:ゲスト:鈴木麻実子さん、小松季弘さん2022年10月2日放送の「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」です。
https://podcasts.tfm.co.jp/podcasts/tokyo/rg/suzuki_vol755.mp3
麻実子(鈴木麻実子、以下、麻実子)
じゃあ次、縄さん。
縄
世代的には違うんですけど、私がこの中にいたら絶対生き残れないんだろうな、というのが観てました。拓人っていう人が表向きのTwitterではすごい頑張ってる俺、みたいなことを書きながら、何者っていうアカウントでは、ものすごく周りのことを卑下しながら保ってる自分っていうのが、いたたまれないなと。これは割と現実なんだろうな、今の若い子にとっては。承認欲求の部分をSNSとかで解消しながら、どこかで鬱屈してる部分があって。それがTwitterとかでうわーって流れてて大変だな、みたいな感じなんですけど。そういった意味では自分の世代とは違うんですけど、身につまされる感じの映画でした。私は一回だけ観たんですけど、もう一回観たいっていう風にはならなかったかなって感じでした。
麻実子
みんなギューってなっちゃう人が多いんだね。
ーナレーションー
先週に引き続き今週も、オンラインサロン「鈴木Pファミリー」のメンバーをお迎えして、鈴木さん、鈴木麻実子さん、そして小松季弘さんと、映画『何者』について語る映画談義の模様をお送りします。
鈴木(鈴木敏夫、以下、鈴木)
僕なんか二度目観た時には、もう一つのアカウントを持ってたっていうのは、すごい新鮮だったの。ある時間、それが続くじゃない?それで観ながら思ったこと。どうせなら、もう一個アカウントを持ったら?って。
縄
(笑)
鈴木
本物の自分と、嘘の自分と、もう一個。そうすると、この佐藤健はずいぶん違う人になるよなって。
縄
私も何者かになりたい方だったので、いま結局沖縄に行っちゃって自分でやってるんですけど、お友達のお芝居をやってる、何言われてもとりあえずいいからやろうってやってる人の方がいいなって思いましたね。
麻実子
拓人がギンジにLINE送るじゃん?「そういうのやめろよ」って言って。あのシーンすごかったよね(笑)
小松
すごいすね(笑)
縄
めっちゃ見てるんですよね(笑)
麻実子
ほんとほんと!ほんとそうだよね。
鈴木
やっぱりリアルなんだな。
麻実子
じゃあ次ゴウくん。
中郷
竹森さんと同じで1990年生まれで、僕の場合は新卒では全然就活してなかったんで、実際就活がどんなもんかはわからないんですけど、中学受験とか大学受験もあんなにピリピリしてたんで、結局同じようなことなんだろうなって観てました。僕は新卒で就活せずにフラフラして、その時僕、ジブリを追いかけてたんですけど、その時の自分がこの中でどれだったかっていうと、あんまり言いたくないですけど、岡田将生みたいな感じだなって。
鈴木
そうなんだ(笑)
麻実子
斜に構えてたんだ(笑)
中郷
そう。何者かになってる風な感じで何かをしてるけど、別に何もしてなかったっていうのが、、、
鈴木
ヘアースタイルと似てるんじゃない?
中郷
(笑)途中で名刺の話が出てきたと思うんですけど、僕も名刺作ってましたね。どうにかして名刺を作って「こんな人です」って見せないと、自分が保てないっていうか。
麻実子
やっぱり肩書きがいっぱいなの?
中郷
自分のことを書きまくらないと、どうしようもないっていう感じですね。
鈴木
これが自分だっていう証拠なのよ。
麻実子
へーー。
中郷
そうですね。根拠のない自信があったというか、どうにかなるだろうっていう感じでやってて。どうにもならなかったんですけど(笑)
麻実子
でも若者って根拠のない自信、ない?
鈴木
ないよ。
麻実子
そうかな。若い頃ってそういう時期ってあると思うけどな。
鈴木
この中だと皆さん観てないのかもしれないけど、チャップリンって観たことありますか?何が言いたいかっていうと、何者にもなってない人なのよ。まだどこへでも行ける。あのチャップリンの主人公って全員それなの。そうやって観ると、チャップリンの映画って、ものすごく面白いのよ。だからちょっと自由なんだよね。
麻実子
フーテンなの?
鈴木
そう。定まってないのよ。それが持ってるいい加減さ、自由さ、そういうのを全部持ってるのよ。ずいぶん年取ってからもそういう主人公でやってるしね。人間って何者かになるっていうのもあるけれど、逆に何にもならなかったっていう人生もあるんでしょ?それってたぶん一番本当はすごいと思うよ。だって肩書きで決められちゃったら嫌じゃん?人にもよるかもしれないけれど。どうですか?
小松
そうですね。本当そうかもしれないですね。
麻実子
何者かになったら、落ちる一方っていう気がして(笑)
小松
そこがピークですもんね。
鈴木
ウチの息子とかもそうだけどさ、一番になったら落ちるしかないから、下の方にいたいっていう。
鈴木
そう言ったの?
麻実子
いつもそう言ってる。私もすごいそうだから。
小松
なるほど。そういう家系って感じですね。
麻実子
ぬるま湯で生きていきたいっていうタイプだから(笑)
鈴木
でも今は何者かになるっていうのが流行ってるのよ。このウン十年ずっと流行ってきたよね?見てると。そんな気はする。
小松
今でも続いてるんですかね?それって。
麻実子
どうなんだろ。今の若い人って、もっと野心がない気がするけどね。
小松
ここ最近変わったんじゃないかなって。
麻実子
そんな感じするけどね。
鈴木
しない。更に強くなってる。
麻実子
へーそうなんだ。
鈴木
っていう気がするけどね。
麻実子
じゃあトモさんお願いします。
野口
今回がきっかけで初めて映画を観ました。今だからこそ観れたなっていうところがあって、正直私は就活の王道路線から脱落した人なので、合同説明会とかは「みんなが行ってるからとりあえず行ってみよう」ぐらいの感じで行って、「何してるんだろうな」って思いながら終わったっていう感じだったんですよね。だから段々就職活動に無関心になっていって、とりあえず生きていくためにはお金が必要っていうことと、自立したいっていうだけで、なんとか一社本当に縁があって受かったっていう感じなんですよね。だから就職活動はチーム戦っていうこととかも初めて知って、「みんなこんな感じでやってたの?」っていうのを知りました。
個人的にはチーム戦っていうのは違和感があって、結局最後に決めるのは自分じゃないですか。どうするかもそうだし、どこに行くかっていうのを決めるのも自分だし、ウェブテストも出来る問題から解いて、出来ない問題は捨てるっていうそのワードそのものも中学受験の時点からそれを刷り込まれてるんですよね。中学受験って、みんな一列に同じ学年の子が成績順にクラスに分けられて、上に行ったり下に行ったりしながら、切磋琢磨してるように見せて、結局個人戦なんですよね。一緒にうけるけど、隣の人はみんなライバルだ、みたいなことを植え付けられる場所で。そういう教育をされるところが中学受験の塾だったんです。私の行ってたところがそうだったんですけど。だからチーム戦っていうのがちょっと違和感を私は感じましたね。
就職活動で働くとか就職するっていうことが無関心になっていた頃に、同い年の友人も同じように就職活動が上手くいかなくて、ほとんど連絡もとってなかったので後々になって知ったんですけど、結局就職活動をしなくて、就職してない人がいるんですよね。友人との連絡も全部絶ってて、唯一私はLINEだけは返ってくるんですけど、電話もしないし、「会いたい」って言っても、「ちょっと会えない」みたいな感じで断られてるんですよね。でもなんだかんだ10年くらい友達同士ではいる。
最初はすごく気にかかってて、「大丈夫かな?」とか「親御さんと一緒にいるから大丈夫かな?」とか、「兄弟と話してたりするのかな?」とか色々気にかけてはいたんですけど、段々そういうものに縛られてない生き方をある意味してるのかなっていう風に捉えられるようになってきて、そうやって自分の意志で会いたくないとか、会えないっていうのを伝えられる自由もあるし、それが話を聞いてて自分の中で勝手に救いみたいな、力が湧いてくるっていうか、そういう気持ちになったし、彼女のことをもっと尊重出来る気持ちになりました。
麻実子
私もすごい似てる友達がいる。
野口
あ、そうなんですか?
麻実子
ずっと働かないで親の脛をかじって生きるって宣言して、結婚もせず、友達とも誘われてもあんまり遊ばず、みたいな子がいるけど。そういう生き方もあるよね。はっきり宣言してカッコいいと思うわ(笑)
野口
そうですね。その子が将来どういう風にするのかとかも、気にすることじゃないのかもって。こうした方がいいみたいな想像を勝手に私自身もどこかで持ってたなっていうのも数年経って気づいてきて。一人ひとり違いますし、自分で自分の幸せを決めるというか、それは誰かに当てはめるものではないんだなっていうのは、この映画を通して感じました。
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麻実子
じゃあ次、慶子さん。
清水
結局、この映画は一番何を伝えたかったのかなっていうのが引っかかったままモヤモヤしてた感じがあって。描かれなかった部分って何があるんだろうって。編集で消された部分って何があるんだろう、とか。原作者の朝井リョウっていう人にちょっと興味があって、彼が一番伝えたかったものがこの映画のアウトプットで表現されてるのかなっていうのが気になって、突貫でいま原作を、、、
鈴木
そうなんだ(笑)
清水
まだ解き明かせてないんですけど、映画では朝井リョウが言いたかったことが表現出来てなかったんじゃないかなって、いま時点での感想ですね。
例えば、拓人の心の黒い呟きが、映画の中ではラストシーンの大どんでん返しっていうテイで、裏アカを理香によってバラされるっていうのでセンセーショナルに描かれてるんですけど、小説の中では心の声として駄々漏れなんですよ。最初から。ギンジへのLINEっていうのも、私も映画であれを観たら怖いなって思ったんですけど、あれもLINEではなくて本人の心の声として出てるし。あとサワ先輩って山田くんがやった役があるんですけど。本人がすごく信頼してる先輩の家でコタツを囲んで、ギンジと拓人が語り合った場面でそういうことも本人にぶつけてるっていう描写があったりとするので、書かれてないところがあるなって思いました。
他に瑞月の人物像というところも、有村架純に映画の中であまりしっくりきてなくて、真面目で純粋な前髪がきっかりある、ロングヘアのちょっとカマトトっぽい彼女っていうテイで描かれてたと思うんですけど、小説の中ではショートヘアだし、もっと意志のはっきりしてる子で定食屋で大盛の定食をガツガツ食べるながら、自分の心を拓人に語ったりとか、電車でいきなり二人で重いトークをし出したところが映画であったと思うんですけど、あれも色んな会話があった中に独白として語られていて、その文脈があるとか、母親との関係とか、現実に向き合いながらその黒いものをみんながいる場面で本気で語れるっていう存在はあの中にいなかったので、もうちょっと小説の方が深いものとして書かれていたなっていうのを感じました。
ここからが質問なんですけど、脚本で濃いものが出てきた場合、高畑さんとかも相当長い量の原作を書いてこられるっていう話がある中で、アウトプットとしては尺数だったり文字数で2時間だったりにする。その時に鈴木さんはどういう意図で何を残すことを考えて、お仕事をされてるのかなっていうのが興味があってですね。
鈴木
絵コンテってあるでしょ?普通の人はだよ?宮崎駿もそうなんだけど、頭から順番に描いていくんですよ。それこそ映画のスタートから中盤、終わりまで、順番に描くんですよ。途中で悩んで、シンネリムッツリ時間がかかるとか。
ところが高畑っていう人はですね、途中を描くんですよ(笑)
清水
途中なんですか?おしりじゃなくて?
鈴木
20分くらいのところをまず描いてみるとかね。そうかと思うと、30分くらいを描いてみたりね。で、やっていくと、頭の5分くらいのところに来たりね。そうかと思うと、120分くらいのところに来たりね。
で、何やってるかっていうとね、自分が考えた内容が日本語で書いてるわけじゃない?絵として上手くいくかどうかっていうのを、まず絵コンテで調べるわけ。成立するかどうかを。成立するものは使うわけ。成立しないものは捨てるの。いくら文章で書いたって、わかんないものはわかんないんですよ。実際に絵コンテにしてみないと。でもそれによって、やっちゃいけないことが何なのかっていうのがわかってくるわけ。だから3時間分くらい書いていたやつがどんどん捨てていくうちに2時間になったりもするの。
麻実子
それを高畑さんが決めてるんだ?
鈴木
そう。それでもね、あの人はゆっくりやるから間に合わないんですよ。常にこういう言い方をしました。「公開に間に合わなくていいですか?」って。「いや、困ります」って言うわけ。「じゃあちょっと削りましょうか?」って。「僕には出来ないんで、鈴木さんお願いします」って。
麻実子
そうしたら、パパが削るの?
鈴木
そう。
清水
「鈴木さん、お願いします」って言われてから削る時に、敏夫さんがここは良いだろうっていう判断基準は何かあるんですか?
鈴木
ここが無くったって、全体には影響がないだろうって考えるのよ。
清水
全体の構成の中で、そこまで影響がないだろうみたいな。
鈴木
そう。ところが高畑さんっていう人はそんな甘い人じゃないんですよ。次の日から嫌味を言い出すんですよ。「あれを削ったんで、映画がガタガタになりましたね」って。
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麻実子
じゃあ剛平さん。
木暮
この映画を麻実子さんはコミカルって言うと思うんですけど、いまそれを言ったらたぶん大炎上すると思うんですよね。これ真剣に就活をやってる人たちってコミカルに思えないというか。
鈴木
そうだよね(笑)
木暮
本当に鈴木さんおっしゃったように100社以上受けて、「ご縁がなかった」って言われて。「君はここがダメだった」とか言われないんですよ。とにかく「ご縁がなかった」って言われて、映画でも「なんで落ちたんだろう」って悩んでるところもありましたけど、そうなってるところにゲームして楽しめない人が時代的にも多くて、それは就活する人だけじゃなくて世の中的に暗い中で楽しめないっていうのがあったかもしれないですね。
麻実子
人間関係というより就活なんだね。この映画が。
木暮
そう。だからヒットしない理由はハッピーエンドがわかりにくいからっていうのがありましたね。結局映画だと、「1分では語りきれません」ということをズバッと言って、自分に正直になれた、みたいな感じで前向きっていうところで終わったと思うんですけど、現実それで乗り越えられるかっていうと、やっぱり違うと思うんですよね。もっとハッピーエンドを長くするというか、わかりやすくした方が人が入ったのかなって思いますね。
麻実子
ハッピーエンドだった?
木暮
ハッピーエンドというかモヤモヤを解決、みたいな感じで終わったと思うんですよ。でもそれがわかりにくいから、現実を見せられて終わりっていう人が多かったのかなって思いますね。
でも中郷さんがさっき名刺配ってたのを、俗にいう意識高い系かもしれないですけど、それは素晴らしいことだと思いますね。私は。人と違うことを考えていて。すごい良かったと思ってて。
今の時代とこの時代って時間が経ってるから、意識高い系っていう言葉に対する感じ方が違うと思ってて、意識高い系っていうと皮肉みたいなことでよく言ってたのが、最近はコンビニのゴミ袋にしても、ゴミ袋を持つことが昔は便利だからやってたことがダサくなってるんですよね。そういうところが変わったりとかしてるし、この時代とはもう違う雰囲気になってるなっていうのは改めて観て感じましたね。
逆に子供が減ってきて、就活に対する学生の立場が強気になっているというか、逆に採用が取れない状態なんで、企業側の方が弱いというか、雰囲気は変わってきてると思うんですけど。
鈴木
米津くんの主題歌はどうだったの?
木暮
すごい良かったですね。
鈴木
ね。
麻実子
中田ヤスタカだなって思ってた。
鈴木
そうなんだ。
麻実子
うん。すごい良かった音楽。
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麻実子
じゃあザッキーさん、最後に。
小崎
就活って入った後の方が重要じゃないですか。入った後に何を成し遂げるかの方が。だけど就活っていうところにめちゃくちゃクローズアップされてて、すごいシステマチックで学生もそれに合わせて、学生時代から就活を目的に学生時代を過ごす、みたいなことって起きてると思うんですよ。
新卒で一括採用みたいなやつって、僕なくしたほうがいいと思ってるんですけど、就職って割と恋愛に例えられることが多いと思うんですけど、本当にそうだと思うんですよ。いまマッチングアプリとか流行ってますけど。
麻実子
プロだからね(笑)
小崎
同じだと思うんですよね。マッチングアプリとか合コンでも同じだと思うんですけど、会って3回くらいご飯を食べて、そうしたら付き合うじゃないですか。付き合った後の方が重要じゃないですか。結婚するかどうかって。
就活も入った後の方が重要なのに、入る前のそこが、まるでその人の人生が試されてるみたいなような質問をされたりとか、その人の人生を否定するような問答が起きたりするじゃないですか。本当そういうの良くないなって思ってて。これってやりたいことがなくても、鈴木さんじゃないですけど、ラジオでよく言われている「目の前のことをやっていけば、その先の未来が見えてくる」っていうのは本当いまの就活生にとって欠けている視点だと思ってて。それはいまの日本の就活状況を全部取っ払って変えて欲しいなっていう風に観てて思いました。
鈴木
学校へ入るとか会社へ入るとか、入ったはいいけどその後はどうするの?って。
麻実子
私はこの間、キョウヘイさんとかと夜中まで喋ってて、学生運動について語ったんだよね。私は学生運動も青春だと思うし、この『何者』も青春だと思って、その世界観が好きだなって思った。けど、みんな経験した人はそんな余裕を持って観れないんだなっていうのが(笑)
鈴木
よくわかった?
麻実子
よくわかった(笑)
鈴木
だって大変だもん。第一関門であることは間違いないから。ね?
ーナレーションー
映画談義『何者』について、いかがだったでしょうか?
来年23年に朝井リョウさんの小説『正欲』が稲垣吾郎さん、新垣結衣さん主演で映画化されるとのことでこちらも楽しみです。来週もお楽しみに。