では若干考え方が違うとか(笑)フランスなんかは、これは日本の文化なんだということで、そのままやってくれますよね。だけれどアメリカは、やっぱりそういう倫理基準を持ち込まれますよね。

 

水田:自分の文化を受け入れる側の文化と一致しなければいけないというところなんですね。

 

鈴木:でも本当に僕は感謝してるんですけど、キャシーは全部それをはねつけてくれるんですよね。これは嬉しかったです。キャシー・ケネディという人は、実は「E.T.」をやってるんですよね。

 

皆さんもよく覚えてらっしゃるでしょうけど、最後子供たちが自転車に乗って空を飛ぶじゃないですか。あれが実は大問題だったらしいんですね。そこを突破するために彼女がどういう努力をしたか色々教えてもらったんで。だから「ポニョ」を観て彼女は「私に任せて」っていって頑張ってくれました。だからほんとうにそのまま公開出来ましたね。

 

水田:カットなしに?

 

鈴木:カットなしで。感謝してます。

 

水田:ちなみに彼女は今度、「スターウォーズ」のプロデューサーですよね。

 

鈴木:そうですね。特に宮崎駿の方なんですけど、色んな人が好きになってくれるんでよね。色んなプロデューサー、そして監督がジブリを訪ねてくれるんですよ。それがキッカケで親しくなる人もいる。それで終わっちゃう人もいるんですけど。

 

さっきのことでいうと、キャシーが僕らと仲良くなって、そうしたら彼女がある時、スピルバーグを連れて登場したわけですよ。それでジブリジブリ美術館というのがあって、そこへまずお連れしたんですよね。

 

そうしたら、ジブリ美術館三鷹の方にあるんですけど、そこに「トトロぴょんぴょん」っていうちょっとした人形を置いておいて、物が動く原理を紹介したものがあるんですけど、僕はスピルバーグという人に感心しましたよね。それをどうしてこの物が動くのか、興味持ったんですね。たぶん。スピルバーグという人は。見始めたら動かないんですよ。全く動かなかったんです。3時間くらいですかね。ジーっと見てましたね。「これはなぜ動くか、大体わかった」っていうのに3時間(笑)

 

水田:凄いですね。

 

鈴木ジブリの作品って長編も色々作ってるんですけど、美術館のために短い作品も色々作ってて、それをスタジオの方でスピルバーグに観てもらったんですね。したら観終わった途端、矢継ぎ早の質問ですよね。僕はこの人って本当に映画好きなんだなって思って。感心したことをよく覚えてます。

 

---

 

水田:これから先を考えますと、宮崎駿監督ももう作品を作らない、と発言もされてますし、ジブリのこれからの活動、活躍はどう、、

 

鈴木:実はいま美術館用の作品なんですけど、10分くらいのやつなんですけど、やり始めてるんですよ。さっきから「もののけ姫」の話が出てるんですけど、「もののけ姫」の時に彼は本当に作りたかったのは、毛虫の話なんですよ。

 

「毛虫のボロ」っていって、蝶々になる毛虫ですよね。そのちっちゃな毛虫が街路樹から街路樹への旅。それは彼にとっては一生の旅。虫だけしか出ない映画。毛虫だけしか。それを作りたがってたんですよ。僕その時に色々あってムシャクシャしてたんで、毛虫の話なんか嫌だったんですよね。

 

水田:(笑)

 

鈴木:「やるならアクション映画ですよ!」って言って「もののけ姫」に変えたっていう経緯があるんですけど。それで今回美術館のアニメやりたいって。それで「鈴木さんさ、作りたいのに腹案がある」っていうから、「毛虫のボロでしょ?」っていったら、「くそー!」って言い出して。「なんで先にそういうこと言うんだ!」って。「なんで俺のことわかるんだ」っていうからね、わかりやすい人なんですよ、これ。

 

僕はこれ考えたんですけど、ちょっと彼に刺激してみたんですよ。「宮さん『毛虫のボロ』って、手で描くんですか?」って。「そりゃあ手で描くしかないじゃん」。「コンピューター使ったらどうですかね?」「え?」って。

 

いま日本のアニメーションって、テレビやってるやつを含めて、ほとんどがまだ手描きが多くて、全体でいうと8割が手描き。2割が3Dで作ってるんですよ。「なかなか手描きの方に人が集まらなくて、みんな優秀なスタッフは3D行っちゃってるんですよ」とかごちょごちよ言ってたらね、「鈴木さん、3Dでやろうか」って言い出したから、「あ、宮さんやるんですか?」って。「うん。でもスタッフはどうしたらいいかな?」「スタッフだったら、僕がなんとかしますよ」「宮さん3Dやるんですか?」「だって鈴木さんがやれっていうから」「僕そこまで言ってないですよ!」って(笑)それでいまその毛虫の話をなんと3Dで。74歳のチャレンジ。燃えて、毎日やってますよ。

 

水田:そうなんですか。

 

鈴木:そうなんですよ。もう作品でも作ってもらった方が僕助かるんですよね。でないと、僕が忙しくてしょうがないから。

 

水田:で、それは短編で、、

 

鈴木:10分くらいです。10分くらいだけれど、僕の見るところ大きい声じゃ言えないんだけど、3年くらいかけると思うんですよね。たぶんそのくらいかかるんですよ。

 

その前に作ったこれも美術館だけでしか上映してないんですけど、「パン種とたまご姫」っていうのがあったんですけど、これがかかったんですよね。時間が。

 

それで僕にみんなが集まった時にあるスタッフが「宮崎さん、これどのくらいの期間で作るんですか?」って言うから、「期間は俺わかんない」って。「鈴木さんはどう思ってるの?」って言うから、「3年ですかね」。そうしたら宮崎駿が「そんなにかかるわけないよ!もっと短く出来るよ」「宮さん、『パン種とたまご姫』って、3年かかったのって知ってますか?」って言ったら、「え!?」って言い出して。「あれ、3年かかったんですよ」「そんなかかったっけ?」って言うから、「お金いっぱい使ったんですよ、いっぱい」とか言ったりして(笑)それで今それやり出したんですよね。もう毎日楽しくてしょうがないみたい。

 

というのがまず1つでしょ。それで僕この間にね、フランスで発表されちゃったから、もう良い機会だから喋ろうと思ったんですけど。オランダの方で発音が僕出来ないんで、皆さんの前で恥をかくんですけど、マイケル・ドゥドゥヴィック(正確にはマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット)さんっていうアニメーションをやってる方って、お分かりですかね?

 

アカデミーの短編で「Father and Daughter」って。日本でつけたタイトルは「岸辺のふたり」っていうのを作ったマイケルっていうのがいて。僕この人の作品大好きなんですよ。すごく。

 

で、ちょっと声かけてみたんですよ。「長編作んない?」って。そうしたらマイケルがのってきたんですよ。で、ジブリの協力が得られるならやってみたい。っていうんで、彼に半年くらいかな。日本に来てもらって。ストーリーと絵コンテを作る。そこには高畑勲とも親しんで、彼の協力も得て、内容を作っていく。それで実際の現場はパリでやるっていうね。

 

という企画を。題して「レッドタートル」っていうんですけど、約90分の話で。一応完成が来年の春。

 

水田:それはジブリ製作であり、オランダ出身の監督。

 

鈴木:そうです。ヨーロッパ中の人が集まって作ってます。僕は日本だけでやるっていうのは難しいと思ったから、「ワイルドバンチ」という会社があるんで、そこのバンさんっていう人に声かけてみたら彼がなってきて、それで50:50でやるんですよ。

 

水田:そういう方向性へジブリは進むと思います?

 

鈴木:あのね、僕こういう風にやっていこうって決めてそれでやったこないんですよね。いつと1本ごと。宮崎駿がああなった。高畑勲も80なんで。

 

そういうことでいうと、どうしようかなって思ってた時にそのマイケルのことを思ったんですよ。彼まだ60ちょっとなんで。それでフランスでジブリ作品が誕生。これは面白いかなっていう(笑)

 

それでなんと彼の作品って、「Father and Daughter」もそうだったんですけど、全編セリフがないんですよ。そうしたら見事に今度の作品も90分なんですけど、セリフがないんですよ。凄いの作ってるんです。

 

考えてみたら、こっちも企画を話し始めた時から考えると、もう8年かかってるんですよ(笑)まぁジブリの新しい作品がそういう形で世の中に出て行くっていうのは面白いんじゃないかなって気がしてるんですよね。

 

---

 

水田:全体的な方向とか流れとか、アニメーションにおいて何か期待されること、どのように思われてますか?

 

鈴木:その件に関してはね、アニメーションだろうがライブアクションだろうが、あまり関係ない気がしてるんですよね。要するに、世界のある動きを決めるのは、やっぱり1本の作品だと思うんですよ。誰がどんなものを作るか、それによって全体の流れが大きく変わる。

 

ということでいうと、今振り返ってみると、さっき話してたスピルバーグ、それからルーカス、なんだかんだで凄かったなって思うんですよ。スピルバーグにしろルーカスにしろ、ああいう題材って、アメリカ人が得意な題材だったでしょ?「スターウォーズ」にしろ「インディージョーンズ」にしろ。

 

だけれど、昔のそういうものって子供向けだから、監督もいい加減に作ってましたよね。お金もかけない、期間もかけない、チャチなものでしたよね。

 

ところが、そういうものを観て育ったルーカスとスピルバーグっていう人は、子供騙しの企画をきちんと期間をかけて、お金をかけて作ったら大人も観てくれるってことをやった人でしょ?それは世界の映画の潮流に影響を与えたと思うんですよ。

 

水田:でもスタジオジブリも全く同じ作品ばかりですよね。そういう意味では。

 

鈴木:だからそういうことでいうとね、スピルバーグがいなかったら、ジブリはあったんだろうかってこの歳になると、そういうことも考えるようになりましたよね。

 

スピルバーグ、ルーカスの作ったこの路線。世界の色んなところでウン十年、みんなそれをやってきたと思うんですよ。だけれど、そろそろそれに終止符が打たれ、いま新しい映画っていうのはみんな待望している時期じゃないかなって気がしてるんです。それを一体誰が作るのか。

 

実は宮崎駿は、さっきのたった10分ですけれど、それをやろうとしてますよね。これが新しい映画だっていうのを。僕はそれは感心してます。74になってもね、創作意欲は衰わない。3Dでやるっていうのも、彼は自分を奮い立たせるためですよね。そういう意味じゃ、やっぱり凄いなと思います。

 

1本の作品に手垢のついた言葉だけれど、まさに命をかけるわけでしょ。途中で死んじゃったとしても構わないって思ってるんでしょうね。それもそれで面白いかなっていう気がするんですけどね。