鈴木敏夫のジブリ汗まみれを文字起こしするブログ

ポッドキャスト版「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の文字起こしをやっています。https://twitter.com/hatake4633

磯部澄葉さん 舞台『千と千尋の神隠し』を観て(後編)

2022年3月27日配信の「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」です。

https://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol729.mp3

 

磯部

2階席って下の方まで見えるんですけど、オーケストラいないなって、ずっと思ってたんですよ。

 

鈴木

気になるのよ。音楽が。

 

磯部

でも音源じゃないしっていうので、最後のカーテンコールの時に「え、ここなんだ」っていうすごい衝撃でしたね。

 

鈴木

久しぶりに標準語喋ってるのよ。

 

桜井

ずっと標準語で喋ってますよね?

 

鈴木

ラジオだから、他所行きに。

 

桜井

今日は他所行きの(笑)

 

磯部

いや、先生なんですよ(笑)

 

ーナレーションー

鈴木敏夫ジブリ汗まみれ。

 

今週も先週に引き続き、金城学院大学准教授の磯部澄葉さんをお迎えして、東京帝国劇場で行われている舞台『千と千尋の神隠し』について鈴木さんと語ります。

 

ですが、今週は名古屋についてのこんなお話から。

 

注:「桜井」というのは、桜井玲奈さん。スタジオジブリのプロデューサー室で鈴木さんのアシスタントをされている方で、「鈴木敏夫ジブリ汗まみれ」担当もされています。

磯部

きっかけは何かの拍子に私が訊いたんですよね。「鈴木さんって、愛知県のどこだったんですか?」って言って。

 

鈴木

そうだっけ?

 

磯部

その時に「たぶんあまり知らないかもしれないけど、黒川」みたいな。

 

鈴木

そう。

 

磯部

って言って、「え、黒川?」って思って(笑)

 

鈴木

家のそばなのよ。

 

桜井

そうなんですね。

 

磯部

ご実家から近いところに。

 

鈴木

だって歩いて2分。

 

桜井

え!?

 

磯部

2分ぐらいのところに。

 

桜井

本当の本当にご近所さんですね。

 

磯部

途中で鈴木さんと、この『千と千尋』の劇が名古屋弁だったらどんな風になるのかって話したんですよね。

 

鈴木

そうそう(笑)

 

磯部

私、リンがバリバリの名古屋弁でいくのはすごく想像出来るなって。

 

鈴木

全然印象が変わるのよ。

 

桜井

そうですよね。そこで打ち解けたというか。9年にして距離が縮まった、、

 

鈴木

NHK竹下景子さんっていう人が、山田太一のあるドラマに出て。『夏の一族』かな?そうしたら、その人名古屋出身っていう設定なのよ。竹下景子さんが。彼女、実際名古屋だし。旦那が亡くなった渡哲也さん。それで夫婦関係がちょっと危険な状態なのよ。喧嘩するんだけどさ、たぶん渡哲也は東京の人でしょ。そうすると、喧嘩が標準語でやるわけよ。それ見てると、標準語って喧嘩するのに良い言葉。

 

桜井

ほぉーー。

 

鈴木

で、頭きて旦那いなくなって夫婦関係が本当に危険、という時に竹下景子さんの高校時代の男の子から電話がかかってくるのよ。「あ、景子ちゃん?何やっとんの?」「ああ!」って(笑)

 

そうすると、さっきまで喋ってた標準語とまるで違うわけ。言葉って人格にまで影響を与える。柔らかくなって優しくなるのよ。

 

後に、中日新聞の関係で竹下景子さんと俺が名古屋へ行って、2人で対談したことがあるんですよ。2時間くらいやるんだけど、最初の1時間は標準語でやったんですよ。ところが、そのドラマを思い出したんでね、気がついたら残りの1時間名古屋弁でお互いやったのよ。すると、話が弾むんだよね。

 

それで俺がさんざっぱら言ったの。竹下さんに。竹下さんって、お嫁さんにしたいNo. 1の女優っていうんで有名だったの。それから陛下がお嫁さんにしたいって。それでも評判だったのよ。

 

まあそういう人じゃない?それが良い感じでお年を重ねて、それで「この山田さんのドラマ本当に良かったですよ。竹下さんはあのドラマについてはどう思ってるんですか?」って言ったら、「フフフ」って笑ったんだよね。「どうしたんですか?」って言ったら、「覚えてないの」って。

 

桜井

えー!(笑)

 

鈴木

すごい人なのよ(笑)全く覚えてないのよ。なかなかの人だね。あれ。

 

桜井

鈴木さんが名古屋弁を喋ってるところ、私聞いたことないかもしれない。

 

鈴木

俺はもうね、わかんなくなっちゃってるの。でも何かの表紙に言われると少し思い出す。例えば、学生時代名古屋に帰るじゃない?お袋がいきなりこの瞬間に変わるんだけど、俺の物音で様子を聞いた瞬間に「あ、きゃあってきた?」って言うの。「きゃあってきた?」って言われた瞬間、「きゃあってきたよ」って言っちゃうのよ。そうすると、そこからなのよ。もう標準語はすっ飛ぶわけ。

 

だって彼女も名古屋弁喋った時に、違った人に見えたの。本当に。

 

磯部

じゃあこれから名古屋弁で(笑)

 

桜井

確かにいまイントネーションが違いましたよね。いま。

 

磯部

え、いま違いました?

 

桜井

いま違ったような気がした。

 

鈴木

全然違うのよ。それこそ映画もね、作る人によって変わるんだよね。これからどうなっていくのかなと思って。

 

やっぱり宮さんは典型的な東京の人だから、どうしても標準語になるんだよね。言い方もちょっとキツくなるのよ。

 

桜井

ああ、確かに。

 

鈴木

名古屋弁の方がなんか忍び寄るんだよね。玲奈は横須賀だけど、横須賀の言葉ってあるの?

 

桜井

方言ないんですよね。横須賀。

 

鈴木

相手のことを呼びかける時、なんて言うの?例えば、東京だとね昔、男同士だと「君」なのよ。それなんて言うの?

 

桜井

呼ぶ時?「ちょっと」とか「君」とか。「君」かもしれないです。

 

鈴木

じゃあ、横浜は?

 

桜井

「あんた」?なんなんだろう。「君」。横浜も「君」じゃないですかね。

 

鈴木

本当?

 

桜井

え?

 

鈴木

昔違ってたよ。

 

桜井

え、なんて呼ぶんですか?

 

鈴木

「お前よ」って。

 

桜井

お前よ(笑)

 

鈴木

で、名古屋は「おみゃあよ」なのよ。

 

桜井

「おみゃあよ」。

 

磯部

そう。「おみゃあさん」とかいいますもんね。

 

鈴木

そう。で、さっき言ったじゃない?「あんたあの子のなんなのさ?」って。「あんた」でしょ?これ横須賀でしょ?

 

桜井

うん。「あんた」。

 

鈴木

「あんた何やっとんの?」って言うのよ。

(「あんた」のイントネーションが語尾が上がりも下がりもしない言い方)このイントネーション。

 

磯部

「あんたたち」とか。「あんた何やっとんの?」って。

 

鈴木

そう。言えるじゃん(笑)ちょっと違って見えるでしょ?

 

桜井

違いますね。全然。

 

磯部

「行ってこりゃいいがね」とか(笑)

 

桜井

バリバリ名古屋弁ですね!

 

鈴木

そうだよ。いまの。

 

桜井

印象も全然変わりますね。

 

鈴木

そう!

 

桜井

標準語だと他所行きみたいな。全然違いますね。

 

鈴木

別人に見えるのよ。

 

桜井

別人に見える。

 

鈴木

だから俺が喋りやすくなったってわかるでしょ?

 

桜井

わかりました。今。

 

鈴木

9年間騙されたんだもん。

 

桜井

今言ってもらって気づきました(笑)

 

鈴木

本当にそうなんだよね。だから言葉ってのは面白いな。やっぱり『千と千尋』って、標準語のドラマだよね。

 

---

 

桜井

あんなにいっぱいキャラクターが出てくるじゃないですか。でもそのキャラクター1つ1つが個性的で、あんなにみんなが主役となって動いてる映画ってあるのかって。

 

鈴木

そんなこと考えた?

 

桜井

はい。

 

鈴木

誰のこと言ってるの?

 

桜井

カオナシもそうですし、銭婆、湯婆婆、カエルの、、

 

鈴木

主役でもなんでもないじゃん。端役じゃん。

 

桜井

いやいやいや。

 

磯部

でも私も同じこと思ってました。キャラがみんな強烈じゃないですか。だからそれでよく物語が崩れずに、、

 

鈴木

まあ秘密を喋っちゃうとね、あれ本当に偶然だったんだけど、毎週日曜日夜7時、NHKの教育テレビで「なんとかの神々」っていう番組をやってたのよ。ドキュメンタリー。これどういう番組かっていうと、北は北海道から南は沖縄まで色んなところにお祭りがあるじゃない。お祭りって大概神様を扱うのよ。で、儀式があるわけよ。それを毎週毎週30分で紹介してたの。「日本の神々」かな?(注:これはおそらジブリ学術ライブラリーとして発売されている『NHK ふるさとの伝承』のことを指していると思われます)

 

これ本当に偶然なんだけど、宮崎駿も俺も好きで毎週日曜日夜7時から、お互い話し合うこともなく勝手に観てたの。

 

磯部

すごいですね(笑)

 

鈴木

で、これを作ろうってなった時に「え?鈴木さんも観てんだ?」「宮さんも観てたんですか?」って。偶然なのよ。それがあの神様のキャラクターなのよ。ドキュメンタリーの中にそのまま出てくるのよ。実は全部。

 

磯部

えー!?

 

鈴木

あの神々たち全部、そのNHKのやつなのよ。実際にその祭りが残ってる所はそのまま再現するし、もうなくなっちゃった場合は年寄たちに訊くの。どういうお祭りだったのかって。それを再現するわけ。だから非常に面白くて。『千と千尋』がヒットした後、NHKに行って、その番組を全部ビデオ化させてもらったの。あそこにあるよ?

 

磯部

ちょっと観てみたいです(笑)

 

鈴木

すごい面白いよ。それが役に立つんだから面白いよね。

 

磯部

確かに。

 

鈴木

単に宮さんも俺も好きで観てただけだもん。だから、カオナシみたいなやつもどっかにいたのよ。

 

磯部

あ、いたんですね。

 

鈴木

それからお面みたいなやつもいっぱい出てきたでしょ?あれみんなそう。そのまま。あれは宮崎駿のオリジナルでも何でもない。

 

磯部

あのダルマとかも。

 

鈴木

そうそう。本当にそう。

 

桜井

宮崎さんって見たものを描くじゃないですか。

 

鈴木

そう。空想じゃないのよ。

 

桜井

だからどこかで見たものがあのキャラクターたちになってるんだろうなっていうのは思ってたんですけど、まさかテレビで(笑)

 

鈴木

全くゼロから生み出したものってないのよ。だから映画作るときっていうのは、日頃何見てるかだから。

 

あともう1つはね、宮さんに俺が話した変な話が元になってるんだからね。要するに、キャバクラ。

 

桜井

キャバクラ!

 

鈴木

当時、大流行りだったのよ。古林っていうのが俺のところに来て教えてくれてのよ。キャバクラの女の子たちって実は、お客さんを接待しなきゃいけないわけじゃん。別にそれが得意な子っていないんですよって。「え、どういうこと?」って言ったら、このキャバクラの仕事やってるうちにみんな元気になるんですよ、って教えてくれたの。喋ってなきゃいけないでしょ?それによって快活になる子がいっぱいいてって。

 

で、色々訊いていったらさ、お客でそういう子たちと結婚する子って結構多いんですよって言われて。

 

磯部

ああ、そうなんだ。

 

鈴木

「へー!」なんて思ってさ。俺、宮さんに言ったの。「宮さん知らないでしょうけど、キャバクラっていうのがあるんですよ」って。

 

桜井

(笑)

 

鈴木

そういうところに働きに来る子って、結構繊細な子が多くて、お客さんと喋ること、必ずしも上手じゃない。でも仕事としてやらなきゃいけない。お金にならないわけで。それをやってるうちに元気になるって。そういうことあるらしいんですよって。したら、そういう話でしょ?

 

桜井

まさにですね。

 

鈴木

だから、油屋は宮さんにとっては風俗なの。

 

磯部

キャバクラ(笑)

 

鈴木

そう。だからそういうところへ行っちゃった女の子の話で下働きなのよ。リンなんかもそうでしょ?昔でいうと、赤線みたいなもんなんだよね。

 

俺なんか宮さんに「あれは鈴木さんが言い出したんだからね」って言い出して(笑)

 

磯部・桜井

(笑)

 

鈴木

少しわかるかな?

 

桜井

今の聞いたらわかりますね。

 

鈴木

宮さんにしても言われるわけじゃん。ヒットメーカー。宮さんってヒットメーカー?作品作る時、ヒットのヒの字も考えてないのよ。

 

例えば、『千と千尋』を作る時だって、本当にそのキャバクラの話がヒントになったのよ。本当なんだよね。でね、それで作ったものがお客さんが来るとか、そんなのわかりゃしないじゃん。実をいうと、ドキドキしながら作ってるのよ。

 

宮さんなんかもやってるうちに、NHKで見た神様たちが色々いて楽しいねってなって来るじゃん?おまけにやっていくと、日本って大変だと。神様多いから。西洋みたいにキリスト様1人ってわけにいかないじゃない?大変なんだよね。

 

でも不思議なもんだよねー。そうやって生まれたんだもん。感慨深くなったってしょうがないんだけど。

 

磯部

そういうちょっとのキッカケで、あそこまで膨らんで物語になるのがすごいですね。

 

鈴木

そうやって作ったものが多くの人が観るっていうすごいことが起きちゃったんだっていう、そんな気分だよね。それは観てもらうのに越したことはないんだけどさ。

 

桜井

ヒットさせたいと思ってないんでしょうね。

 

磯部

ああ、そうなんですね。

 

鈴木

良い機会だから喋っちゃうとね、とにかく宮さんに作ってもらう環境を整えるわけよ。そうすると、作り出すでしょ?作ってる最初のうちはこの映画をどうやって興行するとか、何にも考えてないわけ。で、やるのに2年ぐらいかかるじゃん?この作品売らなきゃいけないじゃん?お客さんに観てもらわなきゃいけないじゃない?公開の半年前くらいになると、ちょっと考えるんだよね(笑)それまでね、何にも考えてないよ!

 

だって、神様のオクサレ様って何なのよ?「よきかな」なんて言っちゃってさ。何あれ?

 

磯部・桜井

(笑)

---

 

鈴木

あいみょんがさ、自分のSNSで「ゲネプロに招待してくれてありがとう」みたいなこと言ってきたんだよね。俺ね、返事したの。「差し入れありがとう」って。そうしたら、返事があったの。「よきかな」って。

 

桜井

うわぁ。

 

磯部

粋ですね(笑)

 

鈴木

でしょ?上手でしょ?あの子本当に上手いんだよな。そういうの。でね、俺なんか返そうと思ったんだけど、やっぱやめた。

 

磯部・桜井

(笑)

 

鈴木

早くレンガ屋に忍び込んでよって言おうと思ったんだけど、あんまりプライベートの話するとよくないなって思って。

 

桜井

忍び込もうって言ってましたからね。

 

鈴木

そう。

 

---

 

鈴木

なんでみんなあんなに面白いと思ってるの?そういう見た目もあるんだね。色んな人が出てくるっていう。変なものがいっぱい。

 

磯部

あとセリフが「愛」とか「グッドラック」とか「よきかな」とか、子供たちが真似するのが坊なんですよね。「遊ばないと泣いちゃうぞ」みたいなの言うじゃないですか?

 

桜井

ああ、はいはい。

 

磯部

それが見ると、例えば、やりたいことがあると「なんとかしないと、なんとかしちゃうぞ」みたいな風に置き換えてるんですよ。

 

鈴木

息子さんはね、カオナシが好きらしいんですよ。

 

磯部

大好きです。

 

桜井

あ、そうなんですね。

 

磯部

一緒に映画観てから、ずっとカオナシ描いてます(笑)

 

桜井

カオナシっていうキャラクターが結構みんな、、

 

磯部

うん。

 

桜井

ですよね?

 

鈴木

だから最初に戻ったら、ゲネプロカオナシが印象深くなかっから、この路線で行くんだなって思ってたら、今日完全にカオナシ千尋の話になってたのよ。

 

桜井

へぇー。

 

鈴木

こんなに変わるんだと思って。ビックリしちゃった。俺。

 

桜井

確かにゲネプロではハクと千尋の物語でしたね。

 

鈴木

そう。元々宮さんがやるやつに戻ったんだなって思ってたの。

 

磯部

スクリーンの使い方が上手いというか、雲ちゃんと動いてるんだなって思って。

 

桜井

オーケストラって普段どこにいるんですか?

 

磯部

普段は舞台の下にいたりすることが多くて。

 

桜井

今回は川とかの、、、

 

磯部

そう。たぶん階段降りたりするから。でも中々2階のあそこにあるなんてって思ったけど、3時間があっという間。

 

桜井

ほんと。あっという間ですよね。

 

磯部

またテンポ感も良かったですね。今日は全部がゆったーり流れて、物語はわーって全て入り込んでるけど、ポイントポイントがすごい伝わってくる感じで。

 

音楽があれですね。『千と千尋』のメインの曲があるじゃないですか。あれは元々作品が先にあって音楽があったんですか?

 

鈴木

そう。

 

(了)